災禍の跡地と貪欲なる獣14
卵から這い出たソレは身体中を白い鱗で覆われ、鋭い鉤爪は赤く水晶の様に透けている。
腕は二対のコウモリに似た膜の張った翼を前足のようにし、胸には赤いクロス状の穴が空いており中は赤い霧で満たされている。
尻尾は身体よりも長く先に行くにつれ細くなっており、頭は二対の角と爬虫類の様な剥き出しの赤い歯が見え、下顎が左右に別れており蛇の骨の下顎に似た形状になっていた、そして
左右に2つずつ、計4つ瞳孔の縦に裂けた鋭い瞳孔が憤怒の感情を滲ませながらコチラを睨んでいる。
「ははっ、予行練習をさてくれるの?」
──そう、ソレは紛れもなく“竜”であった。
アリカは小さく笑うがその笑みは苦しげで額には汗が浮かんでいる。今のバンダースナッチから放たれる威圧はトリニティよりも鋭く重く身体にのし掛かる。
「──鑑定」
ネームド【燻り狂える『バンダースナッチ』】
HP:?????
MP:?????
防御力:1000
耐性属性:斬撃、刺突
弱点属性:???
《能力》
霧化(使用不可)、偽⬛︎⬛︎、身体強化(大)、???
《⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎》
???
《鑑定結果》
[バンダースナッチ第四形態、劣飛竜に擬態した姿。偽物であれどその力は竜を模すに値する]
「はぁーい、情報過多」
アリカは余りの新情報に頭を抱えそうになるのを堪えながら鑑定の情報を整理する。
(まず、重要な所から整理していこう。まず霧化のスキルが使えない事は朗報だなぁ………まぁ、属性耐性って欄に斬撃と刺突があるんですけどねぇ? 私打撃武器は持ってないんだけどなぁ!?、まぁ拳は打撃属性だけどアレに殴り掛かれと? 無理に決まってる)
アリカは武器を構えながらバンダースナッチを観察する。少し異形だがその姿は紛れもなくワイバーンの姿を模し、見掛け倒しではあり得ない威圧を撒き散らしている。
「──ダブルスラッシュ!!」
アリカは剣術アーツのダブルスラッシュを不意打ちで放つ、X状の斬撃は空気を裂きながらバンダースナッチに当たるが鱗に小さな傷を付けて弾かれる。
「…………マジぃ?」
バンダースナッチは気にした様子も無く尻尾をユラユラと動かす、アリカは警戒を緩める事なく剣を構える。
そのおかげで間に合った。
『Gura!!』
「ッ!?『受け流し』ィ!!」
気づいた時には白く尖った尻尾の先端が目前に迫り、それを受け流しのスキルを使いながらギリギリ剣の腹で防ぐ。
「ぐぅっ!?」
防いだが勢いを完全に殺せた訳では無く、4〜5m程吹き飛ばされ地面を転がりながら止まる。
「がっはっ……!?」
(速いッ!!間に合わなかったらお腹に穴が空いたかもっ!!、予備動作が見えたら防御じゃなくて回避安定かな、それに……)
アリカが剣に視線を向ける、光を反射して煌めく黄金の刃には今の一撃でピンポン玉ほどの凹みが出来ている。
「あんまり受けきれる程の耐久値も無いし」
アリカは警戒して様子見し、トリニティが視界外から灰色の風を纏わせた大剣で切り掛かる。
『・・・ッ!!』
『Griiiii……』
だが何の痛打を与える事なく翼で受け止められ、反撃として尻尾がユラユラと揺れる。
『・・・ッ!!!!』
トリニティは左手を前に突き出し結界の壁を貼る、
──が
──ガシャン!!!!
ガラスが割れる音に良く似た音が響いた時には、バンダースナッチの尻尾は結界を軽く貫通しトリニティの左腕が半ばから砕け宙を舞う。
『・・・ッ!?!?』
『Gihhhhhaaa……!!』
左腕は中から剣や槍や何かしらの道具をばら撒きながら地面に落ちる。トリニティは傷口を押さえながら飛び退く、傷からは血の代わりに何かしらの道具を垂れ流してジャラジャラと地面に甲高い音を鳴らして落ちている。
「マジかぁ……」
(あの結界が軽く貫通してトリニティの身体すら砕けるの!?私これよく受け流せたなぁ……、てかトリニティの身体から何か出てるけど血じゃないね?、あの身体の材料として魔導具とか武器を使ってたのかな?
だけど、まぁ今は──)
──都合が良い。
アリカは落ちた左腕の中から古い黒色の槍を掴む、
その瞬間何かが抜け落ちる感触と共に身体が軽くなるような感覚を覚える。
「ッ!?鑑定!!」
【血吸いの呪槍】
攻撃力:130
耐久値:56
属性:刺突、呪
《スキル》
・吸血の呪い
HPの自動消費して身体強化のバフを与える。
・奪血の呪い
傷を与えた相手に確率でデバフ“出血”を付与する。
『鑑定結果』
[とある吸血鬼の骨を材料に作られた槍。吸血鬼の力、その一端を与えるが血の呪いを齎す]
どうやら手に取ったのは呪われた槍らしい、持ってるだけでHPが減り替わりに身体能力を強化する効果を持ってるようだ。
「くっ……!!持ってるだけで体力を削られるのは中々ウザいけど、攻撃力も耐久値も私の剣より高いのは良い……ねッ!!!!」
そう口に出して槍先を鱗に突き刺す、剣とは違って刃の根本まで突き刺さる。アリカはそれを確認すると刃を抜いて構え直す。
『Gaaa……!!』
「流石に気付くよね」
私は軽くバックステップすると元いた場所に尻尾が突き刺さる、それを槍で突く。
「ははっ!!ちゃんと攻撃出来るって良いね!!スラッシュ!!」
『Gaaaaa!?!?』
そして出来た傷に剣を突き立て直にスラッシュのアーツを傷に直接叩き込む。
「チッ!!やっぱり硬いなぁ!!、切り落とすつもりだったのに傷を少し広げただけに留まってるし……」
あまりの硬さに愚痴を溢す。バンダースナッチの尻尾の傷からは赤い液体が溢れ落ち、地面に着く前にポリゴンとなって霧散している。
「ははっ、でもかなり手傷は負わせたッ!、後はよろしくトリニティ!!!」
『・・・・ッ!!!!』
バンダースナッチは苛立たしげにアリカを睨み付けている、その背後をトリニティが強襲する。
トリニティの左腕は見た目だけは治っているが、色が灰色で地面を腕の形にして応急処置しているようだ。
『・・・・ッ!!!!』
『Graaaaa!?!?』
背後にタックルをかまして体制を崩し、先程のお返しと言わんばかりに尻尾の傷目掛けて剣を振る。
『Giragaaa!?!?』
尻尾は軽く断ち切られ宙を舞う、切断面から赤い液体とポリゴンを撒き散らし霧散していく。
「ははッ!!これであの突き技は封じれた!!」
『・・・ッ!!』
バンダースナッチは痛みに絶叫し手当たり次第に暴れるがアリカもトリニティも軽く避け、少し離れてバンダースナッチの様子を警戒する。
『Ga……gruuu』
暴れ終わったバンダースナッチは唸り声を上げながらコチラを睨み付けてくる。
アリカはその隙にポーションを飲み、トリニティにもポーションを掛ける。
「ふぅ……尻尾の先端だけじゃそこまで消耗してない?まぁ、あの技が封じられただけマシか……」
赤い液体が絶え間なく溢れている尻尾は切断面が泡立ち鱗が覆って傷口を塞いだ、だが先端の鋭さは失われている。それを確認したバンダースナッチは忌々しげに唸ると咆哮を上げながらトリニティに向かって突進する。
『Gruaaaaaaaaa!!!!』
『・・・・・・ッ!!!!』
それをトリニティは大剣の腹で受け止める、だがバンダースナッチの方が力が強く徐々に押され始める。
『G、G、Gaa……!!』
『・・・・・ッ!!!』
「不味いな、徐々に押されてる……!!」
アリカはトリニティを援護する為にバンダースナッチの背後に向かって走り出す。そして後1m程近づいた時に気づく、バンダースナッチの目がコチラを見ていた。
「──罠ッ!?」
(最初っから私狙いッ!!)
アリカは足を止めようとするが、遅かった。
バンダースナッチはトリニティを押すのを辞めて頭を天高く上げる、そして──
『───GAAAaaaaaaaaa!!!!』
『────ッ!?!?』
『───ぐぅっ!?!?』
耳を劈くような咆哮を上げた。
咆哮は逃げようとするアリカと攻撃を仕掛けようとしたトリニティ、両者の足を麻痺させる。
バンダースナッチは足を軸に円を描くように回転すると尻尾が鞭の様にしなりアリカに迫る。
「ッ!!、まっずッ!?」
アリカは唯一動く両手で槍と左腕を盾にし防御するが、
──ボキィッ!!
「──なっ!?」
槍は真ん中からへし折れ、尻尾が左腕と脇腹に直撃する。ゴギバギィと鈍い音と共にアリカの身体は“く”の字状に折れ曲がり吹き飛ぶ。
吹き飛ばされたアリカの身体は一度も地面に着かず足場の外の空中に投げ出されるそうになった、その瞬間に地面から腕が生えギリギリの所でアリカを受け止める。
「──ゴボォッ!!」
アリカの口から吐き出された血が地面を染める、左腕は絶対に曲がらない方向に折れ曲がり力無く揺れる。
「ゴホッ、げほっ、ぐっあ………」
(ぐぅっ、痛いな………左腕は粉砕骨折、肋骨が1、2本が折れてそうだ、内臓も傷付いてるだろうし……あぁ痛い、でもまだ戦闘が終わってない……!)
アリカはボヤける視界でバンダースナッチを見る。視界に映るバンダースナッチの口から赤い火花が散る、それを見たアリカは急いで立ち上がろうとするが足が動けない。
「…………ッぐぅ!!」
(あれは……ブレス!?不味いッ!?、動け!、動け!、動け!、動いてよ!!私の足!!!!)
バンダースナッチの胸の穴が赤く輝き、漏れ出す火花が激しさを増す。動けないアリカの前にトリニティが立ちはだかり、アリカと自身を囲う四角い結果の箱を生み出し、地面を変化させ結界ごと覆う。
地面が変化する瞬間にバンダースナッチの口から漏れ出る火花と胸の輝きが最高超に達するのが見えた。
──そして放たれる。
『──GRAAAAAAaaaaaaa!!!!!!』
耳を劈く轟音と共に地面を変化させ作られた障壁がオレンジ色に赤熱化し融解してゆく、融解して開いた穴から紅蓮の炎が漏れだし突破される。
次に結界に当たる、結界の外が炎で満たされた。結界内の温度が急激に上がりアリカの額から汗が流れ落ちる。トリニティの擬似的に直した左腕が崩れ落ち、右腕からも鎧の破片がポロポロと落ちる。結界には小さなヒビ割れが現れ始める。
『・・・・ッ!!!!!』
「ぐっ、不味い……」
アリカはアイテムボックスからマッドゴーレムの召喚短剣を全て取り出して地面に突き刺す。
「行ってッ!!あのヒビ割れを塞いで!!」
マッドゴーレム達が結界のヒビ割れに群がる、だがヒビ割れは容赦なく広がり始めその度にマッドゴーレムがヒビ割れを覆う。
ヒビ割れを塞ぐマッドゴーレムの泥がグツグツと泡立ち始め、それに比例して結界内部の温度も上がる。
「早く!早く!終われ!!!」
そして『もうダメか』っと諦めかけたころ、結界を覆っていた炎が治まる。
「──終わっ、た?」
アリカ達を覆っていた結界が砕け散る。辺りは結界が有った場所だけ四角に切り取られた様で、それ以外は一直線に抉れ削られ赤熱化した破壊痕だけだ。
──ガララ
何かが背後から砕ける音がして振り返ると、
足場を支えていた巨大な両手の指の真ん中に赤熱化した巨大な穴が開き、崩れて下の街に落ちていった。
「……はは」
アリカの顔に乾いた笑みが浮かぶ。
開いた口が塞がらないとはこんな感じなのかと現実逃避をしていると、トリニティが膝から崩れ落ち大剣を支えに倒れるのを我慢していた。
「大丈夫っ!?」
アリカが震える足で近寄ると気づいた、
トリニティの鎧は黒く分かりづらいが全身にヒビ割れが走っている、鎧が砕け今にも崩れ去りそうな程だ。
アリカはバンダースナッチの方も確認する。バンダースナッチは遠目からでも分かるほど疲弊し、身体も一回りほど小さくなっていた。
「───」
アリカは震える足を叩いて震えを無理やり止め、ポーションを三つ取り出す。
一つ目を腕に掛けギリギリ動かせる様に回復させ、二つ目は頭から液体を被る、
そして三つ目はトリニティに掛ける。
「私がアイツを倒すから、貴方は此処で休んでいて」
『・・・・・』
アリカは返事を見る事なくトリニティを背にして歩き出す。ポーションを使った今でも身体は回復しきれずに、全身を貫く痛みに襲われているがそれでも歩みは止まらない。
左手に短剣、右手にロングソードを持ち、刃先をバンダースナッチに向けて突きつける。
「ラウンド2だ、覚悟しろクソ霧」
【トリニティ・デカダンス疑似身体『黒騎士』解説】
トリニティが動く為に作った特注品、中には魔導具や特殊な武具や呪具などで構成されている。その為、壊された場合には直ぐに再生は出来ない。
第四形態:偽劣飛竜
バンダースナッチの現時点における最終形態。数多の分体を圧縮して身体を形成している為、霧化などの物理回避スキルが使えないがソレを補って余りあるほどに、物理耐性、魔法耐性、身体能力などが格段に上昇している、竜の姿を模しているが実は飛行能力は無い。
・偽竜の咆哮
至近距離で浴びた者に恐怖のデバフを与え身体の一部をランダムに麻痺させる。
・偽劣竜尾突き
尻尾の先端を槍の様に突き刺す技。高い貫通能力が有り防御スキル破壊する特性があるので防ぐのはお勧めしない、回避か出来るだけ受け流すのがベスト。
・偽劣竜尾薙ぎ払い
長い尻尾を鞭の様に横に薙ぎ払う技。この形態で使う技の中では比較的ダメージは少ない(普通に大ダメージ)、高いノックバック性能があるので当たるとかなりの距離を吹き飛ばされる。
・偽劣竜息吹
ドラゴンブレス擬き、実態としてはサンドブラストの原理に近い。砂の様に細かな無数の分体に限界ギリギリまで魔力を込め、相手に吹きつけ自爆させる技。バンダースナッチの前方直線状に放たれる為、横か後ろに退避するしか対処法は無い。この技は身体を構成する分体を大量に使う為使った後は大幅に弱体化する、そのため必殺技であるとどうじに諸刃の剣でもある。
この攻撃は多段ヒットする為HPを1で耐える系や攻撃を一回完全無効化する技も上から削り殺される。
ちなみにアリカの火炎無効はあくまで“火属性魔法”や“熱”によるダメージを無効化する称号の為、爆破による衝撃で普通に粉砕されますし、環境ダメージは完全に無効化できるけどLvが足りなくて今はまだ火属性魔法は完全には無効化できないです。




