災禍の跡地と貪欲なる獣11
キューブが粉々に砕け中から液体の様に霧が漏れ出てくる。
「ッ!!!」
『・・・ッ!!!』
感じるは凄まじ怒りと殺意、
トリニティの押さえ付けるような威圧とは異なる、身を貫く憎悪と侮蔑と軽蔑。
あらゆる悪感情を込めた様な不快な殺意
『Glaaaaa………』
ソレは低い唸り声をあげて形を変えてゆく、トリニティに匹敵するほどの巨体。
黒騎士とは正反対の白い巨人、岩肌の様な外殻に覆われた細長い異形な肉体、水晶のような赤い爪、肩から生えた腕を合わせた四本の腕、顔には目や口がなく赤く輝く十字の穴から赤い液体を垂れ流していた。
「ッ!……『鑑定』」
ネームド【燻り狂える『バンダースナッチ』】
HP:???
MP:???
防御力:???
《能力》
???、???
《固有能力》
???
『鑑定結果』
[環境自体に寄生し、生態系全てを糧に成長する群体型モンスター、言葉も知性無いが全てに対する憎悪だけは持っている]
「やっぱり、見えない………」
てことはトリニティと同じ格上のモンスター、出し惜しみしていたら瞬く間に負けるっ!。
「出し惜しみは無しで行こう!!」
アリカはアイテムボックスから短剣を構え、ジャイアントを呼び出す。
「行くよ……!ジャイアント」
『オオオオォォォォォォ!!!!』
魔樹の巨人が雄叫びを上げる、それを合図かのようにトリニティとバンダースナッチが同時に動き出した。
『Griiii……Griaaaaaa!!!!』
『・・・ッ!!』
先に攻撃を仕掛けたのはバンダースナッチだった、二本の右腕で殴りかかるがトリニティは半透明の壁を作り出して防ぐ。
トリニティは大剣に自身が纏っている灰色の風と同質の物を纏わせて攻撃を仕掛けてきた腕を切り付ける。
『Griiiaaaaagaaaa!?!?』
バンダースナッチが悲鳴を上げてトリニティから飛び離れる、
「よし、今っ!!」
『オオオォォ!!!!』
その着地点に火炎瓶で炎を撒き、着地した所をジャイアントの風魔法で火力を上げる。
『Griiii………!?』
「驚いてはいるっぽいけど……あまりダメージは入ってなさげかな」
やっぱり風魔法で火力を上げたとはいえ微妙なダメージだ、直接魔法を当てた方が威力は出そうだ。とはいえ単純に魔法ばっかり使えばMPが尽きる。
「ま、やるしかないけどねぇ……」
ジリ貧ではあるがここまで来たのだ、後から辞めることなんて出来ない。
「できれば使いたくなかったんだけどなぁ………」
アリカはアイテムボックスから油を取り出してロングソードと短剣にかける、
「ファイヤーボール」
そして油塗れのロングソードと短剣に火を付けた。
「強いて言うなら“擬似"魔法剣って感じかな?」
今まで使っていなかったのは、斬れ味が悪くなるのとロングソードの耐久値が減ってしまうから。
長丁場な街では使えなかった技だ、懸念点があるとすれば最後まで耐久が持つかが心配だけど……。
「でもこれで少しはまともなダメージが入るでしょ!」
そうしてバンダースナッチの足首に切り掛かる、チマチマとしかダメージを与えられてないが少しでも援護できればそれで良い。
『Griiiiiiiiiiaaaaaaaaa!!』
「あっぶな!?」
流石にバンダースナッチもウザったいのか敵意をトリニティからアリカに移して攻撃を仕掛けてくる。
「ははっ!、そんなに私にお熱で良いの?」
今まで貴方に一番ダメージを与えてたのは誰だか忘れてないよね?余所見なんてしたら………。
トリニティがその隙にバンダースナッチ右腕の一本を大剣で切り落とす。
『Qyoooooooooo!?!?!?』
「あはっ!!、痛そうだね?」
バンダースナッチは甲高く鳴き、切り落とされた断面を押さえる。
「あ、再生も出来るね?、でもそう簡単に再生なんてさせないッ!!」
『・・・・ッ!!』『オオオォォ!!』
バンダースナッチは周囲の霧を吸収して切り落とされた腕を少しずつ再生するが、アリカ、ジャイアントとトリニティに妨害され上手く再生でいていない。
『Giiii………!』
『・・・・ッ!』
バンダースナッチは苦し紛れに地面を抉り取り、トリニティ向かって大岩を投げる。それをトリニティは地面から石壁を作り出して防ぐ。
『・・・・・ッ!!!!』
『Gliiraaaaa!?』
さらにお返しと言わんばかりにトリニティは鋭い石杭を作り出してバンダースナッチの胸を強打する。
『Gaaaa………gha!』
「またさっきと同じ……?」
バンダースナッチは先程と同じ様に地面に手を突き刺し石を抜き取るが先程とは違いすぐに投げる訳ではなく石を握りった拳からは砕く音と共に砂煙が漏れている。
「さっきのと似てるけど音が違う………なにか嫌な予感がする」
『Grua………』
「あ、なんかヤバそう!?、ジャイアント壁になって!!!!」
『Grurugraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』
その瞬間、バンダースナッチの手から散弾銃の如く岩が投擲された。トリニティは結界で弾いたが、ジャイアントはガードした両腕ごと貫通して胴体にめり込んでようやく岩が止まる。
『オオオォォ………』
「あぶなかったぁ………ありがとジャイアント」
ジャイアントは体の木を操作して岩を取り除きアリカはポーションをかけてジャイアントの損傷を緩和する。
(さて、どうする?あの攻撃は範囲も広いし威力もかなり高い、ジャイアントにポーションを使ったにも関わらず損傷が大きすぎて直しきれないくらいだ。私の幻影は敵意を集めて攻撃を分身に向けさせる技だから広範囲無差別攻撃には意味が無い。一度だけ忍耐を使えば耐えられけど防具が良くてミリ残り、悪くて全壊する。ジャイアントも修復が完了するまで耐えられない。)
アリカは自身が持ちうる手札を整理し、バンダースナッチの投石に対応する術を模索する。
(私の持ち札に拡散投石を防ぐ札は無い、じゃあトリニティの方は……トリニティの持っている手札は、結界、地形操作、灰色の風……この中で使えそうなのは結界くらい、でも防ぐだけじゃジリ貧。なにか投石を防ぐ手段は…………あ!)
「これならいけるかも……トリニティ!!」
『・・・・?』
アリカは急いでトリニティの足元に近づいて作戦を伝える、トリニティは頷いてバンダースナッチに向き直る。
『Gru………』
そして再びバンダースナッチが投石の為に手を地面に近づけると───
「今だよッ!!」
『・・・・ッ!!!!』
バンダースナッチが掴もうとした地面が剣山の様に隆起してバンダースナッチの手の平を突き刺し貫通する。
『Gugiaaaaaa!?!?!?』
「ははっ!!これで君の投石は使えないよね!!」
怯むバンダースナッチをアリカは煽る、一発でも攻撃を食らえば致命傷だが何も無策に煽ってるわけじゃ無い、自分にヘイトを向けて少しでもトリニティの攻撃する隙を作るのが今の最善策だ。
『Gaarlulululululu!!!!』
「よし、釣れた!!」
バンダースナッチは怒り狂いアリカに狙いを移して追いかけ始める。
「あはは!!、何回同じ事をするのかなぁッ!?」
『Goira!?』
『・・・ッ!!』『オオォォッ!!』
ジャイアントが片足を引っ張り、トリニティが足場を変化させて踏ん張りを効かなする。するとバンダースナッチは前向きに倒れ込む。
「あっぶな!?危うく下敷きになるとこだった、でもこれで………トリニティ!!」
倒れ込んだバンダースナッチの手足を地形を変えて拘束し、トリニティはその横に立つと大剣を空高く掲げる。そして──
『・・・・ッ!!!!』
──バンダースナッチの頭が宙を舞った。
【燻り狂える『バンダースナッチ』】
環境寄生型群体モンスター、分体を使って生態系丸ごと喰らい尽くして成長する厄介なモンスター。
第一形態:異形巨人
四本の腕を自在に操る異形の巨人、見た目のイメージはエヴァ三号機に近い感じのスラッとした人みたいな見た目なのに人間っぽく無い見た目。シンプルな打撃と投擲が主な攻撃手段、攻撃力は高いが知性が低い為投石だけ注意していればあんまり強く無い形態。
・投石
地面を抉って投げつける技、火力とノックバック力が高く当たるとかなりの確率で防御を捲られる。回避は容易にできるのと手首を攻撃したら防ぐことが出来る。
・拡散投石
火力は低いが範囲が凄まじく回避よりも防御した方が良い、投石とモーションが似てるが石を砕く音と握り拳から砂や砂利がこぼれ落ちる為、そこで見分けられる。




