災禍の跡地と貪欲なる獣10
地面に転がる霧型の封石を片目にチラッと見ながら私はゴーレムの方に振り向く。
「──助けてもらった事についてはありがとう、けど……いったい何の目的で私を助けたの?」
『・・・・・・』
念の為に武器を持ちながらゴーレムに語りかける。
最初、ゴーレムは何か悩む素振りをすると地面に腕を突き刺して何かを取り出す、
そして取り出したソレを私に渡してくる。
『・・・』
「コレを私に?」
【導き石】
《特性》
道案内
『鑑定結果』
[来てほしい場所を示す為に⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が即興で作り上げた物、コンパスの様に目的の場所を差し続ける。]
貰った物は丸い水晶の中にコンパスの方位磁石の針が浮いているような見た目をした物体、中にある針が片方だけ赤いので私に行ってほしい場所を指し示しているようだ。
『・・・』
「ちょっ!?、何んで『目的は達した、さらばだ』みたいに沈んでるの!?、もうちょっと説明とか………無しですか」
話し終える前にゴーレムは水に沈む様に地面に沈んでいった。
アリカは一旦ゴーレムについては置いといて近くに転がっている封石に手を伸ばす。
「はぁ……一旦、封石を拾ろぉっ!?」
『条件を達成した為、ネームドクエスト
【燻り狂える魔獣】を開始───error』
『個体名[アリカ]による受注クエスト、
【永遠の君より夢見る貴方に花束を】とのクエストルートの競合を確認………両クエストへの影響を確認。』
『両クエスト達成条件を一部変更…………完了。』
『クエスト【燻り狂える魔獣】』
《達成条件》
バンダースナッチの討伐
《失敗条件》
バンダースナッチによる⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の心臓の奪取
『クエスト【永遠の君より夢見る貴方に花束を】』
《達成条件》
バンダースナッチの討伐、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の夢を成就
《失敗条件》
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の死亡
『変更点は以上となります。』
いきなり叩きつけられた情報の暴力に殴られながら疲労困憊の頭でどうにか考えようとするが、
「………無理、何にもわからない」
つまり、私はクエストを二つクリアしないといけないって事?
防具と武器の耐久値がボロボロの状態で?
回復ポーションの材料が残り少ないまま?
武器防具の修理も材料の補充も不可能なのに?
「マジですかぁ……?」
うんまぁ……バンダースナッチとの戦闘以外は戦う必要が無さげなのは救いだけどさぁ……
「はぁ、やるしかないよねぇ……」
まずは帰って準備からだなぁ、残り少ない材料を全てポーションにして、ジャイアントの腕の修理と気休めに武器防具のメンテナンスかなぁ、
「やる事が山積みだなぁ……」
明日は水晶を渡してきた存在と会う事からかなぁ、
何が起こるかわからないから準備は怠れない。
「……帰ろ」
やる事やったらログアウトして不貞寝してやるっ!!
◆
──ソレは待っていた、自身が確固たる自我を獲得し
果てなき虚空の海を漂いながら待っていた。
『・・・・』
──偶に世界に穴を開け、訪問者を歓迎する。
訪問者が俗物であれば屍共の餌としながら自身の夢を叶えられる存在をソレは待っていた。
『・・・・』
──それを利用され、穴から侵入してきた忌々しい霧の獣に肉体を蝕まれながらも待っていた。
『・・・』
──自身の生き死になぞどうでもいいが、今自身が死んでしまったら“あの子”も消えてしまう。
─それだけはダメだ、未だ醒めぬ夢を見続けているあの子が解放されるその時まで……だから。
『・・・・』
──期待しているのだ、彼女なら忌々しい霧を殺せるかもしれない、そして……あの子の夢を醒ませるかもしれない。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は今日も“霧”を殺し続ける、
あの子を解放する為に、それこそが──
自身に成り果てた我々の願いであり存在理由だから。
──だから今日も霧を殺す。
◆
おはようございます
「はぁ……一晩考えたけどやっぱりやるしか無いかぁ」
厄介なのが⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の目的がわからない事だ、バンダースナッチと敵対していて排除したいとはわかっているけど……もう一つ、クエストの達成条件で出された『夢』ってのがわからない。
「シークレットクエストになる前のクエストがネームドだから多分名前が出てない方も“名前付き”モンスターっぽいんだよねぇ……」
最悪、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の不興を買ったらバンダースナッチっともう1匹のネームドの両方との戦闘になりそうだから怖い。
「武器防具のがボロボロの状態でネームド2匹相手にするのは…………まぁ、不可能だよねぇ」
もし不興を買ったら“詰み”だ、その場合は諦める事も視野に入る。
「さて、諸々の準備は終わったし……行こう」
アリカは立ち上がって屋敷から外に出る。
「これで屋敷ともお別れかなぁ……まぁ短い時間だったけどありがとう」
そうして世話になった屋敷に別れを告げて後にする。
・
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階段を登る、この城下町は『城、貴族街、平民街』と段々構造のような作りで城は一番高い中央に建っている。
「霧で見えにくかったけど大きいなぁ……」
城は漆黒の外壁で赤黒い屋根をしたいかにも魔王城といった風貌の禍々しい城だ。
私は階段を登り切ると城門の前に立つ、城門は歓迎でもしているかの様に独りでに開く。
「これは………」
開いた城門の中には渦巻く闇が広がっていた、
ぐるぐると回転する渦が増えたり減ったり取り込まれたり弾かれたり、規則性無くただ蠢く闇だけが広がっている。
「………行くしかなよね」
アリカは覚悟を決めて闇に一歩踏み込む、すると餌に群がる虫の様に渦が集まってきてアリカを闇に引き摺り込んでくる。
「ッ!!」
そうしてアリカは城の中に入った。
・
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しばらく探索したが頭がイカれそうだった、
どうやら中の空間が拡張されてるらしく城よりも大きく広い空間があったりもした。
ソレよりも厄介なのは──
「………」
全てが逆さまになった内装の部屋
大量の肖像画が広がる空間を階段で登る部屋
延々と扉が続く部屋、同じ廊下が続く部屋
ひたすらに全てが巨大な部屋
全てが液体の様に流れ落ちる部屋
色が抜け落ちた灰色の部屋
彫像が無数に並ぶ部屋
こんな内装とも呼べないような部屋が沢山あり迷路の様な構造で繋がっている事だ。
「この水晶が無かったら絶対に迷ってたなぁ……」
幸い私が貰った導き石はこの空間でも効果を発揮する様で水晶が指し示す場所に行けば先に進めた。
「そして、多分ここが目的地の場所……かな?」
私の目の前には豪華絢爛の両開きの扉がある、まるで玉座の間に進む者を歓迎するかのごとく煌めくの扉を開く。
「ッ!、マジかぁ……」
そこにはドーム状の空間が広がっていた、壁は黄金で装飾された芸術作品の様な壁が広がっていたが天井には入り口で見た物と同じ渦巻く闇が広がっている。
そして───
その中央の玉座に“ソレ”は居た。
7mは有りそうな体格、全身を漆黒に輝く全身鎧で覆い、赤黒いマントを靡かせ、巨大な大剣を持ち、灰色の風を纏いながら、真紅に煌めく双眸でコチラを見つめてる、
巨大な黒騎士のような存在が其処に居た。
ネームド【退廃の君主『トリニティ・デカダンス』】
《種族:混合種?(ゴーレム種、不死種、竜種)》
HP:???
MP:???
防御力:???
《能力》
大剣術、空間魔術、???、
《固有能力》
退廃の風、身体操作、???、
『鑑定結果』
[三種の種族が混じった名前付きモンスター。
《条件未達成により秘匿》]
私が戦ったことのある名前付きのモンスターは『本喰いグリムス』の一体だけだけど、それでも力の差がはっきりと分かる。
「っ……!、グリムスよりも圧倒的に強い」
凄まじい威圧だ、近くに居るだけ息苦しく感じる。
『・・・・・ッ!』
トリニティは私を見ると『時は来た』言いたげに玉座から立ち上がると剣を地面に力強く突き立てる。
「っ!!」
突き立てた剣から波のような物が広がると地面が壁が天井が全てが流動し変化していく、
天井の闇は消え去り、壁は溶け、逆に地面は無骨な石レンガ製になりながら広がってゆく。
「ッ!?」
世界が溶けていくとしか表現できない、
あれだけ豪華だった王座の間といった雰囲気が一変し
ただの巨大な広場になっていく。
「ッ!……あれは、街? って事は城全体が溶けてるの?」
アリカが溶けた壁からは先ほどまで歩いてきた見覚えのある街並みが広がっている。
『・・・・ッ!!!!』
「うぐっ!、今度は揺れ!?」
トリニティが剣を掲げると今度は立っていられない程の揺れに襲われる、アリカは地面に倒れ込む様に伏せて揺れが収まるまで目を瞑る。
「っうぅッ!!……………収まっ、たの?」
揺れが収まり目を開けたアリカは困惑した、
目に映るのは近くなった輝く夜空、先ほどまでは無かった筈の10本の……柱?
柱にしては歪な形をしていて何故か既視感を感じた。
アリカは困惑しながら立ち上がりさっきまで見ていた街を見ようと城が変化して出来た足場の端から下を覗き込むが……
「いったい何、が…………は?」
一瞬言葉を忘れた、
確かに街は城から見たら小さく見える筈だが米粒サイズまで小さく無かった筈だ
そして見た、私が柱と思ったその正体を私は知った。
「巨大な………両手」
そう、巨大な石製の両手が私が立っている足場を持ち上げている、私が柱だと思っていたのはそね巨大な両手の指先だったのだ。
「まさか…………いや、冗談でしょ」
私はこれまでの情報を整理して有る仮説が思いついた、思いついてしまった。冗談だろと思いたいが今の状況に全て合致してしまっていのだ。
私は黒騎士の方に振り返りながら問いかける。
「まさか……この街“全て”が身体なのっ!?」
だとしたら全ての状況に説明がつく、
なぜ私に悟られず監視できたか、なぜ魔水晶人形が地面を潜れたか、なぜトリニティが建造物を操れたか、
全てこのマップ全てが身体であるのなら説明が付いてしまうのだ。
『・・・』
トリニティは肯定する様にゆっくりと頷く、
意味がわからない、コレが身体だと言うのならあまりにも巨大すぎる。
「…………」
私があまりにも規格外の巨体に絶句しているとトリニティが剣を地面に打ち付け、話を戻すかの様に剣を足場の中央に向ける。
『・・・ッ!』
中央には半透明な薄紫色をしたキューブが浮いており薄らと亀裂がはしっている、キューブの中は霧が渦巻いており赤い無数の目がコチラを睨みつけている。
「あれは………バンダースナッチ?」
『・・・っ!』
トリニティは肯定する、そうこうしている合間にも亀裂は広がり今にも出てきそうだ。
「ッ………分かった、疑問は後にまずは──」
私もロングソードとナイフを取り出してトリニティと一緒に剣先を向ける。
「──“アイツ”を相手にしてからにしよう!!」
『・・・・・・・・・ッ!!!!!』
そうしてキューブが砕け“霧の怪物”が解き放たれた。
ネームドクエスト【燻り狂える魔獣】発生条件。
・バンダースナッチ本体との接触、または4匹の分体全員の封石の入手により発生。
本来だった場合の《トリニティ》クエスト関連のルート分岐
【無垢なる子らに憐れみを】発生条件
・貴族の屋敷にて実験に関する日記を読む。
・コロッセオにて英雄のアンデットと戦闘、勝利時にトドメを刺さなかった場合発生。
・日記を読んでいない
・実験台の亡骸を粗雑に扱う
・最初から王城に突撃する
このどれか一つでも達成した場合に、
クエスト【亡国に更なる終止符を】が発生します。
クエスト『亡国に更なる終止符を』ではシークレットクエスト【永遠の君より夢見る貴方に花束を】が発生しなくなりクエストクリアが絶望的に難しくなります。
【永遠の君より夢見る貴方に花束を】発生条件
実験台になった人達の亡骸に対して何らかの弔い行動を行いトリニティの関心を惹く事により発生。
難易度的には下に行くほど楽になります。
・難しい(条件が簡単な分鬼畜)【亡国に更なる終止符を】
・普通(無難に普通) 【無垢なる子らに憐れみを】
・簡単(発生条件が鬼) 【永遠の君より夢見る貴方に花束を】
本来ならどのルートに発展していても『トリニティ』と戦闘になるが、シークレットクエストを発生させていた場合は、手加減仕様になる筈。が、
今現在は、トリニティのクエストとは“全く”の“無関係”のバンダースナッチの介入により何故か共闘状態になっています。
(アリカが【永遠の君より夢見る貴方に花束を】を発生してなければトリニティとバンダースナッチ、両方と敵対した状態での乱戦に発展していた)
【退廃の君主『トリニティ・デカダンス』】
特殊な生まれにより三つの種族が混合したマップ全てが身体とゆう規格外の大きさを誇る環境一体型モンスター。
ネームドモンスターのなかでは珍しく攻撃よりも防御に特化したネームドだが、そのせいでバンダースナッチを追い返せなかった。
能力的にもバンダースナッチはトリニティの天敵と言っていいほどに相性が悪い。
普段はアリカと最初に接触した時の小型身体(黒騎士)か眷属を操って行動している。




