災禍の跡地と貪欲なる獣8
すみません.....就職が重なってしまい更新が遅くれてしまいました。
「ここが、『アロガンス帝国魔術研究所』ねぇ……」
私の目の前には行手を阻むように堅牢そうな石壁が立ちはだかる、壁上には鉄製の棘付き柵が設置されており重苦しい威圧感を放っている。
「入れない、かぁ……さすがに絶対に何処かに入口が有るよね?」
私は入口を探すため壁に沿って歩く、目的の入口は以外と早く見つかった。
巨大で人が開けるには大きすぎる両開きの鉄門、普通なら鉄門を開ける為の仕組みを探すのだが……
「……門が壊されてる?」
鉄門は片方の扉が破壊されていた、破壊された扉は地面に伏し酷く歪んでいる。
状態から察するに無理矢理こじ開けられたようだ。
「……今回は特にヤバいかも」
アリカは、倒れた扉を踏み越えて石壁の中に入る。
中に有ったのは飾り気の無い全てがのっぺりとした石製の建造物……そうまるで、
巨大な灰色豆腐のような建物だった。
「………手抜き?」
アリカは研究所の見た目に困惑しつつも入口の扉を開いて中に入る、最初は真っ暗で何も見えなかったが入った瞬間に自動的に明るくなった。
壁をよく見てみると小さな石の入ったガラス管の様な物が等間隔で壁にかけられており発光している。
「『鑑定』……」
【壁掛け光源魔導具】
《特性》
生体感知、発光
《鑑定結果》
[魔石を燃料に発光する魔導具の改良型。魔石を燃料にするのと魔導具自体が高級品な為、貴族や王族などにしか使われていない]
どうやら壁掛けの魔導具のようだ、こんな高級品の魔導具が大量に使われている事から、この施設がどれだけ重要視されているのかが窺える。
「壁からは……外れないね」
少し外そうと力を入れてみるが強固に接着されているようで外れない。仕方なく諦めて先へと進むと木製の扉を発見した、扉には看板が付いていて『薬品保管庫』と書かれている。
「敵は……居なさそう」
扉を少し開けてチラッと隙間から中を確認する、
敵は居なさそうなので一応警戒しながら薬品管理室の扉をゆっくりと開けて中へ侵入する。
部屋の中は幾つかの棚と机と椅子が設置されている、棚には色とりどりの液体が入ったフラスコがずらりと並んでいる。
「鑑定」
【回復ポーション《試作》】
《鑑定結果》
[回復ポーションの改良型の試作品。制作から長い年月が経ちすぎて回復効果が無くなっている]
【赤ポーション『試作No.05』】
《鑑定結果》
[身体強化ポーションの試作品。制作から長い年月が経ちすぎて身体強化の効果が無くなっている]
【紫ポーション『試作No.09』】
《鑑定結果》
[状態異常化(猛毒)ポーションの試作品。制作から長い年月が経ちすぎて状態異常の効果が悪化している]
「ん?、紫ポーションだけ効果が残ってる?」
紫ポーションだけ効果が残っているのに違和感を感じ、少し観察してみると、紫ポーションだけが棚から落ちるギリギリに置かれている事に気がついた。
「馬鹿正直に棚を漁ったら紫ポーションが落下、割れて部屋中に毒が蔓延して大惨事って感じかな?殺意が高いなぁ……」
アリカは慎重に紫ポーションをアイテムボックスに仕舞う、
「これ毒だし後でメイに渡そっと……さて、棚は漁ったし次は机か」
机には一冊の本と紙束が置かれている、紙束には殴り書きされた文字でビッシリと隙間無く書かれており、アリカは紙束を手に取って読んでいく。
「うわぁ………これポーション改良実験の経過を記録してあるけど、大半が無茶振りしてくる上司の愚痴や悪口で埋まってるなぁ」
書かれていた内容は、ポーションの改良の経過記録が少し書かれているが大半が上司の愚痴を書いた物だ。例えば、《戦略兵器実験に人員がまわされているから少ない人数でやらなきゃいけない》とか、
《戦略兵器実験に予算がいって少ない予算の中でやりくりをする必要があった》とか、
《そんな金も設備も人員も何もかも足りない状態で何も知らない無能上司から無茶振りされたり[実験成果を早く報告しろ]と急かされた》など様々か愚痴が書かれている。
少し憐れに思うが『そういえばコイツら人体実験を平気で行うクズ共だったな』っと僅かに沸いた憐れみを消し去って紙束を纏めて机に置く。
「次は本か……鑑定」
【ポーションのレシピブック】
《鑑定結果》
[改良ポーションのレシピが書かれた本。読むと『ハイ・ポーション改』、『身体強化ポーション』の作り方を覚える]
「へぇ………」
《レシピ【ハイ・ポーション改】を獲得しました。》
《レシピ【身体強化ポーション】を獲得しました。》
うん、ちゃんと獲得出来たみたい。今は材料も設備も無くて作れないがツヴァイの街に戻ったら作ってみよう。
「よし……探索し切ったかな?」
アリカは周りを見渡して探索残しが無いか探すが全て見たのでレシピブックをアイテムボックスに閉まって薬品管理室を後にする。
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しばらくして、また扉を見つけた。
先程の木製とは違い頑丈な鉄製の扉だ、看板は掠れて読みにくいが僅かに『廃…物再…用室』と読める。
敵が居ないか恐る恐るドキドキしながら扉を開けて中を確認する、
そのドキドキが後悔に塗り変るのには、数秒も要らなかった
「こ、れは……」
私はあまりの光景に絶句した、
中にあったのは大量の白骨死体だ。
乾いた血で黒くなった死体
頭蓋骨が切り開かれた死体
手足が切り落とされた死体
腐肉がこびり付いた死体
歯の無い死体
指が全て欠損した死体
惨たらしく殺された夥しい量の白骨死体の山。
量からして百や二百は軽く超えている、
さらに最悪なのは、大人の死体より小さな身体の死体の方が数が多い事だ。
「子供を………弄んで殺した」
部屋の壁は大半が乾いた血で黒ずんでおり酷い腐敗臭がする、そんな惨たらしい死体の山から一つだけ他の死体と明らかに違う見た目をした死体を見つけた。
「この死体………骨じゃ無い、ミイラ?」
黒い全身を覆うローブとペストマスクを着たミイラの死体だ、胸辺りに穴が空いており血の跡から胸を貫かれて死んだ事が分かる、手に本を持っており血で所々黒くなっているが中にはあまり染み込んで無いようだ。
「血は……表紙が分厚かったからかページには染み込んでないね」
アリカはミイラから本を抜き取りページを捲る。
■□■□■□
【とある研究者の報告記録】
X月8日
適合実験の失敗作達の再利用が決まった、肉は従魔共の餌に使えるが骨は破棄するしかなく勿体無い為、アンデット化させて少しでも戦力にしたいらしい。
X月10日
上の奴らめ……いくら実験に少ししか関われないからって暇つぶしに実験対象を拷問するのはやめろ、その処理をするなは私なんだぞ、拷問された奴の肉を剥がすのは無駄に手間がかかる……はぁ、これでやめてくれたら苦労しないのだがな。
X月14日
一番稼働時間が長い個体を発見したらしい、なんでも子供が稼働時間が長かった様だ、なるほど……子供なら肉を削ぐ時間も減るから万々歳だな。
X月16日
おかしい……何故アンデット化の魔法陣は発動しているのにアンデット化しない?、条件も魔力も全て有るのに………何故?
X月17日
未だアンデット化の魔法陣が不発する原因は不明、調べてみたが私の専門はアンデット魔術では無い為あまり理解出来なかった、時間が有る時にアンデット専門の同僚に聞いてみるか……。
X月19日
アンデット専門の同僚に聞いてみたところ、どうやらアンデット化するのに必要な呪詛や呪いと言った物が死体に存在していないらしい、同僚も『拷問までして殺した人間の死体に呪詛や呪いが無いなんて事はあり得ない、こんな事は初めてだ!!』と興味深いらしく調査を手伝ってくれるようだ。
X月20日
死体は運ばれてくる時点で呪詛や呪いが無い事がわかった、ならば一体何処で呪詛が無くなっている?
X月21日
どうやら呪詛は実験体が生きている時にも何処かに吸われてるいるらしく、殺された瞬間に生まれる大量の呪詛も発生した瞬間に回収されている事が分かっただ。
ならば一体何がどんな目的で何処に回収してるのだ?
X月22日
最悪だ、どうやら回収しているのは【戦略兵器】そのものだ。
だが、それを報告するにはもう遅い、
すでに起動テストの時間を過ぎている。何も無ければ良いが……どうにも嫌な予感がする。
■□■□■□
「本当に救いようのないクズだな」
アリカの口から怒りと侮蔑を含んだ言葉が無意識の内に漏れ出る。
「………」
アリカは本を閉じると興味を失った様に投げ捨て、哀れな被害者達の亡骸の前に立つ。
「私にマトモな供養の知識なんて無いからこんな事しかできないけど………」
そして亡骸に火を付けて片膝を着いて祈る様に言葉を紡ぐ。
「来世では幸福な生が在らん事を」
手で小さく十字を切り、両手を合わせて祈る。
君達にどんな夢があったかも知らない
君達がどんな生活をしていたかも知らない
君達がどんな気持ちで死んでいったかも知らない
君達を、私は知らない
どんな事が有ったとしても私はただの部外者で君達の思う事も救いを願う資格もない、
ただ祈る事しか出来ない。
例え、部外者だとしても誰にも知られず看取られずただ朽ちてゆく事実が、そんな理不尽が
私には見過ごせなかった。
部外者の私が看取る資格は無いけれど、君達には誰かに看取られる権利は君達にあるはずだ。
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パチパチと燃える音が小さくなる、
何分いや何十分祈っていただろうか、目を開けると亡骸達は灰となり小さな消えかけの火が揺れるだけだ。
「……」
《称号《祈る者》を獲得しました。》
そんな空気を乱す様に現れた称号獲得の音声に少し苛立ちながら立ち上がり扉の開けて出ようとする。
──チャリン
するとアリカの背後に甲高い金属音が鳴る、アリカは急いで振り向くが後ろには誰も居なかった。
「──ッ何の音!?………気のせい?、いや確実に私は聞いたし………ん?」
アリカが音のした方向を観察していると地面に火の光りを反射して輝く何かを見つける。
「これは……鍵束?」
拾い上げたソレは鍵束だった。
大半は錆びていたり半ばから折れていたりと使えそうに無いが、一つだけ新品同然の金色の鍵を見つける。
「金の鍵、でも一体誰が……」
私は部屋の入口側に居たから気づかず侵入される事は不可能に近い、だとしたらどうやって?
「わからない……でも、敵意の様なモノも感じなかったから敵では無い?、はず……これ以上考えても埒があかないから進むしかない、かな」
アリカは鍵束をくれた正体不明の存在について考えるが、わかる事が何一つ無い為、正体については思考の片隅に置きながら部屋を後にする。
・
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あの胸糞悪い部屋を後にして大体1時間が経過した。あの後、他の部屋も探索してみたが、めぼしい物は無くただただ時間だけが過ぎていった。残るは——
「この扉だけ、かぁ……」
扉は大体3mぐらいの大きさをした頑丈そうな両開きの鉄製?の扉だ、見た目は金庫の扉の様な見た目をしている。
この扉は研究所の最奥に位置する場所にあった。多分だけどボスは、この扉の奥に居る……何故わかるかって?『此処しか探索場所が残って無い』とゆうメタ的な推理も有るが、一番の理由は──
「──扉の下から霧が漏れてる」
この霧は外と同じく嫌な気配を感じる、見られている様な睨みつける様な……そんな気配を霧から感じる。
だが、この鉄扉には開ける為のドアノブといった掴む場所が無い。
「どうやって開けるんだろ?」
私が持っている金の鍵が怪しいが、扉には鍵を入れて開く様な見た目はしてないし、それらしい鍵穴は見当たらない。
「う〜ん………何か見落とした? また部屋全部探すのは勘弁したいんだけどなぁ……」
私はアイテムボックスから鍵束を取り出しながら考える。
本当にヒントや見逃した物があればまた次の日に持ち越さないといけないから一旦セーフエリアの屋敷に戻らなきゃならず面倒くさいなぁ……。
「はぁ……帰ろうかな」
そうして踵を返そうとすると、取り出した鍵束についた金の鍵がひとりでに外れ、フワフワと空中に浮遊しながら扉の真ん中に突き刺さる。
すると刺さった鍵から魔法陣が広がり扉が大きな音を立てて作動しロック機構が外れゆっくりと扉が開く。
「──うっそぉ……ソレってそう使うの!?」
アリカは扉の仕組みに驚愕する。
「ま、まぁ、扉は開いたからヨシ?、えっと……先に進もう」
アリカは気持ちを落ち着かせて扉の先に目を向ける、
扉の先は下に降りる為の階段になっている。ふぅ……と一度深呼吸をし、この先に居るであろう強敵との戦闘に気合いを入れながら扉を潜り階段を降りる……
◆◇◆◇
”ソレ“は階段の向こう側に消えてゆくアリカの背中を見ながら考えていた。
『・・・・・・・』
ソレは『アリカ』を招き入れた存在、最初は自身の心臓を狙うこの忌々しい”霧“を排除する為だけに招き入れた。
その為、アリカに対して大狼型を誘導したり、アリカが人型と戦う時にコロッセオの門を閉めて閉じ込めたりもした。
だが───
──来世では幸福な生が在らん事を
ソレはアリカが真意に子供達の亡骸を弔い祈っていた姿を見ていた、だから鍵束を渡した。
『・・・・・』
もしも、もしかしたら……彼女になら霧の排除以外にも、自身の”願い“すら叶えられるかもしれない。
『・・・・っ!』
ソレは決めた、彼女の助けになろう。
そうすれば霧を排除するのも自身の願いが叶うかもしれないから、今まで通り何十年待ったって願いが叶う訳が無い、
それなら僅かな希望に縋ったほうがマシだ。
そうしてソレは、階段を降りていくアリカの後を追った。
《ネームドクエスト【無垢なる子らに憐れみを】のストーリー進行と分岐に伴いクエスト名称が変更……》
《シークレットクエスト【永遠の君より夢見る貴方に花束を】を開始します》
久しぶりに書くから書き方が分からないなぁ....




