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盲目

作者: 再加熱珈琲

noteでは私自身の話を書いたりしてます。

再加熱珈琲で検索してみてね。

高校二年生の時、好きな女の子がいた。一目惚れだ。

その子は周りからマドンナと言われるような美貌の持ち主で、透き通った絹のような髪の長い女の子だった。

ただ、目が見えていなかった。


学年が上がった当初、夏休みが仕事で潰れるという理由でクラスの誰も手をあげなかった図書委員に彼女は立候補した。

僕も続いて立候補した。これはただ僕に友達がいないだけで、かつ小説が好きだったからだ。特に下心などない。本当に。


委員の仕事は至って簡単で、本の貸し出し、若干の棚の整理などで殆どカウンターに座っているだけ。

最近は本を読む若者はおらず、またそれが暇な事に拍車をかけた。


白い紙に指先が触れる。細く伸びた中指で物語を辿っていく。

彼女は家から持ってきた点字で書かれた小説をよく読んでいて、その黒い字のない紙の白さが光を反射して、彼女の横顔はまるで有名画家の絵画のように綺麗だった。


棚の整理は主に僕がやっていた。

「たまには私にやらせてよ。」

「大丈夫、君は座ってて。」

僕は君の綺麗な顔が見られるだけで充分なのだ。

……実はあまり話した事がない。

今まで友達がいなかったのもあって、女の子と何を話せばいいかわからない。

そもそも、この子はいつも本を読んでいる。読書の邪魔をされるのは嫌だろう。

そんな事をうだうだ考えている内に、季節が変わってしまった。


夏休み。会話をかき消す程の蝉の声とどことなく湿気の匂いがする。

相変わらず僕は話しかける勇気が持てなくて、誰もいない図書室で静かに時を過ごしていた。扇風機の音が木霊する。

「……全然喋らないじゃん、君。」

唐突に話しかけてきたのは彼女。

「え?ああ……えっと、何読んでるの?」

吃りながらも何とか返す。

「ふふっ、やっと聞いてきてくれたね。でも秘密。」

「そ、そんなのあり?」

ずるい返し方をされたが、初めて笑っているところを見たかもしれない。

これはこれで嬉しかった。

「正直、君に言おうか迷ったんだけど言っちゃうね。実は私、目の手術受けるの。」

「目の手術?」

「そう、これが成功すれば目が見えるようになるんだって!時代の進歩って凄いね〜。」

「本当!?嬉しい!」

自分の事のように喜んでしまった。

「何で君がそこまで喜んでるの。」

思ってた事を素直に口に出されると辛い。

だが次に出た言葉は少し声が低かった。

「だからね、私この学校にいられないんだって。それで明日、引っ越すの。」


声が出なかった。夏は別れの季節とは言わない。だが一夏の恋と言えば、これ程当て嵌まる言葉は無いのかも知れない。


「まさか君が私の学校生活最後の友達になるなんてね。」

その一言でどれだけ長い治療なのか解らされた。

もっと早く色々な事を話せば良かったと後悔するのと同時に、今までの自分の勇気の無さに腹が立つ。

「今日、花火しようか。」

何か思い出になるものを。

「あ、気を使ってくれてるんでしょ。大丈夫!」

私、光が分からないから、と続けた。

焦る僕は額に汗を滲ませる。

「じゃあわかった、こうしよう!」

メモを取り出し、僕は“何か”を書きなぐった。

「目が見えるようになったらこれ見て!」

とメモを手渡した。


こうして夏が終わった。

仕事が終わり、別れた後に泣いたのは彼女に秘密だ。





それから二年の月日が経った。



僕は大学に進学し、課題に追われる日々を過ごしていた。

学費を稼ぐ為のアルバイトも欠かさず、毎日に楽しさ何ぞ一つもない。

昔よく読んでいた小説も、今は机の横に積まれている。



僕は課題の提出のため、電車を乗り継ぎつつ歩いて大学まで向かっていた。

太陽が燦々と照りつけ、アスファルトがまるで鉄板だ。僕はさながら火の上で段々小さくなる肉だ……。




蜃気楼か……麦わら帽子に白いワンピースをきた綺麗な女の子が見える……。

その子が携帯を耳に当てた。




不意に携帯が鳴る。知らない番号だ。




「はい、もしもし……。」

「ねえ今日、花火しよっか。」

読んでくれてありがとうございます。

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