勝利の神は如何にして地に堕ち敗北したか
私がこの世界に生まれ落ちた時、目の前に広がっていたのは殺意渦巻く戦場だった。
敵を殺す酔いと勝利への欲望を原動力に戦い続ける狂人。
己の地位を向上させるためだけに他者を蹴落とし後方で威張るだけの豚。
殺せば殺すほどに英雄と持て囃され周囲に死を運ぶ強者。
戦場に降り注ぎ悲鳴と怒号を呼ぶ様々な魔法を使う者。
私は私の使命を全うするためだけにただ一度、この戦場で力を行使した。
「【確定された勝利の裁定】」
私は使っただけ。
私はそれを使うだけでよかった。
例えどんな犠牲が出ようとも。
魔王が勝とうとも勇者が勝とうとも。
どちらが善でどちらが悪など私には関係なかった。
"強い者が勝つ"という単純な事だった。
私は全ての戦いに出向きその結末を見た。
全ての戦士の生き様を見た。
全ての戦いの勝者を見てきた。
ある一つの戦いがあった。
異界からの来訪者が私の見た戦士の中で一番強い者と戦った。
異界の来訪者は傲慢で自信に溢れていた。だが確かに強かった。
戦士は己を更なる高みへと向かうため戦い続ける挑戦者だった。
私はいつものように力を使った、どちらかの勝利を確定させるために。
しかし決まらなかった。勝者が。いつも決まっていた勝者が。
共倒れだった。両者は同時に死んだ。わからない。
戦いは必ず勝者が決まらなければならないはずだった。
勝者を決めるため私はもう一度力を使った。
いや、使ってしまった。
来訪者と戦士の戦いは再演された。
また勝者は決まらなかった。
もう一度力を使った。
決まらなかった。
何度も何度も何度も何度も何度も。
力を使いやり直した。
それでも、勝者は決まらなかった。
私は今まで私が勝利を決める者だと疑わなかった。
勝者は必ず存在すると信じていた。
今目の前で起きているのは何だ?
何故勝者は決まらない?
気が遠くなるほど戦いをやり直した。
ある時、ふと気がつくと世界から争いがなくなっていた。
平和、というものらしかった。
私が戦いの勝者を決めなかったからだろうか。
私は世界の歴史を見た。
勝者が居なければ争いは生まれない?意味がわからない。
何故?何故?何故?
私は思考を放棄した。
既に私は世界の事などどうでも良くなっていた。
ただひたすらにこの二人の戦いの結末を、共倒れの結末を変えたいだけだった。
何万、いや何億年経っただろうか。
何度目かもわからないままに力を使おうとした。
使えなかった。
発動しなかった。
勝利を決める審判が。
私だけのアイデンティティが。
再び私は世界を見渡した。
何もなかった。
生物が居なかった。
空っぽになっていた。
戦いが、なくなっていた。
歴史を、見た。
戦いが起こったのだ。世界全体が戦いあった。
私が勝者を決めなかったから?
だから共倒れした?
戦いなき所に勝利なく。
勝利なき所に戦いなく。
私は勝者が居なかった事を許せなかったんだろう。
勝利を決めるという私だけの力が揺らいだような気がしたんだろう。
そして私は地に堕ちた。
ひとりぼっちの世界に再び生まれ落ちた。
競う者も戦い合える者も居ない。
どうか、どうか次の私は。
勝利に固執しないただ普通の幸せを持った町娘にでもしてほしい。
私が見なかった恋や悲しみを感じれる人間にしてほしい。
これで終わりにしよう。
私は最後に首を切った。
あぁ、これが死か。
さむい。
くるしい。
いたい。
ねむい。
おやすみなさい。
━━こうして勝利を決める神は己の弱さに敗北し、死んだ。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
私自身、文章を書くのが得意ではなくかなり稚拙な文章になっていると思われます。
それでも楽しんで読んで頂けていたら私もとても嬉しいです。
最後に、読んで頂き本当にありがとうございました。