第9話 ミデル王の視点
彼女が居なくなった──死んだ。その凶報に激怒し、思わず人間界の屋敷を一つ潰してしまった。
誰がそんなことをしたのか。
妖精たちは「トリア」という名を答えた。
エーティンの傍に居たあの女。やはり婚約をした段階で殺しておけばよかった。本当に彼女は死んだのか、すぐさまクワールツ家に向かおうとしたが行く手にはローブを羽織った男が姿を現す。
「ミデル王、お待ちください」
「そこをどけ」
殺気だった言葉によって屋敷の瓦礫が粉々に砕かれ、粉塵が舞う。これ以上邪魔をするなら、この男から殺す。そう明確な敵意を向けると、男は深々と被ったフードの中から下卑た笑みを浮かべた。
「エーティン様の生まれ変わりは存命ですので、まずは怒りを収めてくださいませ」
「……なに?」
「全ては計画通り、生前のエーティン様もこうやって第一王妃に虐げられ、追放されたではありませんか」
この男がいうのは、エーティンの記憶を甦らせるために疑似追体験を行っているというのだ。確かに言われてみれば、あの時と近しい状況だったかもしれない。
だとするのなら、トリアは──。
「むろん、義姉は『ミデル王に好かれている』という術式を組み込んでおりますので、盲目的に貴方様を慕っております」
「それでいつも私に絡んできていたのか……」
「ククッ、さようでございます」
「ふん。いらぬことを」
思い出すだけで苛立ちが募った。役割だと言われても、エーティンを傷つけたあの女を許す気はない。せいぜい我が領土の肥料として役になってもらうとしよう。
「ですが、この危機的な状況で貴方様があの娘を救いに現れ、保護してしまえば、すぐに結婚もできるでしょう」
「保護。……確かにそうだな。妖精界に戻り、私の屋敷で囲ってしまえば彼女の安全は確実だ。その時にあの女の処罰もエーティンに決めさせよう」
少しばかり溜飲も下がり殺意が弱まった結果、それを表すように凄まじい竜巻がピタリと止んだ。砂煙が消えると屋敷だった面影はなく、空き地が広がっている。騒ぎに気付いた人間たちが増え、野次馬も増えてきた。
向けられた視線に一瞥すると踵を返す。
「で、エーティンはどこに?」
「すでに妖精界へ逃げ込んでいます。ククッ、連れ去る手間が省けたでしょう」
「そうだな」
彼女を助けるのは自分しかいない。
そして今度こそ、彼女と幸せな日々を過ごす。想定とは大きく異なるが、エーティンは私を思い出さないのがいけないのだ。最初から私を思い出し、手を取って助けを求めたのなら、どんな願いだって叶えてあげたい。
(大丈夫。時間はいくらでもある。……ゆっくりでいいから、思い出してもらおう)
いつも読んでいただきありがとうございます。
話を一つぬかしちゃいました。ミデル王の視点。追加しております。
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