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第5話 義姉からの妨害・前編

 サティ=フォン・クワールツ、ミデル王と婚約。


「は」


 最善だと思っていたら最悪のカードを引いていた。そんな気分です。

 目が覚めたら『ミデル王の婚約者』として成立していたのですから。老夫婦の手際と言ったら、凄まじかったようです。トリア姉さんも二人に強く言える立場ではないので、成立するまでは泣き落としや、あの手この手で阻止しようとしたのでしょう。彼女はずっと前からミデル王にアプローチをかけていたのですから無理もありません。


 結果。

 その日を境にトリア姉さんの嫌がらせはエスカレートしていきましたとさ。はあ、しんどい。

 使用人を買収して顔を洗う水に泥が入っていることや、ドレスも殆ど売り払われてしまった。お風呂なども水になっているなど、あからさまな嫌がらせが続いたのです。

 この辺は万物叡智(アカシック・レコード)と前世で独り暮らしをしてきたスキルによって回避できたのですが、それがトリア姉さんの顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまったようです。


「義父様、義母様。どうしてサティとの婚約を認めたのですか? 私が恋焦がれているって知っているのに……。あんまりだわ」

「可哀そうにトリア。だが、これはミデル王が直々に申し込まれたことだ」

「そうよ。誉れ高いミデル王がクワールツ家に加護を下さる。素晴らしいわ。トリア、貴女、ミデル王以外にも素敵な殿方はいるのだから、ね」

「いやよ! 私はミデル王と結婚するの!」


 屋敷の内ではこういってトリア姉さんが、子供の様に駄々をこねる日々が続くのです。

 義両親には魔法攻撃は出来ないから泣き落としと駄々をこねているのでしょう。人造人間(ホムンクルス)はマナ量が高い分、魔法を使うことができますがそれには制限がかかっているのです。


(まあ、私はその制限を万物叡智(アカシック・レコード)で解いているから関係ないけれど)


 ミデル王との婚約から二カ月後。

 物が無くなる、手紙が届かないなどのことが多発し、私は社交界に行く機会を失いました。その程度ならまだよかったのですが、屋敷内で妙な視線を感じることが増えたのです。

 嫌な予感がしていたのですが、その予感はすぐに的中するのでした。


 人攫い。しかも深夜に屋敷に侵入した賊は真っすぐに私の部屋に押し入り、誘拐を企てようとした──らしい。しかし『ミデル王の婚約者』として妖精の警護者(スプリガン)を忍ばせていたのです。警護対象だったなど知ったのは事が起こった後です。助かったものの知らない間に配置されているとか怖すぎる。


(ミデル王の配慮なのかもしれないけれど束縛が強そう? 普通、こういうのって相談してから手配するものじゃない?)


 もっともこの誘拐未遂のせいで、婚約者になって三か月とも絶たないうちにミデル王に嫁ぐという話が浮上。本来なら半年から一年かけて交際し、結婚となる流れなのだが今回の経緯ですっ飛ばされたのです。その上、私の部屋に毎日妖精たちがドレスを置いてくのですから。彼の本気度合いが分かります。


「私の婚約者の安全が確保できないのなら、急いで式を進めましょう」

「え、でも……」

「何か困っていることが他にあるのなら、私に言って頼ってください」


 甘い声に真摯な口調。しかし私には強引に全てを進めていくようにしか思えず、どうしてもこの方を信じていいのか──不安が過るのです。まあ、そう思っても、私の意見など誰にも受けいれてくれないのですが。なぜなら──。


「サティに限って困っている事なんてないわよ。ねぇ、そうでしょう?」


 ここぞとばかりにトリア姉さんが現れるのだ。現在、婚約者として周囲に一度の食事会で、薔薇庭園に二人だけしかいなかったはずなのだが。ミデル王も明らかな邪魔だと思ったのか、眉が吊り上がる。


「クワールツ嬢、いくら家族とはいえ令嬢として礼節に欠ける行動ではないのかな?」


 底冷えするような声色に、私は鳥肌が立ちました。ここまで嫌悪感を向けられてなお、トリア姉さんの頬は赤く染まり、照れているのですから恋は盲目と言うか──本当にこの姉は現実を見ていないのだな、と思いました。


「ミデル王、申し訳ございません。()()()()()()()()()()()()()、ご不興を買うのはもっともなことです」

(私じゃないから! この状況下で言われているの、貴女だから!)


 すさまじい曲解による返答。自分が何をしているのか本当に分かっていないようだ。これにはミデル王も目を見開き唖然としていた。うん、わかります。この方もとんでもないものに好かれてしまった被害者……。いや結構勘違いさせるような言動をしていたので、ある意味自業自得かもしれません。

 私がそんなことを思っている間に店の従業員に椅子を運ばせ、勝手に同席し始めました。心臓が強すぎません?


 まあ、そんな感じでお食事会は毎回邪魔され、ミデル王と二人だけで話す時間は殆どない。これでは助けを求めるのは難しいし、彼に助けを求めるのもなんとなく躊躇われたため、状況は好転せず悪化するばかりだった。

 老夫婦は自分達の利益しか見ておらず、ミデル王は私ではない何かを見ており私が拒む事などないと思っているのでしょう。トリア姉さんに関しては言わずもがな。


 トリア姉さんの妨害も虚しく、結婚式までの日取りが決まった。この急展開にはさすがに想定していなかったようで、もはや手段を選んでいられなかったのでしょう。顔を合わせるたびに「なんでアンタが!」「どうやってミデル様に取り入ったの!?」「ずっと狙っていたのに!」と罵詈雑言の嵐です。

 彼女から見たら私がミデル王をかすめ取ったということになっているのでしょう。姉の中で私は『略奪愛をした酷い妹』というレッテルが貼られたのですから、何を言っても駄目でした。シンデレラのようなお助け役はいないようです。悲しい。


 さらに社交界では私が姉の想い人を奪った悪女としての噂が広まっていました。なんとも用意周到のようです。私と親しくしていた友人も蜘蛛の子を散らしたかのように、逃げていきます。悪役令嬢の完成という訳です。

 ため息しか出ません。


(これが続くのかしら。……というか結婚の話をしに来た時にミデル王と食事をしたけれど、会話もあまりないし、なんで私を選んだのかも謎なのよね)


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