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第4話 ミデル王の視点

 エーティン。第二王妃であり、私が生涯愛したただ一人の女性。

 彼女は第一王妃の策略により、人間界に追放されてしまった。気付いた時には彼女の行方は分からなくて、胸が苦しくて、片翼をもがれたような痛みが襲った。

 彼女を失った──その事実に耐えられず、私は第一王妃を殺して、彼女を探すために人間界に赴いた。

 探して、探して、探して──。


 ようやく見つけ出した彼女は人間に転生をしていた。それでも私の事を覚えていたことが嬉しかった。彼女に傅き、謝罪してもう一度妃として迎えたいと伝え──それは叶った。

 胸に空いた穴が埋まり、幸福で、もう二度と離れない。そうエーティンと誓った。

 愛を語らい、永遠に近い時間を共に歩めると──確信していた。人間であっても妖精界に居続ければ、その姿は妖精族へと進化を遂げる。彼女の美しい翡翠色の髪、艶のある肌、私と同じ羽根を得ると思っていた。

 しかし彼女は妖精に戻らず、人間として亡くなった。


「なぜ、なぜだ……。エーティン」


 原因は──不明だった。いなくなったこと以上に、胸が軋み、耐えられなかった。

 それこそ私の心が砕けて壊れてしまうかと思った。いっそ心を壊して一緒に眠ってしまった方が良いだろうか。妖精は自ら死ぬことはできない。なら彼女が愛した丘ごと粉々にして──。


「恐らく第一王妃が死ぬ最後にかけた呪縛でしょう。今後、エーティン様の魂は転生を繰り返します。時が来れば再び会うことも可能かと」


 黒の外套にフードを深々と被った隠者は囁いた。人間の姿をしているが──人外の者は甘言を続ける。


「ある国では人造人間(ホムンクルス)製造が盛んでして、労働や他種族との婚姻によって繁栄を築いていると聞きます。そこで──エーティン様が蘇るように動くことは可能です」

「……お前の目的はなんだ? その国の回し者か」


 ケラケラと笑い声は不快だったが、男の言葉を待った。それほどまでにエーティンとの再会という魅力に抗えなかったからだ。彼女が再度転生するのが数十年、数百──千の月日を費やすかもしれない。それならば可能性の高い方に一縷の望みをかけたくもなる。


「いえいえ。単に見てみたいのです。想い人との再会がどのぐらいの確率で起こりうるのか。奇跡に立ち会いたいのです──」

「で、本心は?」


 そんなロマンチストではないだろう。男を睨むとすぐさま両手を上げて口を開く。


「くくっ、実はですねサフィール王国は高齢化が進んでしまい、人造人間(ホムンクルス)製造に取り組んでいるのですが、彼女たちの寿命が三、四年程度なのです。マナ量が多く、肉体が持たないのでしょう。そこで他種族──妖精族と婚姻を結べば、彼女らは延命できるのではないかと考えましてね。これはビジネスです。妖精族は番を得ることで領土の繁栄が望める。彼らの国は妖精族から加護が得られる。WIN―WINの関係になると思いませんか?」


 先ほどの下卑た笑みから一変、流暢な口調で語る男の言葉は魅力的なものであった。妖精族はつねに(つがい)を求めている。それは妖精界の均衡を保つためにも必要だった、しかしマナ量が少ない他種族だと番となることは難しく、婚姻後に花嫁が妖精族に進化できずに死んでしまう例もあった。エーティンの死もマナ量の少なさによるものだと思っていたが、呪縛ならなおのこと通常の方法では再会するのは難しいかもしれない。


 もう一度エーティンに会えるのなら──。

 だからエーティンの遺体を男に差し出したことも。

 妖精王の中の王オベロンにサフィール王国との交渉を持ち掛けたことも。

 全てはエーティンと再会するため。


 そして──今日、私の悲願は成就する。エーティンの生まれ変わりとなる()()()()()()()

 愛らしい顔立ちに、翡翠色(ひすいいろ)の長い髪、甘く春を彷彿とさせる花の香り。彼女だと直感でわかった。

 今度は絶対に間違えない。記憶が戻っていなくても──これからゆっくり思い出させればいい。ダンスを踊っている中で、彼女の魂に呼びかける。

 私を見て、思い出して。

 またその可愛らしい唇で私の名前を呼んでくれ。

 全ては順調だった。彼女が気絶をするまでは。

 告白(プロポーズ)を喜んでもらえると思ったのに、彼女は気絶という形で私を拒んだ。

 エーティンが私を拒むなどありえない。


(何を間違えた? どうして? 告白は突然過ぎただろうか──)


 気絶した彼女を休ませるため屋敷の個室へと運ぶ。トリアと名乗った彼女の姉は「妹を心配している」と口にしながら、その実、私に取り入ろうと必死な姿に吐き気がした。この女は第一王妃に似て癇に障る。そんなに妖精族の者と結婚をしたいのなら、別の男を紹介してやろうか。


(冬と死の妖精王など都合がいいのではないだろうか。それとも面倒だから殺して──)

「ミデル様、ご希望でしたらご令嬢にエーティン様の記憶を上書きしましょうか?」

「……お前か」


 いつの間にかローブを羽織った男が背後に突如現れた。音も気配もない。相変わらず不気味で得体の知れない男だ。


「それは最終手段だ。……彼女自身で思い出してほしい」

「では、このご令嬢が貴方様に縋り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

(エーティンが私を頼る? 傍に居たいと願うようになる)


 想像しただけで胸が弾んだ。愛しい人からの願いならいくらでも叶えてあげたい。

 ここまできたのだから、絶対に逃すものか。

 腕の中にいる彼女を得られるのなら、全ては些末なことだ。


「いいだろう。そこまでいうのなら、見せてもらうとしよう」

「承知しました」


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