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第3話 プロポーズは空気を読んで

「ああ、サティ。そんなことよりも社交界デビューしたのだから、もっとパーティーに顔を出さないと」

「そうよ、せっかく妖精族の方々が来ているのに、もったいないわ」

「え、でも……」

「ほら、新しいドレスを新調して、パーティーに参加してちょうだい」


 老夫婦は耳にタコができるほど、妖精族との接点を作るのに躍起になっているようでした。まあ、妖精族との加護が得られればクワールツ家は安泰。その恩恵を得るために、私とトリア姉さんを孤児院から引き取って養子にしたのですから、当然の反応でしょう。


(国家プロジェクトとして魔力の高い人間の製造をしたのだから、生体活動が可能なうちに妖精族との婚姻を進めたい──なんていえないものね)


 どうしてそんなことがわかるのか。それは私の持っている贈物(ギフト)の権能、万物叡智(アカシック・レコード)というもので、様々な情報を瞬時に理解できるという優れもの。前世でいうならば脳内でネット検索ができるようなものだ。それも性能はかなり高い。だからこそ国家間と妖精族との間で締結した契約の裏事情も知ったのです。


 そう私やトリア姉さんが人造人間(ホムンクルス)だということ。孤児院経営も実は人造人間(ホムンクルス)製造施設でした。現実とは残酷なもので二年前、私が培養液に漬かっていたのは現実だったのです。人生、知らないほうが良いことってあるんですね。道理で孤児院での生活がおぼろげな訳です。


 人造人間(ホムンクルス)の特徴として、寿()()()()()()()()()()。そしてマナを大量に持っている──この二点です。まあ、顔立ちが美人というのは補足としておきましょう。

 これを知った時にはさすがに凹みましたよ。ええ、寝込みましたもの。短い期間で令嬢候補を製造し、妖精族と結婚する頃には人族から妖精族に進化する──つまりは「人間やめる」というとんでも情報です。もっとも妖精王と呼ばれる上位の妖精族であれば、殆ど人と変わらず背に羽根が生え、長寿になるというのです。

 それが妖精族との番システム。


 妖精族は例外を除いては他種族との婚姻によって、番として同じ種族に存在を作り替えるのです。だからこそ純粋無垢で魔力の高い人造人間(ホムンクルス)が好まれるとか。

 パーティーに参加しているのは、普通の令嬢もいますが選ばれるのはマナを大量に持つ者ばかりです。もちろん、そんな情報が令嬢たちの耳に届くことはありません。ちなみに人造人間(ホムンクルス)の寿命が四年というのは、人間よりも魔力耐性が強く、マナを大量に持っているからです。そのマナ量の多さに器が耐え切れない。それゆえの四年。まあ人間から妖精族になるのですから、結婚相手さえ見つかれば延命は可能という訳です。


(製造から二年経っているから、私はあと二年しか延命できない……)


 それだけでも気が滅入るというものです。

 まあ、問題はそれだけでもなく……私が社交界デビューした時だったでしょうか。トリア姉さんと一緒に出たのですが──。


「君、名前は?」

「え、あ」

「花の香りがするけれど、好きなのかい?」

「貴女からは特別な魔力が感じられる」

「どうだろう、一緒にダンスでも」


 とまあ、妖精族の美男子、偉丈夫に囲まれたのです。なぜ。本当になんで!?

 ダントツでマナ量の多いトリア姉さんではなく、私にお声が沢山かかりました。この原因を万物叡智(アカシック・レコード)で検索しても、Errorしかでなかったのはなぜでしょう。何が万能なのか──と思ったりもしました。中でもまずかったのは、妖精族の中で丘の妖精王という異名を持つミデル王にダンスを誘われたことです。


「サティ=フォン・クワールツ嬢、私と一曲踊って頂けませんか?」

「!」


 長身で、すらっとした体躯に燕尾服が似合う殿方で、なにより溢れんばかりの色気。淡いエメラルドグリーンの長い髪、彫刻のような整った顔立ち、外見だけなら十代後半のエルフ族の美男子に近いのかもしれない。しかしエルフと異なるのは背中の羽根だ。若草色の美しい蝶の羽根が広がる。大人の魅力満載の超ハイスペックらしい。

 私としては花に触れて暮らすほのぼのライフを望みたいので、妖精族に嫁ぐにしても自由気ままが望ましい。もういっそ契約結婚で、互いのプライベートに無関心の方が気楽である。知名度の高すぎる妖精族に嫁げば何かと社交界や、それらしい役割を求められるだろう。


(ああ、全力でダンスを断りたい。でも断ったら、断ったで面倒なのよね)

「サティ=フォン・クワールツ嬢?」

「はい。喜んで」


 淑女らしく張り付けた笑みを浮かべ、差し出された手を取る。

 その瞬間、令嬢たちの悲鳴が後ろから聞こえ、ミデル王を狙っていた令嬢たちから刺すような視線が痛いほど向けられた。痛い、痛すぎる。

 なに、この地獄。張り付けた笑みが崩れそうです。ああ、このまま逃げ出したい。


「やっと見つけることができた」

(ミデル様?)


 ぽそっと呟いた声は、切実な吐息と共に放たれた。

 どういう意味なのか分からず私は聞き返そうとした瞬間。


「!?」


 それは単なる情報と異なり、衝撃にも近い感情と映像が脳裏に飛び込んできた。

 淡いエメラルドグリーンの長い髪、美しい美丈夫が愛を囁く。

 穏やかに微笑み、花々が咲き誇る。

 鮮明に過る映像に、胸がざわめく。

 幸福だった──けれど花の楽園を追放され、荒れ狂う海の中へと落とされた。

 漆黒のローブに身を包んだ誰かが──突き落とした。

 手を伸ばしても美丈夫が助けに来ることは無い。「ずっと一緒にいよう。そう約束をしていたのに」──叶わない。


(今の……は……)


 どうして追い出されたのか、悲しい思いが私の内から溢れ出て、その衝撃にステップが狂ってしまう。そのまま転びそうになった私をミデル王は支えて、見事ダンスのパフォーマンスに昇華させた。不可抗力だったのですが、私とミデル王のダンスに拍手喝采。そして令嬢たちからの悲鳴、殺意のこもった視線が突き刺さります。ええ、それはもう射殺されるのではないかと思うほどに。


(にしても、さっきのは私の記憶じゃない……記憶がある? これは……別の記憶?)


 複雑な感情が私の中で蠢く。その思いは一体なんなのだろう。

 それともミデル王の感情が私に流れ込んできたのでしょうか。万物叡智(アカシック・レコード)は検索、または読み取る力に長けていますから。

 長く感じたダンスもようやく終わり、手を放して一礼しようとした直前。彼は私の手を掴みなおした。


「?」

「サティ、どうか私の番になってほしい」


 うん、初対面で唐突に何を言い出すのだろうこの妖精王は。あと私の死亡フラグが立ったのを感じた。もうトリア姉さんなんて鬼の形相で私を睨んでいるではないか。とにもかくにも、ここで頷かなければミデル王の顔に泥を塗るようなものだ。そうなればクワールツ家としての評判はガタ落ち。サティに令嬢たちの嫌がらせが開始のゴングを鳴らすでしょう。極めつけはトリア姉さんからのいじめがさらに酷くなること確実。うん、ここで私が取れる最適解。

 それはザ・気絶による先送り。

 突然のことに気を失った。これなら今すぐ返事をしなくても問題ない。そしてきっとミデル王なら倒れる私を抱き留めてくれるだろう。うん。紳士だというのを信じている。そんな訳でなんとか死亡フラグをギリギリで躱したと思ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。


お読みいただきありがとうございます!

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