第17話 アルバートの視点
彼女が目覚めてからは、一日が目まぐるしく過ぎていく。
『領土の復興に微力ながら尽力するなら、やはりパートナーの方が意味合い的に合っていると思います。肩書は大事ですもんね!』
言い切った彼女はすぐに顔を赤らめた。まだ数日だが、本当に表情がよく変わる少女だ。その姿は見ていて、少し面白い。だからまずは一人称を変えてみたが、効果のほどは不明だ。なかったとしても何か今までの自分とは違う。そう思えたことの方がオレ──私にとっては大きい。
「いや。……本当にいいのか?」
私の傍に居たいと言い出す者が現れるとは思わなかった。だから本当に驚いた。
選択肢として口にしたに過ぎない。それなのに彼女は承諾したのだ。
「はい。パートナーっていい響きだと思います」
「……一つ確認するが、パートナーとは……つまり、死と冬の妖精王の花嫁、番になるということだぞ」
「はい! ……え?」
驚愕する彼女の表情を見て「ああ、やはりな」とどこかショックだった。一瞬で期待した自分が馬鹿のようだ。
「忘れてくれ。私と番になろうとするものなど──」
「いえ、私でよければ番になります」
私が怖くないのだろうか。そう問いかけようとして、出た言葉は全く異なるものだった。
「本気か?」
「もちろんです。アルバート様が番を求めているのは、領土問題を解決するためなのでしょう」
「…………まあ、そうだが」
「私はミデル王のもとに嫁ぐと──色々と問題があるので、同じ地位の王に嫁いだ方が都合はいいのです。アルバート様は領土問題が解決できる。私はサフィール王国の国賊にならずに済みますし、お花を育てられるうえに、ミデル王に嫁がなくていい。お互いにいいことだと思います!」
「……そう、だな」
怖がられていないのは嬉しかったが、彼女はあくまで互いの利害関係が一致しているからと強調してくる。最初から客人として迎えて、協力関係を結びたいとは思っていた。だから彼女の提案は私にとって望むものだった──はずなのに、それだけじゃ足りないと感情が渦巻く。
異性として認識されていないからか、それともあまりにも彼女が暢気だったからか。
(なぜこんなにも胸がざわつくのだ?)
「あ。もちろん、アルバート様が本当に妻として迎えたい方が出来たのなら、私は新しい職場の斡旋をしていただければ、いつでも出て行きます」
勝手に出て行くところまで想定していたことに慌てて口を開いた。なぜこの少女は最初からこうも一歩距離を取ろうとするのだろうか。
それがもどかしくて、嫌だ。
「一時でも私の妻になろうという者は出てこないだろう」
「そうですか?」
「死と冬を司るということは、この領土の大半は冬だ。それに耐えられるか?」
「あー、冬備えは毎年大変になるかもしれませんが、妖精界はマナが多いですし、生活する上で贅沢をしなければ問題ないのでは? 冬でも森の恵みはありますし。秋の収穫時に頑張れば──」
「……お前は、変わっているのだな」
変わっている。そして私の傍からいつでも飛び出せるように、準備をしているように見えた。ここを居場所にする気はなく、ただの止まり木だと言われているようだ。
少女が出て行く。
それを想像したら、胸がざわつく。
最初は「この地にいれば嫌になるだろうから、協力後にどこか良い場所を紹介しよう」と考えたが、今ではそんな考えは消え去った。どうすれば彼女がこの地に留まるかを考えている。そもそもなぜこの考えに至るのか──わからない。
彼女が来てから、新しい感情が芽生える。
呪いの解除と上書きも無事に終わったのだが、なぜ彼女は驚いた声を上げたのだろう。私に触れられるのが嫌だったのだろうか?
キスが最も魔法効果が出やすい。ただ触れるだけでよかったはずなのに、思いのほか彼女の唇が柔らかく、気づけば体を密着させていた。あの少女と出会ってから自分でもよく分からない。
会話を重ねれば、何かにか分かるだろうか。
脅えては──いなかったはず。もし本来の姿で拒絶されたら──?
「……この気持ちのモヤはなんだ?」
あの少女は私の予想を軽く超える言動ばかりする。
なにより驚いたのは、保護ではなく|パートナー番を望んだことだ。しかし、番とは普段どのような事をするのだろう。種族によって番の在り方はそれぞれだ。まして種族が違えば、色々と違いがあるのかもしれない。
「ふむ……」
今更だが、花の精霊に聞いておけば良かった。気が進まないが、またオベロンに相談した方が良いのかもしれない。
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