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第16話 予言の娘、聖女らしい能力ないです

『雨の森で出会うだろう。薄緑色の髪、深い碧色の瞳、ルーンの呪縛に囚われた聖女に』というのが予言の内容だというのです。


「そ、そこまで言われたら、私……ですかね」

「だろうな。私もお前が現れるまでは戯言(ざれごと)だと思っていた」

「ははは……」


 思った以上にピンポイントの予言過ぎて正直、引きました。予言ってもう少し抽象的でぼんやりした感じじゃないですかね。それとも妖精界では違うのでしょうか。

 ふと私はある事を思い出します。

 契約結婚したとはいえ、精霊魔術師レムルやミデル王が諦めるとは到底思えないことです。アルバート様に迷惑がかかるとは告げたけれど、本当に大丈夫なのか今更ながらに不安が襲いました。

 妖精王同士の関係が拗れて戦争にでもなったら。それに別の手段で私を連れ戻す、または殺しに来る可能性は十分にあります。もっとアルバート様にことの重大さを伝えるべきだったと激しく後悔しました。


「アルバート様!」

「どうした?」


 突然大きな声をだした私に、アルバート様は身を固くした。


「番としての契約の上書きは成功しましたけれど、精霊魔術師レムルやミデル王のことは本当に大丈夫でしょうか? その、アルバート様にご迷惑をかけたんじゃ……」

「それなら先手を打って契約の上書きをしたから問題ない」

「え」

「言っていなかったか?」

(一言もそんな話をしていなかったと思うのですが……!)


 思わず心の中で突っ込まずにはいられませんでした。まったく、本当に。アルバート様は悪い方ではないのですが、どうやら説明はもちろん、報告相談(ほうれんそう)が苦手──というか概念が壊滅的なのかもしれません。


「すでにお前は私の番として契約がなされた。これを犯すことがあれば死の王()への宣戦布告に当たる、そう解釈するだろう」


 彼の低く、鋭い声。その眼光は鋭い。


(穏便どころか戦争の火種になるような不穏当な発言なのですが。予想以上に好戦的すぎません!?)


 アルバート様の発言に「このままではまずい」と私は思案を巡らせます。いらぬ争いなどフラグから折っていかなければ、領土復興とかしている場合ではないのです!

 何より念願のガーデニングの許可が出た今、是が非でも穏便に済ませたい! いや済ませるのよ、サティ!


「ええっと、アルバート様。お気持ちは嬉しいのですが、元々の原因は私が逃亡したからであって……その、できるだけ角が立たないようにしていただけると嬉しいかなぁ、と。領土の回復という優先すべきこともありますし……」

「…………」


 アルバート様は顎に手を置いて、検討しているようです。バッサリと切り捨てられるかと思ったのですが、これはもしかしてワンチャンあるかもしれません。「お願いですから強硬手段となる結論に至りませんように」と祈りまくった。妖精だし、人間のような物騒な武力に訴えることも無いはず。もっとファンシーで愛らしい解決方法であってほしい。


大地の精霊(エアリアル)は噂を好み、その日のうちに妖精界に伝わる」

「え、あ、はあ」


 要領を得ない提案に私は小首を傾げた。アルバート様も言葉が足りないと察したのだろう。再び口を開きました。


「つまり、私がお前を助けたことは、半日も経たずに妖精界中に筒抜けという事だ」

「え!?」


 彼は私の驚きに小さく吐息を漏らすと、


「だが、お前が不安を抱えたままでは、領土復興にも影響を及ぼすだろう。ひとまずその精霊魔術師と、ミデルに親書を私から送るとしよう。あとは《世界樹の種》でもくれてやれば大人しくなるはずだ」

(大人しく……)


 噂による情報を各地でばらまき、手出しさせないように手紙を送って先手を打つ。素晴らしい。予想以上にまともな対策でよかったと胸をなでおろします。

 戦争とか武力行使しそうな感じだったけれど、穏便に済みそうなのですから。そう考えている途中で、気になる単語が出てきたのを思い出す。


「アルバート様。その《世界樹の種》とは?」

「死した大地を一瞬で蘇らせる妖精界の種だ」

「それって、どのぐらい価値があるのですか?」

「妖精界の秘宝のひとつで──」

「秘宝!? そんな高価なものを渡してしまっていいのですか?」

「別に問題ない」


「秘宝と私の価値を天秤にかけたら、私が完全に負けていますからね。どう考えても!」と叫びそうにまった。何というか契約(キス)をしてから、元気になってきたような。これが花嫁としての効果というものなのでしょうか。


「私が《世界樹の種》を持っていても意味をなさない」

「どういう意味です?」

「手を出してみろ」

「はい?」


 アルバート様は拳を握ると、私へと差し出しました。言われた通りに彼の拳の下に手を差し出します。彼が拳を開くと、そこから大量の種が零れ落ちてきました。それはもう私の両手から溢れて、地面に零れ落ちていきます。


「な、なんです、これ!?」

「《世界樹の種》だ。私はこの種を作れるが、芽吹かせることは出来ない」


 そんな簡単に妖精界の秘宝が、こうも無造作に落ちているのは良いのでしょうか。妖精界の秘宝って……。


(でもこれで精霊魔術師レムルやミデル様が手を引いてくれれば、トリア姉さんから恨まれることもない? サフィール王国から国賊も撤回されるのなら、本当になんとかなるのかも)


 そう考え、あとは《領土の死》問題を解決するように動くだけです。アルバート様では「芽吹かせることは出来ない」といった意味も引っかかる。なにより《領土の死》というのが、今一つピンときませんでした。土地が腐食し泥が領土を駄目にしていると言われても、傍目から見て良くない雰囲気がするぐらいしか分かりません。まずは現状を知ることが解決の近道のはず。


「アルバート様の領地の地形や広さなどいろいろ教えてくださいね」

「!」


 私の言葉にアルバート様は目を見開き驚いていた。そして口元がほんの少しだけ緩める。


「慌てなくとも、お前にはいろいろと教える必要がある。せっかく得た番なのだから大事にする」

(こ、この方は……! 時々心臓に悪い言葉を……!)


 秋風が一層強く吹き荒れたのは、大地の精霊(エアリアル)の悪戯だったのかもしれません。それでも、宵闇に佇みほんの少しだけ微笑みを浮かべたアルバート様は、死と冬の王というよりは──もっと違った印象を受けました。それが何かは、まだ私の中で言葉として形を成してはいなかったけれど。


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