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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

烈! 西遊記!!



 ゴツゴツとした岩山が続く道とは言えぬ道。そこを進む影が4つ。

 


 一番先頭を歩くのは大きな木箱を背負い、錫杖という杖を突くお坊さんの女性『白蓮禅師(はくれんぜんし)』。顔を薄い布で隠し、足をも包帯で完全に隠している。髪は剃らず、少し長めに整えている。



 二番目を歩くのは背が高く、小さい緑の帽子を付けたイケメン『猪八戒(ちょはっかい)』。整った顔立ちとは裏腹に、豚の耳を生やしている。首に絹の織物を巻き、流木に宝玉と鉄の飾り物を付けた杖を突いている。


 三番目には背が低い小柄な少女『沙悟浄(さごじょう)』。体格に似合わぬ横に布が付いた大きな傘を被り、服の袖は手が完全に隠れる程長い物を着ている。先端に三日月型の刃が付いた杖を突いている


 最後に歩いているのは、背が丁度中間に来る平均的な背丈でありながら、どこから見ても逞しい筋肉を付けた大柄に見える男『孫悟空(そんごくう)』。顔立ちは良い方だが表情は悪く、素行も良いように見えない動きをしている。途中、杖代わりにしていた朱色の長い棒を振り回していた。



「なあ和尚さんよお、次の町まで後どれくらいかかるんだ?」


 悟空はだるそうに白蓮に聞いた。前の町からは3日程歩いてきたため、そろそろ野宿では無く宿に泊まりたいと思っていた。


「商人の話だと、今日中には着くはずですよ。だからもう少し頑張りなさい」


「もう歩くのだるいぜ」


「そう言うなよ悟空兄さん。俺も結構足にきてるんですよ」


 八戒も白蓮と同じように、頑張るよう声を掛ける。


「全く、何と情けない。それでも男かこの筋肉猿」


「あぁ!? なんだとこのジャリガキ!!」


 沙悟浄の冷たい言葉が癇に障り、口喧嘩を始めてしまった。


「そのガキにすら劣る体力でよくまあ喋ること喋ること」


「言わせておけばこのアマ……!」


「まあまあ! 2人共落ち着いて!」


 喧嘩しそうになったので、八戒が止めに入る。


「悟空兄さんも沙悟浄姉さんも、もうすぐ町に到着するんだからさ、ね?」


「ふん……」


「ちっ! 後で覚えてろよ……!」


「みんなー! 町が見えたよー!」


 白蓮は手を振りながら大声で呼んだ。


 3人が近付くと、ちょうど見下ろした場所に町があった。民家が多い町に見える。


「よし! それじゃあもうひと頑張り行ってみよう!」


「おー!」「おう!」「おー」


 掛け声を合わせて町を目指して山道を進んでいった。



 ・・・・・・



 小1時間歩いて町に到着した。町の正門から入り、大通りを進んでいく。


 町は店がそれなりに並び、ちらほら人が歩いている。出店もあり、雑貨も置いてあった。


「とりあえず泊まれる場所を探そう。そしたら食べ物屋さんで食事を取る。それでいいね?」


「分かったぜ和尚さん。それじゃあさっさと宿屋を見つけようぜ」


「俺は先に食べ物屋に行きたいです」


「後にしろ八戒。白蓮様の意見の方が効率的だ」


 1人と3匹は町をウロウロしながら宿屋を探す。


「……なあ八戒、何かおかしくねえか?」


「え? 何が?」


「気付いてないのか、八戒。お前の大好きなものだぞ」


「うん?」


 周りを見渡して、何が無いのかを確認する。


「あ! 女の子!」


 八戒が気付いたのは、若い女性の姿が無かったことだ。殆どが男や年を取った女性ばかりだ。


「ああそうだ。何だか年齢層が偏ってやがる」


「でもそんなに珍しいことじゃないんじゃない? 前の町だってそうだったし」


「そんなもんかねえ……」


 違和感を覚えながら、町の中を歩いていく。


「それにしても、どこに宿屋があるんだろう?」


「あ、あれじゃねえか?」


 悟空が示した建物は、国で指定された宿屋の看板だった。


「宿屋発見! 早速泊まる手配よ!」


 白蓮は張り切って宿屋に入っていく。受付らしき机はあるが、肝心の人がいない。


「すいませーん! 宿泊したいんですがー」


 大声で呼ぶと、奥から1人の男性が現れた。


「はいはい、宿泊ですか?」


「はい。4人で泊まりたいんですが」


「あいよ。奥に三と四の札の部屋があるから、その部屋を使ってくれ」


「ありがとうございます!」


 とりあえず宿を確保し、次の目的の場所を探しに行く。



 ・・・・・



 食べ物屋さんを見つけ、皆で食事を取る。店には何人か先客がいたが、余裕で入れた。肉や魚は干したものを元に戻した料理や野菜の温汁を堪能していた。


「くはあ! やっぱりこういう料理が一番上手いぜ!」


「悟空、程々にして下さいね。お金は有限なのですから」


「まあまあ和尚様、俺が横から言っとくんで気にせず食事を続けましょう。久し振りの町なんですし」


「それよりも、まだその顔布付けてるんですか、白蓮様?」


 白蓮は肌が見えないようにあちこち布や包帯を身に着けている。


「……まあね、さすがにここじゃあ人目も多いし」


「……そうですか」


 食事を続けていると、大勢の男たちが入ってきた。どの男も屈強そうだった。


「なんだ? 仕事終わりか?」


 ゾロゾロと入って来て、そのまま悟空達に近付き、囲んだ。


「……何だよ?」


 悟空は横目で男たちに問いかける。


「なに、そこの女に用があるんだ。素直に来てくれればいい」


「誰だてめえら?」


「ほう、俺達を知らねえとは、良いご身分だな」


 男達は周りを取り囲み、骨を鳴らしたり、ガンを飛ばしたりして威圧する。


「俺達はここら一帯を取り仕切る『赤の闘牛団』のもんだ。痛い目見たくなかったらさっさと女を渡しな」


「断る」


「あん?」


 悟空はゆっくりと立ち上がり、男達を睨み返す。


「そんなちんけな悪党に渡せる訳ねえだろ。何されるか分からねえのにはいそうですかって素直に聞くか、バーカ」


「何だとてめえ?!」


「どうやら痛い目みたいだな、やっちまえ!!」


 懐から棍棒や短剣を取り出し、悟空に襲い掛かる。


「八戒! 2人を守れ!」


「ひいいい!? 勘弁してえ!!」


「それくらい私がやる!」


 沙悟浄が前に出て白蓮と八戒を守る体制に入る。


「喰らえやあ!!」


「効くかボケ!」


 武器を振ってきたタイミングで最小限の動きでかわし、顔面に拳を叩き込む。その衝撃で店の外へ吹っ飛ばされる。


「あぎゃあ?!!」


「この野郎!」


 棍棒が悟空の後頭部に直撃するが、棍棒の方が砕けた。


「な、何?!」


「悪いが俺の頭は岩より硬えぞ!」


 半回転して勢いを乗せた一撃を腹に入れる。


「ぐええ!?」


「まとめてかかれ!!」


 3人同時に攻撃を仕掛けて来る。悟空は立てかけていた如意棒を手に取り、凄まじい勢いで振り回す。振り回している如意棒を華麗に操り、相手の武器と顎に的確に当てる。


「うおお?!」「ひいい!?」「あべし?!」


 まともや吹っ飛ばされ、あっちこっちに倒れていく。


「おらあああああ!!」


 他の男達もなぎ倒し、店の外へ放り投げる。 


 全員倒した時には、他の客は全員逃げ出し、店内には数人の男が倒れていた。衝撃が全身に響き、まともに動けないでいた。


「くっそ、何て強さだ……!」


「はっ、この程度で俺に勝とうなんざ500年早いってーの」


「終わったか? 悟空」


 滅茶苦茶になった店内で、沙悟浄が2人を連れて奥から出てきた。


「ああ、ここからはお前の出番だ」


「任せろ」


 沙悟浄は指示を出していた男の目の前に立ち。尋問を始める。


「おい起きろ。私の質問に答えてもらうぞ」


「けっ、ガキに話す事なんかねえぞ」


「そうか、ではこの刃物のようになりたいか?」


 落ちていた短剣を拾い、片手で粉砕した。


「げえ?!」


「さあどうする? こうなりたくなければ答えて貰おう」


「ぐっ、わ、分かったよ……!」


 男は素直に喋りだした。


「俺達は頭の命令でその女をさらうよう言われたんだ。理由は知らねえ」


「その頭というのは?」


「取りまとめ役さ。そのおかげでまとまった行動を取れるようになったのさ」


「ふーん……」


「あ、あのー……」


 さらに奥から店主と思われる痩せた老体の男が出てきた。


「あん? 何かようか?」


「お店の中、弁償してもらいたいんですが」


「あ」


 店内にあった大机や椅子の大半が大破していた。



 ・・・・・



 店内の弁償を赤の闘牛団に押し付けて、悟空達は宿屋に戻ってくつろいでいた。


「赤の闘牛団か、ただのゴロツキの集まりが何で和尚様を狙ったんですかね?」


「俺が知るか。まあまた襲ってくるようならもう一度ぶっ飛ばすだけだがな」


「悟空兄さんらしいですね。俺はもう寝ますね」


「おう、お休み」


 八戒が寝たのを見計らって、蝋燭の火を消す。


「……小便にでも行くか」


 部屋を出て、厠に向かう。その途中、白蓮と沙悟浄の部屋の前を通る。


「白蓮様、もう脱いでも大丈夫ですよ」


「ありがとう沙悟浄。それじゃあお願いね」


「っ」


 足を止めて聞き耳を立てる。ゆっくりと近付いてよく聞こえるように距離を詰める。パラパラと布や包帯を外す音、着物を脱ぐ音が聞こえて来る。


「相変わらず大きいですね」


「そう? そんなに大きいのかな、私の胸?」


「ええ、そこいらの生娘より肌の張りもいいですし、とても綺麗ですよ」


「もう、そんなに褒めないでよ」


(うおおおおお!? 和尚さんまさかの裸か?!)


 心の中で舞い上がり、興奮し始めた。


「では背中を見せて下さい。薬を塗りますから」


「うん、お願い」


 木箱から取り出した軟膏薬を塗っていた。


「この怪我、もはや呪いの域ですから。おそらく一生……」


「うん、分かってる。そのせいで顔も出せなくなっちゃったんだけどね」


「っ……」


 白蓮の背中には、大きな傷跡があった。生々しく、肩から腰にかけて斜めに抉られたような傷だった。



 この傷を付けたのは、十数年前、(とう)の都に向かっていた、災厄(さいやく)凶星(きょうせい)黒龍(こくりゅう)』。


 目は殺意、体は死、鱗は病気、角は毒、爪は憎悪で出きている。吐いた息で草木は朽ち、触れた者は不治の病にかかり、噛まれた者は必ず死に至る。大妖怪達も避けた恐ろしい存在だ。

 


 当時は高名な僧や術師たちによって追い払えたが、多大な被害を出した。


 その時、白蓮は黒龍の一撃を背中に受けたのだ。その後遺症で体にはある『異常』が起きていた。



「もういいですよ、白蓮様」


「ありがとう、沙悟浄」


「…………」


 悟空はそのまま厠に行って、寝ることにした。



 ・・・・・



 翌朝。一行は買い出しすることに決めた。


「今日は足りない物資を補給するよ、そしたらもう一泊して明日旅を再開する。それでいいね?」


「あいよ、それじゃあ大通りに出るか」


 宿を出て、店の多い所を歩くことにした。しかし、しばらく歩いていると、店が殆どやっていなかった。


「あれ? 今日は祝日だっけ?」


「いえ、そんな雰囲気ではなかったような」


「ああ、そんな雰囲気じゃなくなったぜ」


 悟空の視線の先、正門から大勢の男達、御輿に乗った偉そうな男が入って来た。昨日吹っ飛ばした男達もいた。


「よお、お前ら。赤の闘牛団でいいのかな?」


「ああ、間違いなく赤の闘牛団だ」


 御輿に乗っていた男が目の前に降りてきた。八戒よりも図体がでかい大男だった。悟空の目の前に立ちはだかり、睨み合いを始めた。


「俺は頭をやっている『赤牛(あかうし)』だ。昨日は手下が世話になったな」


「いやなに、ちょっと遊び相手をしてやっただけさ」


「なるほど、じゃあそのお礼にいいものを見せやろう」


 指を鳴らすと、丸太に巻きつけられた若い女が立てられた。


「あん?」


「凛凛!!」


 建物の中から男が飛び出してきた。


「ぐははは! 今から俺に逆らった奴がどうなるか、ここで見せてやろう!」


「いやあ……、助けてえ……」


 よく見るとボロ布を着せられ、体中傷だらけだった。


「やれ!!」


「へい!」


 複数の男が鞭を取り出し、一斉に叩きだした。


「おらおらおらあ! 良い声で鳴きやがれ!!」


「いやあ!!」


「うわあああ! 止めてくれえええ!!」


「ぐははははは! 愉快愉快!」


「どけクソ豚」


 悟空は赤牛を除けて、集団に近付く。


「おっと! それ以上近付くとこっちの女が死ぬぜ!」


 集団の中から別の女が縛られた状態で引っ張り出された。首元には短剣が付きつけられている。


「クソ共が……!!」


 悟空の毛が一斉に逆立ち、眉間に青筋が浮かび上がる。


「や、止めてくれ! 娘の命が……!」


「その前に皆殺しにしてやる!!」


「ダメです悟空!」


 白蓮は大声を上げて止めに入る。


「絶対殺生をしてはなりません。それは仏の教えに反します!」


「じゃあ目の前のあれを黙って見るのも仏の教えか!」


 怒りの叫びが町中に響き渡る。町の人々は隙間からその様子を見る。


「我慢が仏なら俺はそんなもの投げ捨ててやる!」


「悟空兄さん、気持ちは分かるよ。でも、今暴れたらそいつらと一緒だ」


「八戒の言う通りだ。今は耐えろ」


 八戒も沙悟浄も悟空に冷静になるよう諭す。


「ぐははは、残念だったな。俺達を殺せなくて」


「……後で覚えてろよ」


「覚えておこう。さて、締めを見せてやることにしよう」


「ああ?」


 丸太の足元に藁を敷き詰め、松明に火を点けた。


「やれ」


 藁に火を点け、女性を焼き始めた。


「いやあああああ!!」


「うわああああ!! 凛凛!!」


「ちい!」


 悟空はなりふり構わず集団に突っ込んでいく。


「どけテメエら!!」


「近付くんじゃねえ! 殺すぞ!!」


「っ!」


 短剣が女の首元に再び近づけるのを見て、完全に突っ込む前に急停止し、集団の手前で足を止めた。


「恨むのなら俺に逆らったお前自身を恨むんだな!」


 腹が立つ笑い声を上げながら、女が焼けるのを見ていた。


「やっぱりテメエらまとめてぶっ殺す!!」


「唸れ、『雨坊主』!!」


 白蓮の言葉と共に濃い雨雲が空を覆い、大雨が降り始めた。まるで積乱雲から降ってくる激しい雨だった。その雨のおかげで、火は全て消えた。


「な、何だ?! 急に雨が!?」


「まずいですよ頭! このままじゃ……!」


「焦るな。どうだ孫悟空、取引をしないか?」


「何?」


「あの女子を見よ、足が焼けて火傷を負っている。あのままにすれば足を無くすのは必死だ」


「お前がやるよう言ったくせにな」


「もし助けたくば三蔵法師を差し出せ。そうすれば我々も素直に帰ろう。断るのであれば、あの女は足を無くすだろう」


「…………」


 悟空は迷った。もし助けたとしても白蓮を敵の手に渡すことになる。しかし、助けなければこの町の連中も敵に回すことになる。どちらを取っても得する事が無い。


「さあ後10数える前に決めろ。10……」


「悟空兄さん……!」


 大雨の中、悟空は答えを出せないでいた。


「9……、8……、7……」


「悟空……!」


 残り数が減っていく。それでもまだ答えない。


「3……、2……、1……!」


「分かりました! 私がそちらにいきましょう!」


 白蓮が前に出て申し出た。その行動に3人も驚きを隠せなかった。


「おい和尚さん!」


「私がそちらに行けば、その女性を解放してくれるのですね?」


「ああ、約束しよう」


「和尚様! 何言ってるんですか?!」


「大丈夫です。それよりも沙悟浄、あの人の治療をお願いします」


「白蓮様!」


「それでは連れていきなさい」 


「話の分かる奴は好きだぜ。その女を下ろせ」


 女は丸太から下ろされ、地面に放り出された。


「凛凛!」


 建物から男が飛び出し、女を抱きかかえる。


「さて行くぞ。根城の方も心配だ」


「待てよテメエ!!」


 悟空は引き返そうとするのを止めて、如意棒を構える。


「悟空……」


「話が分からん奴だ。このまま帰していれば良かったものを」


「いいから和尚さんを離せ! じゃねえと本気で……!」


「仏道外者 動緊箍児 戒律緊縛 金色頭痛……」


 白蓮が呪文を唱えると、悟空が途端に苦しみだした。


「があああああああああああああ!!?」


「『緊固児(きんこじ)』を使いました。殺生という考えが無くなるまで、しばらく頭を冷やしなさい」


「ま、待ちやがれ……!」


「手間が省けたな、いくぞ」


 御輿と男達は町を出ていった。残されたのは、地面を転がる悟空とそれを見届けるしか出来なかった猪八戒と沙悟浄だけだった。



 ・・・・・


 

 3人は彼女の治療を行うために、近くの民家にいた。


 治療は沙悟浄の専門分野で、八戒と悟空はただ傍にいることしかできなかった。


「……これでいいだろう。とりあえず処置は完了した」


「やりましたね、沙悟浄姉さん」


「ああ、……ところで、お前はいいのか悟空」


「……何がだ」


「緊固児の後遺症だ。しばらく痛みが続くんだろ?」


「どうってことねえよ」


 3人の間に重苦しい空気が立ち込める。


「そ、そうだ! 何か食べる物買ってきますね!」


 その空気に耐えかねた八戒は理由を付けて飛び出していった。


「……お前知ってたのか、和尚さんの傷」


「……その様子だと知っているようだな」


「ああ、お前達が仲間に加わる前にな」


「そうか、……あの傷はただの怪我じゃない。あれは……」


「分かってるさそんなの。俺もそこまで馬鹿じゃない」


 沙悟浄は悟空の言動から大体のことを察した。


「うう……」


 治療した女の子が目を覚ました。


「大丈夫か?」


「ここは……?」


「お前の家だ。怪我はこいつが治した」


「助けてくれたの……?」


「怪我は治療したが、助けたのは私達じゃない」


「え……?」


 その時、ドタドタと外から物音がした。


「た、大変だあ!!」


 八戒が大慌てで入って来た。


「うるさいぞ八戒。怪我人がいるんだから静かにしろ」


「それよりも大変なんだ! 家の前に町の人達が集まってる!」


「何?」


 悟空が窓から外の様子を見る。玄関の前に大勢の人が詰めかけていた。


「あの馬鹿を出せ! あいつらのせいでうちの妻が殺されるかもしれないんだぞ!」


「あんな連中がいたらまた町の女が酷い目に会うぞ!」


「そうだそうだ! あいつらは疫病神だ!」


「この町から追い出せ!!」


 町人から怒号が飛び交い、大騒ぎになっていた。


「これはまあ沢山集まったな」


「どうします悟空兄さん? このままじゃ外に出られませんよ」


「しかし都合のいい連中だ。奴らが怖くて隠れていたと思えば、今度は文句を言いに飛び出してきた。鬼の居ぬ間に洗濯とはよく言ったものだな」


「それは、奴らに口封じされてたからです」


 女の子は上体を起こして話しかけてきた。


「おい、まだ寝ていろ。傷にさわる」


「いえ、話させてください。私の名前は凛凛と言います。まずは、助けて下さりありがとうございました」


 彼女はこの町で起きていることを話し始めた。


「数年前まで、この町は平和な所でした。商売や農業で形成を立て、裕福でもありませんでしたが、貧乏でもありませんでした。しかし、彼らが町にやって来てからは暮らしが一変しました。若い男を何人も殺し、畑を奪い、私の様な若い女を根城に攫っていきました」


 苦しい表情で話を続ける。


「そのせいで私の母さんは慰め物にされた挙句、使い物にならなくなったからと言って、火炙りで殺されたんです。町の全員に見せて反抗心をへし折り、もし反抗するなら他の人の女を痛み付けて抵抗できなくさせるんです。とても卑劣なやり方です」


「やっぱりクソ野郎だったわけか」


 悟空は舌打ちをして、胸糞悪い感情を露わにした。


「でも何で町の様子は普通だったんです? そんな事があれば嫌でも雰囲気が暗くなるだろうし」


「あの赤牛という男が、この町にお触れを出したからです。貢ぎ物をするとか、よそから来た者には悟られないようにするとか、女を連れた旅人が入って来たら必ず伝えることとか……」


「なるほど、それで今みたいに極端な状態に陥ってるわけか」


「すれ違いに会った商人には何一つ危害を加えていないように見えたぞ。あれはどういうことだ?」


「それは、都からの交易の遮断を恐れていたからだと思います。万が一交易が止まれば、町の蓄えが減り、自分たちへの貢ぎ物も減るからだと思います」


「あの野郎、意外と頭が切れるようだな」


「今捕まってる女達は?」


「私以外にも、10人以上がまだ捕まっています。そこであいつらから酷い仕打ちを受けています。毎日のように鞭や拳で叩かれたり、慰め物にされたりと……」


「……凛凛よ、お前ももう……」


 悟空が彼女に問いかけたが、言葉にしたくないという返しだった。おそらく彼女も同じ目に合わされていたのだろう。


「奴らの根城がどこか分かるか?」


「正門から出て真っ直ぐ行った岩山の裏に洞窟があります。その奥に赤の闘牛団が作った根城があります」


「そうか、なら行先は決まったな」


 悟空は如意棒を持って立ち上がり、荷造りをする。


「え? ま、まさか……!?」


 八戒は悟空の考えを予想して青ざめた。


「場所が分かったなら乗り込むしかねえだろ」


「ひいいいいい!? やっぱりいいい!!」


 とんでもない悪党の話を聞いて、完全に戦意が委縮してしまっていた。だが、悟空は突撃する気満々だった。


「白蓮様は来るなとおっしゃっていたぞ。それでも行くのか?」


「それでも助けに行く。あの人には言わなきゃならないことがある」


「そうか、なら私も行こう」


 沙悟浄も出発の準備を始める。白蓮の持っていた木箱と杖も持っていく。


「珍しい事に私も同意見だ。派手に行くぞ」


「こういう時だけ気が合うな、沙悟浄」


「利害の一致だ。孫悟空」


「言ってくれる」


 フッと笑い合い、お互いの意思の確認をした。


「八戒は別に来なくてもいいぞ、俺達の勝手だからな」


「そうだな、飯の確保でもしといてくれ」


「そ、そんなあ……!」


 腰が引けた状態で使い物にならないと判断して、2人は八戒を置いていくことにした。


「お願いします。皆を、この町の皆を、救って下さい! どうか、お願いします!!」


 凛凛は深く頭を下げて懇願した。


「もう、あんな日々は過ごしたくありません。どうか、お願いします……」


「私からもお願いします。旅のお方」


 奥から男が1人現れた。さっき凛凛に駆け寄った男だ。


「お父さん……」


「お話しは全て聞かせて頂きました。巻き込んだことは謝ります。身勝手なのも承知の上です。ですが、どうか、この町を救ってください。……お願いします!」


 男もまた、深く頭を下げて懇願した。


 頭を下げた2人の目には大粒の涙が溢れていた。今までの苦しみと辛さが伝わってくる熱い涙だ。


「っ!!!!!」


 それを見た八戒の中で、熱い感情が沸き上がった。


「そうだよ、そういう目に会わされて涙を流さないはずがないよ。そうだ、まだ涙を流している人が沢山いるんだ。この近くで……!」


 ブツブツ言いながら八戒も立ち上がり、杖を手に取って強く握りしめた。


「悟空兄さん、沙悟浄姉さん。俺も行くよ」


「そう言うと思ったぜ」


「お前はいつも最後だな、八戒」


「ごめん、でも2人の涙を見て思ったんだ。俺戦うよ。どんなに怖くても、痛みと苦しみで罪の無い人達に涙を流させる連中を絶対に許すわけにはいかない!!」


 八戒の表情に怒りが見えた。そして、強い決意も垣間見えた。


「いい顔になったな。それじゃあ行くぜ!」


「おう!」「ああ!」


 3人は正面から外に出た。まだ怒りをあらわにした大勢の町人が待ち構えていた。


「やっと出てきたな!」


「さっさとこの町から出ていけ!」


「そうだ! 出ていけ!!」


「二度とここへ来るな!!」


 罵声を浴びながらも、表情一つ変えず進んでいく。人の群れは端に避け、正門以外の道を封鎖した。


「いいね、分かり易い道案内だ」


「さっさと行こう。無駄な体力は消費したくないからな」


 3人は正門を出て、根城がある岩山を目指して歩いていく。



 ・・・・・



 敵に連れていかれた白蓮は、赤の闘牛団の洞窟の中にいた。洞窟内はアリの巣のようになっており、至る所に部屋があった。


「付いてこい」


 縄で縛られ無理矢理奥の部屋へ連れていかれる。途中、女の悲鳴が聞こえた。


「お前もあんな風に良い声を上げてくれよ? ひひ!」


「………………」


 汚い笑みを浮かべながら、白蓮を視線で舐め回す。


「入れ」


 牢屋と思われる部屋に入れられる。ただ岩を削って作られた場所のため、部屋と言うにはあまりにもぞんざいだった。


「居心地はどうかな? 三蔵法師」


 赤牛がニヤニヤと白蓮に話しかける。


「お世辞にも良いとは言えませんね」


「そうかそうか、だが安心しろ。そんなことすら気にしてられなくなるからな」


「……ところで、どうして私の名を?」


「なに、ここらでも有名なだけだ。それに、ある噂もあるからな」


「………………」


 赤牛がただ連れてきたわけではないとすぐに分かった。油断しないよう警戒し続ける。


「頭、確認してきやしたが、どれも問題無しです」


「そうか、では早速調教を始めろ」


「へい!」


「それでは三蔵法師、また後で会おう。ぐははははは!」


 赤牛は別の場所へ歩いていった。残ったのは、白蓮と赤牛の手下2人だけだった。


「さて、それじゃあおっぱじめるか」


「おうよ」


 牢屋の中に入り、白蓮に詰め寄っていく。


「運が良かったぜ。今回俺達がこの女の処女を奪えるんだからなあ」


「おい、前を取るのは俺だからな」


「分かってるって」


 いやらしい手つきで徐々に距離を詰めていく。


「まずはその顔、拝ませてもらおうか」


 白蓮の顔布を奪い取る。


「なっ?!」


「こいつは……!?」


 白蓮の顔には、綺麗な緑色の目、紺色に近い青い髪、そして何より特徴的だったのは、


「何だ、その痣は!?」

 肌の色が褐色で、蠢く痣があったことだ。


 顔だけではなく、首から下も痣が広がり、全身を蝕まれているようだった。


「驚いた。こいつ、『瘴気』を喰らったのか?」


「瘴気?」


「ああ、強力な妖怪に怪我させられると、その妖怪が放つ瘴気ってやつに浸食されて体がおかしくなるって話だ」


「つーことはよ、三蔵法師は……」


「昔妖怪に襲われてるってことだ」


 白蓮の眉がひくりと動く。


「まあ痣があろうがなかろうが関係ねえけどな」


「それもそうだな、それじゃあ早速……」


 こっちに向き直り、また距離を詰めて来る。白蓮はその2人に向かって息を吹いた。


「あん? そんなんで俺達が引き下がると思ったのか?」


「三蔵法師って意外と馬鹿だな! ぎゃははははげえほ!?」


 片方の男が急に咳き込んだ。何か喉に詰まらせたような嫌な咳だ。


「げえほ! げえ! げほげほ!!?」


「おい、こっちに向けるなよ! 風邪でも引いたのか?!」


「うええ、そ、そうかもしれねえな、喉が痛い……」


「雨に当たって体調崩したのか? 弱い奴だな」


「ううう……!」


 顔色が悪くなり、どんどん調子が悪くなっていくのが分かる。


「さ、寒い!? 寒いいいい!?」


「完全に風邪じゃねえか!? お前もう部屋に戻って寝てろ!」


「うう、おう、げほげほ」


 辛そうに檻から出ていった。フラフラと壁にもたれかかりながら、歩を進めていく。


「これで俺一人か、まあ独り占めできるなら大歓迎だがよ」


 手をワキワキと動かしながら再び距離を詰めていく。


「……うん?」


 だが、足元がふらついて上手く歩くことができない。目の前の光景も朦朧として、具合が悪くなってくる。


「ち、ちくしょう、俺も風邪を引いたのか……?」


 息が上がり、体温が急激に下がるのを感じた。さっきのとは別の形の風邪だ。


「く、くっそ! 治ったら覚悟しておけ!」


 牢屋から出ていき、鍵を閉めてから去って行った。


「ふう……」


 白蓮はとりあえず危機を脱した。緊張が解けたせいで、力が抜ける。



 赤の闘牛団の配下を追い払った力は、『瘴気』によるものだ。

 

 『瘴気』は呼気の中に充満させることができ、これのおかげで外敵から身を守れるが、これのせいで無関係の人に息を当てられない。いつも前掛けをしているのはそのためだ。 


「……皆、大丈夫かな……?」


 あの状況を一時的にでも収める必要があった。そのために悟空を強烈な痛みを与える緊固児で抑えたり、八戒と沙悟浄に何も伝えず飛び出してしまった。あの後どうなったのか、その事が心配だった。


「……嫌われちゃっても、仕方ないかな」


 その場で座り込み、俯く。仲間を裏切ってまであのような行為をした本当の意味に気付けているのだろうか、それも相まって、不安になっていた。


「……悟空……」



 ・・・・・



 外は雨が止んで綺麗な星空が広がっていた。岩山はまだ雨で濡れた跡が残っている。


「あれがあいつらの隠れ家か」


 その一つ、赤の闘牛団が隠れ家として使っている岩山に、悟空達は遠くから様子を伺っていた。


「で、何か作戦でもあるんですか? 悟空兄さん」


「いや、何も」


「え」


 八戒はその無計画っぷりに内心ガッカリした。いつものことだが。


「相変わらずだな、脳筋猿。もう少し考えろ」


「うるせえ、それよりも助ける方が先だ。あの中で暴れまくってあいつら全員とっちめてやりゃあいい話だ」


「それは甘いだろうな、さっきみたいに人質を取られては敵わない」


「沙悟浄姉さんの言う通りだよ。それに見張りもあっちこっちにいるし……」


 入口と思われる穴がいくつもあるが、その全てに見張りが付いている。


「一人倒しても他の連中が気付いてダメか、やりづらい」


「そうですよね、……うん?」


 八戒があることに気付いた。


「兄さん、姉さん、あれ」


 指差した方向に、岩山には生えないはずの大量の草が一か所だけびっしりと生えていた。


「何だありゃ? 岩山に雑草が生えてるのか?」


「八戒、何の草か分かるか?」


「うーん、ちょっと待って下さい」


 八戒は鼻でスンスンと臭いを嗅いだ。八戒の嗅覚は犬の何十倍もあり、微かな臭いでも嗅ぎ取ることができる。


「……この臭い、ケシだ!」


「けし? 何だそりゃ?」


「アヘンの原料だ。アヘンには一時的な鎮痛効果、恍惚感、多幸感を与える作用があるが、副作用で強い中毒性と精神汚染がある。都では高額な取引がおこなわれている代物だ」


「てことは、あいつら金儲けしようとしているのか?」


「多分な、商人を言いくるめれたのも、あれのおかげだろう」


「意外と頭の回る連中だな」


 このまま行っても返り討ちに合うと判断し、3人は一度作戦を立てることにした。


「本当にどうします? あれじゃあ簡単に突破できませんよ?」


「俺に言うなよ、だがモタモタしてられねえのも確かだ。そういう訳だから沙悟浄、何か作戦あるか?」


 呆れた溜息をつきながら、沙悟浄は口を開く。


「……一応思いついてはいる」


「なら話は早いな。さっさと教えてくれ」


「だがこの作戦には一つ問題がある。それは八戒、お前だ」


 八戒に指差して指摘する。


「え? 俺?」


「そうだ、お前に覚悟があるかどうかで、この作戦の結果が決まる」


「俺の、覚悟……」


 唇を閉めて、拳を握る。


「……覚悟はできてます。それは町を出た時から変わっていません。多少の無茶でも頑張ります」


「その言葉を待っていた。それでは作戦の内容を伝える。耳を貸せ」


 2人は沙悟浄に身を寄せて作戦を聴いた。



 ・・・・・



 赤の闘牛団の下っ端達は、いつもの様に見回りをしていた。


「ふああ、眠い……」


 深夜の見回りだと眠気が酷く、度々欠伸が出る。


「おい、あんまり大きい声で欠伸するなよ。俺達まで怒られる」


「ああ、すまねえ」


 その時、いきなり強風が吹き荒れた。その威力はかなりのものだった。


「うわ?! 何だ何だ!?」


「と、突風か?!」


 風はすぐに止み、静かな夜が戻ってきた。


「何だったんだ、今の?」


「随分急だったな、ってありゃ?」


「どうした?」


「いや、何か上から変な音が……」


 耳を澄ませてみると、何かが転がってくる音が聞こえてくる。


「お、おいもしかして」


「……まさか……」


 ゆっくり後ろを振り返ると、大きな岩がいくつも転がり落ちてきていたのだ。


「「うぎゃあああああああああああ!!!?」」


 大慌てでその場から逃げ出し、何とか岩の直撃だけは回避した。


「ひい、ひい、ひい。さっきの突風でバランスでも崩したのか……?」


「と、とにかく生きてられたから良しとしよう」


 2人の見回りは、急な出来事でへたり込んでしまった。


「他の連中も心配だ。見て来よう」


 持ち場を離れて、他の見回りの様子を見に行った。その近くの入り口に侵入されたことも知らずに。



 ・・・・・



「上手くいったな」


「ああ、成功だ」


 悟空と沙悟浄は、洞窟の中にいた。


 どうやって侵入したのかというと、まず悟空が『分身の術』で適当に分身。先ほど転がり落ちた岩は悟空が得意とする『変化の術』で化けた悟空の分身達と本体だ。沙悟浄と猪八戒は、悟空の変化した岩に張り付いていたのだ。転がり落ちている間に、見回りが避けて視界が出入り口の穴から遠ざかったのを見計らって悟空本体と沙悟浄は洞窟の中に飛び込んで侵入したのだ。


「八戒は上手くやってくれるかねえ?」


「多分大丈夫だろう。お前の分身がへまをしなければな」


「それどういう意味だ?」


 しばらく中を探索したが、迷路のようになっていて、現在地が分からない。


「まあ簡単にはいかねえか」


「仕方ない。悟空、音をたてるなよ」


「分かってる」


 沙悟浄は持っている杖で壁を叩き、周囲に振動を伝えた。


 沙悟浄は『波』と『流れ』を操ることに長けている。今やっているのは、音を全体に反射させて洞窟内の構造を把握する作業だ。反射具合で壁、空洞、人の位置を割り出し、どこにあるのかを確定させる。


「……見つけた。あっちの方だ」


「おっし、行くか!」


 2人は急いで白蓮の元に向かった。



 ・・・・・



 一方、八戒は悟空の分身と一緒に岩山の中腹にいた。


「さて、こっちも始めるかな」


 数刻待って中から特に騒ぎが無い場合は、八戒に言い渡された作戦を行う手はずになっている。八戒は持っている杖を横に持ち、槍のように突き出す。


「悟空兄さん達、行きますよ!」


 山を駆け上がっていくのを見て、後ろに控えていた悟空の分身達は一斉に立ち上がり、その後を追いかける。その先には、さっき見つけたケシの畑があった。隠れて見えていなかったが、畑は一か所だけでは留まらず、何か所にも点々としていた。さっきの偽の落石で避難したのか、見回りはいなかった。


「あっちこっちに生えてるみたいですね、ならば!」


 杖を大きく回しながら、目の前で構える。


「荒れろ! 燃えろ! 炎嵐流鈀(えんらんりゅうは)神鉄(しんてつ)》!!」


 その杖の名を叫ぶと、杖は怪しい赤い光を放った。槍を突き出す構えに戻し、勢い良く跳躍したの同時に、目標の畑にしっかりと向ける。


「『炎流砲(えんりゅうほう)蛇炎放射(じゃえんほうしゃ)』!!」


 杖の先端から炎が放たれ、ケシの畑1つを一瞬にして燃やし尽くす。


「俺達も行くぞ!!」


「「「「「おおーーー!!」」」」」


 大勢いる悟空の分身達も一斉に畑を荒らしまくる。根元から引っこ抜いて引きちぎったり、徹底的に踏みつぶしていく。


「このまま全部ダメにして一泡吹かしてやりましょう!」


「「「「「おおーーーーー!!!」」」」」


 大勢で騒ぎながら、畑は壊滅の一途を辿っていった。



 ・・・・・



「どけえ!!」


「ぐぎゃあ!?」


 悟空達は全速力で白蓮が捕らえれている場所へ直行していた。その途中、目が合った手下達を一撃で気絶させていた。


「後どれくらいだ?!」


「そこを曲がって真っ直ぐだ。……っ」


 沙悟浄は足を止めて振り向いた。


「どうした?」


「大人数でこっちに向かって来てる。おそらく倒した手下が見つかったんだろう」


「なら相手しねえとな」


「お前は白蓮様を助けに行け」


「……どういう風の吹きまわしだ?」


 悟空はいつもなら言わなそうな台詞を言った沙悟浄に引っ掛かるものを感じた。


「なに、お前が一番言いたげだったからな。今回は譲ってやる」


「……へ、そうかい。なら町に入る前に言った事はチャラにしてやるよ」


「まだ根に持っていたのか……」


「当たり前だ。じゃあ先に行ってるぜ」


 悟空は奥へ走って行った。沙悟浄はそれを見送らず、向かってくる敵に対峙する準備をする。


「全く、あいつという奴は……」


 持っている半月刃がある杖を握り直す。そして、敵の大群が集まった。


「まさか侵入されているとはな、見回りはなにやってんだ」


「相手はガキ一人だ! 構うことはねえ!」


「死にさらせやあ!!」


 手下達は一斉に沙悟浄に襲い掛かる。


(うな)れ、穿(うが)て、降妖宝杖(こうようほうじょう)三日月(みかづき)》……!」


 杖の名を語り、その本領を発揮する。杖は均等な長さに分裂し、中に入っている鎖が繋ぎになっている状態、関節棒となっていた。それを勢い良く振り回し、まるで鞭の様に操り、敵に当てていく。さらに、力の波と流れの操作を駆使して、威力を倍増させる。


「『波動戦法(はどうせんぽう)手甲当(てっこうあ)て』」


 棒部分だけを直撃させ、壁や天井にブチ当てていく。その威力は相当なもので、体の半分が岩にめり込んでいる。ほぼ全員に直撃し、戦闘不能になっていた。


「どうした。かかってこい」


 沙悟浄は杖を余裕綽々で振り回す。まるで生きた大蛇のようにも見えた。


「来ないならこちらから行く!!」


 

 ・・・・・



「……ん?」


 少し横になっていた白蓮は、何か騒がしいことに気付いた。


「何だろう……?」


 気になって外の様子を見る。その直後、


「うぎゃあああ!?」


 遠くから男が1人飛んできた。飛んできたというよりは、吹っ飛ばされてきたと言った方が適格な表現かもしれない。


「和尚さん! どこだー!!」


 大声で白蓮を呼ぶ声が聞こえた。すると、悟空が走ってきたのだ。


「! 悟空?!」


「おお、本当にいた。探したぜ、和尚さん。今ここから出してやるからちょっと離れてろ」


「……本当に、来たのですね」


「悪いな、あんたが思ってるほど俺は良い子じゃないぜ。あんたが来るなと言ったら来ちまうんだからよ」


「……知っています。この馬鹿弟子め」


「そりゃどうも」


 お互いに口で笑いながら、見えない大切な何かを確認し合った。


 如意棒を全力で振りかざし、檻の柵を一撃で破壊する。大きな音が響き渡り、鉄で出来た柵はめちゃくちゃに曲がっていた。


「そら、行くぞ。みんな待ってる」


「はい!」


 悟空に手を引っ張られて、檻の外へ出ていく。そのままその場から離れようとした時、


「待って悟空。まだここでやることがあるの」


「?」



 ・・・・・



「せいやあああああ!!」


「ぐあああああ?!」


 沙悟浄は三日月を華麗に使いこなし、次々と赤の闘牛団の手下達を倒していく。30人あまりいたが、残りの人数は後5人。


「さて、残りはお前達か」


「ひいい?!」


 沙悟浄の足元に死屍累々となった同僚の姿を見て、完全に怖気づいていた。


「戦う気が無いなら去れ。さもなくば……」


 ゆっくりと体制を整え、殺意を鋭く突き刺していく。


「ひいい!?」


「慌てるんじゃあねえ」


 奥の方から大男が現れた。身長は手下の2倍位、横にも大きかった。手には鎖がついた鉄球を持っていた。


「『黒牛』さん!」


「お前らは下がってろ。俺が倒す」


「そう簡単にいくとでも?」


 分裂していた三日月を元に戻し構え直す。


「調子に乗るなよクソガキ。ちょっと棒術ができるからって図に乗ってると痛い目みるぜ?」


「ほざけ」


 沙悟浄が三日月を分裂させて鞭の様に操る。


「『波動戦法・大蛇特攻(だいじゃとっこう)』!」


 まるで蛇の様に曲がりながら黒牛の喉元に伸びていく。しかし、


「甘い!」


 持っていた鎖付きの鉄球を振り回す。三日月が鎖に絡まり、攻撃が届かなかった。


「これでお前の得意な棒術は使えねえ! このまま引き寄せて滅多打ちにしてやるぜ!」


 鎖に巻き付いた三日月を掴んで沙悟浄を引き寄せる。


「この……!」


 何とか絡まった三日月を外そうとするが、複雑に絡まっていて上手く外せない。


「無駄だ無駄だ! これでお前もおしまいだ!」


 沙悟浄と黒牛の距離は既にお互いの手が届くまで縮まっていた。


「死ねえクソガキ!」


 腕を大きく振り上げて、沙悟浄に殴りかかる。


「かかった」


「あ?」


 三日月を手から離し、一歩後ろに下がる。振り下ろした腕は空を切った。


「馬鹿が! 武器を手放したらお前は丸腰だぜ?!」


「間抜けが、もう私の攻撃は既に完了している」


 三日月がひとりでに動き出し、黒牛を巻き上げていく。


「な、何だ?!」


「『波動戦法・蜷局捕縛(とぐろほばく)』。お前の力を伝達させて三日月を動かさせてもらった」


 巻き上げられた黒牛は完全に手も足も出せない状態になっていた。


「ち、ちくしょお! はずれねえ!?」


「そしてトドメだ。『三日月重量開放』!!」


 直後、三日月が急激に重くなり、黒牛を床に叩き付ける。凄まじい勢いで倒れ込み、地面に大きなくぼみができるほどだった。


「ぐぎゃあああ?!」


「三日月の本来の重さは5048(きん)、巨大な岩3個分の重さだ。まあそんな重量担いだら確実に死ぬがな」


 グシャリ、と肉と骨が潰れる音が響き渡り、黒牛は血と泡を吹きながら気絶した。


「気絶したか、加減しといたから死ねないだけ感謝して欲しいところがな」


「こ、この野郎! 俺達が相手だ!」


 懐から剣を抜き、沙悟浄に向ける。


「止めておけ、私には勝てない」


「武器の無いお前になら勝てる!」


「おう! あんな物騒な武器がなけりゃ俺達が有利だ!」


 沙悟浄との距離を詰めていき、切りかかるタイミングを計る。


「馬鹿だな貴様ら」


 沙悟浄が床を拳で叩く。


 叩いた瞬間、一瞬もしないうちに床と壁に亀裂が入る。それも相当深い亀裂だ。


「まさか私があの重量を振り回せないとでも思っているのか?」


「ま、まさか」


「そうだ、私は片手であの三日月を振り回す事ができる。いとも簡単にな」


 ゆっくりと手下達に近付いていく。


「失せろ。さもなくば命は無いぞ」


「うわあああああ!!」


 一斉に逃げ出し、洞窟の奥へと消えていった。


「ふん、雑魚め」


 足元に倒れている黒牛から三日月を回収し、逆方向に歩いていく。


「白蓮様は無事だと思うが、あの猿、妙に遅いな。何をもたついている」


 ブツブツと小言を言いながら進んでいくのだった。



 ・・・・・



 一方、八戒はケシの畑を全て焼き払い終えていた。悟空の分身は時間切れで消滅した。


「ふう、これで畑は全滅だな」


 一息ついていると、後ろの方から大勢の人間が集まってきた。


「おい見ろ! 畑が全部燃えちまってる!」


「何てこった! これじゃあ収穫できねえ!」


「あいつだ! あいつがやったに違いねえ!」


 武器を取り出し、八戒に近付いていく。


「てめえよくもやってくれたな!」


「ぶっ殺してやる!」


「え、あ、ちょっと」


「やっちまえ!」


 大勢で八戒に襲いかかる。さすがに数が多すぎるので、


「逃げろおおおおお!?」


 大慌てでその場から逃げ出す。追いかけっこをする形で八戒を追いかけ回す。


「ひえええええ!?」


「追え! 追ええええええ!」


「そっちに行ったぞ!」


 逃げ道が無くなり、徐々に追い込まれていく。周囲に赤の闘牛団の手下達が集まり、完全に逃げ道を塞がれた。


「もう逃げられねえぞ」


「覚悟しろよこのひょろなが野郎」


 ジリジリと距離を詰めていき、万事休すの状態になっていた。しかも、山の中腹当たりなので大声を出しても助けは来ない。


「ま、まずい……!」


「待ちなお前達!」


 人の束からゆっくりと背の高いほっそりとした人間が現れた。手には1m以上ある剣を持っている。


「俺の名は『白牛』! よくも私の育て畑を全焼させてくれたな! その首切り落としてくれる!」


 地盤の悪い場所にも関わらず、猛スピードで距離を詰める。八戒も咄嗟に反応するが、紙一重で防ぐのが精一杯だった。


「どうしたどうした!? そんなものか?!」


「くう……!」


 剣捌きはとても素早く、切り返しも早い。全く隙を見つけられない。


(どうにかしないと! でもあの技は……!)


「ふん!」


「ぐえ?!」


 打開策を考えていた時に、腹に蹴りを入れられる。威力が高かったため、二三歩後退し、膝を付いてしまう。


「さすが白牛さんだ! やっぱり強え!」


「そのまま殺しちまえ!」


「慌てるな。しかし、女ではないのが惜しいな、これだけ集まったからにはこいつらの慰め者にできたものを」


 ピクッ、と、八戒が反応する。


「あの村の女は良品ぞろいだったよ、実に犯しがいがある。それに、アヘンの実験にも役に立った。まあ、何人かしばらくして亡くなったがね」


 白牛は自慢するかのように語りだした。


「あの村の依頼で来たなら諦めるんだな。報復としてここの女達もすぐに犯して殺してやるか。絶望して死んでいく顔はさぞ面白いだろうな」


 周りにいた連中はその話を聞いて汚い笑い声を上げる。まるで心の底から笑っているかのように。


 その瞬間、ブチっ、と、八戒の中で何かが切れた。


「あんまり調子に乗るなよ、このクズ野郎」


「うん?」


 神鉄の先を白牛に向ける。


「『嵐流砲(らんりゅうほう)・突き傘』」


 直後、白牛が数m先の岩山の側面に吹っ飛ばされた。ぶつかった部分には大きなへこみができ、全身からベキベキと折れる音と潰れる音が響き、いたる箇所から血が噴き出す。


「げ、が?」


「力を抑えないと殺生してしまうかと不安に思っていたが、もうそんなの関係無いな……」


 怒りの表情を露わにしながらゆっくりと立ち上がる。全身には血管が浮き出していた。


「和尚様には悪いけど、殺生の心配は無しだ。全員地獄に送ってやるよ!!」


 神鉄を振り回し、地面に突きたてた。


「『炎流砲・爆風円陣(ばくふうえんじん)』!!」


 突きたてた場所を中心に地中から炎が噴き出した。周囲を囲んでいた手下達は炎による爆発によって吹き飛ばされる。


「ぎゃああああああ!?」


「ぐあああああ!!?」


 次々に爆発する地面に対応できずあっという間に全員が地面に転がった。火傷を負って苦しんでいるため、死んではいなかった。


「殺生はしなかったからまあいいだろう。和尚様には怒られるだろうけど……」


 役目を終えた八戒は他の2人が気になり、中に入って行った。



 ・・・・・


  


「ええい何をやっている! とっとと侵入者を片付けんか!!」


 赤牛は二刻経っても排除できないことにいら立っていた。女を抱いている最中に部下から報告を受け、急いで広間に出向き、状況を把握していた。広間では多くの部下が出入りし、てんやわんやになっていた。


 この洞窟は元々炭鉱で、あっちこっちに穴が空いている場所だった。赤牛はそれを利用して根城にした。簡単に侵入されないように穴を増やし、迷路のように仕立て上げた。道順は自身と部下にしか分からないようにしてあるため、侵入されても簡単に背後を取れるようにもなっている。それなのに、


「頭大変だ! 迎撃に行った連中が全滅した!」


「黒牛と白牛はどうした!?」


「そ、それが、黒牛様がガキ見たいな奴にやられたらしくて……」


「何だと?!」


 部下の1人が慌てて広間に入ってきた。


「頭! 外の畑も滅茶苦茶にされちまった! それに、白牛様も……!」


「な!?」


 余りの事態の悪化に戸惑いを隠せなかった。そして戸惑いの後から怒りの感情が湧いてきた。


「いい加減にしろ! たかだか数人の雑魚に……!!」


「誰が雑魚だって?」


 広間の出入口に視線が集まる。そこには4人の影があった。悟空、八戒、悟浄、白蓮の姿がそこにはあった。


「誰だ貴様ら?!」


「おいおい、つい昨日会ったばかりだろうが。赤牛様よ」


「っ、あの時の猿か!」


 悟空達は武器を構えて戦闘態勢に入る。白蓮はその後ろで杖を地面に立てた。


「我が名は三蔵法師と代わりし者、白蓮禅師。赤牛よ、今ここで罪を認めて報いる気はありませんか?」


「あぁ? 何言ってんだ? そんなのある訳ねえだろ。悪いなんて思ってないんだからなあ」


 赤牛は怒りながらも答える。


「自分の利益のために他人を蹴落とすのは当たり前だろうが! 弱い奴を喰らって何が悪い?! それがこの世の理だろうが!!」


「いいえ違います。赤牛、欲があるのは皆同じです。あなたはその欲に執着し、周りが見えなくなっているのです。人や妖怪は決して一人では生きてはいけません。周囲に生かされているのです。今からでも遅くはありません、今までの行いを悔い改めればきっとお釈迦様もお許しになります」


「訳の分からねえ事をごちゃごちゃ言ってんじゃねえ! お前らやっちまえ!」


 赤牛が命令を下すと広間にいた部下達が一斉に襲い掛かる。その数は50人を優に超えている。


「やっぱダメだったな。和尚さん」


「……仕方ありません。3人共、お願いします」


「しゃあ! 総仕上げだ! 行くぞお前ら!!」


「「応ッ!!!」」


 それを合図に沙悟浄と悟空が突っ込む。八戒は白蓮の傍で杖を構える。


「オラオラオラァ!!!」


 自らの得意武器『如意棒』を振り回し敵を次々に薙ぎ倒していく。それはまるで竜巻の様な荒々しさだった。


「どうした?! こんなもんかあ!!」


「クソ!! 舐めんじゃねえ!!」


 如意棒を掴み動きを封じる。


「今だ! やっちまえ!」


 それを見て好機と思った連中が一気に襲い掛かる。


「まあ普通これが一番妥当だな、だが」


 悟空は掴んでいる人間ごと振り回し、襲い掛かってきた敵を横払いで一蹴する。


「おおおおおらあああ!!!!!」


 そのまま壁に叩き付け、骨が折れる音を響かせながら崩れ落ちる。


「な、なんて馬鹿力だ……」


「猿妖怪舐めんなよ!」



 ・・・・・



 沙悟浄は三日月を鞭のように振り回し、あっという間に十数人を戦闘不能にする。


「さあ、次はどいつだ?」


「このガキ……! ぶっ殺してやる!!」


 数人が囲んで凶器を突き立てて突っ込んでくるが、沙悟浄相手には悪手だった。


 沙悟浄は軽々と跳躍し、全ての攻撃を回避する。武器同士がぶつかり一点に固まった場所に沙悟浄は片足で乗って見せた。武器を持っている当人達は全く重さを感じていない。


「んな……?!」


「余所見をしている暇はないぞ」


 三日月が関節で分かれ、鞭の様に変形する。


「『波動戦法・蓮華ノ舞(れんげのまい)』!!」


 振る度に不規則な動きで手下どもの頭を叩き、次々と気絶させていく。攻撃が終わった頃には、囲んでいた手下全員が地面に沈んでいた。


「他愛なし」


 三日月を元の形状に戻し、残りの手下も倒していく。



 ・・・・・


「うひいいいい!!!?」

 

 八戒は手下数人を相手に鈀を振り回す。


「こんなヒョロガリ大したことねえ!! 一斉にやるぞ!!」


 手下達が一斉に襲い掛かる。


(これはマズイ……!!)


「八戒! 頑張って!」


 白蓮の応援が聞こえた途端、八戒の表情が切り替わる。


「ぬん!!」


 鈀をかざし、光が放たれた。


「うお?! 眩し!!?」


 次の瞬間、光源から襲い掛かってきた手下に向かって無数の光の砲弾降り注いだ。


「『炎龍砲・乱れ打ち』!!」


 光の砲弾を喰らった手下達はそのまま白目をむいて倒れた。


「怪我はありませんか?」


 決め顔で白蓮に振り返る。


「ま、眩し」


 しかし白蓮は激しい光で目を瞑っていた。


「……えっと、すいません」


「だ、大丈夫です……」


 申し訳なさそうな雰囲気で光を消した。


 ・・・・・



「ば、馬鹿な。俺の手下が……!」


 ものの数分で手下全員が山積みされた。誰も死んではいないが、思いっ切り殴られたためしばらく動けないだろう。


「さあて、残りはお前だけだぜ。赤牛よ」


 悟空はゆっくりと赤牛に近付く。


「ぐ、く! こうなれば奥の手だ!」


 赤牛は懐から小瓶を取り出し一気に飲み干した。


「ぐ、おおおおおおおおおおおお!!!!!」


 強烈な叫びと共に身体が変形していく。


 身体は赤く染まりながら更に大きくなり、頭は牛に変わり果てた。筋肉が隆起し、血管も浮き出て如何にも力が増したように見える。


「ふははははは!!! 力が漲るぞお!!」


 拳を振りかざし、悟空目掛けて振り下ろされた。轟音を響かせながら確実に強烈な一撃が入った。


「悟空!!?」


「ざまあねえ!! 俺に逆らうから死ぬんだよ!! がははははは!!!」


 赤牛は高笑いしながら拳を上げようとした。


 

 だが、拳はピクリとも上がらない。



「ん……? 何だ?」


 何度も上げようとするが、全く上がる気配が無い。


「くっそ?! どうなってやがる!?」


「その薬、『妖薬』か。随分な粗悪品を使ってるな」


 握った拳の下から声が聞こえた。


「痛覚が完全に死んでるなら下の下。頭が切れる割には目がねえな」


 拳が無理矢理横にずらされ、拳の下にいた悟空が姿を現した。正確には拳を掴んで力ずくでずらしたのだ。


「そんな、馬鹿な?!」


「自分の拳が砕けているのにも気付いてないだろ? ほれ」


 悟空は赤牛の拳を投げて放した。赤牛は悟空を叩いた部分を見る。手の側面が陥没し、骨が砕けて変色していた。本人にはまるで痛みが無いが、まともに拳が握れなくなっていた。


「な、何じゃこりゃあああああ??!!!」


「その程度の強化で勝てると思ってるなら甘過ぎだぜ? 何百年も戦った経験のある妖怪に勝てる領域にはまるで届いてない」


 赤牛は後退りして悟空から距離を取る。


「何なんだ。何なんだテメエは!!?」


 悟空はニヤリと笑い如意棒で地面を叩いた。


「俺様の名は斉天大聖(せいてんたいせい)孫悟空(そんごくう)!! 神も仏も恐れない大妖怪様だ!! 覚えておけ!!!」


 決めポーズをした所で白蓮がコホンと咳払いする。


「悟空。如意棒と筋斗雲の開放を許可します。赤牛にはお釈迦様の説法が必要です」


「その言葉を待ってたぜ」


 如意棒を回転させて天に突きあげる。


「来い! 筋斗雲(きんとうん)!!」


 悟空が叫ぶと、小さな雲が洞窟の通路を通って如意棒の先端上部に飛んで来た。


 すると、筋斗雲が大きくなり、中心に穴が開き始める。穴はドンドン広がり、悟空よりも二回りも大きくなった。


神仏光来(しんぶつこうらい)! 悪行撲滅(あくぎょうぼくめつ)! 天妖成敗(てんようせいばい)《如意棒》!!」


 如意棒の真名を叫び、本来の力を解放する。如意棒は筋斗雲の穴に向かって伸び、ガキン!! と何かが接続される音が聞こえた。


「筋斗雲《天界門(てんかいもん)》、接続完了!」


 穴からゆっくりと引き抜き、接続された物が姿を現した。


「来たれ『御仕置法具(おしおきほうぐ)』! 【(ほとけ)大槌(おおづち)】!!」


 如意棒は赤牛よりも巨大な槌へと姿を変えて目の前に現れた。悟空は大槌を平然とした顔で振り回す。


「一応説明しといてやるよ。これが俺様の本当の力、『御仕置法具』。これで倒した罪人は仏の元へ強制的に送られる。その後は地獄に行くかこっちに戻れるか仏の判決次第だ」


 大槌を赤牛に向ける。


「さあ、判決の時だ! 覚悟を決めろ赤牛!!」


「言わせておけばあああああ!!!」


 赤牛は悟空目掛けて突っ込んでくる。普通の人間なら恐怖で震え上がるだろう。しかし向かう先は孫悟空。大昔に自身よりも巨大な神仏に喧嘩を売った命知らずの大妖怪だ。


 悟空は大槌を大きく振りかぶり、狙いを定める。


()っ飛べ!!!!!」



 《神仏制裁(しんぶつせいさい)明王送(みょうおうおく)り》!!!



 全力で振り下ろされた大槌が赤牛に直撃し、全身を軋ませながら吹っ飛ばした。


 吹っ飛ばした方向には筋斗雲の《天界門》が待ち受けていた。赤牛は天界門に勢いよく放り込まれ、その姿が見えなくなった。


 赤牛が完全に見えなくなった後、筋斗雲は槌を包み、元の如意棒の姿へ戻した。


 悟空は全て終わったのを確認し。如意棒を地面に突き立てた。


「これにて、成敗」



 ・・・・・


 

 それから数刻後



 赤の闘牛団の手下達は全員縛り上げられ、筋斗雲の天界門に吸い込まれた。彼らもまた裁かれる事になるだろう。


 白蓮一行が洞窟を出た頃には日が昇り始めていた。


「やっと出れましたね」


「和尚さんが迷わなければな」


 この白蓮禅師、極度の方向音痴のため迷いやすい所に入ると誰かの案内があっても数刻出られないのだ。なので他3名が戦闘に加えて更に疲れている。


「それじゃあ町に戻りましょう。開放した皆ももう町に着いてる思いますし」


 白蓮が悟空に助け出された後、捕まっていた町の女達全員を救出し、外へ出していたのだ。


「いえ、私達はこのまま旅に戻りましょう」


 八戒が軽い足取りで町へ向かおうとしていたのを、白蓮が止める。


「え? どうしてですか?」


「私達の行った人助けは当然の行いです。崇めて貰ったり対価を頂く訳にはいきません。なので町へは戻らず遠くから安否を確認してそのまま旅に戻ります。いいですね?」


 白蓮の真剣な表情に全員が同意した。


「そう言うと思って荷物は全部茂みの中に持ってきました。どうぞ」


 沙悟浄は荷物を茂みから取り出し、白蓮に渡す。


「ありがとうございます。では出発しましょう」


「はい!」「はい」「応」


 4人は再び岩山を歩き出す。


 途中遠くから町を見下ろし、捕まった女性達が無事に町まで辿り着き、悪が去ったのを喜び合っていたのを見届けた。

 


 4人の旅の目的地は『天竺(てんじく)』。


 その道中で様々な困難が待ち構えているだろう。

 


 それまで、4人の旅は続く。




 


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