第一部 8 屋根に耳あり
リアトリスは、元々暗殺を生業とする集団の出身だった。集団の中で特殊な才能を持ち、天才と言われた彼女だが、ある任務中に今の上司であるスミシー手も足も出ず敗北し、そのまま拾われたという過去があった。そして、今は第二王女にメイドを兼業して仕えている。
姫さま一行と別れた後、警備騎士団の屯所にて諜報活動をしていた。屋根裏や物陰に潜みながら聞き耳を立てる。勤務態度は間違いなく最低だった、飲酒や居眠り、談笑し、ここは酒場でないかと感じるほどだ。スキも多く目を盗んでは書類を盗み見た、よくも悪くもこちらの仕事のしやすさにあきれ返る。
そして、気になる話を耳にした。
「それにしても、うちの団長サマの後始末は大変だったぜ」
「ヤクの試しに商売女を使うのはいいが、強すぎて死んじまうわ、大人しくしたがってればいいものを新入りはびびってチンコロ(密告)しようとするわ。結局、後始末させられるこっちの身にもなれっての」
さっそく気になっていた情報を得ることが出来た。女性を実験に使って犠牲になったことにひどく不快感を示しながらも、話に聞き耳の立て続ける。
「まあ、いいじゃねぇか。普段、こうして酒飲んでる分は働かねぇと」
そう口を開いたのは村の門の前にいた警備騎士だ。
「オメェはいいだろ。ただ突っ立ってるだけ、金が貰えるのだから。今日も貰ったんだろ?」
「王都の金持ちの嬢ちゃん一行からな。そういえば、山賊の馬鹿ども相手に大立ち回りしたって?」
(なにやってんだ、あの駄狼は…。)
さっそく、トラブルを起こしたであろうシバに呆れていると。
「酒場と通りでな。相当腕の立つ2人を連れているらしい…」
(ジュリウス、君もか…)
「酒場の件だが、あの商売女の妹が嗅ぎまわってたのに、たまたま居合せたらしいな」
「そうか…。ある程度は大目にみるつもりだったが…」
「万が一余所者にあの件が漏れるのはまずい訳だ」
「女も新入りも始末したが、厄介ごとが起きるまえに団長は明日朝一であの小娘一行をしょっぴくつもりらしい」
「また、後始末せにゃならんのか…」
「小娘とメイドは、特に小娘の方は上玉だから商品にするらしい。2人ともまだまだガキだが、まあ、その手の奴には高く売れるだろう」
人が気にしていることに対してと、お仕えする姫さまに対しての言葉にリアトリスはさらに怒りを覚える。絶対然るべき処遇でアイツらこそしょっぴいてやると、彼女は決死をした。