第一部 5 よくある話
酒場とは、基本的に騒がしいものである。
しかし、3人組のいい歳した男が、姫さまに歳が近いであろう少女と揉めている状況は、シバにとって見過ごすこと出来なかった。
男たちは、薄汚い格好のいかにもチンピラといった面々。一方、少女は肩まで伸びた茶髪に活発そうな整った顔立ちをしており、あの連中相手に引いていないところをみると、見た目と違わず気の強いのだろう。
お忍び中に目立ってしまうだろうなと思いながらも、一応騎士と呼ばれる立場上とか、姫さまがこの場にいらっしゃったらとかいろいろ頭をよぎりながらも、我ながらやっかいごとに頭を突っ込むことなと苦笑いしながら男たちと少女の間にはいろうと近寄っていった。
「だから!!お姉ちゃんとあなたたちが会話しているのは知ってるの!!なんで、なにも教えてくれないの!!」
「いい加減、ごちゃごちゃとうるせんだよっっ!!」
男の一人から怒号と共に少女に平手打ちがとんできた。シバは間一髪で男の腕を掴み平手打ちを止める。
男はシバの手を振り払おうとするが、まるで万力で締められたようにびくともしなかった。
「この野郎!!話しやがれッッ!!」
男が暴れようとした為、パッと手を離した。
「何だテメェは⁈関係ねぇ奴はすっこんでろ!!」
「なんだなんだ、通りすがりの騎士様気取りかオメェ?」
そしてシバは他の二人から、睨みつけながら顔を近づけられていた。
ーーーなんで、この手の輩はわざわざ顔を近づけてくるのだろうか?
シバは、こういう独特な行動にうんざりしながらも少女の方に話しかけた。
「揉めた原因は?」
「私はただお姉ちゃんを探してるだけ!!この人たちにはなにも悪いことをしてない…」
姉を必死に探しているのだろう、後半は消えいりそうな声で答えた。
「あなたたちがお姉ちゃんといたのは見てるの…なんでなにも教えてくれないの…」
「わかったわかった。教えてやるから、ちょっと来いよ」
男の一人が彼女に手を伸ばそうとすると、それを遮るように少女の前に立った。
少女の身体を舐めるように見たのをシバは見逃さなかったなかった。
おそらく、部屋に連れ込んでよからぬ行為をたくらんでいるのだろう。
「いい加減テメェは邪魔なんだよ!!痛い目にあいてぇのか!!」
拳がシバに向かってはなたれる。
しかし、繰り出された拳を相手の腕をはじくことで、そらし、相手の顎に逆に右ストレートを叩き込んだ。
そして、一撃で脳震盪を起こし、ふらふらと倒れ込んだ。
それを見た2人は顔を顔を真っ赤にしながら、剣を抜いた。
「野郎、ふざけやがって!!ぶっ殺してやる」
一人は剣で切りかかってくるも、身体をかがんで避け、腹部に強烈な蹴りをくらわせた。
嘔吐しながら倒れ込み、ピクピクしながらうずくまった。
「死に晒せぇっっっ!!」
剣で刺そうと突っ込んでくるも、身体を横にずらして回避し、相手の手を掴み、そのまま背負うかたちで投げ、床に叩きつけた。
一連の大立ち回りに酒場内は、ざわめきが起きていた。ひそひそと話声が聞こえた。どうやら、この村では、手を出していけない連中らしい。
「はぁ…。怪我はない?」
ため息をつきながら、少女に男たちから危害を加えられてないか尋ねる。
「大丈夫だけど…」
不安が入り混じった声で、答える。
「大丈夫そうなら、なにより。事情は知らないが気をつけな」
「やっちまったな。あんちゃん」
奥から、髭を生やした大柄な男が話しかけてくる。
身なりからして、この酒場の店主らしい。
少女から目線を変え、店主に近づく。
「酒場で、部屋をを借りられると聞いてきたんだが、悪いな。迷惑かけた」
「喧嘩は日常茶飯だが、相手が悪い。あんちゃんは知らねぇだろうが、この村を仕切る連中どもだ。すまねぇが、部屋は貸せねぇ」
「だろうね。他に一晩過ごせるとこを教えてほしい」
「ねぇな、連中に手を出したんだ、関わったらこっちまであぶないからな」
「わかった。ありがとう」
店主も連中に思うところがあるのだろう。去り際に頭を下げながらシバに声をかける。
「すまねぇな、力になれねぇ」
軽く手を振りながら酒場を出ていった。
最悪、警備騎士に金握らせて…と店の外で思案をめぐらせているといつの間に後ろにいた少女に話しかけてきた。
「あの…。さっきはありがとう。」
顔を赤くしなが、礼を言った。
「気にしなくていいよ。こっちが勝手にでしゃばっただけだから」
「宿を探しているなら、うちに泊まっていかない?」
「申し出はありがたいが、おれとお嬢様とお付き2人いるけど大丈夫か?最悪、お嬢様以外は屋根を貸してくれたらありがたいが」
「ベッドは二つしかないけど、大丈夫だと思う」
「とりあえずお嬢様にベッドをお願いしたい。あとはこっちでなんとするよ」
「よかったら、あたしのベッドも使ってほしいけど…」
「まあ、そこまで甘えるわけなかはいかないから、お嬢様分だけお願いしておくよ」
少女の申し出にありがたく思いながらも、負担をかけてしまう負い目を感じているシバは複雑な気持ちで答えた。
シバは、まずやらないといけないことに気づいた。
「そうだ、世話になるのに名乗ってなかった。シバだ。王都で商売をやっている娘さんの護衛をしている」
少女がそれに応える。
「あたしはネリネ。えっと…」
「無理に何か言わなくて大丈夫だ。すまないが、ネリネ世話になる」
シバが頭を下げると、ネリネもつられて頭を下げた。