第一部 4 村に泊まろう
村の規模は小さく、目立つ建物は村の治安維持にあたる警備騎士団の屯所、酒場ぐらいだ。
あとは小さな店がいくつかと住宅があるくらいである。
酒場はすぐ見つかった。中に入ろうとする2人をシバは止める。
「どうせ、よそ者をいいことにふっかけられるから、先入って、交渉してくる」
姫さま少し驚いた様子だ。
ジュリウスも少し困惑しながら問いかける。
「そういうものなんですか?」
「よくもわるくも暮らしがかかってるからね。まあ、仕方ないさ。交渉のあいだ姫さまとジュリウスは村をもう少し見て回るといいでしょう」
酒場まで来るまでに村の様子を見たが、豊かでない為か村民の表情は暗い。さらには、警備騎士といかにも荒くれ者といった見た目の男が幅をきかせた様子だった。
「まあ、身なりから判断されるだろうから、元ごろつきのおれが適任でしょ」
自虐が混じった言葉に姫さまは悲しそうな顔を見せる。
「姫さまそんな顔をさせて申し訳ありません。しかし、私は私ができるかぎりのことをしたいと思っています。どうか、悲しそうにしないでください」
軽く言ったつもりが姫さまに心配をかけてしまい、頭を下げた。
「すみません。この村の問題も大切ですが、貴方のことも…」
姫さまは日頃から、シバの出自や傭兵であったことに引け目を感じており、過去の行いに対して大きな後悔を負っていること感じとっていた。
「私のことは大丈夫です。姫さまは姫さましかできないことがあります。その時まで、我々にお任せください。ジュリウス、少しの間、姫さまのことを」
「わかりました。あまり姫さまにご心配をおかけしないように」
少し困った表情で答える。
手を軽く振りながらシバは酒場の中に入っていった。
こういう荒れたところにある酒場はどこも同じ雰囲気だなとシバはつくづく思った。薄暗く、酒となんらかのクスリの匂いにそういったものに合う男たち、商売をする女たち…
中にいた人相の悪い男たちから、見慣れないせいか注目を浴びたものの流れ者の類だろうと判断され、すぐに元の様子に戻った。
正直、こんな所だろうと思っていた。姫さまを酒場の中にできればお連れしたくないと考えていたのだが、どうしたものか…
ジュリウスも多分ちょっと居心地の悪い宿くらいの認識だろうが、姫さまにとって刺激が強すぎるのではないかと思う。
見た感じ、村の中で泊まる場所はここくらいな状況だろう。
シバは困りながら、店主に宿賃の交渉をしようと近寄った時、大きな声でいい争う声が聞こえた。