収穫
ロリエを優しくベットに寝かせ、そっと頬を撫でた。出会ったのはロリエが5歳の時だった。母親の服の袖にしがみつき、まじまじと私を見つめていた。そんなロリエはもう4人の子供の母親なのだ。今思うとここまで長く、あっという間だった。
ロリエと一緒に歳を取れなかった事にふと寂しさを感じた。
「初代女王様よりも、あなたとの別れの方が辛いわよ。」
ライアはぽつりと呟き部屋を出た。
部屋を出たライアは寝室の奥の通路へ進み、裏庭へ入った。そこには綺麗に手入れされたぶどう畑が広がっていた。ライアは更にその奥へ進み、小さな二階建ての家に入った。
一階にはワインを作る大きな樽や道具が設置されている。
ほんのりとぶどうの香りがする。ついさっきまで使っていたのだろう。
ライアは道具に触れないよう二階へ上がった。
「アル、入るわよ。」
ドアを開けるとそこにはテーブルの上にずらりと並んでいるワインのボトルに慣れた手つきで注射器で何かを入れている青年がいた。
「おはようライア。今日もツンケンしてるねえ。女王さんの容態はどうだ?」
「うるさいわね。別にツンケンしてないわよ。」
アルと向かい合うように椅子に座り、テーブルに肘をついた。
「ロリエは今休んでいるわ。最近特に調子が良くないみたい。そうそう、伝言が入っていたわ。悪い人は殺せってね。」
「全く。最近の女王さんは物騒だな。」
ライアは深い溜息をついた。
「それで。二週間帰って来なかったんだから何か収穫があったんでしょ?」
その言葉にアルは手をぴたりと止め、ゆっくりと手元から顔を上げ、優しい表情でライアを見つめた。
「一つ。気になる話を調達してきた。もしかしたらライアの同族がいるかもしれない。」
ライアは眉をひそめた。
「詳しく聞かせて頂戴。」
「ああ。俺達がいる国、王都と呼ばれてるな。王都からまっすぐ西に進むと森がある。この森から死んだ人間が出るって話なんだよ。」
「死んだ人間?」
アルはボトルをテーブルの端に寄せ、地図を広げた。
「王都から西へ行くと両端にロンラルとターリアがあるだろ?西北と西南に。ここの間に森があるんだってよ。ここにいるかもしれないんだ。」
「もしかしたらの話でしょ?それにしてもこんなところに森があるなんて知らなかったわ。それでどこの国の領地なの?」
その言葉にアルは含んだ笑みを見せた。
「どこの国のものでもないんだよ。」
意味が理解出来なかった。領地を巡って150年戦争をしていたのに?どこの国にも属さない土地があるなんてありえない。アルの話が本当だとしたらなぜ?その理由は?同族が隠れるために森を作ったのなら話は分かる。でも森を作るなんて高度な魔法。もしかしたら…。
「かなり不思議な話ね。分かったわ。ロリエに話をしてから向かいましょう。でも出発までに少し時間が欲しいわ。ロリエの薬を作らないとだから。それに同族に出会えた時の対処もロリエと相談しないと。多分。三日もあればなんとかなるわ。」
「ああ。分かった。俺もその方が助かる。仕事道具を今回で使いきったからな。」
そう言ってアルはボトルを指差す。ボトルの隣には空の小瓶が数個転がっていた。ライアはふと疑問に思う。
「ねえ。この情報はどこから仕入れて来たの?」
穏やかなアルの表情が少し曇った。
「女王さんの考え通り、リベッタの国王は裏と手を組んでた。その裏を始末する時にちらっとね。」
「そうなの。」
ライアは少し心が痛んだ。それを紛らわすように話題を変えた。二週間分の王都の話やロリエとリリィ達の話。旅の話も聞いた。家を出て部屋に戻る頃には日付が変わろうとしていた。