プロローグ
息を引き取った彼女を抱き抱えたまま雨に打たれていた。
俺は彼女を救えなかったと悔やむと同時にこの先の人生に怯えていた。
「おい、そこに誰かいるぞ。あの化け物の仲間かもしれない。」
男の声にはっと我に返り、自分への恐怖心を置いていくように彼女を抱えて走った。
「ロリエ。身体の具合はどう?」
「ええ、今は大丈夫。でも、もうすぐ私死ぬのね。」
広く薄暗い寝室で今にも命の火が消えそうな状態でロリエはソファに深く腰を下ろし、娘の手を優しく握った。
「ごめんねリリ。まだ18なのにこの国を任せるなんて。」
「そんなことないわお母様。お母様は沢山のことを私達に教えてくれたわ。だから、だからお母様は身体を優先して少しでも長く生きて。ライア、お母様を助けてよ。」
「私にも限界があるんだよリリ、ごめんね。さあ、ロリエに術をかける時間だから席を外してちょうだい。終わったらまた来るといいよ。」
細い身体を震わせてポロポロ涙を流しているリリにライアはそっと頭を撫でた。リリは泣きながら頷き寝室を後にした。
「本当にいいんだね。禁術を使えば長生きできるんだよ?私の命と引き換えに、この国を治めることが出来るんだよ?」
ライアは被っていたフードを脱ぎ、悔しそうな表情をあらわにした。ロリエはライアの頬にそっと触れ、優しく微笑み目を瞑った。そしてゆっくりと目を開き、ライアを真っ直ぐ見つめてこう言った。
「私は例の血を何度も飲み、寿命を伸ばしてきたわ。ライアも分かるでしょう?この時点で命を捨てる覚悟はできているわ。ライアの術のおかげで痛みは和らぐけれど、身体がもう限界だって叫んでいるのよ。だから私の意思はリリィとライアとあの青年に託すわ。」
「あの青年・・・。」
ライアは涙を堪え、何かを理解した顔で笑顔をロリエに向けた。女を抱いたまま逃げていたあの青年が目に浮かぶ。あの時、彼に手を差し伸べて良かったと今心から思えた。
「あいつなら、いや。あいつだからこそ託せるかもね。」
ライアはロリエの胸にそっと右手をあて、術をかけた。ロリエの命の火がまだ消えませんように。まだこの世界にいられますようにと祈りながら。
「・・・ところでロリエ」
「ん。どうしたの?」
ライアはゆっくりと胸にあてていた右手をロリエの頭の上へ持っていき、大きく振りかざす
「まだあんたは死なないわよ。」
「い゛」