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ダルマ

作者: 雨瀬
掲載日:2018/06/21

 



 終電も過ぎ去り、商店街も店終いをし始めた頃、阿久雄吾と財前晴夫は路地裏の居酒屋を出た。


 お互いかなり酒が入っており、何を思ったのか、神社でたちしょんをしようという話になり、最寄りの神社へ向かった。


 その神社はダルマの神様を祭っているらしい。ダルマの神様ってなんだ? と雄吾は思ったが、調べるほど気にはならなく、結局よくわかっていない。


「おい、雄吾。ここらでいいんじゃないか」


 晴夫はいい具合に木で囲まれた場所にいた。確かにそこなら人にも見つかりにくそうでいいかもしれない。


「いいね」


 雄吾もその場所に行き、お互いにチャックを下す。


「波動砲発射!」

「クロス!」


 用を足すと、とりあえず駅に向かうかと、神社を出た。来た道を戻ろうと一歩踏み出すと、


「……神様を……汚す者……いずこ……」


 という声が聞こえた。その瞬間、体に衝撃が走る。地面が揺れているようだ。


「地震か⁉」


 背後に何か気配を感じる。

 ただならぬ気配。

 何なんだ?


 どうやら晴夫も感じていたらしく、二人は恐る恐る、後ろを見た。


「……成~敗~‼」


 ダルマだった。真っ赤なダルマだ。大きさは二メートルくらいありそうだ。その巨大ダルマが二人を見下ろしていた。


「「ああああああああああああ!」」


 既に走り出していた。さっき居酒屋があった道を目指す。


「成敗~‼」


 再びダルマの声が聞こえ、雄吾は走りながらも思わず振り返る。


「ひっ!」


 ダルマが転がりながら二人を追いかけてきていた。しかもすごくスピードが速い。追いつかれるのは時間の問題だ。


 雄吾は加速しながら考える。晴夫もに走る。真夜中で人が少なかったのは不幸中の幸いだったかもしれない。ぶつかる心配をせずに走ることができる。


 どうにかダルマをまく方法がないか。


「どっか、曲がれば、いいん、じゃ、ないか?」


 隣で晴夫が息を切らしながら提案した。


「確かに!」


 あの大きさだ。相当な質量だろう。だとすると、急なカーブなどはスピードを落とさない限り、曲がり切れないはずだ。


「「あの角を曲がろう!」」


 しかし、お互いが指を指したのは十字路の真逆の方向だった。けれど、ここで選択を考えている時間はない。二人は自分の指した方向へ曲がる。


「ああああ~‼」


 後ろから晴夫の声が聞こえ、慌てて振り返る。


「行き止まりだった!」

「何、急いでこっちに——」


 言い終える前にダルマがやってくる。このまま通り過ぎてくれれば……そんな思いは届かなかった。


 二人が別れた十字路の中心でダルマは急停止した。そしてゆっくりと顔を晴夫の方へ向ける。


「う、嘘だ‼ 来るな‼ 助けて、雄吾おおおおお‼」


 ——ドスン。


 壁にダルマが衝突すると同時に、パキパキという何かが折れるような音を雄吾は聞き逃さなかった。


「……晴夫?」


 返事はない。返事の代わりにダルマが顔を雄吾に向けた。


「うっ……」


 思わず声が漏れる。


 ダルマの腹には毒々しい赤い色の肉塊がこびりついていた。


「成敗」


 ダルマの目が雄吾を捉える。


 あいつは考える時間も、悲しむ暇もくれないようだ。


 雄吾は走り出した。


「成敗~!」


 角を曲がるのが駄目ならばどうすればいい? どうすれば奴から逃げられる?


 酔いはとっくに冷めていた。雄吾は脳を人生で一番回転させる。やがて、一つの可能性を導き出した。


 奴が入ってこられないような建物に入れば勝てるゲームだ。


 雄吾はそう思い、周辺にいい場所がないか探す。すると、『地下駐車場』という文字が目に入る。


 奴も入れるかもしれないが、その駐車場の上はビルだ。階段なり、エレベーターなりがあるだろう。そこまで逃げきれば!


「うおおおおお!」


 ダルマもスピードを上げていたので、雄吾はありったけの力を使い加速する。


 駐車場に入る。非常階段を見つけ、一直線。奴も追いかけてくる。もうすぐ後ろに迫っている。


 雄吾はヘッドスライディングで階段に飛び込んだ。同時にダルマの顔が大きな音を立て入口に挟まった。


 それでも、念のため、三階の踊り場まで避難しておくと、ダルマの転がる音が遠ざかっていった。ようやく諦めてくれたらしい。


「はぁ~……」


 雄吾はその場に崩れ、胸が擦り減るくらいに撫で下ろした。


 × × ×


 雄吾は屋上の扉を開けた。あの後すぐに駅へ向かわなかったのは、ダルマが入り口で待ち伏せしているのを恐れたからだ。屋上からであれば、見下ろして入口の様子を窺える。それに少し遠くまで見渡せるので、ダルマが周辺にいるか、否かもわかる。


 雄吾は早歩きでフェンスまで行き、入り口を覗く。


ダルマの姿は見当たらない。ほかの場所にもダルマらしき姿は見当たらなかった。


「ふぅ~」


 再び溜息をつき、一歩下がると、背中が何かとぶつかった。


「まさか、だよな」


 雄吾は1グラムあるかないかの希望にすべてを懸け、振り返る。


「成敗~!」

「うあああぁぁああぁあああ‼」


 フェンスに手を掛けようとすると、手汗をかいていたのか、滑ってしまい、勢いあまって体が浮く。


 その後はダルマの顔がだんだん遠ざかっていくだけだった。


Snowrain(C)2018

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― 新着の感想 ―
[良い点] 誰にでも経験がある状況にチラと顔を見せる怪異にはゾクっとしますよね。話自体がめちゃくちゃ怖いというよりは、自分が同じ状況にふと思い出してしまいそうな怖さがありました。 [気になる点] 登場…
[気になる点] す [一言] 執筆お疲れ様です。 以前、「ハナビ」のお話で感想を書かせていただいたものです。 簡潔明瞭、恐怖の一点に対して書き込んだ作品ですね。 前作同様、表現力が秀逸で、言葉選びが…
[良い点] こわ... 日本の人形は種類問わずなんか恐いですよね...  [気になる点] 一ヶ所だけ変換ミスがあったかも。最後のほうです。自分の見間違えだったらごめんなさいm(_ _)m [一言] T…
2018/06/22 01:51 退会済み
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