①
これはさっさと完結する予定です
他の連載も書きたいなぁ……
「おい、荷物持ち!早くしろ!」
「タクトぉ、あんなやつ放っておいてさっさと行こうよぉ」
そう言うのはローブを着た背丈の低い魔法使いの女の子。
「そうです、あんなやつなど放っておきましょう、勇者様」
「あんな使えないやつ、タクトが気にする必要などない」
白い服を着ている聖女と、どう見ても剣など触れそうにない細腕の剣士が、タクトという男にひっつきながらそう話す。
「ま、それもそうだな。おい!荷物持ち!俺たちは先に行ってるから、さっさと来いよ!」
とそう言って勇者タクトと、魔法使いのミイ、聖女のルウ、剣士のマヤがさっさと進んで行ってしまった。
「あー………もうすぐ魔王城か………」
荷物持ちと呼ばれた彼、ソルは、そう呟いてため息をつく。
「魔王……俺が……魔王を……ん?」
ふと気づくと、視界が開けていた。目指している場所にはまだまだ遠いはずである。ここまで道が整備されているということは、それだけ、今目指している国が大きいということを知らしめてくれる。
「さすが、世界一栄えてる国だな」
目指すは魔王領の隣、メルセデス国。この世界で最も栄えており、そして魔族との戦域の最前線。
最前線戦域メルセデスである。
☆☆☆☆☆☆☆
メルセデス国。
この国がある限り、魔王による支配は有り得ないとも言われているほど、全てにおいて他の国とは一線を画する国。武力、財力、発言力、そのどれを取っても、他国に圧倒的差をつけている世界最大の国。
この国に勇者たちが着いてから数日後、今日は謁見の日である。この国の王、メルセデス王にこの国を通って魔王領に行くという挨拶をするのだ。
執事のような初老の人に連れられて、彼らは謁見の間の扉の前にいた。
「勇者様、くれぐれも王の御前でくだらないことをしないように」
「何言ってんだ、俺は勇者だぜ?世界最大の国だがなんだか知らねーが、俺がいなきゃ魔王を倒せねーんだろ?なら俺の方が立場が上じゃねぇか」
「そうよそうよ!なんでタクトが高々一国の王ごときに頭を下げなきゃなんないのよ!勇者なのよ!?」
「そうですわ、勇者様。私たちは世界にいなくてはならない存在。わざわざ王の顔色なんて伺う必要などありませんよ」
「タクトは勇者なんだ。それなら待遇もそれなりになるはずだろう?」
「「……」」
初老の人とソルは、二の句がつげなかった。
「ま、とりあえずちゃっと済ませるか」
「な、おっお待ちを…!」
しかし、ソル以外の彼らはそんな言葉を聞かず、適当に謁見の間へ入って行く。こうなってはしょうがない。所作などもわからないが、なるようになれである。
「じゃ、そういうわけなんで。なんかすみませんね」
「え、あ、いや。くれぐれも、王のご機嫌を損ねないように!お願いしますよ!」
「善処しますよ」
ソルもため息をつき、背筋を伸ばして謁見の間へ入っていった。
中は広い。
人がめっちゃいる。
ソルはそんな小学生並みの感想しか思い浮かばなかった。
なるほど、世界最大の国と言われるわけだ。
「ほう、其奴らが勇者か」
声の方へ顔を上げると、クソイケメンがいた。
タクトなんて比べ物にならず、そこにいると認識しているだけで自分がいかに小さいかわかってしまう。
まさに王というものを体現したかのような人物。顔も良くて権力も財力もあるなど、羨ましい限りである。
「頭を下げよ。勇者よ」
「は?なんで俺が王ごときに頭下げなきゃなんねーんだ?」
「ほぉぅ?」
(あんのバカ……!!!)
あからさまにメルセデス王から感じる雰囲気が変わったのがわかる。ざわざわと周りにいるなんかよくわからない偉い人たちが騒ぎ立てる。しかし
「鎮まれ、皆の者」
王が発したこの一言で、皆一斉に口をつぐみ、静寂を取り戻した。
「では、貴様はオレより立場が上だと申すのか?」
「当然だろ?俺は勇者だぜ?俺がいなきゃ魔王を倒せない。あんたが俺に頭下げるべきじゃねーの?『この国を守ってください、タクト様ーー!』ってな」
「フハハハハ!!!!」
突如として笑い出したメルセデス王。思わず下げていた頭をあげる臣下たち。
「ふふふ、すまない………。たしかに一理あるかもしれんな。貴様はこれから人類の敵である魔王を打ちに行くのだ。その心労は我々は押して知るべきだったな。許せ」
「はん、当然だな」
「だが」
突如、今まで経験したことのない威圧。
空から鈍器かなにかを頭に落とされたかのような重圧。
先ほどまで突っ立っていた勇者、ミイ、ルウ、マヤも、知らずのうちに頭、いや、体ごと地べたに伏していた。
「なっ、……ぐっ」
「何よ……これ!」
「くっ………!!」
「うっ、つっ…!」
「……………!!」
勇者ら全員が頭を下げる。もっとも、最初からしゃがんで頭を下げていたソルだけは、地べたに伏すような体勢にはならなかった。
「オレは頭を下げよといったはずだ。ここは言うなればオレの家であるし、家主が靴を脱げといえば靴を脱ぐだろう。それと同じである。この場ではオレがルールだ。黙って従うことだな」