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主君殺し

作者: 松尾甚七

 闇夜、静かに軍勢が進む。先頭には初老の男があった。彼は騎乗し、黒い具足に身を包んでいる。

 彼は瞑目し、一人の男を思い浮かべた。その男を彼は討たんと進んでいる。

 「この愚か者めが」とこの初老の男は睨まれる。恐ろしい形相、怒気の込められた声、彼にはその男が鬼の様に思われた。

 尤も彼は己の身を守りたいがために、弑逆しようとしていた訳ではなかった。

 聖域の全部を燃やし、投降しときた僧を悉く惨殺し、譜代の老臣を裸一貫で追放する。そのような男にどうして武家の棟梁が務まるのか。彼は心の内で一人ごちる。

 殿桂川でござる。近習の一人が前方の川を指差した。これを越えたら最早後戻りは出来ない。が、彼は全く悩んでいないようであった。

 「敵は本能寺にあり。」彼は後ろを振り向き、絶叫した。

 本能寺の四方八方に桔梗紋の旗が翻っている。初老の男の士卒はあっという間にその門を破壊した。数多の士卒がなだれ込む。中では激戦が繰り広げられた。主従数百は奮闘した。しかし十倍の敵軍を撃退し得る訳はなく、遂には主君自ら寺に火を放ち、奥へと消えた。

 炎上する本能寺、初老の男はそれを見つめている。彼はこの世の儚さを思った。多くの敵を葬り、右大臣の官位を賜り、武家の長者となった男がいとも簡単に殺されたのである。

 炎が龍の如く天高く上がり、無数の星が瞬いていた。

 

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