太陽に愛された男、夢に愛された女
これは、私の夢の中に現れた物語です。
太陽に愛されている男がいた。
快活な青年で、太陽の印を持っていた。
男がいる時、ずっと晴れている訳ではない。ヒトではない彼らにも領分があるらしく、どの天気にも平等に変わる。
別に、太陽のために祈りを捧げる訳でもないが、男は太陽に愛されていることを知り、それを受け入れた。
夢に愛されている女がいた。
物静かな少女で、夢の印を入れていた。
女が眠ると、必ず夢を見る。全てがいい夢という訳ではなく、悪夢だって見る。しかし、必ず、獏の姿をした生き物が彼女の夢に現れた。
夢を見ることを恐れ、眠れない時もあったが、女は夢の中のモノたちに愛されていることに気づき、それを受け入れた。
ある日、二人は出会った。
偶然だった。
お互いを一目見た瞬間に恋に落ちた。
彼らは愛を育み、そして二人の間には、愛の結晶が生まれた。
男の子と女の子の双子で、父である男に、母である女によく似ていた。
二人は可愛い可愛いわが子を慈しみ、育てていた。
「あなた。おかしいわ。この子がずっと起きないの」
ある日、双子の片割れである少女が起きなくなった。身体は暖かく、呼吸もしている。
安らかな表情を見せる少女は眠っていた。
「お前。聞いてくれ。あの子が外に出られないんだ」
また別の日、双子の片割れである少年が身体に大火傷を負った。命は取り留めたが、背中と顔の一部に痕が残ってしまった。
傷を負った少年は外に出られなくなった。
「ああ。夢が語り掛けてくるの。許さないと。私を許さないと」
許さない。お前はわたし《夢》のモノなのに。
だが、お前より許せないのがそこの娘だ。
「この子を一生夢の中に閉じ込めるって…」
「太陽が俺に言うんだ。裏切ったなと。俺に裏切ったなと」
裏切ったな。ワタシ《太陽》が愛したその身で。
しかし、それより罪深いのがそこの小僧だ。
「あの子が太陽の下に出たら、その身を焼き尽くすと…」
二人は悲しみに暮れた。
泣いて、泣いて。涙が枯れても泣いた。
叫んで、叫んで。喉がつぶれても叫んだ。
けれど、決して太陽に、夢に、許しを請いたりはしなかった。
自分たちのしたことを、恥じたり、悔いたりはしなかった。
「ああ。私たちの宝。どれほどのものを失おうとも、私たちはあなたたちを救うわ」
「もちろんだ。俺たちの希望。お前たちを救うために、俺たちはなんだってしてみせよう」
「たとえ、この身が朽ち果てて、この魂が消えようとも」
女は夢の中へ行った。直接、娘を取り戻しに行くのだ。女と娘は誰も知らない深い深い森の洞窟の中で眠っている。
男は太陽に祈りを捧げた。否、祈りというにはあまりにも荒々しく、猛々しいものだ。息子は母と自らの片割れが眠る、洞窟から出なかった。
何年も、何十年も、時が経った。
彼らは、かつて自分を愛してくれたモノと戦い続ける。
その身が朽ち果てても。
その魂が打ち消されようとも。
何度、人生を繰り返そうとも。
彼らの愛するモノのために。
いつまでも、いつまでも、いつまでも……
ありがとうございました。