べんり、べんり
少し昔の有る所、雪の止まない山奥に、小さな村がありました。
村の名物は露天風呂。余り大きくはないけれど、みんなお風呂が好きでした。
人もお猿も、熊も猪も。
みんな一緒に入って、ぽかぽか、ぽかぽか。
だけどある日、お役人さんが村に来ました。
彼らは言います。「山をまたいだ道をつくりたいのですが」
村と動物のみんなは話し合うことにしました。
お猿さんは言います。「うるさくないなら、いいかなあ」
猪さんは言います。「食べ物があるなら、いいかなあ」
熊さんは言います。「眠れなくなるなら、いやだなあ」
人々は言います。「便利になるなら、いいよなあ」
みんなで話し合った結果、少し村から離れた所に作ってもらうことにしました。
けれど、道を車がいったりきたり。眠れなくなった熊さんは、どこかに行ってしまいました。
ある日、お役人さんがまた村に来ました。
彼らはいいます。「雪崩が怖いので、工事をしたいのですが」
村と動物のみんなは話し合う事にしました。
お猿さんは言います。「お風呂があるなら、いいかなあ」
猪さんは言います。「食べ物がなくなるのは、いやだなあ」
人々は言います。「便利になるなら、いいよなあ」
みんなで話し合った結果、道の周りがコンクリートになりました。
けれど、木の実はコンクリートを壊せません。お腹が減った猪さんは、どこかに行ってしまいました。
ある日、お役人さんがまたまた村に来ました。
彼らは言います。「地面が凍って危ないので、温泉を道にまいても良いですか」
村のみんなとお猿さん達は話し合う事にしました。
お猿さんは言います。「お風呂がなくなるのは、いやだなあ」
人々はいいます。「便利になるのは、いいよなあ」
みんなで話し合った結果、お湯は道路にまかれました。
けれど、温泉に使う分はありません。からだの冷えたお猿さんは、どこかに行ってしまいました。
人々は言います。「べんりになった、べんりになった。」
お腹の減った猪さんは、仕方なく畑にこっそり入りました。
それを見つけた人々は言います。「この、ぬすっとめ。」
猪さんはうちころされました。
眠れなくなった熊さんは、ふらふらと道に出てしまいます。
それを見つけた人々は言います。「あぶないやつだ。」
熊さんはうちころされました。
からだのひえたお猿さんは、おりのなかにはいりました。。
それを見ている人々は言います。「かしこいのね、このこたち。」
そうしたある日、雪崩が起きました。
お湯を使いすぎて、地面が沈んでしまったせいです。
雪崩はどんどん広がっていきます。
木を伐りすぎて、勢いが止まらなくなったせいです。
雪崩は沢山の人を巻き込みます。
道を作りすぎて、雪が崩れやすくなったせいです。
人々はいいます。
「なんで、どうして。私達は何もしてないのに。」
すこしむかし、雪の止まない山奥に、小さな村がありました。
だけどそれはもう昔。今は何もありません。