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凡人街へ行く

前話でリリィの性別が♂になっていたのを♀に修正しました。

 自らを「リリィ」と名乗ったその女性は俺に抱き着いたまま離れようとしない。


 異世界に来てからというもの異性と話すどころか目にする事自体初めてだ。

 今の俺は年齢からして思春期真っ盛り。

 このままでは俺のリビドーが爆発してしまう。


「……本当にリリィなのか?」


 首から下を出来るだけ視界に入れないように、リリィと名乗った女性の顔を見ながら問いかける。

 するとその女性は何も言わずにこくんと頷いた。

 

 煌めくようなブロンドのロングヘアに翠緑の瞳、その肌は白く透き通りまるで絹のような滑らかさを感じる。

 更に押し付けられている二つの双丘は程よい大きさで、片手にぴったりと収まりそうだ。

 

 そして何よりも驚いたのがピンと尖ったその二つの耳だ。

 もしかしてこの女性は所謂エルフという種族なのだろうか。


「ご主人?」


 リリィ(仮)がきょとんとした顔でこちらを見つめてくる。

 美女の上目遣いは破壊力抜群だ。

 年齢は二十代前半といったところだろうか。

 例えるならまるで海外のモデルみたいだ。


 しかしこれが本当にあのリリィなのだろうか。

 俄かに信じ難いが状況からしてリリィ以外に考えられない。

 俺は半信半疑のままその女性に向けて鑑定のスキルを発動させた。

 


------------------------------


ミミックスライム(レステナ) 1歳(♀) 従魔


レベル:99+


HP:10896

MP:7808


筋力:5210

体力:3890

敏捷:6125

魔力:5540


スキル


・弓術S級・剣術A級・体術S級・風属性魔法S級・土属性魔法S級・水属性魔法A級・気配察知S級・隠密S級・生活魔法C級


ユニークスキル



加護


・精霊の加護


------------------------------

 


 俺はステータスを見て絶句した。

 レベルの限界値は99じゃなかったのか?

 99+って明らかに限界突破してるじゃないか。

 それにしても一体何なんだこの化け物じみた能力は。

 桁違いにも程があるだろう。

 レステナは生前さぞ名の知れた武人だったんだろうな。

 だがこれで目の前にいる女性がリリィだという事に間違いは無さそうだ。


「……本当にリリィなんだな。しかし一体何でこんな事に」


 俺がリリィにそう問い掛けた矢先、再び洞窟内に眩い閃光が走った。

 何かと思い光の正体に目を向けてみると、先程まで朽ちていたはずの弓と矢筒が白金の輝きを放っていた。

 更に驚く事に、その弓と矢筒がふよふよと宙に浮きこちらに向かってくるのだ。

 これは恐らく俺ではなくリリィに反応を示しているのだろう。

 リリィもそれに気付いたのか、俺の身体から離れると、宙に浮いている弓と矢筒にそっと触れた。

 そしてリリィの指先が弓に触れた瞬間、三度洞窟の中で激しい閃光が巻き起こった。


「ぐッ……!今度は一体何だ」


 もう何が何だか訳がわからない。

 俺は目の前で起こっている出来事の行く末をただ見守る事しか出来なかった。

 暫くしてリリィを包む光が収束に向かうと、そこには煌びやかな軽鎧を身に纏い、背中に矢筒、左手に弓を携えたリリィの姿があった。

 その見た目は一言で例えるならまるで神話に登場する戦乙女(ヴァルキリー)のようだ。

 それにしてもこの軽鎧は一体どこから現れたんだ?

 考えられるとすれば、弓と矢筒の力により具現化されたと想定するのが妥当か。

 矢筒の中に目を向けると中にはしっかりと矢も補填されている。 


 しかしこれは拙い事になったぞ。

 今ここで起きた出来事については明確な説明が付けられないが、これだけははっきり言える。


「……リリィがチートになってしまった」


 俺はリリィの姿を眺めながら、今後どんな面倒事に巻き込まれていくのだろうかと不安を募らせた。

 


◇◇◇◇◇◇◇◇  

  


「よし、行くか」


 翌日、旅の支度を整えた俺とリリィは、小屋を出て一路レフィールに向けて出発した。

 ガリウスが木に目印をつけてくれているはずなので、それを頼りに進めば森を抜けられるはずだ。

 ちなみにリリィは今は元の姿に戻っている。

 あの後元に戻れるかとリリィに訪ねてみると、リリィは暫く考え込んだ後にぽすんと間抜けな音を立てて元のスライムの姿へと戻った。どうやら変幻は自在のようだ。

 さすがに武装状態のレステナの姿では街で目立ち過ぎるだろうという結論に達した俺は、一先ずそのままスライムの姿で行動をしてもらう事にした。 

 元の姿に戻ったリリィに鑑定をかけてみるとユニークスキルの「?????」が完全擬態と表記が変わっていた。

 どういった原理かは憶測でしかないが、恐らく他者の細胞を取り込む事でその者の姿に変化出来るスキルなのだろう。

 あの時リリィは僅かに残っていたレステナの毛髪を体内に取り込んだのだと思う。

 ちなみにリリィが元の姿に戻ると軽鎧も消え、弓と矢筒も元の朽ちた姿へと変わっていた

 恐らくこの弓と矢筒は擬態変化したリリィを持ち主だと認識し、反応を示したのだろう。

 墓荒らしのようで気が引けたが、考えた末に弓と矢筒は持ち帰る事にした。

 

 今の俺は背中に弓と矢筒と盾、そして腰には刀剣を携え、更には肩の上に従魔を従えている。

 端から見ればさぞ珍妙な姿に映るだろうな。


 ガリウスが付けたものと思われる木の目印を頼りに森を進んでいくと、やがて木々の密度が徐々に少なくなっていく事に気付く。

 そしてそのまま進むと俺はようやく森の出口へと辿り着いた。

 

 視界に飛び込んでくる田園風景。

 これで長きに渡る森での生活も遂に終わりを迎えた。 

 

 確かガリウスは森を背にそのまま真っ直ぐ進めば街道に出ると言っていたので、俺はその言葉を頼りにとりあえず真っ直ぐに進んでみる。

 するとガリウスの言葉通り、十分程歩くとやがて大きな街道へと出た。

 さすがにコンクリートは無かったが、道は奇麗に舗装され、多くの旅人や商人らしき人々が行き交っている。

 近くにあった看板を見てみると、どうやらこの街道を一里ほど道なりに進めばレフィールに着くらしい。


 俺は異世界の風景を楽しみながらゆっくりとレフィールに向けて歩を進めた。

 するとやがて道の先に大きな石造りの外壁が見えてきた。

 恐らくあれがレフィールの街だろう。

 想像していたよりも大きな街みたいだな。

 

 だが門まで辿り着き街の中に入ろうとすると、そこで門番らしき兵士に呼び止められた。


「そこのお前ちょっと待て。通行書を見せろ」


 門番はそう言うと俺の前に立ちふさがり行く手を阻む。

 なるほど、街に入るには通行書が必要なのか。


「すみません、この街に来るのは初めてなのですが」


「む、そうか。では通行書を発行する事になるが銀貨五枚の手数料が必要になるぞ」


 銀貨五枚か。

 全財産が銀貨二十枚だからそれなりの出費だな。

 だが他に行く当ても無いし、ここは支払うしか無さそうだ。


「わかりました。ではこれで」

 

「確かに。では暫しここで待て」


 革袋から銀貨を五枚取り出し門番に渡すと、その門番は銀貨を握り絞め詰め所の中へと入って行った。

 そのまま暫く待っていると、詰め所から戻ってきた門番に羊皮紙で出来た一枚の小さな紙を渡された。


「これが通行書だ。無くすと再発行に銀貨五枚必要だから大切に持っておけよ」


「わかりました。それで一つ聞きたいのですが、この街で従魔連れでも泊まれる宿はありますか?」


「それなら小鳥の止まり木という宿がお勧めだ。この門を入り道なりに真っ直ぐ進むとやがて中央の広場に出る。大きな噴水が目印だ。そこから大通りを西に進んで直ぐの所にある宿だ」


「中央広場から西ですね。ありがとうございます」


「ああ、気を付けてな」


 あまり街中で迷いたくなかったから聞いておいて正解だったな。

 よし、とりあえず先に宿を確保しておくか。



◇◇◇◇◇◇◇◇  



 門を通り抜けると大通り沿いに民家が立ち並んでいた。

 煉瓦れんが造りの家が立ち並ぶその風景は壮観だ。

 まるで写真で見た中世のヨーロッパの街並みのようだ。


「いい街だなリリィ」


 俺がリリィに問い掛けると、リリィもこの街の雰囲気が気に入ったのか、少し興奮気味にその身を震わせている。

 そして門を入ってから10分程道なりに進むと、やがて視界に大きな噴水が見えてきた。

 ここが中央広場で間違いないだろう。

 門番に言われた通り噴水を背にして西に向かうと、程なくしてお目当ての宿の看板が見えてきた。

 木製のスイングドアを押し開け建物の中に入ると、一階は食事処になっており、中は宿泊客達で賑わっていた。

 何だか腹が減ったと思ったがもう夕食時か。

 俺が中の様子を伺っていると、カウンターに居た恰幅の良い中年の女性に声をかけられた。


「いらっしゃい。宿泊のお客さんかい?」


「はい。従魔連れですが大丈夫ですか?」


「スライムなら部屋に入れてもらって構わないよ。お代は一泊二食付きで銀貨二枚になるさね」


「銀貨二枚ですね。ちなみに連泊でも構いませんか?可能なら五泊程お願いしたいのですが」


「ああ、構わないよ。五泊なら銀貨十枚だね」


 お代を聞き、俺は革袋から銀貨を十枚取り出し受付の女性に渡す。

 これで残りは銀貨五枚か。

 これは早急に収入源を確保しないと拙いな。


「はい、確かに。部屋は階段を上って二階の突き当りの部屋だよ。食事は朝と夜に一階で用意するから、時間になったら降りてきておくれ。必要無い時は先に声をかけてくれると助かるよ」


「わかりました」


 俺は受付を終え鍵を受け取り、早速二階にある部屋へと向かった。

 部屋に入ると中は四畳くらいの広さで、小さな机に椅子が一脚、それと一人用のベッドがあるだけの簡素な造りだった。

 まあ寝泊りするだけならこれで十分か。

 それにしても前世以来のベッドだな。

 小屋では藁の上でずっと寝てたからこれだけでもかなり有難い。

 試しにベッドに横になってみるが、あまりの寝心地に良さからか俺は急激に睡魔に襲われてしまう。


「あ、飯……」


 食欲と睡眠欲が俺の脳内で戦闘を開始するが、やがて俺は徐々に意識を手放していった。



◇◇◇◇◇◇◇◇


 

 柔らかな感触を腕に感じ俺はふと目を覚ます。

 あのまま寝てしまったみたいだが、どれくらい時間が経ったのだろうか。

 部屋が真っ暗な様子を見るとまだ夜は明けてないようだが。

 しかしさっきから感じるこの柔らかな感触は一体何だ?

 俺はその正体を確かめるべく顔だけ横に向けてみる。

 するとそこにはレステナに擬態変化したリリィの姿があった。

 もちろん一糸纏わぬ姿でだ。


「……ジーザス」


 寝るだけなのに擬態変化する必要はあったのだろうか。

 しかし一体何だこの状況は。

 一応俺も健全な男子なわけだから我慢にも限界がある。

 だが落ち着け俺、リリィはスライムで従魔なんだぞ。

 いくら外見が美人のエルフだからってここで手を出す訳にはいかない。


「でも少し触るくらいなら……」


 いや待て待て、ここで手を出せば後には引き返せないぞ。

 場合によっては今までの良好な関係を崩しかねない。

 ここは耐えろ、耐えるんだ。


「……」


 そう言えば前世の俺の親父が酔っ払った時にこんな事を言ってたな。

 据え膳喰わぬわ漢の恥、と。

 そうだ、これは不可抗力だ。

 湧き出る欲求は人間としての本能なんだ。

 というか裸で抱き着いてくるリリィが悪い。

 よし、いざ行かん。


「……って、あれ?」


 よく見ると俺はリリィに抱き枕のようにホールドされており一切の身動きが取れなかった。 

 リリィの拘束を解こうとするがまるでびくともしない。

 そうか、この状態のリリィはチート並みにステータスが高いんだった。

 ちょっと待て、じゃあ俺はリリィが起きるまでこのまま棒のように固まってないといけないのか?


「ふええ、そんな殺生な……」


 結局俺は生殺し状態のまま、一睡も出来ずに夜を明かす事になった。

 

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