表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

凡人レベル上げに勤しむ

※4/3 リリィの性別が♂になってたのを♀に修正。

 翌日、ガリウスを見送った俺はリリィと共に再び森の中へと足を踏み入れていた。

 食料調達も勿論なのだが、今日はどちらかというとモンスターとの戦闘が主な目的だ。

 

 まだ冒険者になると決めた訳ではないが、今後この森を出る事になれば生計を立てる為に否が応でも冒険者にならざるを得ないと俺は考え始めていた。

 幸いガリウスと知り合えた事で冒険者ギルドとの繋がりは出来た。

 だがレベル10にも満たない俺が冒険者として出来る仕事なんてたかが知れてるだろう。

 それに最近特に感じるのだが、スキルブースター(並)で習得したスキルと自分のレベルが見合ってないのか、無理な動きをすると身体に物凄い負担がかかるのだ。

 

 という事で俺はこの森で本格的に修行をする事に決めた。

 目標とするレベルは20。

 俺が読んだ小説の主人公達は序盤から最強になるパターンが多かったが、20という控えめ且つ中途半端な設定値が何とも俺らしいと思う。

 ちなみに冊子の情報によればレベルの上限値は99のようだが、そこまでいくと最早人外クラスらしい。

 先日こっそりとガリウスに鑑定をかけてみたが、Aランクのガリウスでレベル60程度だった。

 その二つの情報を踏まえて考えた結果、レベル20程度であれば日銭を稼ぐくらいは出来るだろうという非常にざっくりとした計算だ。

 まあ街に出ればどんな面倒事に巻き込まれるかわからないし、自衛をするという意味でも最低限の力を身に着ける必要はあるだろう。


「今日は少し森の奥まで入ってみるか」


 俺が独り言のように呟くと、リリィもその言葉に同調したのか気合い十分といった様子を見せた。

 だが決して無理をするつもりは無い。

 身の危険を感じればリリィを抱えて全力で逃げるつもりだ。


 俺は迷わないように剣で木に目印を付けながら慎重に森の中を進んで行く。

 そして小屋を出発してから一時間程経っただろうか、気付けば見慣れぬ景色が視界に広がっており、道も徐々に険しくなっていた。

 周囲からは明らかに危険な雰囲気が漂っている。

 これは如何にも強敵が出てきそうな感じだな。

 

 俺は気配察知のスキルを駆使しながら辺りを警戒し歩き始める。

 気配察知とは感覚を研ぎ澄まし、周囲に生物がいるかどうか把握出来るスキルだ。

 これもスキルブースター(並)の効果でC級まで習得済みだ。

 現在では半径30メートル程は生物の気配を察知出来るようになっている。

 

 すると早速、前方の茂みで何かの生物の気配を察知した。

 今まで遭遇したどのモンスターよりも明らかに大きな反応だ。


「……リリィ、戦闘態勢に入るぞ」


 俺が小声でリリィに指示を出すと、リリィもいつもとは違う空気を感じたのか、その緊張が俺に伝わってきた。

 剣と盾を身構えながらゆっくりと前進すると、やがて気配の主が茂みの中から姿を見せた。

 その姿は一見すると狼のようだが、口からは異様に発達した二本の牙を覗かせている。


 俺は恐る恐るそのモンスターに鑑定をかけてみる。



------------------------------


キラーファング


レベル:16


HP:208

MP:0


筋力:78

体力:83

敏捷:95

魔力:0


スキル


・噛みつきD級・引っ掻きD級


------------------------------



 ……うわ、強い。

 俺の現在のレベルが8なのでちょうど倍の差がある。

 スキルはともかくステータスの面でも完全に圧倒されている。

 これは流石に逃げた方がいいか?

 だが俺の思惑を余所に、こちらに気付いたキラーファングは物凄い速さでこちらとの距離を詰め、鋭い爪を振りかぶりながら飛び掛かってきた。


「うおッ!」


 キラーファングの攻撃を俺は何とか盾で防ぐ。

 すると盾越しに物凄い衝撃が俺の腕に伝わってきた。

 これは下手したら一撃で致命傷だな。

 

 攻撃を防がれたキラーファングは一度距離を取ると、今度は俺達を中心にゆっくり円を描く様に歩きつつ、次の攻撃の機会を伺っているようだ。

 このままではジリ貧になりかねないので、今度はこちらから攻めに転じてみる。

 ステータス差はあるが体術スキルの恩恵か、相手の動きは動体視力で何とか捉える事が出来る。

 俺は地面を蹴り敵との距離を縮め、狙い澄ました横薙ぎの一閃を繰り出す。

 だが俺の剣撃はキラーファングにいとも簡単に避けられてしまった。


「クソッ!流石に速いな」


 予想以上の敵の速さに俺は困惑する。

 もし長期戦になり、更に仲間でも呼ばれれば勝ち目は皆無だな。

 こうなったら正攻法で戦うのは諦めるか。

 

「リリィ!敵を引き付けて木の上に登れ!」


 俺が指示を出すと、リリィは身体から粘液を飛ばしてキラーファングの注意を引いた。

 そしてリリィはすぐさま近くの木にずりずりとよじ登り、今度は枝の上からキラーファングへ粘液を飛ばし始めた。

 するとキラーファングはリリィを追撃しようとはせず、ただ地面の上でリリィの粘液攻撃を避けるだけに止まっている。 

 どうやら狙い通りだな。

 イヌ科の動物は木に登らないと聞いた事があるが、どうやらこの世界でもそれは例外では無いみたいだ。

 この勝負もらったぞ。


 俺はこの隙に一つの魔法の詠唱を終え、キラーファングに狙いを定め発動させる。


「アースハンド!!」


 俺が魔法を発動させると、キラーファングの足元の土壌が激しく隆起し、その身体を覆う様に包み込んだ。

 攻撃を当てられないのなら動きを止めてしまえばいい。

 どれだけ速く動けようとも拘束してしまえただの的だ。

 俺は土の束縛から逃れようと必死にもがいているキラーファングの首元に狙いを澄まし、一刀の元に切断する。

 切り口から夥しい量の出血が見られ、キラーファングは断末魔を上げる間も無く絶命した。


 俺は剣を鞘に収め、早速自分のステータスを確認してみる

 するとレベルが一気に3も上がっていた。

 やはり強い敵と戦うとその分経験値も多く手に入るようだ。

 リリィにも鑑定をかけてみるが、やはりこちらも同じくレベルが3上昇している。

 これなら目標達成までそう時間はかからないかもしれないな。

 

 しかり勝つには勝ったがどう見ても辛勝だ。

 あのままガチの殴り合いを続けていればやられていたのはこちらの方だろう。 

 これは魔法を覚えておいて正解だったな。 

 

 俺が一人反省会をしていると、リリィが再び辺りを警戒し始めた。

 何かと思い気配察知で辺りの様子を探ると、今度は複数の生物の反応が見られた。

 ……拙い、もしかして血の匂いに誘われてモンスターが集まってきたか?


 俺は剣と盾を身構えて敵の襲来に備える。

 すると今度は草むらから十匹程のキラーファングが姿を現した。

 あ、これは無理だな。


「ホーリーライト!」


 勝つ事は無理だと判断した俺は聖属性魔法のホーリーライトを発動させる。

 この魔法は本来灯かりの役割を果たすものなのだが、使用するMP量に応じて光度が変わるので目眩ましにも使える。

 これは以前の戦闘でも実践済みだ。


 案の定キラーファングの群れも突如現れた光源に怯んでいる。

 俺はその様子を確認すると元来た道を一目散に逃げた。

 木に付けた印を頼りに我武者羅に走っていると、やがて気配察知の範囲からキラーファングの反応が消えた。

 どうやら上手く撒いたようだ。


「……今日は帰るか」


 初めての強敵との戦いに心身共に疲弊した俺は、この日は早々に小屋に戻る事を決めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「リリィ!そっちに行ったぞ!」


 俺が指示を出すと、リリィはキラーファングの目を狙い粘液を飛ばした。

 粘液が目に命中すると視界を奪わたキラーファングは怯み一瞬動きを止めた。

 俺はその隙を逃さず、キラーファングの首に刃を滑らせる。

 剣を振り抜くとその首が宙を舞い、キラーファングは声を上げる間もなく吹き出る血と共にその命を散らした。


「よし、終わりだな。お疲れ様リリィ」


 俺がリリィにそう告げると、臨戦態勢を解いたリリィが俺の肩に飛び乗ってくる。

 リリィを労いながら身体をひと撫ですると、リリィは嬉しそうにその身をぷるぷると震わせている。

 ああ、今日も可愛いなリリィは。


 本格的な修行を開始してから二十日程が過ぎた。

 あれから俺達は毎日のように狩りへと足を運んでいる。

 最初の数日は一匹狩っては逃げるというヒットアンドアウェイ方式を取っていたのだが、レベルが上がるにつれて複数体のキラーファング相手でも苦戦を強いられなくなっていった。

 一度に狩れる数が増えるとレベル上げも格段に効率を増していく。

 ステータス差さえ縮まれば、後はスキルにモノを言わせたパワーレベリングだ。

 

 戦闘を終えた俺は自分のステータスを確認してみる。


------------------------------


レイジ セドウ 15歳(♂) 人族


レベル:20


HP:258

MP:194


筋力:102

体力:110

敏捷:106

魔力:98


スキル


・剣術C級・盾術C級・体術C級・火属性魔法C級・水属性魔法C級・土属性魔法C級・風属性魔法C級・聖属性魔法C級・闇属性魔法C級・生活魔法C級・気配察知C級・隠密C級・鑑定C級


ユニークスキル


・スキルブースター(並)


加護


・なし


------------------------------


 どうやら今の戦闘でレベルが目標値に達したようだ。

 しかしまあスキルは見事にC級が並んでるな。

 それと最近気付いたのだが、スキルの詳細を見てみると「128/500」のように熟練値が記されている事がわかった。

 恐らくこれが要求値に達すればB級に上がるのだろう。

 

 そして次に俺はリリィにも鑑定をかけてみる。


------------------------------


ミミックスライム 1歳(♀) 従魔


レベル:20


HP:228

MP:126


筋力:91

体力:88

敏捷:76

魔力:70


スキル


・体術D級


ユニークスキル


・粘液・??????


加護


・なし


------------------------------


 ……あれ、何だかリリィの名前が変わってるような気がするのだが。

 スライムは一定のレベルを超えると進化でもするのか?

 だがリリィの見た目は特に変わってない。

 これは一体どういう事なのだろうか。

 ユニークスキルの「??????」も気になるな。


 まあ何にせよこれで目標は達成だ。

 長きに渡るこの隠遁生活も遂に終わりを迎えるのか。

 慣れ親しんだこの森を離れるのは少し寂しいが、俺はこのまま異世界で仙人になるつもりは無いからな。


「よし、帰って旅の支度を整えるか」


 俺は元来た道を戻りながらまだ見ぬ世界へと思いを馳せる。 

 だがその時、リリィが突如俺の肩から飛び降り帰り道とは別の方向へと進み始めた。


「お、おいリリィ?」


 リリィは基本的に俺の傍を離れようとはしない。

 こんな事はリリィを従属させてから初めての事だ。

 何かと思いリリィの後を追ってみると、程なくして茂み中に洞窟の入口を見つけた。

 どうやらリリィはこの中に入って行ったようだ。

 続いて俺も洞窟に足を踏み入れてみるが、中は薄暗くとても視界が悪い。

 俺はホーリライトで洞窟の中を灯かりで照らしてみると、中は数メートル程で行き止まりになっており、その造りは洞窟というよりも壕に近かった。


「これは……」


 突き当りの壁に目を向けてみると、そこには白骨化した人間の遺体が壁に寄りかかるように座しており、リリィはその遺体の前でじっと佇んでいた。

 遺体の傍らには朽ちて既に役目を終えている弓と矢筒が転がっている。

 この森で遭難、もしくはモンスターにやられて果てた冒険者だろうか。

 壁には鋭利な何かで傷付けたような文字で「狩人レステナここに眠る」と記されている。

 恐らく最後の力を振り絞り、今際の言葉を残したのだろう。


 俺はその光景を見てとても他人事とは思えなかった。

 下手すれば俺がこうなっていた可能性も十分あり得たからだ。

 今後冒険者として活動していくとなれば、いずれこうなる可能性も否定出来ない。

 やはり冒険者になるのであればそれなりの覚悟をしておいた方が良いのかもしれないな。

 

 俺はレステナの冥福を祈りながらその遺体に向けて手を合わせる。


 だが次の瞬間、目の前にいたリリィが思いも寄らぬ行動を取った。

 リリィはレステナの遺体にズリズリとすり寄り、骨を舐めるかのように自らの身体を這わせ始めた。


「何をしてるんだリリィ!」


 リリィの行動を諫めようとした次の瞬間、突如としてリリィの身体が激しく発光した。


 状況を理解出来ず俺は一種のパニック状態に陥いったが、程なくしてその光は収束へと向かっていく。

 だがその矢先、俺は光の中から現れた何者かに飛びつかれ身動きが取れなくなってしまった。


「しまった…ッ!まさかアンデット化していたのか!?」


 確かアンデットの強さは生前のレベルと比例したはず。 

 もし仮にレステナが高レベルの冒険者だったとすればこの状況は非常に拙い。


 ――だがそんな俺の心配は一瞬で杞憂となる。 

 

「ご主人」


 胸元から聞き慣れない声がする。

 だがそれは明らかに人間のものだ。

 

 俺は恐る恐る目線を下に向けてみると、見知らぬ女性が俺の胸に頬ずりをしていた。

 更に驚く事に、その女性は一糸纏わぬ姿である。

 柔らかな二つの双丘が俺の身体にぎゅうぎゅうと押し付けられている。

 一体何なんだこの状況は。


「……えっと、どちら様で?」


 俺は目線を上へと戻し、何とか理性を保ちながらその女性に質問を投げかける。

 するとその女性は耳を疑うような言葉を返してきた。


「わたし、リリィ。ご主人、好き」


 その言葉を聞き、俺の脳はとうとう考える事を諦めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ