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異世界人との邂逅

 その後、俺は森での生活を余儀なくされた。

 森を抜けようと適当に歩いている内に完全に遭難してしまったのだ。

 ただ幸いな事に彷徨っている途中で一軒の小屋を見つけた。

 使われている様子も無いので俺は暫くそこを根城にする事に決めた。


 そして俺が異世界に来てから三十日程が経っただろうか。

 今日はリリィと食料の調達に森の中を散策している。

 ちなみにリリィとは俺が従属させたスライムに付けた名だ。


 意図せず従属させてしまったリリィだが、今では俺の頼もしい相棒だ。

 従属による影響なのか定かではないが、リリィはどうやら俺の言葉を理解しているらしい。

 幾度か森の中でモンスターと遭遇したが、指示を出すとリリィはその通りに動いてくれるのだ。 

 戦闘を重ねた成果もあり、今ではリリィとの連携もかなりスムーズになってきている。

 幸いこの森に生息しているモンスターはそこまで強くないので、今では俺とリリィの恰好の狩場となっているのだ。


「今日もいい天気だなリリィ」


 俺がリリィに話かけると、肩の上で嬉しそうにぷるぷるとその身を震わせている。

 最近では俺もリリィの動き一つで感情がある程度読み取れるようになってきた。これはスキルの影響もあるのだろうか。

 それにしてもスライムとは斯くも可愛い生き物だったのか。

 俺はもうすっかりリリィの虜である。


 森林浴をしながら森の中を闊歩していると、前方の木の根元に傘の部分が茶色いキノコが生えているのが見えた。 

 俺はそのキノコに鑑定をかけてみる。


 -------------------------------

 

 ブラウンマッシュルーム レアリティE

 食用のキノコ。

 

 毒性:無し


 ------------------------------- 

  

 ブラウンマッシュルーム

 この森によく生えてるキノコだ。

 味や食感は椎茸に近いだろうか。

 生食も出来るが焼くと風味が出てより美味しく食べられる。


 ちなみに鑑定とは例の冊子に記されていたスキルの一つだ。

 これは鑑定対象をスキャンする能力で、森の中で生活するには必要だと思い習得した。

 

 その他にも基本的な魔法スキルも習得した。

 地球には存在しなかった魔法というモノに対して俺の食指が激しく動いたのだ。

 

 冊子の情報によるとこの世界の魔法は大きく分けて六つの属性がある。

 火、水、土、風の四元素に加え、聖、闇の計六つの属性だ。

 火属性は攻撃魔法が主体、水属性は回復魔法が主体といった感じで属性毎に大きく特性が分かれている。

 

 異世界に来て数日経ったある日、俺は試しに冊子に書かれていた方法で火属性の下級魔法「ファイアーボール」を詠唱してみた。

 すると手の平から発せられた小さな火の玉が地面と平行に真っ直ぐ飛んでいき、標的にした薪を黒く焼き焦がした。

 初めての魔法に感動した俺は調子に乗り、立て続けにファイヤーボールを発動させる。

 だがMPという概念を失念していた俺は、何度か魔法の詠唱を繰り返している内にMP切れを起こし気絶してしまったのだ。


 その後は気絶しないようMP残量に気を配りながら、時間を置きつつ各属性の魔法を習得していった。

 そしてスキルブースター(並)の効果により、今では六つの属性の魔法を全てC級まで習得している。

 C級になると中級魔法までは一通り使えるようになっていた。

 

 だがスキルブースター(並)はあくまでスキルをブーストするものであり、レベルがブーストされるわけではない。

 モンスターとの戦闘により多少レベルが上がったとはいえ、今のMP量では中級魔法を数発撃てばMP切れを起こしてしまうだろう。

 まあこの辺に中級魔法を使うようなモンスターはいないので特段問題は無いのだが。


 ちなみに二つ以上の属性を掛け合わせた複合魔法なんていうのも存在するらしいが、神様の字で「普通を求める貴方には必要ないでしょう」等と書かれており説明を割愛されていた。

 畜生、いちいち嫌味っぽい事を書きやがって……。

 まあいいさ、俺にはリリィがいるから。


「な、リリィ」

  

 俺に問い掛けに対し、どうしたの?と言いたげなリリィの様子が伺えたが、俺は何も言わずにリリィの身体を撫でた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「よし、今日は大量だったな」


 小屋に戻った俺達は本日の戦利品を広げる。

 ファングボアが二匹に大量のブラウンマッシュルーム、あとは山菜も色々と採ってきた。

 今夜はご馳走だな。

 

 ちなみにファングボアとは大きな牙を持つ全長1メートル程の蛇型のモンスターだ。

 地球に居た頃は蛇肉なんて食った事もなかったが、これが中々どうして美味いのだ。

 

 俺は土魔法のアースウォールを応用して作った釜戸と土鍋で調理を開始する。

 調理と言っても材料を適当な大きさに切って鍋で煮込むだけなのだが。

 ちなみに水は小屋の近くから湧水を汲んできている。 

 調味料が無いのでどうしても淡泊な味になってしまうが、素材が新鮮なのでこれだけでも十分美味い。

  

「しかし、さすがに森での生活も少し飽きてきたな」


 俺は鍋をかき混ぜながら一人ごちる。

 異世界に来てからひと月、俺はずっとこの森の中で生活をしている。

 サバイバル生活にも慣れてきたとはいえさすがに人里が恋しくなってくる。


 だが街に出たところでその後どう暮らしていけば良いのだろうか。


 この世界にハ〇ーワークのように仕事を斡旋してくれる機関があるとは限らない。

 何かスキルを習得して商店でも開くか?

 だが出店許可はどこで取れば良いのだろう。

 やはりここは冒険者として生計を立てるしかないのだろうか。

 いや待て、そもそもこの世界に冒険者ギルドは存在するのか?


 俺が悶々と思考を巡らせていると、突如リリィが小屋の外を警戒し始めた。

 何かと思い俺も耳を澄ませてみると、人のものと思しき足音が徐々にこちらに向かってくるのがわかった。


「だ、誰だこんな時間に。まさか盗賊の類か?」


 俺は釜戸の火を消し、壁に立て掛けてあった剣と盾を手に取り臨戦態勢に入る。

 やがてその足音は小屋の入口の前でぴたりと止まり、とんとんと戸を叩く音が二回室内に響いた。


「すまない、誰かいるか?」


 野太い男の声が聞こえた。

 俺は緊張しながら言葉を返す。


「……どちら様ですか?」


「俺はレフィールの街から来た冒険者なんだが、野営をしようと思ったら灯かりが見えてな」


 その男は自らを冒険者だと名乗った。

 どうやら盗賊の類ではないみたいだが、まだ安心は出来ない。

 俺はいつでも戦闘に入れるようリリィにも小声で指示を出し、そっと戸口を開けてみる。

 するとそこには髭面で頭が禿げ上がった筋骨隆々の屈強そうな男が立っていた。年齢は四十歳くらいだろうか。大斧を背中に携えたいかにも戦士風の男だ。

 男は俺を一瞥すると、少し驚いたように口を開いた。


「おお?こんな森の中だからてっきり老齢の木こりでも住んでるのかと思ったのだが」


「ま、まあ普通はそう思いますよね。はは……」 


 俺は苦笑いを浮かべながら曖昧な返事を返した。

 今までの経緯を説明しても到底信じてはもらえないだろうしな。

 すると男も俺の様子を見て何か訳有りだと思ったのか、それ以上は何も聞いてこなかった。

 そして男は革袋から一枚のカードを取り出し俺に見せてきた。

 

「俺はガリウスという者だ。これは冒険者ギルドで発行されたカードだ。念の為確認してくれ」


 俺はカードを受け取り確認してみる。

 するとそこにはガリウスの名前とこの男がAランクの冒険者だという事が記されていた。

 いやちょっと待て、Aランクってかなり凄いんじゃないか?

 戦闘になれば俺に勝ち目は無いだろうな。


「俺の名前はレイジといいます。それで今日はどんな御用で?」


「いや、良かったらここに一泊させてもらえないかなと思ってな。もちろん金は払うぞ」


 男は硬貨の入った革袋を上下に振り、ちゃりちゃりと音を鳴らした。

 これが美人の女冒険者だったらこちらが金を払いたいくらいだったんだが、そんな上手い話しは錚々無いわな。

 まあこれも何かの縁だろう。それに俺としてもこの世界の事を色々と聞いてみたい。


「お金は要りませんので良かったらどうぞ」


「おお、そうか。それは助かる」


 俺が戸口を開け払うとガリウスは土足のまま小屋の中に入ってきた。

 なるほど、この世界には室内で靴を脱ぐという風習が無いのか。

 仮住まいとはいえ、日本で育った俺からすると土足で部屋に入られるのは若干抵抗がある。

 まあ郷に入らば郷に従えというし、今後は俺もそうするか。


「おお、スライムか。お前もしかして魔獣使いなのか?」 


「……え?ああ、一応そうですね。ほらリリィ挨拶して」


 俺がリリィにそう言うとガリウスの前でぴょんと一つ跳ねて見せた。


「ほほう、良く懐いてるじゃないか。主人の度量が伺えるな」


 ガリウスは髭を擦りながら感心したような様子で俺に視線を向けてくる。

 何だか品定めされているようで落ち着かないな。


「と、ところでガリウスさんは食事は済まされたんですか?未だなら一緒にどうです?」


「おお、飯まで馳走してくれるのか?いやこれはありがたい」

  

 ガリウスが嬉しそうに膝を一つ叩いた。

 さすがにこの状況で一人で飯を食べるのは気が引けるからな。

 俺は火魔法で釜戸に火をつけ調理を再開させる。 

 するとガリウスの表情が一変真剣な面持ちになった。


「お前、魔法を使えるのか?」


「えっと、まあ一応」


「魔獣使いは武器の扱いや魔法を不得手とする者が多い。だがお前は剣と盾を得物とし、更には魔法も自在に操る。うーん、お前は一体……」


 ガリウスの眼光が鋭さを増し俺を凝視してくる。

 もしかしてこのおっさん、好敵手を見つけたら戦わずにはいられない性質(たち)か?

 勘弁してくれ、俺はレベル10にも満たないただのペーペーだぞ。


「……いや、すまない。余計な詮索は止めておこう。ちなみにお前は冒険者ではないのか?」


「いえ、違いますね。ただの一般人です」


「それだけ多彩なスキルを擁してただの一般人は無いだろう……。だがそれならどうだ、レフィールの街で冒険者として活動してみないか?今は人手が足りなくてな」


「ふむ、冒険者ですか」

 

 どうやら俺が読んだ事のある小説のように、この世界にも冒険者ギルドというものは存在しているようだ。

 だが冒険者になれば当然身を危険に晒すような事態も起こり得るはず。 

 出来れば商売でもしながらのんびり過ごしたかったのだが、元手があるわけでも無いし、消去法でそうせざるを得ないのかもしれない。


「……考えておきます」


「おお、そうか。もし腹が決まったらレフィールの冒険者ギルドを訪ねてくれ。俺がマスターに口添えしてやるぞ」


 ガリウスはそう言うと俺の肩をバシバシと叩いてきた。

 物凄い力で肩が脱臼しそうになったが、俺は痛みを我慢しながら苦笑いを返す。

 

 その後は二人と一匹で夕食のひと時を楽しんだ。

 だが楽しい時間も束の間、俺はその夜、ガリウスの地鳴りのようなイビキのせいで一睡もする事が出来なかった。

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