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凡人異世界に降り立つ

 頬に当たる風の感触と葉擦れの音で俺の意識は徐々に覚醒していく。

 

 ゆっくりと目を開けると視界には奇麗な青空が広がっていた。

 上体を起こし辺りを見回してみると、どうやらここが森の中だという事がわかった。

 

 「……ここは?」


 声を発した時、俺は妙な違和感を覚えた。

 普段よりも声が少し高いような気がしたのだ。

 

 「ところで俺どうなったんだ?」

 

 俺はゆっくりと記憶を巡らす。

 鉄筋の下敷きになってから意識を失い、その後神様と名乗る妙な人物と話をしたところまでは覚えている。

 

 「……ここが異世界なのか?」

 

 明晰夢にしてはどうもリアルすぎる。

 事実、俺は自分の足でこんな場所まで来た覚えは無い。

 どうやら俺は本当に異世界に来てしまったらしい。


 俺は立ち上がり、ぐぐっと伸びを一つしてみる。

 そしてふと足元に目を向けると、まるで投げ捨てられたかのように物が散乱していた。


 しゃがんで確認してみると、そこには鞘に収められた刃渡り60センチ程の銅製の剣と木製の円形の盾、それと革製のリュックが置いてあった。

 紐を解いてリュックを開けてみると、中には銀貨が二十枚ほど入っている小さな革袋と「異世界の歩き方」と書かれた小さな冊子が入っているだけだった。


 「……ちょっと待て。たったこれだけでどうしろと」

 

 サバイバル経験なんて学生の頃の野外活動と会社の企画で行ったバーベキューくらいのものだ。

 そんな俺にたったこれだけで生き延びろとは酷な話にも程がある。

 

 俺は神様(仮)に対する恨み節を口にしながら一つずつ装備品を身に着けていく。

 幸い裸ではなく冒険者風の服を着ていたので、他人の目には駆け出しの冒険者のように映るだろうか。

 

 一先ず俺は鞄の中から冊子を取り出し表紙をめくってみる。

 すると1ページ目に殴り書きのような文字でこう書かれていた。



 「これを目にしているという事は森の魔物に食われてはいないようね。

 ここにこの世界で生きる為の最低限の事を書き記しておくから後は自分の力で何とかしなさい。

 貴方がこの世界で普通(・・)の人生を送れるよう天から祈っているわ」

  


 ……これは酷い。

 もしかして俺が言う事を聞かなかった事に対する嫌がらせなのか?

 神様なのに器が小さすぎるだろ!


 「ああ、畜生ッ」


 俺は破れかぶれになり、銅製の剣を鞘から抜き払い虚空に向けてブンと一振りした。

 すると次の瞬間、脳内でアナウンスが流れた。


 ・剣術G級を習得しました


 「な、何だ今の声」


 俺は試しにもう一度剣を振ってみるが何も起こらない。

 そして三度剣を振ると再びアナウンスが脳内に響いた。


 ・剣術F級を習得しました


 今度はF級だ。

 これってもしかしてスキルってやつか?

 G級からF級って事は、最終的にはA級になるんだろうか? 


 あれこれ考えながら適当に剣を振っていると身体に妙な違和感を覚える。


 「あれ、何だか剣の振り方がわかるぞ」


 生前の俺に剣道の嗜みなんて一切無い。

 だがスキルがF級になった瞬間、自然と剣の扱い方がわかるようになったのだ。

 まるで何年も練習していた動きがこの身体に染み付いているような、そんな感覚だ。


 そのまま適当に剣を振り回してると先程のアナウンスが何度か頭の中で流れ、最終的に剣術がC級まで上がった。

 だがC級になってからは何度剣を振ってもアナウンスが流れる事は無かった。


 俺は一旦剣を鞘に収め、もう一度冊子を手に取り読み進めていく。

 すると興味深い項目が目に留まった。

 どうやらこの世界にはステータスという概念が存在し、経験を積む事でレベルやスキルが上がったりするらしい。

 まあこれもテンプレと言えばテンプレか。


 俺は冊子の説明通りに、頭の中でステータスオープンと念じてみる。

 すると次の瞬間、目の前に透明なパネルのようなものが現れた。


 「うお、ビックリした」


 突如虚空に現れたパネルに俺は驚きを隠せなかったが、恐らくこれに今の俺のステータスが記されているんだろう。

 そう思い俺はそのパネルを覗き込んでみる。

 

------------------------------


レイジ セドウ 15歳(♂) 人族


レベル:1


HP:30

MP:10


筋力:10

体力:10

敏捷:10

魔力:10


スキル


・剣術C級


ユニークスキル


・スキルブースター(並)


加護


・なし


------------------------------

 


 なるほど、これは弱い。

 寝ている間に魔物に襲われてたら即あの世行きだったな。

 それに俺年齢が15歳になってるぞ。

 さっき感じた声の違和感はこれが原因か。 

 

 というかスキルブースター(並)って何だ?

 ユニークスキルって事は俺だけの固有スキルという事だろうか。


 パネルを見ながらあれこれ考えていると、突如俺の背後からざざっと激しい葉擦れの音がした。

 恐る恐る振り向いてみると、草陰から一匹のスライムが現れた。

 

 「おお、スライムだ。さすが異世界」


 俺が初めてみるスライムに感動してるとそれも束の間 突然目の前のスライムが俺めがけて飛び掛かってきた。

 

 「うおッ!」

 

 俺はスライムの攻撃をギリギリのところで避け、剣を握ったまま咄嗟に殴打で牽制した。

 すると先程のアナウンスが再び脳内で流れた。


 ・体術G級を習得しました

 

 今度は体術か。今の殴打で習得したのか?

 整理したい事だらけだが、とりあえず今はコイツを何とかしないと。

 俺は剣と盾を構え、スライムの追撃に備える。

 

 スライムは再び俺めがけて突進してくるが、俺はその攻撃を何とか盾で受け止めた。

 ズンという重たい衝撃が身体に伝わるが何とかその場で持ち堪える。

 

 ・盾術G級を習得しました


 脳内でアナウンスが流れ、盾術がG級に上がった事を俺に伝える。

 そして何度かスライムの攻撃を受けている内に盾術がC級まで上がった。

 盾術がC級になると攻撃のいなし方がわかり、スライムの攻撃はもはや脅威では無くなっていた。

  

 だがさすがにこのままではキリがないので、今度は俺から仕掛けてみる。

 スライムが飛び掛かってきたところを盾で弾き、スライムが怯んだ隙に蹴りを一発お見舞いした。

 

 「もう一丁!」


 俺は追撃してもう一発蹴りを食らわせると、スライムは吹き飛んで木に激突しそのまま動かなくなった。

 するとまたもや脳内でアナウンスが流れる。

  

 ・体術F級を習得しました。


 そのアナウンスを聞いて、俺は一つの仮説を立ててみる。

 恐らくだがスキルブースター(並)は、スキルを短時間でC級までブーストさせる効果があるのだろう。

 他にどんなスキルがあるかはわからないが、どうやらこの世界での俺は魔力を有しているらしい。

 という事は魔法系のスキルもC級まで一気にブースト出来るのか?

 ……ちょっと待て、もしそうだとすればこれってそこそこのチートじゃないか?

 確かに普通が良いとは言ったが、何だか意味を取り違えられているような気がするぞ。 


 あれこれ考えていると、目の前のスライムが突如活動を再開させた。

 俺はそれを見て再び剣と盾を構える。

 だが何だか様子がおかしい。一向に攻撃してこようとしないのだ。


 俺は恐る恐るスライムに近づいてみるがやはり何もしてこない。

 その場でただぷるぷると身体を震わせているだけだ。 

 俺は思い切ってその身体に触れてみる。

 するとひんやりした感覚が手に伝わったその刹那、スライムに触れている部分がぽうと光った。


 ・テイミングG級を習得しました

 ・スライム(♀)の従属に成功しました


 「……はい?」


 理解が追いつかないでいると、目の前のスライムがずりずりと俺の身体をよじ登り、喜びを表すかのように肩の上でぷるぷると震えながら頬ずりをしてきた。

 

 どうやら俺はこのスライム(♀)のご主人様になったらしい。


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