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私の名前は朱鷺子

作者: レシラム

ー名前って何だろうー


私はふよふよ飛びながら、そんなことを考えていた。

最近、ぼーっと考え事をしてばかりで木にぶつかる回数が多くなってしまった。

そんな風なことを考えていると、

「イテッ」

という声が自分の口から漏れ、ついでに頭に痛みも来た。

今日はもう4回目だ、そう思いながら頭をさする。

痛みが引くまで待ってから顔を上げると、

「香霖堂」と書かれた看板によって、かろうじて店だと分かる建物があった。

あいかわらず汚く、物置の延長線上にあるような気までしてくる。

しかし、この物置の延長線上に通うこと1ヶ月ほどになりそうな私も私だった。

何故か考え事をしているとここに来てしまっている。そうして過ごしてそろそろ1ヶ月なのだった。

私ははあ、と小さくため息を吐きながら、障子を開ける。

「いらっしゃい。・・なんだ君か。」

皮肉のこもった挨拶をスルーし、本を適当に見繕っていつもの指定席に座る。

「今日は4回。」

私はその言葉にはっ、として顔を上げる。それを見て香霖堂の店主は悪戯っぽい笑顔を向ける。

「図星ってとこだね。僕も通われてしまうと分かってくるんだよ。」

そう言いながらお茶を淹れて、私に渡してくる。

小さく会釈してからそれを受け取り、口に含む。外が寒かったのでお茶が温かく、丁度よかった。

「さて約束の日なんだが、君は覚えてるかい?」

お茶を飲み込んだ瞬間に言われ、ごほごほとむせてしまった。急に言わないで欲しかった。

「な、なにの日だっけ?」

「この香霖堂で壊したものの弁償をする日だよ。」

え?、誰が聞いても疑問符がついていると分かる発音だった。私はここで物を壊した覚えはなかった。

「正確には霊夢が、だけどね。君、忘れたのかい?あれを霊夢に言うんだろう?」

私はその一言で全て思い出した。そして今まで抱えていたモヤモヤの原因がわかった。


ー私は霊夢さんに名前を覚えて欲しかったのだー


今から1ヶ月前。私にまだ「朱鷺子」という名前がなかった頃、ついでに指定席もなかった頃。

私は本を読むためにこの香霖堂に来て、隅っこで小さくなりながら本を読んでいた。

そんなある日、ガラガラッと障子が勢いよく開き、私はその音に反応して顔を上げた。

「霖之助さん、居る?」

「いらっしゃい。なんだ霊夢か、今日は何の用だい?」

その会話は私からすると新鮮なものだった。あの無口な店主が自然に会話をしていたのだから。

私にも挨拶はするし、話しかけはするのだが、さっきの会話ほどリズミカルではなかった。

その時、霊夢さんに興味が湧いたのだった。

「お茶が切れそうなのよ。だから貰おうと思ってね。」

そう言いながら、すでに霊夢さんの手にはお茶っぱの入った缶が握られていた。

「あ、もちろんツケでよろしくね。」

「ああ、わかったよ。ちゃんと払ってくれることを信じてるよ。」

もちろん、と答えつつ霊夢さんは香霖堂を出て行った。

「はあ、霊夢のツケ帳はドコだっけ・・」

独り言を言いながら、ツケ帳を探している店主に話しかける。

「あ、あの・・」言葉がうまく続かなかった。

「ん?どうかしたかい?お茶なら少し待っててくれるかな。」

私は、見当違いのこと言ってくる店主に慌てて答える。

「い、いやそうじゃなくて・・さっきの人のことなんだけど・・」

「霊夢のことかい?お茶っぱならよく取られるから気にしなくていいよ。」

またも見当違いだ。鈍感と言うか、何と言うかだった。

結局、自分が霊夢さんに興味があるということを伝えるのに、似たような会話を何回も繰り返すはめになった。

「そうか。つまり、君は霊夢と話してみたいということだね?」

「多分、それであってると思う。」

私自身、自分の気持ちがよくわかっていなかったのでこんな答えになってしまった。

「それなら、名前を覚えてもらうのはどうだい?」

へ? 変な声が出てしまった。なにせ、自分の名前なんてなかったし、考えたこともなかったからだった。

「そういえば名前を聞いたことなかったな。名前は何て言うんだい?」

「そ、その・・名前がないの。」

何故か赤裸々に言ってしまった。

「そうか・・いや、霊夢は異変などで知り合った人物の名前とかを忘れているところをみたことがないんだ。それに名は体を表すとも言うし、やっぱりあったほうがいいと思うんだが。」

そうは言われても自分の名前なんてよくわからないのが本音だった。

「なら店主が決めてよ。」

自分で考えることを早々に放棄し、店主に委ねることにした。

「はあ・・じゃあ、<朱鷺子>というのはどうだい?名は体を表すではなく、体は名を表すという感じだが。」

店主は照れ笑いのような、苦笑のような、なんともいえない笑みを浮かべつつ言った。


ーそうして私の名前は朱鷺子になったー


「思い出した。そういえばそうだったね。」

あの後、店主と話し合って1ヶ月後に言うと決めていたのだ。

私は霊夢さんに名前を覚えてもらう日を忘れてしまっていた。そして、思い出させてくれた店主に感謝した。

そしてガラガラッと障子が勢いよく開いた。





ここまで読んでいただきありがとうございます。

個人的には、朱鷺子ちゃんが可愛くて、健気なところを見せたかったのですがうまくいきませんでした・・

コメントで意見を言ってくださるとありがたいです。

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