終焉
終わり……終わりと言うのは切ないものである。
後追いで見始めて好きになった海外ドラマがいきなり打ち切りされて
「おいおい!!リアルタイムで見てたメリケンどもマジセンスねーな!!」
と何度、言ったことか……。
ゲーム実況動画の投稿者が途中で失踪して、何度悔し涙を呑んだことか……。
ダラダラと何年も連載を伸ばした長編漫画のエンディングが
すげぇどうでもいい終わり方で、唖然としたこともあった。
聞いていたバンドのオリジナルメンバーが一人抜けて、ごそっと音が変わり
ああ、これはもう俺が好きだったバンドじゃないんやな……。
と棚の奥に封印したことや、まあなんかそういうのが沢山あった。
「で、なんで作者が余り技で適当に書いたようなこのシリーズを
今さら終わらそうとしてるんですかい」
真っ黒な顔したどびんちゃが、燃え尽きて真っ白な顔をしている俺に話しかけている。
「こういうメタい終わり方をするアニメとかドラマとか小説は
総じてクソだ。前衛芸術系の自主制作映画とかでやれ。個人的な日記に書け」
「いや、それはわかってるんですけど、なんでですかい?」
「人生初の自作の創作物の終わりと言うのを経験したくなったらしい」
「わざわざシリーズそのものをクソにして?」
「人気がないから、まったく影響は無い。
そもそも人気が出る構造になっていないと言い張っている。
それなら人気の出る構造とやらを見せてもらおうか!!」
「無理でしょ。天才なら一年も書いてたらファンが居ますって。
というか書いている人間が、季節柄センチメンタルになってるんじゃないですか?」
「知らん。作品内のメタ発言は相当センスがいるからもう止めろ。
この作者には無理だ。残念ながら、本当に頭が悪いからな」
「ふーむ。まぁ、じゃあ、あっしは他作品にお邪魔しますかね」
「マイナーな自作品同士のコラボもサムいから止めろ。
だが、この作者は爆発するまで地雷原を歩き続けて、
吹っ飛んだ後もまた地雷原に這って行くからな。お前もどこかで再登場するかもしれん。
嬉々として創作マナーの禁忌しかやらんやつだ。
ついでに自爆するまで大風呂敷を広げるのは止めろ。
困ったら明日の自分に任せるのもやめろ。たまにはまともに他人を見習って書け。
わざとダメな事しかしませんよ。というポーズをやめろ」
「そうですかい。じゃあ、とりあえず、あっしはここらでお暇するとして。
どうでしたか、社会復帰する気は起きましたか?」
「そうだな。なんでこの白い家に居たのか思い出したよ」
「なんでですか?」
俺は高く白い天井を見上げる。
「情景描写が面倒だからだ」
「……あれま。意外と単純ですね」
「だが、あれだ。思い出したんだよ。どびんちゃ」
「旦那、何ですかい」
「俺たちこそが、この物語の染みなんだよ。
まさに文字とは、紙に染み付いたシミだ」
「ああ、そういう微妙に上手いこと言ってる感じで
実はまったく言えてない、歯にものが詰まったような、オチで終わらせようと」
「うむ。この会話を上手く落とせる自信がない」
「あれですよ。旦那あれです」
「なんだ」
「書いていると段々集中力と血糖値が落ちてきて、
そのうち眠くなって、最後は『なんで……俺、書いてんだろうな』という感じのアレですよ」
「言いようの無い虚無感的な?」
「それですよ。つまり天井のシミというのはあれなんですよ」
「そうかあれか、つまりはアレだな」
「アレですよ。わかるでしょあれですよ」
「そうかあれだな。分かってるぞ、あれだよな」
「そうなんですよあれです。つまりはあれとこれが合わさって
それになる的なあれですよ」
「そうかあれが合わさって、それになってアレになって
そしてアレとそれが引かれてこれになる感じか」
「つまりはそういうことですよ。何と言うかあれと何が合わさったそれですよ」
「……さっぱり分からん……というかネタが古いよな……五十年代くらいからありそうな……」
「あれですよ。アレです。
形而上的な概念が合わさった無機的な亜空間を漂う虚数空間の裏宇宙に存在する
反物質を合成した暗黒物質を多角的に反応させた末に出来た平行宇宙に現れた
ホワイトホールから出てきたウンコみたいなもんですよ」
「……要するに排泄物なのね……シモネタで誤魔化すのね……」
「そういうくだらなさこそがオチに相応しいのではないかと」
「いや、やはり終わらせるためには天井のシミというものについて
多角的な検証が必要なのではないのだろうか」
「わかりやした。去る前にあっしもつきあいやしょう」
どびんちゃは一升瓶を、床にドンッと置いて
胡坐をかいて座った。俺も正座してどびんちゃに向きなおす。
「見つめ続けると、色んな物が出てくる魔法の天井だ」
白い天井を俺は見つめる。
「そうですね。そういうことでしたね」
「つまりは天井のシミを見続けていると
世界を創造することも可能なのではないか」
「もちろんそうでしょう」
「しかし、人の想像力と言うものはそう簡単にはいかないということはわかった。
斜め上の結果にしかならない」
「……旦那ァ。旦那はこの世界を塗り替えたいんでしょう?」
「もちろんそうだ。こんな非モテの無職で一生終われるか。
しかし現実はどうしようもない。ということはつまり天井を見つめ続けて
世の中に革命を起こすしかないんだよ!!」
「物凄い気が狂っているのは置いといて、まぁ、その行為自体は、いいとしましょう」
「うむ。どう考えても、ジャスティスだろう」
「なんか別の表現方法はどうですかい?例えばネット小説を連載するとか」
「無理だ。面倒くさい。そんな賽の河原の石を積むような事出来るか」
「そこまでですかねぇ」
「当たったところで何も変わらないわ!たぶん、お小遣い程度の印税が入るくらいだよ!」
「わっかりやした。つまりは天井しかありませんね……旦那には天井しか……ぶっ」
口を押さえて爆笑しているどびんちゃは放っておいて、俺は決意を決める。
「よし!!やる気になった!!」
「旦那!!ついに!!ハロワに行く気に!!真っ当な社会人に戻るんですね」
「天井から理想の美女を召喚する」
「……」
「どうした。天井から理想の美女を召喚するぞ。ちなみに召還じゃないぞ。気をつけろ」
「目的が一話に戻ってますぜ……」
「今度は成功させる見ておけ。本気の俺を舐めるな」
俺はそれから、天井のシミを探してジッと見つめ続ける。
……
五時間後
「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」
どびんちゃも腰を抜かしている。俺はとうとうお姉ちゃんの召喚に成功した。
美人ではないが、スリムな服装の容姿が中の中くらいの人間の女性だ。
「俺がお前の創造神だ!!とりあえず脱いで!!全裸になって!!
おっぱいおっぱい!!」
次の瞬間、天井のシミから創造したお姉ちゃんは、俺の頬を思いっきり引っぱたいた。
そして
「キモ」
と一言吐き捨て部屋から出て行った。
久しぶりの「キモ」の一言に俺は部屋で転がってのた打ち回る。
「ぐうううううううう、あああああ心がああああああ心が折れるううううう」
「だだだだ旦那、こんな時は飲むに限りますよ!!」
どびんちゃから受け取った日本酒の一升瓶をラッパ飲みした俺は意識を失う。
救急車で搬送されていくとき
俺は夢を見ていた。
転生して異世界で勇者になって戦う夢だ。
めっちゃつよい。無敵である。言い寄ってくる女の子も抱きまくりだ。
そうか……異世界転生物だったらよかったのか……前提から気狂いファンタジーだから
もてないのか……お……れ……も……異世界に……行き……た……。
七年後。
「ええ。妻です。宝島ナカロウの妻です」
「そうですかい。あっしは土瓶と申します。後見人です」
「主人はもうダメなのですか?」
「ええ、酒の一気飲みで脳梗塞起こしまして
そのまま半植物人間に……」
俺は病院の中庭で涎を垂らしながら、車椅子に乗っていた。
そして近くのベンチに座る二人の会話を聞いている。
「倫子さん。どうして旦那は、こうなってしまったんですかい?」
「主人はいつも……どこか、夢見がちで……」
「そうですか……」
「私が私が悪いんです……主人が失踪して……」
誰だあれ。非モテで無職の俺に永遠にリアル妻なんかできるわけないだろう。
「子供たちも連れて来たんです……」
「まぁ、可愛い子達ですね」
「お父さん!!」「お父さんだ!!」
一斉に女子高生や中学生が俺の居る車椅子に近寄ってくる。
子供?いや、お前らどこかで……。
「お父さん!!私ね、総理大臣の心を征服したんだよー」
「お父さん!!操った人に不正に資金を引き出させて、億万長者になったよ!!」
次々に無邪気な顔で、恐ろしいことを報告してくる娘たちに
俺は気付いてしまった。
こいつら全員……。お前ら俺がこん睡状態だったのをいいことに
勝手に話の設定を作り変えて……。
「旦那……これからはあっしらが、旦那の代わりに
現実を塗り替えますからね」
「あなた……私たちに任せてね。現実を塗り替えて見せるわ」
くそ、このままでは、一昔前の青年誌の漫画とかによくある
構成的には上手く纏まっているけど、読者的には胸糞が悪い
長々と読んだことを損した気になる、
勘違いしたアンハッピーエンドっぽい終わりになってしまう!!
それだけは避けねば!!文脈も構成もくそくらえだ!!
何が芸術だ!!貴様のオナニーのためにバッドエンドにするくらいなら創作で長編をかくな!!
史記とか、ヨーロッパの中世の実話でもかいとけ!!悲惨な話が山ほどあるわ!!
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
俺は渾身の力を振り絞って、車椅子から立ち上がった。
「だ、旦那」
「あ、あなた……」
「お父さん!!」「お父さんが起った!!もとい、立った!!」
「俺も混ぜろ!!創造神の俺にも貴様らの社会的不正の甘い汁を吸わせて
良い思いをさせていけ!!」
「もちろんですとも!!」
「任せといて!!」
こうして、俺は妄想の産物どもの手を借りて
社会復帰を果たした。
とはいえ、億万長者の工場のイモ剥きのバイトというよく分からん立場だが。
ハロワにはブランクが長すぎて職がひとつも無かった。
気まぐれで近所のスーパーに貼ってあったチラシの電話番号にかけたら即採用されたのだ。
そして今は工場のおばちゃんたちと楽しくやっている。
妄想の産物どもは今日も社会悪として元気に頑張って金を稼いでいる。
俺がイモ剥きで稼ぐ時給の数百倍の金をだ。考えたら嫌になるので
俺は考えるのをやめた。
昼は工場のイモ剥き、夜は豪邸での闇社会の住人たちとのパーティーというよくわからん
二重生活をしながら、俺は今日も元気に生きている。
……みなさんも人生に行き詰ったら、天井のシミを見てみるのはどうですか。
そのシミによって、人生に革命が起きるかもしれませんよ。
(※何もおきなくても、当方では責任は負えません)
終わり。




