内的宇宙
気付くと俺は宇宙の中を漂っていた。
どびんちゃが隣で平泳ぎしながらついてくる。
「おい、クソ虫、これはどういうことだ」
「クソ虫じゃなくて、どびんちゃです」
「うむ。知ってる」
「ここは……旦那のインナースペース、内なる宇宙でござんす」
どびんちゃは宇宙の中を漂う星や、銀河を見回しながら
気持ち悪い顔を気持ち悪く歪ませて気持ち良さそうに語る。
「天井に沸いてきた大量の女もどきはどうなったのだ」
「リアル世界で旦那の身体を侵食していまっさー」
「そうか……」
「……いや!!そうではない!早く戻らねばいかんのではないか!!」
「どうせ手遅れなので、しばらく楽しみましょうよ」
「おい……」
いや、しかし、こう……ぶっちゃけリアル世界なんてリアル俺なんて
どうでもいいのではないかと、思ってしまう。
幻覚ですら俺の思い通りにならんのだ。
どうせ幻覚や錯覚や、妄想すらも現実の脳の仕組みに支配されているのだろう?
くだらん。じつにくだらん!!自由なんてどこにもないじゃないか!!
何が理想の女子だ!!何が脳内妄想こそジャスティスだ!!
何が二次元こそは理想郷だ!!
ファッキン!!俺にとってこの世は地獄でしかないのか!!
「旦那ー。あの星なんてどうですかー?」
どびんちゃがクソキモい顔についたナイスバディのシルエットの身体で指を指す。
「むむ。青いな。空気はあるのか」
「原始星なので一酸化炭素ですけど、ありますよ。
そもそも我々は空気吸う必要ないっす。どうせ抽象的存在にすぎないので」
俺とどびんちゃは足をロケットに変形させて
フルバーストでその星の大気圏に突入した。
摩擦で周囲が赤く光りまくる。
「うむ。熱くないな。所詮は夢か」
「そうです。全てはゆめまぼろしですぜ」
どびんちゃは相変わらず平泳ぎしている。
そのままの勢いで俺たちは星の中の海へと突入した。
その中では眼や角だらけのグロい原始生物たちが泳ぎまわっている。
まったく息苦しくはないが、生物たちは我々を避けて通るので
一応認知はされているようだ。
「旦那……進化させ放題ですぜ。今なら」
「……!!」
どびんちゃは策士だったらしい。やるではないか。
要するに一から世界を造れば、俺の好き放題にできるのではないかと提案しているのだ。
クソキモイけどやるではないか。キモイけど、信じられないぐらいキモイけど。
「旦那……一応褒めてくださいよぅ……」
「うむ……えらい、よくやった。キモイけど」
「最後の言葉は聞かなかったことにします……」
俺は周囲のグロさを極めつつ好きに泳ぎ回る原始生物たちを見回しながら、
「どれをフィーチャーすれば、何万年後かに理想の女子が生まれるのだ?」
と、どびんちゃに尋ねる。
「んー」
どびんちゃは、それらを見回しながら、
「これっすかねぇ……」
自信なさげに、一匹の赤色に発光するクラゲを手にとった。
「よし、俺はよくわからんから、お前に任した」
俺は海底でそのまま何万年かしらんが寝ることにした。
……
「旦那ー旦那ー。もう一億年過ぎましたよー」
俺はよくわからん、砂と岩しかない星で目覚めた。
身体は真っ赤な砂まみれである。
「おい、どびんちゃ……」
「いや、何か結構いい線いってたんですが……」
どびんちゃが説明した話はこうだ。
クラゲを元にして九千九百万年かけて人型生物に進化させた。
透明な肌を持つ人間みたいな生き物が沢山地上に生まれ
そこで俺を起こそうとしたが、まだムキムキマッチョの女性しかいなかったので
あえてやめた。
「うむ。いわゆる原始人か」
「そうでごさんす」
「ナイス判断だ。原始人は俺の好みではない」
「よかった。話を続けます」
そしてどびんちゃは理想の桃源境を造るために教化しようと
原始人たちの神となり、
それぞれの地域に応じた宗教を与えたそうだ。
「どんな宗教だ」
「どばみと教と、どばまん教と、どばかえし教とその他三百くらいですね」
「多すぎないか?」
「大きな星ですし、そのくらいいるんですって」
どびんちゃは言い訳がましく俺に申し立ててから
「でも、それがいけなかったんです……」
「やっぱりな、多すぎるわ」
「いや数と言うか……」
それぞれの地域の宗教により教化され人格をもった人型クラゲ人たちは
やがて文化をもち、大小様々な争いなどを経て
最終的に肌の色で四つの地域に分かれた。
「ふむ。むしろそこで起こせ。もう原始人はおらんだろうが」
「そのころには"神"としてむあっちゃこっちゃ飛び回ってて……」
「俺の存在を忘れていたのであろう」
「はい……」
さすが物の怪である。楽しさにかまけて最初の目的を完全に忘れている。
やはりインナースペースにすら俺の居場所はなかったのか
どこにいけば理想の女子に会えるのか……。
「で、旦那の予想した通りだと思います」
広大な赤茶けた荒野をバックにどびんちゃは手を広げてため息を吐く。
「戦争での滅亡ね。これだから三次元的リアル展開はいかんのだ。
生々しすぎる上に超展開の連続で、小説にもならん」
みんなもインナースペース内でリアリティを追求するのはやめような!!
悲しい結果にしかならないぞ!!
そこで俺はあることを突如、思い出す。
ふふ、俺もどびんちゃと同じレベルだったな。
「おい、どびんちゃ。ここは俺のインナースペースだよな」
「ですよ旦那……あっ」
「気付いたか」
俺はニヤリと笑う。
「まずは貴様の記憶をよこせ。クソ虫め」
「サー!!イエッサー!!……これで合ってます?」
どびんちゃは元々俺の妄想の産物である。
その程度は容易いはずだ。
どびんちゃに額に手を当てられ、俺はやつの記憶を流し込まれる。
ふむ。クラゲ人間どもは悪くない容姿だな。
上手くすれば性的興奮も可能かもしれない。
ちなみに俺はケモナー(獣人愛好者)でもないしゲイでもない。
ただの極普通の異性愛者である。もてないだけだよ!!
もてないだけなんだよ……。
ぶっちゃけ女性で原始人でなければ
クラゲ人間でも獣人でもいいんだよ……。男と化け物は絶対いやだが……
「旦那、差別主義者と勘違いされますぜ」
額に手を当て続けているどびんちゃが囁く。
「うむ。性的マイノリティも障碍者の方々もふつうに何とも思わん
にこやかに頭を下げられれば下げ返すし、不快な態度を取られれば腹も立つ
同じ人間としてそれだけだ。どびんちゃみたいに化け物からは逃げるけどな!!」
俺は誰に申し開いているんだ!!
これだから一人称オンリーはだめだ。
無駄に場面をかえまくり、国家間の争いが絡み、
三人称を使いまくる大作になりたい。
こうなんというかとっくに枯渇したアイデアを
考えてもいなかった設定を勝手に作りまくる登場人物に助けられて、
ほぼ自動書記状態で、書き続けられている群像劇的なあれだ。
にゃんなんとかさんの書いているあれだよ!!
ちなみに主要登場人物が死んだ時はショックだったらしいよ。
まったく予定していなかったらしい。
逆に作中で殺そうと思ったら全員生き残ったり
つまり自らの創作物すら作者の思い通りにはならんのだ!!
この世は地獄か!!救いはどこにあるのだ!!
よし、ぐたぐだと見知らぬ誰かのことを考えていたら記憶を貰ったぞ。
ふむ。クラゲ歴二千十七年にこの星の時を戻すか。
創造者なので宇宙の法則曲げ放題である。
「そいやっ」
気付くと元居た海底であった。
もう原始生物は繁殖していない。
「おい、どびんちゃ」
「旦那、なんですかい」
「どこに上陸したら理想の女子に出会えるのだ」
「ふーむ。旦那がどんな子を好きかによりますね」
「やはりクラゲ女子達もイケメンが好きなのか」
「残念ながら……」
うむ。面食いであるのは仕方ないが、
こう何と言うか優しくて知的な子がいい。顔は人並みならなんでもいいよ。
おじさんは女性に母性と癒しを求めることに決めたのだ。
よし、いくか。まずは人間行動である。
元気があれば何でもできる。昔の偉い人はそういった。
二日後……
「新生物発見!!進化論覆るか」
という見出しがクラゲ星中のネットやテレビを駆け巡り
俺はとある国家に厳重に監禁されていた。
全身を縛り付けられた皮製のベッドで隣に現れたどびんちゃが
「旦那ー、いきなりいっちゃいけませんぜ。
順序ってもんがあらぁ」
「うむ。しかし、神を監禁するとは
この世界は無駄に創作物的なリアリティがあるな」
「そんなもんですかねぇ」
「機械で腹開かれるのもいやだし、リセットかな」
「ですねーしかたねぇや」
「でゅらはっさっ」
こうして俺たちというかどびんちゃ一人が苦労して進化させたクラゲ星は、
ただの原始生物が泳ぐ水の惑星に戻ったのであった。
……
というところで俺は目が覚める。
もと居た真っ白な部屋だ。
なんだ。戻ってきたのか、見上げると天井には誰も居ない。
もしかして俺も正気に……
「旦那ー。あいつらどこにもいねぇや」
部屋のドアをガチャリと開けてどびんちゃが入ってくる。
「なんだ……貴様、まだ居たのか」
「そんなことよりあいつらいねぇんすよ。天井の化け物たち」
「お前も化け物だけどな」
「あっしのことはどうでもいいんです」
「とにかくわけわからんのが居なくなったことだし、酒飲んで寝よう」
「そうですね。酒盛りといきますか」
どびんちゃは俺の服を着て俺のキャップを被り、俺の花粉用マスクをして
俺の財布をもってコンビニに酒を買いに行った。
二人で飲むと二分の一になるがしかたない。
今回の働きだけは認めよう。
その数時間後に、俺のインナースペースの片隅では
俺の身体から心の内部に入り込んだ元天井の化け物たちと、
銀河をまたに駆ける正義の軍団の
ど派手な戦いが行われていたのだが
酔っ払った俺とどびんちゃには知る由もなかった……。




