7話 三方ヶ原
武田軍と無事合流した私達は、彼らと共に徳川領内を進軍していた。
「信玄公、この先の浜松城では、私たち浅井家の敵である織田と同盟を結んでいる徳川家康が立て籠もっているそうです。彼を今のうちに叩けば、後で織田と戦う時に有利になるかと」
「うむ、だからこそ、このまま浜松城は無視して進軍するつもりじゃよ」
え⁉︎ 無視するの⁉︎
「無視するのですか?倒さずに?」
「うむ、今は倒さぬよ。城攻めは兵を多く失うからの。まぁ見ておれ、きっと彼は掛かる」
どういうことか分からないけど、何か策があって、あえて無視するってことなのかな?
結局、浜松城を通り過ぎて、三方ヶ原までやって来た時だった。
私が信玄公の側にいた時、伝令が駆け寄って来た。
「申し上げます‼︎ 浜松城から徳川軍が続々と出撃して来ています。現在、我が軍後方の約2里程を追って来ている模様‼︎」
「続けて申し上げます‼︎ 我が軍後方を追走している徳川軍に、家康の姿を確認‼︎ 自ら先頭に立って追いかけて来ています‼︎」
「やはり出てきたか。家康め、若いのぉ。全軍これよりこの三方ヶ原にて、家康を迎え撃つ。忍達は徳川軍を後方から撹乱せよ」
なるほど、信玄公はこの時を狙っていたのね。
家康が無視された事に怒って城から出てこれば、武田軍の精鋭騎馬隊は広い戦場で本領発揮して戦える。
「さてと、そんじゃあ家康を懲らしめてやろうかの」
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武田軍の斥候が信玄に伝令に行く少し前。
浜松城では、家康が激怒していた。
「ぐぬぬ、信玄め。こっちが臆病なだけの集団だと思って馬鹿にして…‼︎ 全軍出撃だ‼︎ 武田軍を追うぞ!」
「お待ちください殿‼︎ これは信玄公の罠です。今出撃しては向こうの思う壺ですぞ⁉︎」
「だからと言って、我が領地を堂々と通り過ぎていかれては、三河武士の恥だろう⁉︎ ええい、出撃だぁぁ‼︎」
誰か殿を止めてくれ…。
家康の家臣達は、そう思った。
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所変わって、武田陣営。
篠が偵察から戻ってきた。
「徳川さん、かなり追いかけて来てるけど、まだこちらの意図には気付いていないようだよ?」
「うん、了解。信玄公はもうすぐ攻撃を始めるみたい」
すでに家康の軍勢は、武田軍の後方の部隊と交戦し始めている。
どうやら、鶴翼の陣でこちらを攻めているようだけど、信玄公はもう魚鱗の陣をいつでも組めるような配置で部隊を展開してる。
あとは、好機を見極めるだけ…。
「鶴翼には魚鱗、確か大陸の八陣にある戦法でしたね」
「うむ、そして家康はワシらよりも兵が少ない。その状況での鶴翼は自殺行為なのだがの…」
その時だった。合図の狼煙が上がったのを見て、信玄公は命令を下した。
「よし。全軍、これより魚鱗の陣で徳川軍を分断および殲滅せよ‼︎」
「いよいよ反撃ですね?私達も加勢します。
暦、信玄公の元に待機して、何かあれば伝えに来て」
「はっ、了解しました‼︎」
「それじゃ夢、篠、一緒に行くよ‼︎」
「「はい‼︎」」
さてと、敵を倒しに行こうか。
私達は長政様にあまり前線には出るなって言われてるけど、少しくらいは武田の人達にも貢献しなきゃね。
「篠、今日は撹乱は武田の忍がしてくれてるそうだから、私と一緒に先陣やるよ‼︎」」
「はぁい、恵様と一緒だね、ちゃちゃっと片付けちゃおっ‼︎」
「では、私はいつも通り、恵様達の援護をしますわ」
「うん、2人共、よろしくね‼︎」
早速、敵さんが見えてきた。
姉川での借りは返す‼︎
「恵様、姉川の時のあの男、もしかしたらここでまた会うかもしれません。その時は…」
「うん、今度は油断せずに慎重にやるよ」
「はい、無理せずに気を付けていきましょう」
私達が攻勢に出てすぐに徳川軍の前線が崩壊し始めた。
それはあっという間に徳川全軍に伝播し、やがて家康が逃走し始めたと伝令が入った。
途中、何人もの敵将を討ち取りながら、私達は家康を攻め続けた。
「家康さん、逃げ出したみたいね」
「ええ、現在武田軍の前線部隊が追撃しているそうですが、どうやら逃げ切られるようです」
「恵様〜、あたしが先行して捕まえる?」
そうしてもいいけど、危険だしね…。
「それは出来ぬ。汝らはここで終わりだ…」
そう聞こえた瞬間、黒装束が突然乱入してきた。
「やっぱり、そろそろ来ると思ってたよ。黒装束の忍さん?」
「我はそのような名ではない…」
それだけ言うと、またいきなり斬りかかってくる。
でも、もう攻撃してくるパターンは見切っちゃってるんだよね。
軽くそれをいなし瞬時に距離を取って、また彼と対峙した。
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所変わり、武田本陣。
「暦、だったかの?」
「はっ、信玄公。何かございましたか?」
「いや、少し嫌な予感がしての。何かがこちらに向かって来ているやもしれぬ」
「分かりました。少し周囲を確認して参ります」
そう言い、暦が信玄公の側を一旦離れ、周囲の確認に向かった後。
信玄は突然、近くの木に手を掛けてしゃがみ込んだ。
「…ごほっごほ、ワシもそろそろ年貢の納め時かの…。このままじゃと京まではもたぬ、か…」
信玄の身体は、すでに病に冒されていた…。
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暦が信玄公の側を離れていた頃。
「くっ、相変わらず強いわね…」
「まさかここまで汝が成長していたとはな。これ以上時間は掛けられぬ。また会おう…」
「ま、待ちなさい‼︎ …行っちゃったか。2人とも、無事みたいね」
「ええ、なんとか。ですが、奴は一体何者なのでしょうか…」
「ホント、滅茶苦茶強いくせに、毎回時間だ…とかってカッコつけて。何がしたいんだろね」
でもまた生き残った。そこは幸いだったかな。
一旦本陣に戻った私達を暦が迎えた。
「恵様、信玄公が…」
何かあったの⁉︎
そう思い天幕内側に入ると、信玄公が木に凭れて倒れていた。
「信玄公⁉︎ 大丈夫ですか⁉︎」
「そなた、か…。すまぬが主力部隊を呼び戻して、いくつかは周囲の警戒にあたらせてくれ」
「それは構いませんが、信玄公は?」
「そなたら浅井には悪いが、ワシはここまでじゃ。あとは勝頼に任す…」
そして、同時に早馬が来た。
「紅月様、大至急小谷城に帰還して下さい‼︎」
「何かあったの⁉︎」
「小谷城が……織田に…」
「織田がどうしたの⁉︎」
「完全に、織田に包囲されています…‼︎」
物語はまだまだ序盤。
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