6話 序曲
小谷城に戻って来ると、お市様が出迎えてくれた。
「お市、義兄上は逃してしまった」
「長政様、やはり兄は一筋縄ではいきませんか…」
「あぁ、やはり義兄上はお強い。だが、もう引き返すことは出来ない。そなたには辛いだろうが、義兄上は僕が倒す」
「浅井に嫁いだ時から、覚悟は出来ています。
お気になさらないでください」
長政様達は私達が守らなきゃ。
早く織田を倒さないとね。
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朝倉殿が小谷城に到着した。
「ははは、長政殿よくやってくれたな‼︎ これから奴らに一泡吹かせてやろうぞ‼︎」
「援軍ありがとう、義景殿。おかげで義兄上を今度こそ倒せる」
「おう、我らの前に敵はなしじゃぁ‼︎」
これでまた織田と戦える。
今度は逃さないよ、信長‼︎
戦支度が終わる頃、浅井の城である織田との前線拠点、横山城が攻められていると伝令が来た。
「恵、悪いが先に横山城の救援に向かってくれ。僕らも準備が終わり次第、姉川で織田を迎え撃つ‼︎」
「分かりました‼︎ すぐに横山城に向かいます」
ホント、織田さんも戦好きだね。
金ヶ崎では逃げられはしたけど、結構被害を与えたと思ってたんだけどな。
その後、横山城の救援に着いた時には、織田軍はすでに姉川に向かっていた。
そして、長政様達も姉川に到着しており、両岸から互いに睨み合ったまま、膠着していた。
私達が姉川に着いた夜、直径さんが私達の元を、訪ねて来た。
「恵殿。この姉川での戦い、おそらく我ら浅井にとって、今後が決まる大切な戦です。なので、私は織田に降ろうと思います」
「貴様どういう事だ⁉︎ 長政様を、恵様を見捨てる気か⁉︎」
「暦殿、最後まで聞いて下さい。大事なのは降ってからです。私は織田に投降したように見せ掛けて、信長の本陣を狙い、彼を討ちます。ですから、私が信長を討ち取るまで織田軍の攻撃を耐えていて頂きたい」
そんな、それってかなり無謀な作戦なんじゃ⁉︎
「恵殿、無謀なのは承知の上です。だからこそ、長政様の為に成さねばならない。どうか、よろしくお願いします」
そう言うと直径さんは織田軍の陣へ向かった。
その翌朝、私達は織田軍の陣へ突撃を始めていた。
「恵様〜、直径さんからお知らせだよっ!今信長の本陣に少しずつ進軍してるとこだって」
「ん、了解。こっちは…織田の12段の…陣を9段目まで…破ったよ‼︎」
敵を斬り倒しながらそう言い、なんとか11段まで破った時だった。
突然、一緒に進軍していた朝倉軍が崩壊し始めた。
「恵様っ、朝倉軍の側面から、徳川軍が…‼︎」
「まさか誘い込まれてた⁉︎ まずい、このままじゃ織田と徳川に囲まれる‼︎」
いつの間にか、退路が呑み込まれていた。
「篠っ、敵を内側から撹乱して‼︎ 夢は援護を、暦は私と正面突破するよ‼︎」
「「「了解‼︎‼︎」」」
目の前の敵を片っ端から斬り捨て、なんとか私と暦が囲みを突破し、直後に夢も飛び出した。
だが、篠が来ない。
やがて、敵が少し減り始めた時、篠が傷だらけで戻ってきた。
「篠⁉︎ 大丈夫⁉︎」
「…徳川の…忍が…‼︎」
「汝、浅井の者か?」
振り向くと、黒装束に覆面をした男が、短い刀を持って立っていた。
…いつの間に⁉︎
「ええ、私達は長政様の家臣。あなたが、徳川の…?」
「答える義理なし。敵と判断し、攻撃する…」
それだけ言うと、いきなり斬りかかってきた‼︎
それを辛うじて避けると暦が割り入り男に反撃した、がそれを避けた⁉︎
「貴様、只者じゃないな?夢、援護してくれ‼︎」
「やろうとしてますが、この者速すぎます⁉︎」
「夢っ、後ろ‼︎」
気付けば夢の真後ろに男が回り込んでいた。
とっさにしゃがんだ夢の上を男の短刀が斬り裂き、夢の髪が数本舞う。
その一瞬を突いて私が男に肉薄すると、それすら避けて、彼は逆に斬りかかってきた。
「みんな、一旦距離取るよっ‼︎」
なんとか彼を突き放し、そのまま距離を置くと、男は言った。
「時間だ、命拾いしたな。だが次は逃さん…」
そう言うと、彼は突然去っていった…。
「2人とも、怪我はない⁉︎」
「ええ、私は大丈夫です」
「私も問題ありませんよ」
「恵様、あいつだよ…。あいつがあたしを…」
「篠っ、とにかく急いで小谷城に戻って治療するから、がんばって‼︎」
「恵様、篠は私が」
「ありがとう暦。それじゃ急いで戻ろう‼︎」
暦が篠を背負い、私達は小谷城に帰還した。
篠が思ってた程の重傷ではなく、戦いから2カ月くらいで治ったのは不幸中の幸いだった。
だが結局、直径さんは戦死してしまった。
織田本陣へ突入する寸前で秀吉配下の軍師に見つかり、討ち取られたという…。
「ごめんなさい、直径さん。貴方の分まで私達が長政様をお守りします」
「きっと直径も天で僕らを見ているだろうな。これからは、今まで以上に厳しい戦いになるだろうが…」
「長政様、貴方とお市様は、私達がお守りしますから、どうかこれからもお仕えさせて下さい…」
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姉川での合戦からしばらく経った頃、長政様から呼び出しがあった。
「恵、そなた達にはこれから、武田信玄殿に加勢に行ってもらいたい。上洛の為に挙兵したと先程連絡があったのでな」
「武田信玄…って、甲斐の虎と呼ばれてて、越後の上杉謙信公と何度も戦ってる方ですよね⁉︎
とても強くてすごい方だと聞いた事がありますが…」
そんな方に加勢って必要なのかな…?
「まぁ、加勢とは言うが、実際は連絡係みたいなものだ。おそらく上洛する道中で、徳川家や、織田家の妨害が入るだろう。その時の戦法や用兵を見て来て欲しい。彼らの戦闘には参加してもいいが、無理はするなよ?」
なるほど、今後の織田との戦いを見据えて、先に参考に出来そうなものを見て来てくれ、という事ね。
「了解しました。信玄公の戦いぶり、しっかりと見てきます」
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「恵様、武田軍との合流地点ですが、あちらから使いの者が三河まで来てくれているそうです」
「三河か…確か徳川家康の領地だったよね?」
「えぇ、その徳川は現在織田と同盟を結んでいます。つまり…」
「敵地、か」
なんでそんな危険地域に合流地点を設定したんだろう。罠…ではないと思うけど、何か引っ掛かるな。
とはいえ、もう美濃(織田領)は突破して、あと少しで尾張(織田領)なんだよね。
すでに敵地を通ってるんだし何を今更、って感じなんだけどさ。
「とりあえず、篠はここからは少し先行して周囲の確認よろしくね」
「はーい、敵がいたらササッと無力化しとくよ‼︎」
「…無茶はしちゃダメだからね?」
毎回、篠って無茶なことするから心配だなぁ。
「そう言う恵様も大概無茶なことしてると思いますよ?」
夢、そんなこと言わないでよ…。
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待ち合わせの場所に着くと、1人の青年がいた。
「やっと来たか、遅かったじゃないですか。
俺は島左近。今は武田の客将ですよ」
「私は紅月恵と言います。浅井より加勢に参りました」
「加勢、ねぇ。たった4人、それも全員女の加勢とは、浅井さんも、ずいぶん余裕があるんですな」
会って早々、いきなり長政様を馬鹿にするの⁉︎
「いきなり長政様を…「貴様、長政様を愚弄するか⁉︎」」
あの…暦?
「会って少しも経つ前から、相手の仕える主君の暴言を吐くとはな。どうやら死にたいらしいが。恵様、この不届き者をどうしますか?」
「暦、熱くなり過ぎだよ。ですが左近殿、先の発言は取り消して下さい。女だからというなら、貴方は私に絶対勝てる、と思っているのだと考えて良いのですよね?」
「あぁ、確かに少し…いや、かなり考え無しな発言でしたな。だが、貴女に負けるとは思いませんね…。なんなら軽く模擬戦でもしましょうか?」
いいよ、言い出したのはそっちだからね?
軽く捻り潰してあげる。
「えぇ、ではやりましょうか」
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数分後、左近殿は吹っ飛ばされて倒れていた。
「いやはや完敗ですな、これは。先程の無礼、お詫びしますよ。ねぇ、見てんでしょう?…信玄公?」
「うむ、見事だの」
突然、私達の背後から声がした。
「全く、貴方も人が悪い。何もいきなりこんな事せんでもいいじゃないですか」
「ははは、そうは言ってもね、やっぱり実力があるか分からんと一緒に戦うとか出来んよ?」
…どういうこと?まさか…‼︎
「また、騙されちゃったのですね」
「うむ、悪いことをしたの。じゃがこれで後顧の憂はなくなった。進軍するとしようか」
そう、彼は言うと、最後に一言付け足した。
「あぁ、今更だけどね、儂が信玄じゃよ。君らの事、頼りにさせてもらうよ」
こうして無事?武田軍に合流した私達は、彼らとしばらくの間、行動することになるのだった。
この話から、甲斐の虎が参戦です。
そして、若き頃の島左近も登場します。
まだまだ戦国時代の武将や有名人が登場するので
知ってる方はニヤニヤしたりするシーンもあるかも?