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Gratia-紅き月の物語-  作者: 紅月涼
20/45

20話 北ノ庄

お待たせしました。

そろそろ第1章も中盤に入る頃です( ´ ▽ ` )ノ

まだまだ続くのでよろしくです(=゜ω゜)ノ

北ノ庄の居城に柴田軍敗北の報せが届いたのは、賤ヶ岳の戦いから数日経った頃だった。


その数日後に勝家とその側近、そして生き残ったわずかな兵が帰還したのだが、そこに無事な者はほとんどおらず、大半が傷を負っていた。


「おかえりなさい、勝家」

「すみませぬ、お市様。やはり…」

「いえ、こうなると貴方も分かっていたのでしょう?ならば、後は次の世代に任せるべきです。ただその相手がサルだった、それだけのこと」

「…姫君達はこの後、紅月殿が迎えに来てくれるそうです。お市様もどうかその時に、共に秀吉に降って下さい。この戦はわしが勝手に起こしたもの。それに、生き延びることが、長政の望みでもあったと思います故」


そう勝家が言うと、市は少し哀しげな表情を浮かべて言った。


「勝家、貴方は私が長政様との約束の為に、ここにいると思っているのですか…?」

「…お市様…」

「私は最期まで貴方にお供致します。娘達を恵に任せるのなら、安心して長政様の元にも報告出来るでしょうしね」


そう言った彼女の眼は、その決意がとても固いことを物語っていたのだった。

その後、勝家は最期の宴を開いた。

これまでで一番の、これ以上ない程の食材を惜しみなく使い、家臣達のこれまでの忠義に感謝を込めて振る舞った。


やがて場が落ち着いてきた頃に彼は少しずつ話し始めた。


「皆のこれまでの忠義、心から感謝している。これより我が軍は最期の戦いをする。生きたい者は去れ。やり残した事があるのなら生き延びよ。ワシと共に死にたい者以外は皆ここから逃げて新しい地で活躍してほしい」


そう言って見回すと会場は静まり返り、誰も口を開かずに時が過ぎていった。


「私は最期の時まで共におります。もとより、そのつもりでしたから」


そう誰かが言った。

そしてそれを皮切りに皆口々に声を上げた。


「俺も最期まで共にいます‼︎」

「自分も‼︎」

「私も覚悟は出来てます‼︎」


そうしてその場にいる大半の者が共にいると言った後。

柴田家家老の山中(やまなか)長俊(ながとし)はその中で生き延びることを選んだ。


「自分は例えどれ程汚名を被ろうと生きて、ここにいる皆の忠義心を後世に伝えなければなりません。皆がここで果てるのならば、自分は果てずにしぶとく生き延びてみせましょう」

「長俊…」

「勝家様。自分は書物を作って、ここの皆の事を伝えるつもりです」

「…そうか、その書物是非読んでみたいものだな。もしも完成したら、墓に供えてくれ」

「もちろんでございます」


その後、何人かも同じように生き延びることを選び、勝家は非難するどころかそれを認め、最後の俸禄を与えて彼らを逃した。

そして、この場に残ると言った者達にも感状を書き与え、彼らの武具を城下から職人を呼んで修理させたのだった。


ーーーーーーーーーー


その頃、私は秀吉殿に柴田攻めの前に姫君たちの救出と、攻略の時の先鋒に加えてもらえるようにお願いに行った。


「そないな事、聞かんでもええで?お前さん達に協力を求めることはあっても、指示する気なんてあらへんからな。やりたいこと、やらなきゃいけないことがあるならそれを思う存分やってくれりゃええ」


そう彼は笑いながら言うと、逆に姫君たちの救出をお願いしてきた。

当然私達が行きますとも。

だってあの3人の姫君たちは亡き長政様の遺児ですから。

それに、勝家殿とも約束をした。

絶対に行かなきゃね。


「では、一足先に北ノ庄に向かい、姫君たちを連れて参ります。ただ、3日程遅れて北ノ庄に来て頂けませんか?その間に、少しやりたいことがありますので」


そう少しお願いしてみると、あっさりと(うなず)いて認めてくれた。


「ふむ、3日程ならええで。やる事があるんやったらやって来たらええよ」

「ありがとうございます、ではお先に失礼します」


秀吉殿の前を辞した私は、暦達の待つ天幕に入り、今後の予定を話した。


「では、四半刻(30分)後にここを出て、先に北ノ庄に入り、3日後に北ノ庄に到着する秀吉殿の元に姫君たちをお連れしていく、ということですね?」


そう夢が応えると、暦が問い掛けてきた。


「ですが、3日の猶予は何故ですか?羽柴軍と共にこのまま進軍し、城内に入って助ければ良いのでは?」


その問いはもっともだよ。

でも…。


「そうすると姫君たちはまた、小谷の時のように、義父の死と落城を間近で見る事になる。もうこれ以上悲しい思いをさせたくないの。…本人達が希望するなら最期まで見届けて頂いても良いけれど、それがとても辛くて耐えられないのであれば、早めに戦線から離れてもらう方がいい」


その答えを聞くと、暦は少しだけ微笑んで私に言った。


「貴方様は賢くなられた。これからも地の果てまでもお供します。ですが決して(おご)らぬよう」


そう忠告した彼女の眼は、今ではないどこかを見ているかのような遠い眼をしていた。


「いえ、とにかく今は目の前に集中しなくては。参りましょう、恵様」


とりあえず復活してくれたみたいだし、北ノ庄に向かおうか。


そして私達が出発したのと入れ違いになるように、秀吉の元に前田利家がやって来ていた。


「…秀吉。これで良かったんだな?」

「ありがとうな、利家。それに、辛い思いをさせて本当にすまん」


そう秀吉が言うと、利家は首を振って応えた。


「いや、時代は変わっていくものだしな。正直言うと、今すぐにでも叔父貴の元に戻って土下座して謝りたいんだが…」

「…利家」

「分かってる。そんな事出来んし、してもどうにもならねぇ」

「いや、謝りたいんなら行ってくればええで。ワシは待っとくから、しっかりお前さんの仁義貫けばええ」


そう言った秀吉を、利家はまるで正気を疑うかのような眼で見た。


「お前な、それ本気で言ってんのか?そのまま俺がまた叔父貴の側に付いて、お前を倒そうとするとか考えねぇのか?」

「あぁ。ワシはお前さんを信じとる。利家は絶対約束は守ってくれるからな」


そんな風に言われると、こっちに戻ってくるしかねぇじゃねぇか。


秀吉に聞こえない程小さな声でそう呟いた利家は、柴田勝家に裏切った事を謝る為に、北ノ庄に向かうのだった。


ーーーーーーーーーー


私達が北ノ庄に着いたのは、羽柴軍の陣を出た日の夜遅くだった。

なんとか城下町に入ったものの、ほとんどの店は閉まっており、大半の家にも人の気配はなくなっていた。


そんな中、私は宿ではなく北ノ庄の居城を目指していた。

そして、居城近くの路地に入り、そこで夜が明けるのを待つ事にした。


「恵様。我らはともかく、恵様まで路地で休む必要はありません。なぜ宿を探さないのですか?」

「もしも入った宿で柴田軍下の者と遭遇して、そこで戦いになったら、その宿の方は被害を受ける。もしかしたらその場で敵が鉄砲を乱射するかもしれない。そして宿の方が流れ弾で死んでしまうと私達は無関係の民を殺す事になるでしょ?」


私は戦いに無関係の民を殺したくないんだよ。

多少回りくどくても、それで少しでも死んでしまう人を減らせるならその方が良い。


翌朝。

私達は居城に入ることにしたのだが…。


「お、お前は‼︎ 敵襲っっ‼︎」

「”蒼き鬼姫”だっ‼︎ みんな、ここは死んでも守りきるぞ‼︎」


…別に攻めてきたんじゃないんだけど。

ていうか何その称号は⁉︎


「…恵様…」

「うん、ここで斬っちゃダメだって分かってる。でも、殴り飛ばすくらいは…」

「だ、ダメですって‼︎ 落ち着いて下さいっ‼︎」


そう夢が必死に止めてくるのだが…。


ドガッ‼︎


「…あの、暦ちゃん?」

「貴様ら、我らが主である恵様を侮辱したその罪、万死に値するぞ‼︎」


あぁ、ダメだこりゃ。

完全にキレちゃったよ彼女。


逆に私は落ち着いたけど、これは止めとかないと後で大変な事に…。


「ちょっと、暦。もういいよ?」


ドガッ‼︎ バキッ‼︎


「あのー、暦さーん?」

「やめ、ぎゃあぁぁ……」


あ、完全に聞こえてない。


結局、暦が落ち着いたのは騒ぎを聞いて駆けつけて来た勝家殿が一緒に暦を抑えてくれてからだった。


ーーーーーーーーーー


「で、恵殿。なぜああなっていた?」


その後、居城のある部屋に通された私達は、勝家殿に事情を説明した。


「…なるほどな、事情は大体分かった。つまりうちの兵の不始末だったか…」

「いえ、私達もいきなり参りましたので…」

「確かに、昨晩はどの宿からもお主らが来たという報告を受けなかったな。一体いつ頃北ノ庄に着いたのだ?」

「……」


え、てことは変な推測せずに宿に泊まっていれば、宿の方が勝家殿に報告に行ってたの⁉︎

それで、翌日には私達が来るから城内に通せって感じで話をしておいてくれてたかもしれなかったのか。


「…まぁ、なんとなくお主の事だから、宿に泊まるのは気が引けたのだろう。それでどこか適当な場で一晩過ごしたのだろう?」

「…すみません、その通りです…」

「まぁ、とにかくこの件は互いの連絡の不備ということにしておく。誰も悪くない。それで良いな?」


本当にすみません…。


「で、まだ羽柴軍は到着していないようだが、引き渡しの日はいつになる?」

「私達が少し先にここに来まして、3日程遅れて本隊が到着するはずです。もしかしたら、数日前後するかもしれませんが」


そう答えると、彼は少しだけ眉を(ひそ)めつつこう提案してきた。


「3日か…。ならば羽柴軍が来るまでお主らはしばらくこの城で客人として迎えよう」

「ありがとうございます、助かります」

「だが、一応敵同士なのでな。見張りをつけておきたいのだが…」

「その心配は要りませんよ、勝家。私が一緒にいるようにしますから」


丁度その時、お市様が部屋に茶々姫を連れて入って来られた。

でも、今は敵である私達の前だからか、少し萎縮しているのかな。

ずっとお市様の影に隠れて出てこないんだが。


「お市様、お久しぶりです」

「恵も元気そうで良かった。茶々、覚えてる?貴女たちが生まれてすぐの頃、長政様の下で一緒に過ごしていた紅月殿とその部下の方々ですよ」


そうお市様が説明すると、茶々様はようやく警戒を解いてくれたみたい。


「お久しぶりです、恵さん。貴女が、母上の言っていた迎えの者ですね?」

「えぇ。今後は私が貴女方の後見となります」


そう言うと、彼女は少しホッとした様子。


「よかった。秀吉さんが後見になるものだと思ってましたけど、貴女なら無茶な事は私たちにもさせないでしょうし」

「茶々、言葉が悪いですよ」

「だってそうでしょ?そもそも私たちの父上を殺したのは秀吉さんだし、今はこうして義父上までも私たちから奪おうとしてるんですよ⁉︎」


気持ちは分かるけど、少し落ち着いて下さい。

そう思っていると、廊下から可愛い足音が聞こえてきて、(ふすま)がパシンッと気持ちいい音を立てて開いて、江姫が入ってきた。

と、そのまま私に抱きついてきた⁉︎


「恵さんっ‼︎ 会いたかったよ〜‼︎」

「お久しぶりです、江姫。お元気そうでなによりです」

「むぅ、茶々姉ちゃんから聞いてたけど、恵さんは堅いなぁ…」


そう言いつつ私から離れたかと思うと、そのまま暦に突撃していた。


「暦お姉ちゃんっ‼︎ 会いたかった‼︎」

「我もですよ。大きくなられましたね」

「ん〜…なんだか暦お姉ちゃんに抱かれてると落ち着くなぁ〜…なんでだろ?」


それは多分、生まれてすぐの頃は暦がよく抱いていたからだと思います。


突然の乱入だったけど、おかげで茶々姫も落ち着いたみたいで良かった。


「恵。それに皆も、今日はゆっくり過ごしましょうか。久々にご飯でもいかがです?」

「わぁ、お市様の手料理⁉︎ やった〜‼︎」


篠は相変わらずだなぁ。

確かにとても美味しいから、私も食べたかったんだけどね。


その後、私達は北ノ庄の居城でくつろぎつつ、お市様達と最後の数日を過ごしたのだった。




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