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Gratia-紅き月の物語-  作者: 紅月涼
19/45

19話 賤ヶ岳 後編

バタバタしてて遅くなりました。

もう少しペースあげたいけどキツいです…(>_<)

清正は少し長めの幅の広い槍を担いで私達についてきてる。

そこそこ速いペースで移動してるから、少し重装備な彼にはキツいかと思ってたけど…。


ちなみに私は戦装束に、手甲(てっこう)肩当(かたあて)腰当(こしあて)と、臑当(すねあて)を付けて、胴は服の間に日本刀と同じように精錬された鋼を薄くしたものを仕込んでいる。

暦は私と同じような装備で、胴だけは剣道で使うような形のものをつけている。

夢は手甲が私達より小さく、胴は弓道で使うような、右側の幅が狭く左側が広い形のものをつけていて、裾の長い(はかま)を身に付けている事が多く、今も袴を穿()いてる。

篠はというと、首に長い布を巻きつけて、(しのぴ)装束を隠すように肩から南蛮から伝わったマントを隠密仕様にしたものを掛けている。


なんだか説明みたいになったけど、みんな比較的軽装だから今世鎧を身に付けた清正は付いて来るのも少しキツいだろうな…。


「清正、大丈夫?少しゆっくり行こうか?」


そう私が聞くと、彼は若干息を上げつつもそこまで疲れを感じさせない声で答えた。


「まだまだ大丈夫だ。それよりも佐久間を追い掛けよう」


うん、大丈夫そうだね。

とりあえず無理だけはしないで、と彼に伝えて、私達は佐久間軍に近付いていった。


まだ朝のかなり早い時間だから、敵は少し油断してるみたい。

今がチャンスかな。


「それじゃあ始めようか。篠は先に敵の後方で伝令が他の敵陣に行かないように監視してて。

暦は清正の援護をお願い。夢は私の援護を。清正は私と一緒に来て」

「はいはーい、それじゃあ行ってくるねっ‼︎」

「畏まりました、恵様」

「了解しました」

「わかった。お前について行けばいいんだな」

「うん、私達で敵を叩くよ」


そう言って、私は敵陣に斬り込んだ。

清正が少し遅れて同じように突撃して、それを援護する為に暦も薙刀を振るう。


「なっ⁉︎ て、敵襲‼︎」


私が数人を斬り、紅い華を咲かせた時にようやく敵も襲撃に気付いたみたいだね。

…でも、もう遅いよ。


「敵襲⁉︎ どこから…ぐぁ‼︎」


敵の喉に夢の放った矢が突き刺さり、叫ぶ敵を最後まで喋らせずに黙らせると、そのまま見張りの兵士に遠距離から矢で狙撃を始めた。

さらに倒れた敵兵に私や暦がとどめを刺しながら、敵の数をどんどん削っていく。

その時、突然私の方に長槍が飛んできた。


「またお前か‼︎ よくも俺の軍を‼︎ 今度は息の根止めてやる‼︎」


そう言って、盛政が私に得物を向けて迫ってきた。


「奇襲も戦法よ。油断してる敵ほど倒しやすい軍勢はないからね‼︎」


そう応えて、私は彼に向かって両手に持った刀を走らせると、彼はそれを大太刀で弾き飛ばして逆に斬りかかってくる。

それを軽く後ろに下がってやりすごして、さらに右の刀を振り上げるように斬り上げて追撃を弾き、上に流された彼の太刀の下に潜り込むように肉薄して、左手の刀で彼の胸を左脇腹から右の肩口にかけて右斬り上げを当てた。


「ぐっ、この程度っ‼︎」

「貴方の負けだよ、佐久間盛政」

「くそっ、一度退いて立て直すぞ‼︎」


彼はそう部下に伝えると、一気に私達の前から撤退していった。

と、それを見て暦が叫んだ。


「待てっ‼︎ 貴様に武士の誇りはないのか‼︎」


暦はすぐに頭に血がのぼるのをなんとかできないかな…?

でもとりあえず今は盛政を追い掛けなきゃね。


「みんな、追うよ‼︎」

「なぁ恵さん。佐久間の奴、今賤ヶ岳砦から反撃してる最中の柴田勝政の陣の方に行かなかったか?」

「そうなの?」

「あぁ。あいつの向かった先の山腹には、勝政の陣があったはずだ」

「じゃあ味方が苦戦する事になるよね、急ごう‼︎」


そう応えて、私達は急いで佐久間軍の後を追った。


ーーーーーーーーーー


その頃、秀吉は数人のお供を連れて、柴田側の前田(まえだ)利家(としいえ)を訪ねていた。


「おーい、利家ぇ‼︎ おるやろ?遊びに来たぞ‼︎」

「ちょ、秀吉⁉︎ お前何でノコノコと敵陣に乗り込んで来てんだ⁉︎」

「ええやんええやん、ちょいと顔見せに来ただけやで?」

「いや、顔見せにって…。ここは敵陣だぞ⁉︎」

「まぁな。でも利家のとこやし大丈夫やろ」

「お前のその度胸はどこから来てんだ…」

「それにしても、信長様の生きとった頃が懐かしいわ。ワシら家族、隣同士で屋敷構えてさ、よう一緒におったやろ?」

「まぁな。確かにあの頃は楽しかった。だが俺もお前も、今は大事なもんいっぱい抱えてる」

「せやな。そう簡単に上手くいかんのは承知の上や。やけどな、それでもワシはお前さんを討ちたくないんや…」

「そうは言うが、俺は叔父貴に返しきれねぇ程の恩がある。すまねぇがすぐには…」

「お前さんの立場がキツいのはよう分かっとる。戦わずに退いてくれるだけでええ。ワシの創る天下にお前さんは不可欠なんや。すまんが、よろしくお願いする‼︎」


そう言い、秀吉が頭を地面に付けるようにして願ったのを見て、利家は頭を抱えつつ応えた。


「話だけは考えておく。もう帰れ…」

「おう、じっくり考えてくれればええ。そんじゃあな‼︎」


そう言い残して秀吉が去った後、利家は1人、頭を抱えて悩んでいた。


「確かに秀吉の言うことにも一理ある。だが俺は…叔父貴を見捨てたくはない…。とはいえ俺のこの判断で、前田家が左右されるんだ。当主としては、家の存続が最優先…。なら、俺が選ぶべき道は…‼︎」


ーーーーーーーーーー


それから少し経った頃。

秀吉の元に伝令が入った。


『前田軍、突如撤退を開始』


その報せは瞬く間に羽柴軍全体に広がり、前田軍と相対していた軍勢が、佐久間盛政と柴田勝政の軍に標的を変更。

これにより、柴田側は一気に不利となって、次々と敗走、または討死していった。


そんな中、私達は柴田軍本陣に到達。

ついに勝家殿と相対していた。


「やはりお主が来たか、紅月恵…」

「お久しぶりです。長政様とお市様のご結婚の時以来ですね、勝家殿」


そう、あの時私達は一度勝家殿と会っている。

寡黙で、まさに背中で語るって感じの織田家最古参にして、北陸で『越後の龍』と呼ばれた上杉(うえすぎ)謙信(けんしん)と何度も激戦を繰り広げていた猛者。

とても厳格で自他共に厳しいから、普段は笑顔を見ることもほとんどないんだけどね。


「貴方とは、もう少し違う形で会いたかった…。味方として、同じ戦場に立ってみたかった。本当に、秀吉殿に降るつもりはないのですね?」

「うむ。お主達の姿は、お市様からずっと聞いていた。ゆえに共に戦いたい気持ちもあるのだが、あのサルとワシでは主義主張が噛み合わぬ。それにワシはすでに時代遅れの古物よ」

「お市様…?」

「ん?あぁ、お主は知らなんだか。今お市様はワシの妻、といったところか。ワシには不釣り合いな女子であるが、だからこそ幸せにしてやりたい。…そうだな、お主達は北ノ庄に来い。

…旧世代の爺の最期の願いだ。義理ではあるが、娘達をよろしく頼みたい」

「…茶々様、初様、江様ですね。…分かりました、必ず向かいます…」

「うむ、ではワシは退くが…」


そう勝家殿が言おうとした時、横で話を聞いていた清正が口を挟んだ。


「ちょっと待て。勝家殿、俺とせめて数合打ち合ってくれないか」

「…サルへの言い訳の為、か。確かにその必要はあるだろうな」

「あぁ。何もせず取り逃がしたとなっては叔父う…いや、秀吉様に申し開き出来ない。それに…」


そこで彼はチラッと私を見てから言った。


「こいつの立場もあるし、何より俺が‼︎ 一度勝家殿と戦ってみたかったんだ‼︎」


そう言うと清正は長槍を構えて、一気に勝家殿に斬りかかった。

それを勝家殿は難なく避けて、と同時に刀を抜いて居合いの一撃を放って牽制しつつ、一度距離を取って言った。


「初撃の速さはいい。だが…甘いわ‼︎」


そう言うと、一瞬で清正の懐に入り込み、その手に持つ刀を縦横無尽に走らせ、追撃に追撃を重ねていく。

そう、まるで嵐のような…あれ?

この太刀筋、盛政のものにとても似てる…?


「清正っ‼︎ 勝家殿の動きは盛政の進化系統だよ‼︎」


そう叫ぶと、勝家殿が少し笑った気がした。


「…よく見切ったな。流石は長政殿の右腕といったところか」


そんな右腕だなんて。


「私は、ただ長政様の為に仕えていた大勢の中の1人ですよ。そんな大した役じゃない…」

「そうは言うが、長政殿はお市様にそう漏らしていたそうだ。あの4人ほど忠実な部下はいない、とな」


…そうだったのですか、長政様?

なら私達は、貴方のお役に少しでも立てたのかな…。


「そろそろ頃合いだろう。では、ワシは北ノ庄で待っている。娘達を預けたいのでな」

「勝家殿。お市様は、どうなさるのですか?」

「それはワシも少し悩んでいる。だが、どうしたいかはお市様にしか分からぬ事だ。ではな。娘達をよろしく頼むぞ」

「…必ずや」


私のその返事を聞くと、彼は少し嬉しげに去っていった。


その背中は、少し寂しげで。

そして、自らの役目を果たし終えたかのような感じだった。






少し今更ですが、感想など大歓迎ですので

もし良かったらお願いしますね( ´ ▽ ` )ノ

あと、誤字脱字もありましたら

教えて頂けると嬉しいです…m(_ _)m

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