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Gratia-紅き月の物語-  作者: 紅月涼
16/45

16話 羽柴軍

少々ペースが落ちてきちゃってます…。

少なくとも週1+α位で更新していきますので、

気長に待って頂けたら幸いです。

秀吉殿、先日まで敵だった者にいきなり天下統一を助けて欲しいって頼むのはどうなんだろう?


そう私が伝えると彼は笑って答えた。


「ワシはな、金ヶ崎でお前さん達と戦った時から、一緒に戦ってみたかったんや。あの劣勢の中でひたすら長政殿を守り続けて、その後もワシら、織田軍と対等に渡り合っとった。お前さん達が味方になってくれりゃ、こんなに心強い者はおらんで⁉︎」

「そ、そうは言いますが、それもこれもただ運が良かったようなものです」

「ほらな、そうやって(かさ)に着ずに謙遜(けんそん)する所とか、そういう所もお前さんの魅力なんやで?」


…この人、どれだけ私達を味方にしたいの…?

ここまで良く言ってくれる人、そうそういないんじゃないかな。


ただ、秀吉殿は長政様が自害する一因を作った。

小谷落城の原因は、秀吉殿が京極丸を落として、浅井父子の連絡手段を奪い、各個撃破したから。

だから…。


「秀吉殿。貴方は信長公と同様に長政様の仇です。出来ることなら今すぐにでも仇を討ちたい…」

「気持ちはよう分かる。確かにワシは主君の仇やろうな。やけど、戦は泰平の世が作れたらなくなる。お前さん達のように、主君の仇を取るなんて言うことも無くなる。ワシはそうやって思い悩む者をこれ以上増やしたくないんや。やから、どうかここはワシに力を貸してくれんか?」


そこまで言われたらもう引き受けるしかないじゃないか。

…まあそれ以前に私達は捕虜の身だから、どちらにせよ選択肢はないようなもの。

なら答えはひとつしかない。

私は夢と篠をチラッと見て、2人が首肯(しゅこう)するのを確認し、頭を下げた。


「…分かりました。不肖(ふしょう)の身ですが微力ながら協力致します」

「おぉ‼︎ 引き受けてくれるんか⁉︎ありがたい‼︎ これでもう天下までの道は開けたようなもんや。これからよろしく頼むで‼︎」


彼はそこまで言うと、何か思い出したかのように立ち上がって言った。


「ヤバい、三成(みつなり)に呼ばれとったんやったわ‼︎ 恵さん達は今のうちにうちの陣の人らと会って来たらええ。案内は…清正ぁ〜⁉︎ 部屋の前におるんやろ?遠慮せんと入って来い」


そう言いながら、部屋の障子を開けると清正さんが転がり込んできた。


「叔父上…いきなり障子を開けないで下さい‼︎」

「お前が盗み聞きしとるからやろ〜?ほら、丁度ええし、恵さん達の案内頼むわ」

「え⁉︎俺がですか⁉︎」

「おう。あと、恵さんこれを後で読んどいてくれんか?」


秀吉殿から一枚の通達書をもらった。

そして彼は部屋を出ながら言った。


「そんじゃあな‼︎ また後で様子を見に…」

「秀吉様っ‼︎ ここにおられたのですか⁉︎まだ認可待ちの書類があれ程あると言っていたのに勝手に抜け出さないで下さい‼︎」


その瞬間、書類を山ほど抱えながら、青年が1人部屋に駆け込んできた。


「くっ、遅かったか…すまんな三成。今すぐやるからそない怒らんとってくれ…」


そう言いながら秀吉殿は三成さんに連行されて行った。

なんか、どこかで見た光景だなぁ。


ーーーーーーーーーー


恵が目覚める数日前。


家康は信長公の仇を取るべく、尾張まで進軍していた。

そこに、伝令が入る。


「家康様っ‼︎ 明智光秀が討死した模様です‼︎」

「なに⁉︎誰が明智を倒したのだ?」

「それが…毛利を攻めていた羽柴秀吉殿がわずか10日程で大坂まで戻り、山崎にて光秀を討ち取ったようです」

「備中からたった10日で大坂まで戻ったのか⁉︎あり得ない程の速さだが、秀吉殿ならやりかねないか。仕方ない、一旦岡崎城まで戻るぞ!」

殿(との)、今関東では信長公の訃報を聞いて、あちこちで戦闘が激化しております。ある意味では領土を奪われかねない国難ですが、逆に言えば領土を広げる良い機会ですぞ‼︎」


家臣団の1人である本多(ほんだ)忠勝(ただかつ)がそう言うと、井伊(いい)直政(なおまさ)もそれに賛同して続けた。


「まずは武田氏の滅んでから空白地帯になっている甲斐と信濃の攻略と、東の伊豆や相模に領土を持つ北条氏との国境までを固めるのが一番だと思います」


それを聞いた家康は、少し考えてからその案を採用することにした。


「よし、ならば基本方針はそれでいい。だが今はまず岡崎城に戻り、再度準備することが優先だ。さあ戻ろう」


そう言い、家臣団に軍を引き返させていた時だった。

そこに黒装束に身を包み覆面をつけた男が現れて家康に報告をした。


「…殿が気に掛けていたあの紅月なる者、今度は秀吉殿の配下に付いた模様…」

「…やはりか。浅井滅亡後は反信長勢力の筆頭として戦い、最後に本能寺で信長公を討ち取ってからは光秀殿の元にいた訳だな。そして山崎で負けて、秀吉殿に降ったと」

「…はい、そのようです…」

「分かった。報告ありがとう、半蔵(はんぞう)


それを聞くと彼、服部(はっとり)半蔵(はんぞう)はその場から消えた。


「おそらく畿内から西国にかけては秀吉殿が取るだろうな。なれば(わし)は東国を頂くとしよう…」


家康のその呟きには、家臣の誰も聞く事は無かった。


ただ1人、その様子を見ていた者以外には。


ーーーーーーーーーー


それからしばらくして尾張の清洲城で織田家の次期当主を決める為の会議が開かれた。


私は体調がまだ直らない事を秀吉殿から心配されて、しばらく療養するようにと言われてる。

とはいえ、もうだいぶ本調子に戻ってきてるんだけどね。


なんにせよ、ゆっくり休んでいられるなんていつ以来だろう。


清正はなんだかんだ言いつつよく見舞いに来てくれるし、最近は三成も忙しい政務の中、顔を見せに来てくれる。

そして秀吉殿の奥方である、ねね様。


「おーい、恵ちゃ〜ん。調子はどう?」


ほら、また来たみたい。

声が聞こえてから数秒の後、部屋の障子(しょうじ)が小気味良い音を立てて開いた。

入って来たのは、案の定ねね様。

元気一杯で、時々お茶目な感じがとっても親しみやすい。

それに、お市様とはまた少し違った美味しい料理もたくさん作り、母性溢れるような面もある。

おかげで篠はすっかり餌付けされちゃったみたい。


「今日はね、こんなの作ってみたんだよ‼︎ よかったらみんなで食べよっ?」


そう言って取り出したのはお煎餅(せんべい)だった。

って、ちょっと待って⁉︎


「これ、100枚くらいありません⁇」

「うん、作りすぎちゃったから、みんなで食べよっ?」

「いや、作りすぎちゃったっていう量じゃないのでは…」

「わぁぁ‼︎ 煎餅がいっぱい‼︎ ねね様っ、これ食べちゃって良いの⁉︎」


いきなり篠が割り込んで来ると、バリバリと煎餅に(かじ)り付き始めた。


「いやいや、篠。せめてねね様の返事を待ってから食べ始めようよ…」

「いいのいいの、たんとお食べ‼︎ ほら、恵ちゃんも食べよ?」


うむむ、やっぱりめちゃくちゃ美味しい。

パリッと焼いてあるのに、どんなに食べても口の中がパサパサしてこないし、味も薄すぎず濃すぎずで、とても香ばしくて美味しいのです。


結局、私は20枚程食べて、夢もパリパリと30枚近く食べていた。

篠に至っては、60枚くらい1人で食べてた。


「そういえば、夢」

「はい、なんでしょう(バリボリ)。恵様…(ごくん)?」

「…とりあえず食べながら話すの止めよう?」

「(んぐんぐ)…っとすいません。あまりにも美味しかったものですから」

「まあいいけどさ。それよりもここ最近、暦を見てないんだけど。あの子は今どこに?」

「あぁ、そういえば恵様が目覚めた時にはもうここを()っていましたね」

「発つ?どこかに出かけているの?」

「えぇ、本来なら篠が行くべきなのでしょうが、篠が恵様の側を離れたくないと駄々をこねまして…。今、暦は徳川家康殿の様子を偵察する為に、東国に行っていますよ」


家康殿か。

今はきっと、三方ヶ原で戦った時よりも成長して強くなってるんだろうな。


「そうね〜。家康は今じゃうちの(ひでよし)と同じくらい勢いのある人だからね〜。うちの人が、どうしても様子を知りたがって、暦ちゃんにお願いしちゃったのよ…。ホント、ごめんなさい」

「いえ、ねね様は悪くありません。後で秀吉殿にたっぷりと意地悪言っておきますから」


そのくらいはいいよね?


その後、清洲城から帰ってきた秀吉が、女性2人から散々な言われようをしていた姿を、清正や三成は見る事になるのだった。


帰ってきた秀吉殿に色々とその時の様子を聞いていた所、だいたいは上手くまとまったそうだ。

そして会議の後、信長公の葬儀もあったらしい。

だが、そこで秀吉殿は

”信長公の後を任された自分達はこれからの世を切り開いていかねばならない”

と言う発言をしたらしい。

それが、どうやら柴田(しばた)勝家(かついえ)殿の気に触ったようだと言う。


確かに、どう見るかで判断が変わりそうな言い方だね。

自分達という言葉が、どのくらいまでが範囲なのか。

そこで意見が分かれそうだ。

秀吉殿は、旧織田家臣団のみんなで、という意味で言った。

だが、勝家殿は、明智を討って信長公の仇を取った者達、つまり秀吉殿、丹羽(にわ)長秀(ながひで)殿とその家臣団で、という意味に取ったのかな。


…きっと近い内に、また戦が起きそうな予感がする。

織田家臣の間での潰し合いが、ね…。



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