14話 長雨
お待たせしました!
GW終わったので
連載再開します( ´ ▽ ` )ノ
雨が降っていた。
その雫はやがて朱に染まり、私に降り注ぐ。
気付けば私はどこまでも果てしない場所に1人立っていた。
『暦〜?夢?篠〜?みんなどこにいるの?』
そう言おうとした声は、確かに出したはずなのに周りには響かず、ただ雨粒の砕ける音だけが残る。
そこで私は気付く。
自分という存在がもう無いと。
ここに身体は無く、ただ自分という意識すらも少しずつ希薄になるようで。
やがて身体に当たり跳ねていた雨粒すらも分からずに、自分が希薄になるのを感じながら。
『誰か。私を見て…忘れないで…』
そう呟く声は、静寂に包まれて消えた。
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「恵様?どうかなさいましたか?」
夢のその声に、私は我に返った。
「あれ?夢、どうかしたの?」
「いえ、私は何ともありませんが…」
「恵様が何度話し掛けても反応なくて心配になったんだよ⁉︎」
え、ずっと話し掛けられてたの⁉︎
「やっぱり自覚なかったんだね…」
「ごめん篠、夢。それで、何かあったの?」
「どうやら、備中高松城を攻めていた羽柴秀吉殿が、こちらに戻ってきているようですわ」
やっぱり反応早いなぁ、秀吉さんは。
「今はどの辺りまで戻ってきてるの?」
「それが…」
ん?どうしたの?
「既に、秀吉殿は姫路城に入ったそうです…」
「姫路城か。って、姫路まで戻ってきてるの⁉︎」
30里(120km)くらいある距離を、本能寺の変からたった7日で⁉︎
とても信じられないけど、秀吉さんはやりかねないんだよね、そういう無茶。
「とはいえこの悪天候ですし、姫路から京までの道程には川もたくさんありますから、少しは速度も遅くなるかと」
「そうだとしても、こちらはまだ味方が集まってないんだよ?このままじゃ戦えないよ…」
光秀殿が味方を集めてくれてるけど、あまり芳しくないみたいなんだよね…。
それに、私は雨が苦手なんだよ。
なんていうか、少し…怖い?のかな?
とはいえ、光秀殿も頭を抱えてるだろうな。
なんせ、鉄砲を主力武器にしてる部隊が大半だから、雨が降ると火薬が湿って使えなくなるし。
京の西南を流れる桂川なんかも増水するから、そもそも移動が苦しくなってくる。
そして、秀吉さんはそこを突いて、こちらが羽柴軍の到着はそう早くないだろうと思って油断してる事を見越していたからこそ、敢えて強行軍策を採って、姫路城まで戻ってきてる。
その上で、きっと主君の仇という大義名分を掲げて、光秀殿の討伐に乗り出すはず。
そうなれば、羽柴軍との戦いは免れないかな…。
そう私が考えてると、光秀殿が相談があると言って私の所にやって来た。
「紅月殿。数で負ける我が軍は出来るだけ敵を各個撃破出来る場所で戦うしかありません。その場合、戦場になり得るのは…」
「山崎の地ですか…」
「えぇ。昔から京や大坂へ油を売っている商人町です。ただ、彼らには私の方から治安維持の為に法令を出させてもらってます」
盗賊とか、軍の略奪とかめんどくさいしねぇ。
「なので、出来ればあそこでは戦いたくないんですが…」
「気持ちは分かりますが、敵を出来るだけ各個撃破するには、山崎以外に当てはまる場所はありません。あそこは、京から見て右手には天王山があり、左手には淀川が迫る地形ですからね」
「そうなんですよね…。かなり狭い場所に町と街道が密集してますから、戦うならあそこしかないのですが…」
「彼らには、一時京に避難してもらうしかないでしょうね。その上で、こちらが勝てる最善策を考えてみます」
「ありがとうございます、紅月殿。では避難誘導などはこちらで致します」
そう言うと彼は帰っていった。
光秀殿が去った後、入れ替わるように暦が来た。
「恵様。山崎で戦うのなら、高台である天王山を如何に迅速に占領するかが肝になるかと」
高台を奪えば、戦場を見渡せる。
その効果は大きいし、山から京に入って、こちらの後方に回り込もうとする者達を牽制出来るからね。
ただ、もしもその天王山の部隊が敗れたり、羽柴軍に占領されれば…。
「確かに天王山は大事だね。でも、その山を占領する為だけに明智軍は動かせない。それに、ただでさえ数で負けてるこちらがさらに軍を分けたら、いざ対峙した時に押し負けるよ」
「では、天王山は諦めますか?」
「ううん、私達がやるの」
そう、明智軍が無理なら、私達がやればいい。
天王山中は木々のおかげで見通しが悪い。
その中で天王山に入った部隊が何度も音信不通になれば、きっと混乱するはず。
つまり入山した所を見逃さずに、孤立した瞬間を狙って倒していけば…。
「人数が少なくても、きっと出来るはず」
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その頃、秀吉は迷っていた。
「叔父上、明智攻めは主君の仇討ちです。何か気になる事でもおありですか?」
「おぅ、清正か。ちと昔から気になってる奴がいてな。もしかしたら、その者達は今明智軍中にいるかもしれんと斥候から報告があったんやわ」
「気になっている者達、ですか。その者達は、どんな方々なのですか?」
「いや、それがな…」
加藤清正は、それを聞いて頭が痛くなりそうだった。
「たった数人で、近江にいた浅井長政殿に仕えて数々の軍功をあげた上、それを自慢する訳でもなく、ただひたすら長政殿を支え続けたのですか⁉︎」
「その上、見た目も美しくてな。うちのねねは天下一やけど、あいつらは別格やわ」
「はい?見た目が美しいって、男ではないのですか?」
「…ん?」
「え?」
2人揃って首を傾げたが、そこで秀吉は言った。
「彼女らは女やで?美しく、それでいて途轍もなく強くてな…」
「女性だったのですか⁉︎」
「お、おぅ。まあ普通そうなるわな…。まぁ、無理かもしれんが、もしも彼女らがワシらの味方になってくれりゃ天下もあっという間に統一出来るんやろけど…」
「ちなみにその者達の名は何と?」
「ん、あぁ。彼女らの隊長は紅月恵。深い藍色の髪と、紅い目をした女子や」