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Gratia-紅き月の物語-  作者: 紅月涼
13/45

13話 本能寺

今回は比較的長めです( ´ ▽ ` )ノ

私達が京に着くと、待っていたかのように光秀殿からの使者がやって来た。

内容は私達への援軍要請。

沓掛(くつかけ)道標(みちしるべ)で合流したいらしい。


「恵様。この要請、表向きは毛利討伐ですが、おそらくその本性は今この京の本能寺に滞在中の信長を狙う謀反かと」

「うん、おそらくその通りじゃないかな。だからこそ、貴女達はこの京で待つの」

「合流しないのですか?」

「ううん、私が行く」

「それではもしこの要請が誘い出した恵様を暗殺する罠であるという可能性に備えて、我も共に参ります」


暦がそう言って私と沓掛の道標まで共に行くことになった。


そして私達の読み通り、光秀殿は謀反を起こす気だったみたい。

私達が沓掛に着いた少し後、彼は軍を率いてやって来た。

右に行けば中国地方。

左に行けば京の街。

彼は私達を見て、少し微笑むと自身の部下達を見渡して言った。


「敵は…本能寺にあり‼︎‼︎‼︎」


光秀殿のその声は、その場にいた明智家臣達から、さらにその配下の兵士に伝わり。

その呼び掛けに応えるように雄叫びが、やがて全軍から返ってきた。


「ありがとう、紅月殿。貴女たちのおかげで私は信長様を討つ決心が付きました。そしてこれが私たちの返答です」

「こちらこそ、貴方と共に戦う日が来るとは思いませんでしたよ」

「そうですね、石山での戦いぶりに、当時の私たちは苦しめられた。ですが、味方になればこれ以上心強い味方はおりません」

「そう言ってもらえると嬉しいです。さあ、参りましょう。本能寺へ」

「えぇ、参りましょう。信長様を、討つ為に…‼︎」


ーーーーーーーーーー


恵と暦が光秀と合流していた頃。

夢と篠は先に本能寺に向かっていた。

そして篠が偵察の為に本能寺の境内に潜り込んで、夢は(ほり)を飛び越えて、(へい)の上から中を見ていた。


しばらくして、篠が夢のもとに戻って内部の様子を言った。


「夢さ〜ん、本殿は恐ろしい程静かだったよ。それに、もうみんな寝てるみたいだね」

「篠、その槍は?それに刀も…」

「あぁこれ?こそっと信長さんのとこまで忍び込んで、()ってきたよ」


なにこの子怖すぎます…。


そう夢が思ってしまったのも仕方ない事だろう。


「あ、そうそう夢さん。これも‼︎」

「何ですか、それは?」

「何って、火薬だよ?鉄砲がたくさんある部屋を見つけたから、一緒に火薬もあるかと思って探してみたの。如何に鉄砲が強力な武器でも、火薬がなければ使えないからね。これで向こうの鉄砲はただの棒みたいなものよ。あ、あと…」

「もうやめてぇぇぇ…‼︎‼︎‼︎」


ーーーーーーーーーー


私と暦が本能寺の前で夢達と合流した時、何故か篠は槍と刀を持って勝ち誇った顔をし、夢はぐったりしていた。


「何かあったの…?」

「あ、恵様‼︎ 実はこれ…むぎゅ⁉︎」


そこまで言った途端、夢が篠の口を押さえて代わりに言った。


「恵様はお気になさらず‼︎ ちょっと篠が危なっかしい事をしてしまっただけです‼︎」


詳しく聞いてみると、なんと信長の枕元からこの槍と刀を気付かれずに奪ってきたそうだ。


なにこの子、超優秀⁉︎

でも危なすぎるよそれ。


「篠、恵様の役に立とうとするのはいいが、それは危険すぎる。もう少しお前は自重を…」

「そういう暦ちゃんだって、昔はあんな事やこんな事を…」

「わぁーー‼︎‼︎ それ以上言ったらダメだ‼︎ 斬るぞ⁉︎」


…楽しそうでなによりだけど…。

と、そこに光秀殿がやってきた。


「みんな、私の為に、というのはとても嬉しいけど、それで死んじゃったら意味ないからね?」

「もちろんです」

「当然ですわ」

「分かってるよ‼︎」


本当かなぁ…?


「紅月殿。私達はいつでもいいですよ。あなた方はよろしいですか?」

「えぇ大丈夫ですよ…たぶん」


視線の先ではまだ3人が言い合っていた。


とりあえず、早く本能寺を攻めなきゃね。


「ほら、3人とも‼︎ 始めるよ」

「はは、今こそ長政様の仇を討つ時‼︎」

「やりましょう、私達の手で‼︎」

「あたしもね、もう魔王にはウンザリだよ」

「やろう、みんな。行きましょう、光秀殿」

「えぇ。全軍突撃‼︎」


長政様が亡くなって9年。

今ここで、ようやく仇が討てる…。


「明智軍はおよそ1万、対して本能寺には信長の供回り約40名程度しかおりません。そして敵は武装すらせず、今も夢の中。唯一の不安要素は、二条城の織田信忠(おだのぶただ)ですが…」

「そっちは明智軍の別働隊が向かってる。敗北はあり得ないよ」

「えぇ、そうですね…」

(信長が我らのように”妖なる者”ならば、万が一もあるでしょうが…)


「暦?どうかした?」

「いえ、なんでもありません。それより夢。火矢の準備を」

「もう出来てますよ。合図があればいつでも撃ちます」

「信長さん、一番奥の本殿にいたよ。暦ちゃん、恵様を援護して本殿に‼︎」

「あぁ。行きましょう、恵様」


ありがとう、みんな。


「行こうか。暦」

「えぇ、参りましょう」


私達が本殿に向かい移動し始めると、あちこちで数少ない敵将が奮戦しているのが見えた。

恐ろしいことに、明智軍の兵士が片っ端から殺られていき、すでにこちらの兵士を20人以上倒して、まだ生き残っている者までいる。


そして、その者は意外な事に、まだ少年だった。


「貴様、名のある者と見えた。自分は(もり)力丸(りきまる)。信長様には近付かせんぞ‼︎」

「名乗られたら名乗り返すのが礼儀かな。私は紅月恵。長政様の仇を討ちに来たの」


私がそう言うと、彼は目を(みは)った。


「長政様…⁉︎ 浅井家か。そして紅月恵殿の名は何度も信長様からも、家臣の皆様からも聞き及んでおります…。ですが、ここは通せません‼︎」

「そう。ならば押し通らせてもらうよ。暦っ‼︎」


そう私が叫んだ瞬間、暦が私に合わせて同時に力丸に向かって斬りかかった。

が、その同時攻撃を今まで何人も(ほふ)っただろう大太刀で受け止め、逆に横一文字に太刀を振り抜いた。

それを距離を置いてやり過ごし、そのまま反撃を与えると、何を思ったのか。

彼はその斬撃をまるで待っていたかのように真っ向から食らい。


紅く華を咲かせた。


「ありがとうございます、紅月殿。あとは兄上達に任せて、自分は…先に…。蘭兄様(らんにいさま)、時は稼ぎましたよ…あとは、頼みます……」

「力丸、だったよね。貴方の奮闘に敬意を」

「ありがとうございます、では、また……」


力丸は果てた。

ん、最期に何か言ってたような…?


「恵様。今は先に進みましょう」

「…そうね…」


次に前に現れたのは、蘭丸(らんまる)だった。


「貴方様は、紅月恵殿⁉︎ 我が父、(もり)可成(よしなり)の仇っ‼︎」


彼はいきなりそう言うと斬りかかってきた。

それを受け止め、鍔迫(つばぜ)()いに持ち込みつつ言い返した。


「私達は可成殿とは交戦してないよ‼︎ あの時は野田城で貴方たち織田軍と戦ってたもの‼︎」


あれはまだ長政様が存命だった時。


大坂で本願寺とその近辺にある、野田城と福島城に(こも)る三好氏と織田軍が戦っていた。


私達はその援軍として野田城に入り、迫る織田軍と戦っていたのだ。

そして、蘭丸の父である森可成殿は、近江の坂本で私達の援軍に来る途中だった長政様と朝倉殿を食い止めて討死している。


「大坂にいた私達がどうやって貴方の父殿を殺せると⁉︎」

「ぐぬぬ…で、ですがそれを言うのなら貴方様方もそうではありませんか‼︎ 小谷城を落とした最大の功労者は羽柴秀吉殿ですよ⁉︎」


確かにそう。

彼が長政様とその父上、久政様を繋ぐ回廊(かいろう)を制圧したから。

だから長政様は最期は自害してしまった。


だけど。


「あれは、そもそも貴方たち織田軍が朝倉殿を攻めずに、盟約を違反しなければよかったの‼︎」

「もういいです…貴方様を、私は敵ながら尊敬していました。女性でありながら、私たち織田は貴方様方に何度も苦しめられた。何度も私たちを撃退した貴方様を、私は…‼︎」


ありがとう、蘭丸。

会ったのはこれが初めてだったけど、出来ることならもっと違う形で会いたかったな。


「もういい。貴方のこと、少しだけど分かった。だから、せめて私がとどめを刺してあげる…」

「…ありがとうございます、紅月様。尊敬する貴方様に、最期に1つ忠告します。間も無く本殿の火の手が上がる手はずになっておりますので、くれぐれも御注意下さいね」


はいぃ⁉︎


「力丸、坊丸(ぼうまる)。あまり兄らしい事は今まで出来ませんでしたが、あの世ではしっかりしますからね…私もすぐ参ります…。信長様。お先に、失礼…します…」


それだけ言い、彼も事切れた。


「恵様。火の上がる前に討ち取り、そのまま離脱すれば…」

「うん、そうね。急ごう‼︎」


急いで本殿に入ると、そこで信長は待っていた。


「やはり、うぬらが来たか。そして、光秀。うぬが余を超えようとするとはな」


信長がそう言うと、光秀殿も本殿に入ってきた。


「信長様。昔、貴方は私に言いました。”余を超えてみせよ”と。貴方の為にこれまで働いてきた。そして私は今ここで貴方を超えて、天下を統一してみせます‼︎」

「うぬが天下を、などというとはな。よくもまあここまで育ったものよ。良かろう。長政の忘れ形見と一緒に相手してやる」

「一緒ですって?その言葉、後悔しても知らないよ‼︎」

「我らの事、甘く見ない事だ。その首いつまで保つかな⁉︎」

「行きます、信長様‼︎」


一斉に斬りかかった私達を信長は全て避けると、そのまま一番体勢を崩した光秀殿を狙い刀を振り抜いた。


ってあれ?

篠が刀は奪ってたはずなのになんで⁉︎


「弓で迎撃して倒した敵のを頂いたまでよ」

そう言うと今度は私に対して袈裟斬りを放ち…しかしそれを割って入った暦が受け止めた。


「長政様だけでなく恵様にまで手を出すか‼︎ その罪、万死に値する‼︎」


あの、暦?

ダメだ。また暴走してる…。


「うぬが余を倒す、か?」

「貴様は絶対許さない…‼︎ 今ここで討ち取る‼︎」


仕方ない。援護しよう。

今なら奴はこっちに背を向けてる…‼︎

私は信長の背中を斬ろうと右手の刀を振り抜き、その軌道に沿うように左手の刀も振り抜いた。

だがまるで背中に目があるかのようにそれは信長の刀で受け止められ、そのまま押し返された。

そして、逆に斬られそうになった時。

突然、本殿各所から火の手が上がった。


「ようやく火がついた、か」

「信長、貴様は逃さんぞ‼︎」

「フフ、クフフ…。逃さぬ、か?ならばどうする?ここにもじきに火が回る。そう長くは保たぬと思うが?」

「くっ、だが…‼︎」

「暦。もういいよ」

「恵様⁉︎」

「信長公。貴方、自害する気なのでしょう?」

「…なぜそう思う?」

「…だっておかしいもの。本来自害する気がないのなら、部下に自身のいる場所を燃やせだなんて言わないよ」


そう。最初から彼はもう覚悟を決めて、自害する気でいたからこそ。

蘭丸達に、本殿に火を放てと命令した。

そう伝えると、彼は笑った。


「うぬは(さか)しいな。長政もよき家臣に恵まれていたという事か。バレてしまえば致し方ない。余は…いや。俺はここで果てる。俺が消えた後は、おそらく光秀。お前にとっても厳しい道のりになるだろう。それに、秀吉は、俺の仇だ‼︎などと言ってお前を攻めてくるだろう。光秀、お前に天下を取る覚悟はあるか?」

「はい…。私が信長様の後を継いで、天下を…」

「ヌルい‼︎ 後を継ぐなどというのは進歩がない‼︎ やるからには全力で、そして俺を、余を超えてみせろ‼︎」

「…はい、必ずや‼︎」


そこまで言うと、彼はもう一度だけ、軽く微笑むと私達に向かって頭を下げて言った。


「長政には悪い事をした。だが、天下を統一する為には、朝倉はどうしても邪魔だった。石山の地もそうだ。あそこは交通の(かなめ)。絶対に欠かせない場所だったのだ」

「…もういいです。貴方の事情は分かりました。ですが…」

「あぁ、そうすぐに許してもらえるとは思っておらぬ。 だから、そのお詫びと言ってはなんだが、紅月恵。お前に…いや、君に。介錯(かいしゃく)を頼みたい」

「…分かりました。天下は必ず私達が統一してみせます」

「すまぬな。俺はこう見えて不器用なのだ。だが、長政の事、これまでの非人道的な事について、心より詫びる」

「もういいのです。それにここも燃えてきましたし、そろそろ…」

「あぁ、介錯(かいしゃく)を頼む。蘭、坊、力。最期までありがとう。勝家(かついえ)。最期まで振り回してすまなかったな。秀吉、後を頼むぞ。それと、光秀」

「はい…」

「これまでの働き、心から感謝する」

「は、いえそんなとんでもございません‼︎」

「フフフ、お前は変わらぬな。だがそれでいい。そして紅月恵とそこの暦と言ったか」

「はい」

「これまでのこと、心から詫びよう。そしてこの天下を頼む」

「はい、必ずや‼︎」

「さあ、長政。お(のう)。今…参る」


天正10年6月。

京の本能寺にて。

戦国の英雄は、歴史の舞台から姿を消した。




ついに信長が亡くなりました。

そして恵達は光秀さんと共に天下を…⁉︎

…とはうまくいかないのが、世の常ですね。


まだまだ続きますので、続きをお楽しみに‼︎

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