表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gratia-紅き月の物語-  作者: 紅月涼
12/45

12話 村跡

光秀殿と会った夜から数年が経ったある夏。

本願寺を信長の主力部隊が包囲した。

それと同時に、越前の一向一揆が織田家臣の柴田(しばた)勝家(かついえ)によって鎮圧され、密かに本願寺を支援してくれていた毛利(もうり)も、先日の大阪湾での戦闘で織田水軍が作り出した亀甲船団により敗北。


この敗北で、本願寺に届く物資がなくなり、私達は兵糧も、武器弾薬も尽きていた。


そして、ついに顕如さんの元に、朝廷から和解せよと(めい)が下ったという。


「紅月殿、我らはこの朝廷の要請を受けようと思う。我らの望みは信仰の自由、そして民の安全だ。朝廷の後ろ盾があれば、信仰の自由は守られる。そして民もこれ以上戦わずに済むのです」

「そうですね。では、私達はお(いとま)させていただきます。私達はなにがあろうと、長政様の(かたき)を討つつもりですから」

「分かりました。あなた方に加護がありますように」

「えぇ、今までお世話になりました」


こうして、私達は本願寺を去った。


「さて、みんな。私達と共に織田と戦ってくれる勢力はこれてなくなっちゃったね」

「残るは毛利ですが、あちらには秀吉公がおりますし…」

「秀吉さんか…」

「あまり敵対したくなさそうな者と戦うのは気が引けますね」

「じゃあ、しばらく潜伏する?」

「そういえば、恵様は河内の出身でしたよね?」


そう夢が問い掛けてきた。


「そうだね。でも生まれ育った村は、突然奇襲されて今はもう…」


そう、あの夜は忘れられない。


ーーーーーーーーーー


あれは、私がもうすぐ11歳になる頃。

珍しく月が紅く染まっていた夜遅くのこと。

お父様といつものように夕餉(ゆうげ)を食べて、寝ていた時だった。

突然、村の入口の辺りが騒がしくなり、私は目が覚めたの。


「お父様、村の入口で何かあったのでしょうか?」

「…恵、やはりそなたも聞こえるか。今はこの国各地で戦が絶えぬ。おそらく、この村は襲撃されているのだろうな」


お父様はそう私に答えた。

そして、私に1通の手紙と少しのお金、そしてお母様が使っていたという2振りの刀を預けて言った。


「私はこれから、この屋敷に敵が入らぬように見張っておく。この屋敷の倉庫に行くとな、床の一部が開くようになっている。そこから地下を抜けると、淀川の(ほとり)に出よう。恵はそこを通ってここから逃げるのだ」

「お父様は…どうなさるのですか?」

「案ずるな。私もすぐに追い掛けるさ。さあ行け、我が子よ」


そう言うと、お父様は私をその倉庫の地下通路まで連れてきて通路の中に押し込むと蓋を閉めてしまった。


「お父様‼︎ これではお父様が逃げられません‼︎」

「すまぬな、恵。だが必ず後を追うから、先に逃げなさい」


その声が聞こえたかと思うと、お父様はもう倉庫から外に出て行き、結局お父様は私を追って来なかった。


通路を抜けて、淀川の(ほとり)に着いた私が振り返ると、遠くで住んでいた村は(あか)く燃え落ちていた。

空の紅き月と同じように。


ーーーーーーーーーー


案の定、生まれ育った村はあの日のままだった。

どの家も燃え落ち、残骸だけが哀しく風に揺られて。

そして、周囲には野晒しのままの亡骸が散乱していた。


「ここで、(れん)殿が…」


そう、暦が呟いた。


「暦?私の父上を知ってるの?」

「…い、いえ。我が母が蓮殿と知り合いでしたので…」


何故かそこで彼女は目を逸らした。

何かまずい事聞いたのかな?


「それにしても酷いですね…。ここまで壊滅しているなんて…」

「あそこが私達の屋敷だったよ」


私が指さした先の屋敷は、私が居た頃とはまるで別物のようだった。


屋根は焼け落ち、(へい)はあちこちが崩れていて、かつてお父様と共に庭で育てていた作物は全て灰になっていた。

そして…。


「恵様、これは…?」


そう言って篠が持ち上げたのは。


お父様がいつも長い髪をくくっていた、(あお)(ひも)だった。


近くには、錆び付いて使えなくなったお父様の愛用していた槍も。


「…それは、お父様の…」

「…恵様…」

「ごめんみんな。もういいかな?これ以上、ここに居たくない…」

「すいません。暦、篠。すぐにここを去りましょう」


夢がそう答えて私を支えてくれた。


そして私達は村を出て、京を目指した。


「お父様…やはりもう亡くなっていたのですね…」

「蓮殿は、きっと最期まで恵様を護っておられた。あちこちに亡骸があったが、蓮殿より屋敷側には1つもなかったのだから」


確かに、屋敷の中には1つもなかった。

きっとお父様は、最期まで…。


「お父様が護ってくれていたこの命、絶対無駄には出来ない。どうか、天から私達を見守っていて下さい…」


もうすぐ京に着く。

そして京の北、亀岡では。


明智光秀が、兵を集めていた…。



少し寄り道。

恵の生まれ育った村は、北河内の丘にありました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ