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Gratia-紅き月の物語-  作者: 紅月涼
11/45

11話 長篠

顕如さんから、武田氏の援軍に向かうように、と要請された私達は、また京を抜けて琵琶湖の(ほとり)北上(ほくじょう)し、小谷城跡地に着いた。


そこにあった屋敷や、城下町は大半が燃え落ちているか、解体されて移築されたようだ。


「恵様、今この辺りは羽柴秀吉の領地だとか。あまり長居しては危険です」

「うーん、それなんだけどね。もう一度私は秀吉さんに会ってみたいんだよ。戦場ではなく、武器も互いに持たずにね。金ヶ崎と小谷城が落ちる時、彼は私達と戦いながらも、どこかこちらを気にして、ためらいがあったように感じたんだ」


金ヶ崎で、彼は何と言っていた?

”やっぱり浅井は織田を見捨てたんやな…”

そう言っていたのを覚えてる。

そして、”もう敵になってしまった”とも。


「それを言うならば、我らがお市様と姫君達を

送った時もです。彼は”こんな結末は望んでいなかった”と言っていました。その上で、我らにこそっと”織田の敵を見逃すことは出来ん。せめて生き延びるんやで”と…」


そんなことを言ってたのね。

これは一度会ってみる価値がありそう。


でも今は。


「多分だけど秀吉さんは私達と本気で敵対したい訳ではなさそうね。だけど、仕方ないけど今は武田軍との合流を優先しよう」

「そうですね、今はそちらを優先させましょう」


その後、なぜかほとんど織田軍の衛兵などと遭遇することなく私達は武田軍と合流することが出来た。


「お久しぶりです、勝頼殿」

「おぉ、紅月殿らか‼︎ 遠路からの援軍、心から感謝する」

「来て早々ですが、今後の展開を教えてくださいませんか?」

「あぁ。まずは現在攻めている長篠城を落とすのだが、あえて時間をかける」

「しかしそれでは、織田と徳川の主力部隊の援軍が到着してしまいますよ⁉︎」

「そこなのだよ。それを待っている」


…はい?今何と?


「何度でも言おう。織田と徳川の連合軍が来るのを待っているのだ」

「いやいや、ちょっと待って下さい‼︎ 先ほど篠から偵察の報告を聞きましたが、織田の援軍はおよそ3万、徳川軍も1万弱とのこと。対して当方の武田軍の兵力は2万弱でしょう⁉︎ どう考えても無茶です‼︎」

「無茶は百も承知。だがやらねばならんのだ。この合戦が、我ら武田の行く末を決める。負ける訳にはいかんのだ‼︎」


あぁ、ダメだこりゃ。

勝頼殿は分かってない。

信長はすでに主力の足軽部隊のほぼ全員を鉄砲で武装させてる。その数およそ5,000。

それだけの鉄砲がこの前の天王寺の戦いの時みたいに3段撃ちをしてくれば…。


いくら戦国最強といわれる武田の騎馬隊でも、全滅か、それに近い壊滅的な被害が出るだろうな。


このままじゃダメだ。

私達に出来ることがあるなら…。


「暦。夢と2人でこちらの後方に敵が向かってないか見て来て。篠はもう一度、織田軍の偵察を」

「承知しました、恵様」

「あいさ、行ってきま〜す‼︎」


これで、敵が後方に向かっていればこちらの敗北は確定だね。

退路が絶たれたら、どうしようもない。

それに、敵の動きが読めない。

ここは丘や谷が多いから、どこから敵が出てくるか直前まで察知できないのだ。

さっき偵察して来た時、織田徳川連合軍の兵力は約4万弱だったはず。

…ならなぜ今は、その半分くらいしか敵が見えない?

残りの敵はどこ…?


ーーーーーーーーーー


「恵様、我が方の後方に敵影は見つかりませんでした。ですが、側面を迂回中の敵部隊、約3,000を確認。こちらの砦がことごとく落とされました」

「やっぱりいたか。でも本当にそれだけしかいなかったの?」

「え?えぇ。我らからはそのくらいしか…」

「恵様〜、暦ちゃん達の報告は正しいよ。むしろ、あたしの方が予想外じゃない?」

「もったいぶらずに言えよ、篠」

「むー、暦ちゃんせっかちだな。えっとね、まず見つからなかった敵部隊は、谷間や丘の影に隠れてたよ。でもそれだけじゃない。織田軍の鉄砲隊は、でっかい柵を作って待ち構えてる」

「騎馬隊の接近を食い止める為、かな?」

「間違いなくそのつもりね。さながら馬防柵ってとこかな。しかも柵だから、隙間から鉄砲は撃ち放題。あれに突撃する気にはならないなぁ」


まさかそこまで対策してたなんて。

これじゃ完敗かな…。


でも、勝頼殿は迷わず突っ込みそうね。


「仕方ない。私達は前線には出ずに、勝頼殿が撤退出来るように背後の敵を倒そう」

「かしこまりました、恵様」


それから私達は後方の敵部隊を迎撃すべく、武田軍の後方に陣取っていたものの、結局織田の別働隊は、こちらには来なかった。


そして…。

予想通り、武田の騎馬隊は壊滅した。

戦線の偵察に出てた篠曰く、地獄のようだったみたい。


「騎馬隊が、突撃すら出来ずにどんどん撃たれて…。瞬く間に動いてるものが無くなったよ」

「篠は大丈夫だったの?」

「ちょっとズルして隠れてたからね。あ、どんな方法かは言えないよ⁉︎」


さて勝頼殿、これで懲りたよね?


「一旦、撤退して再起を図るべきかと」

「いや、それでは畿内にいるそなたらは…」


そんな心配してる暇あるなら、自分のこと心配してよ⁉︎


「私達は大丈夫です。早く撤退を。このままでは全滅しますよ⁉︎」

「分かった。我らは撤退する。そなたらも早く離脱するのだ‼︎」

「えぇ。それではまた。貴方の無事を祈ります」


私達は武田軍と別れて、急いで畿内に戻った。

その後、織田と徳川の連合軍に猛追された勝頼殿は、天目山に僅かな部下と立て籠もったものの、やがて討死したという。


これにより、甲斐の武田氏は滅亡。


織田の勢力範囲は、尾張(おわり)美濃(みの)近江(おうみ)越前(えちぜん)畿内(きない)伊賀(いが)に及んだ。

徳川の領地も含むと、三河(みかわ)遠江(とおとうみ)駿河(するが)甲斐(かい)まで広がったみたい。


本願寺に戻った私達は、また明智軍と睨み合っていたのだが明智軍は全く動かない。

何かが起きている。

そう思った私は、ひっそりと光秀を探し始めた。


それからしばらく経ったある夜。


私は偶然、陣の外で月を眺めている光秀に出会った。


「明智光秀殿か?」


そう敵である私が問うても、彼は何も言わずにただ月を眺めていた。


「…紅月殿、でしたね。こうして会うのは初めてでしょうか」


しばらくして、彼は私に問い掛けた。


「私は、今まで信長様の(おっしゃ)る事全てを受け入れ、実行してきました。全ては、天下を泰平に導く為だと。ですが、信長様についていけばいくほど、争いは止まない。泰平からどんどん離れていく…」

「えぇ、だからこうして私達と争っている」

「そうですね。しかし、果たしてこの道は正しかったのでしょうか?泰平の為、その一心でここまで戦ってきた。ですがその道は人の血に染まり、とても平和とは言えないのです。もう私は、信長様を信じられない…」


…まさか、光秀さん。

謀反する気なのかな?

それなら…。


「…もし、万が一貴方が信長に反旗(はんき)(ひるがえ)すのなら、私は貴方に協力するよ」


そう言うと、彼はとても驚いた。

まるで自分の心が読まれたと思ったかのように。

でも、結構バレバレだったよ?


「少し、考える時間を下さい。返事は必ず致します…」


それだけ言うと、彼は自陣に帰っていった。

でもあの眼は、もう決意した眼。


きっと彼は動く。

その時が、私達が(かたき)を討つ時になる…。




ついに戦国最大の事変が起こります…‼︎


…多分もう予想ついてると思いますけどね>_<

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