10話 石山本願寺
高虎と別れて3日後、私達は本願寺に着いた。
でもこれ、お寺なのかな…?
周囲は堀に囲まれ、塀もかなり高い。
それに、武装した僧侶もさっきから何人も見てる。
しばらく本願寺の境内を進み、私達は顕如上人に会った。
「よくぞ来てくださった、紅月殿。先の戦で浅井より落ち延びて来た者達から、噂はかねがね聞いておりましたよ」
「こちらこそ、急に押し掛けて申し訳ありません。ですが、長政様の仇を討つ為、そしてこの畿内に平和をもたらす為に、私達も戦列に加えて頂きたく思い、ここに参りました」
「えぇ、あなた方が共に戦って下されば百人力です。これも天の導きなのでしょう。これからよろしくお願いします」
「必ず、お役に立ってみせましょう‼︎」
さてと、早速敵情視察と行きますか。
「それじゃ、始めようか」
「あいさ〜‼︎ ささっと織田軍の様子見てくるね〜‼︎」
「よろしくね、篠。じゃあ夢には…」
「では私は本願寺の各部の状態を確認して来ますわ。場合によっては、補修もお任せください」
さすが夢、頼りになるね。
「では我はここでの活動拠点を作ってまいります。完成したら呼びにまいりますので、恵様はしばらくお休みになってください」
「ありがとう、暦。それじゃお言葉に甘えさせてもらうね」
うーん、みんな優秀で私の出番ないなぁ。
しばらく休ませてもらおっかな。
ーーーーーーーーーー
本願寺に来て、しばらくが経ったある朝。
突然、顕如さんから呼び出しがきた。
「すみませんが、出撃してもらえませんか?明智光秀率いる部隊がこちらに向かって来ています」
「ようやく来ましたか。少し待ちくたびれていた所ですよ」
「よーやく出撃?光秀さんったら慎重だね〜」
「篠、明智軍といえば、鉄砲隊がいますよ。あの新兵器はとても危険ですから、深追いや無理な突出はしないでくださいね」
そうなんだよね…。
あの武器は弓より扱いやすくて、使い方さえ知っていれば農民でも使えるほど単純かつ取り回しがいい。
その上、大した訓練も要らないから、徴兵して間も無い足軽ですら高火力で武装できる。
そしてその鉄砲を大量に導入して、部隊を編成しているのが明智軍の恐ろしい所なんだよ。
だけど…。
「鉄砲でしたら、こちらにも心強い味方がおりますよ」
「そういうことだ、お嬢さん達。俺ぁ雑賀孫市。紀伊の雑賀衆の頭領さ」
「雑賀衆…?確か、鉄砲を自前で調達し、それを大量に装備した傭兵部隊でした?」
夢がそう答えると、彼は嬉しそうな顔をこぼした。
「おぉ、君は俺達を知ってたのか‼︎ ありがたいねぇ、それならここはちょいとかっこいいとこ見せねーとな‼︎」
孫市さんはそう言うと、 織田軍の方へ駆け出した。
「君たちはそこで見ときな。あいつらは俺が蜂の巣にしてやるぜ‼︎」
「孫市さんだけに手柄は譲れないよ。暦はいつも通り私の援護を。夢は鉄砲隊から身を隠しつつ弓で迎撃して。篠、貴女は明智軍の背後に回り込んで、敵の退路を潰しておいて‼︎」
「「「了解‼︎」」」
早速攻撃が始まった。
明智と雑賀の両軍の鉄砲隊が、互いに譲らずに撃ち合っているが、少しずつ明智軍の被害が目立ち始めた。
「よし、雑賀衆撃ち方やめぃ‼︎ これより突撃するぜ‼︎」
「それじゃ、紅月隊も行くよ‼︎」
「行っくよ〜‼︎」
「恵様、援護はお任せあれ‼︎」
「援護射撃しますわ、恵様は敵将を‼︎」
私達の突撃に、すでに乱れ始めていた明智軍は壊滅寸前になって敗走した。
そして、本願寺に来てからの初戦は無事勝利したが、これに対して信長が直々に大坂に向かっていると偵察隊が報告。
私達は主戦場を堺の北、天王寺に決めて織田軍を待ち受ける作戦をとった。
ただ、今回は本願寺の守備の為に夢と篠を残して来た。
夢は弓があるから、遠距離攻撃ができるし、篠も鉄砲の火薬をいつの間にか孫市さんから譲り受けて、爆薬を作っていたからね。
それに、篠ならいざとなれば本願寺が囲まれても包囲を突破して、天王寺にいる私達に伝令に来れるしね。
だが、その戦いはそう簡単にはいかなかった。
織田軍の主力は、こちらの雑賀衆の持つ鉄砲の数を上回る鉄砲を揃えて、進軍しつつ鉄砲隊を3段構えに編成して、間断なく撃ってきたのだ。
「恵様、信長はどうやら鉄砲の最大の欠点である再装填の時間を、部隊を3つに分けて順に撃つことで克服させたようです。このままでは、我が方に甚大な被害が…」
「そうね。このまま戦っても押し負ける。だから…」
そこで私は少し間を空けて覚悟を決めた。
「だから、私はあえてここで突撃して、信長を討つ‼︎」
「危険ですが、それしかありませんね…。分かりました、この神薙暦、命に変えても貴女様をお守りします」
「ありがとう、だけど死ぬのは許さないからね?絶対に生きて戻ろう‼︎」
「ははっ‼︎」
私達は突撃を始めた。
飛んでくる銃弾はまだ距離がある為か、私達には掠りもせず、そのまま突っ込む私達を止める事は出来なかった。
至近まで近付いた時には、敵は怖気づいて逃げ腰になっており、思ったほど苦もなく敵陣にたどり着いた。
「我こそは浅井家家臣、紅月恵様の忠実なる家来、神薙暦だ!我と戦わんと思う勇ある者は前に出よ‼︎ そうでない者はすぐに逃げるがいい、さあ行くぞ‼︎」
暦がそう叫ぶと、敵はあっという間に私達の前を空けた。
いや、誰でもいいから反抗してくれないと味気ないんだけどな。
「恵様、道は開けました。信長の馬印もあそこに見えます。今度こそ‼︎」
うーん、何か引っかかる。
なんでこんなにあっさりと織田の陣まで辿り着けたのかな…?
まるで私達を誘っているかのような…?
…まさか⁉︎
「暦、急いで本願寺に戻ろう‼︎ あっちが危ない‼︎」
「え、ではあの馬印は…」
「多分あれは偽物だよ。金ヶ崎の時と同じ‼︎」
「かしこまりました、では急ぎ戻りましょう‼︎」
私の予想は的中した。
本願寺に戻った時、すでに周囲は織田軍が取り囲んでいた。
だが寺からの応戦も凄まじく、織田軍の主力ですらかなりの死者が出ていた。
そして…。
「いたっ‼︎ 信長を見つけたよ‼︎」
「我が奴を抑えに行きます。恵様は…恵様?一体何を…」
私は近くで死んでいた織田の足軽が持っていた鉄砲を奪うと弾を装填し、信長に向かって。
その引き金を引いた。
だが、狙いは僅かに逸れ、信長自身にも気付かれたのか、彼は急所への直撃を回避してしまった。
だが弾は彼の右足に命中し、信長は落馬した。
「よし、命中っ‼︎」
「我がとどめを‼︎」
暦が飛び出し、信長のいた所に着いた時には、すでに彼は家臣に囲まれて離脱した後だった。
信長は討ち取れなかったものの、深手を負わせる事は出来た。
あの様子では、しばらくは動けまい。
その間に、次の戦に備えないと。
その後、しばらくはまた明智軍との小康状態が続く。
孫市さんはあちこちの戦場に出撃し、織田軍と戦っていた。
そして私達は、武田勝頼殿が甲斐を出て、織田と戦う様子を見せた為、彼らの援軍に向かうことになるのだった。
そろそろ歴史が好きな方は、この先の展開が
少し予想出来るようになってきたのでは?
ちなみに鉄砲の3段構えは長篠の合戦で有名ですが
他の合戦でも織田軍はよく用いたらしいです。