1-7 冒険の準備をしよう
ジャンル再編成のついでに、更新してみました。
楽しんでいただけたら幸いです。
「はあ……ミーシャーに頼まれたからやむを得ないとはいえ、なんで私がこんな面倒なことを……」
「いや、ほんと、ごめんね?」
エレーナさんはギルドを出てからもごね続けていて、ぼくは対応に困る。
ぼくらはギルドを出て、今は街を歩いている。
「そういえばあんたはダンジョンに行く準備はできてるの?」
「……何がいるのかな?」
頭を掻きつつ、ぼくは尋ねる。
「はあっ!? 冗談でしょっ!? いくら昨日冒険者になったばかりとはいえ、そんなことも知らないの?」
「えっと、知らないです……」
身が縮こまりそうな思いだ。
消え入りそうなぼくの返答を聞いて、エレーナさんは嘆息し、
「ったく、仕方ないわね。ダンジョンに向かう下準備からしましょうか。あんまり危険なところに行くつもりはないけど、もしあんたに怪我でもされたら、ミーシャーに面目が立たないし」
「お手数をお掛けします……」
申し訳ないという思いから、ぼくはエレーナさんから目を逸らした。
エレーナさんは再度ため息をついてから、
「それであんたのジョブは何? それによって用意が変わるから」
ジョブというのは、職業をさしているのだろう。
「ええっと、一応ウィザードです」
エレーナさんに頭が上がらないため、つい丁寧に話してしまう。
「へえ、あんたウィザードなんだ。何も武器を持ってないから、てっきり徒手空拳で戦う拳闘士なのかと思ってたわ。でもそれにしては体ができてないものね。……ええと、ウィザードならとりあえずローブとロッド、それに剥ぎ取り用のナイフがあれば問題ないわ。あとはそうね、魔力回復のポーションと護身用にダガーがあれば充分よ。これだけ一気に買うとなると、結構お金がかかるわね。ちょっと変わってるけど安価で質の良いお店を知ってるからそこへ行きましょう」
体ができていないと言われたことに対して若干へこみつつ、ぼくはエレーナさんについて行く。
「ね、ねえ、エレーナさん? さっきから人相の悪い人たちにちらちら見られてるような気がするんだけど!?」
歩くこと数十分が経過した。現在ぼくらは、少し寂れていて入り組んだ路地裏を歩いている。
「そんなの一々気にしてたらキリがないわよ。もっと奥へ行ったり、夜だったりしたらちょっと危ないけど、今の時間なら大丈夫よ。それに、こんなことでビクビクしているようじゃ、冒険者なんて務まらないわよ。いくら昨日冒険者になったばかりとはいえ、もっとキリッとしなさい」
肝が据わっているエレーナさんの発言に、ぼくは情けないなあと痛感した。
それから少し進んだ先に、如何にもといった古めかしい建物があった。
「ここよ」
そう言って、エレーナさんは扉を開け、店内へと入って行った。
続いてぼくも入店する。
「すごいな……」
店内には剣や鎧などの装備品が所狭しと雑然に置かれている。
山のように積まれた装備品の間隙をエレーナさんは縫って歩き、店内の奥にいる店主らしき人物の方へと向かっている。
エレーナさんの後にぼくも続いた。
「ようこそお越しくださいました。何をお探しですかな?」
隻眼なのだろうか? 片方の目を閉じた状態で、カウンターの奥にいる男性が剽軽に問いかけてきた。
「こいつに使えそうな剥ぎ取り用のナイフとロッド、それにローブとダガーを見繕ってくれる? それと魔力回復のポーションがあれば欲しいわ」
不敵な面構えで発言したエレーナさんのことを意に介した様子もなく、男がへらへらとしながら、
「となると、そちらのお客さんは冒険者になったばかりということですかな? それならちょうど良い品物が揃ってますです、ハイ。もちろん魔力回復ポーションもありますですよ。他にも色々ありますが、いかかでしょうか? もちろんサービスさせていただきますです、ハイ」
満面の笑みで男が言った。
「余計なものは必要ないわ。お金もそんなにあるわけじゃないし。……そういえばあんた、お金持ってるの?」
「多分装備を買うぐらいなら問題ないと思うけど……」
もしかしてぼくがお金を持っていなかったら払ってくれるつもりだったのだろうか? いや、さすがにそれはないか。
「そう、ならいいわ。……じゃあ適当に選んでくれる?」
「かしこまりましたです、ハイ」
武具が積まれている山へと男は向かい、幾つか装備を持ってきた。
「こちらのロッドなんていかがでしょうか? これはかなりレアな樹木からできておりまして、さらに今は亡き有名な御仁が魔力を練り込んだという逸品でございます。お値段は本来であれば……」
と、悪徳商法まがいの話術が披露され始めたところで、
「そんな大層なものじゃなくていいわ。駆け出し冒険者が使うような装備をちょうだい」
「……残念です。かしこまりましたです、ハイ」
そうして先ほどの物と比べると簡素な品を男は幾つか取ってきた。
「これらなんてどうでしょうか? 冒険者に成り立ての方にはこれぐらいの質の物が良いかと思われますです、ハイ」
男が持ってきた品々をエレーナさんが吟味し始めた。
自分のことなのに、先ほどから何にもできていないことをぼくは歯痒く思う。
「そうね、ロッドはこれで、ダガーはこれ……それから、剥ぎ取り用のナイフはこれでしょ。……ねえ、あんたはどっちのローブが良い?」
そう言ってエレーナさんが見せてきたローブは2種類ある。ひとつ目は赤色でだぼっとしているもので、もう片方は白色を基調とした所謂聖職者然とした衣だ。白い方がやや動きやすそうだが、赤色の方でも恐らく問題なく動けるだろう。
……というか、何が違うんだ?
「はあっ!? あんた、そんなことも分からないの? 見た目よ! み・た・め!! ったく、ほんとに仕方ないわね。性能はだいたいどっこいどっこいよ。だからあんたが好きな方を選べばいいわ。要は、好みの問題よ」
ぼくは暫し考え、
「じゃあ、こっちで」
白い衣の方を指さした。
「へえ、良いセンスしてるじゃない。私もそっちの方が好きだわ。……後は魔力回復ポーションだけね。5本あれば良いわ」
「かしこまりましたです、ハイ。では、装備4点と魔力回復ポーション5本のお買い上げということで、よろしいでしょうか?」
「ええ、その通りよ。いくらかかるのかしら?」
男はまたもへらへらとしつつ、
「今回は特別にサービスさせていただいて、かなりお安くさせていただきますです、ハイ」
「あら、それは助かるわね」
エレーナさんの浮かべている卑しい笑みと男の下卑た笑みは悪人のそれだ。
「ですので、ぜひ御贔屓にしていただけると嬉しいです、ハイ」
支払いを済ませ、ぼくは装備を手に入れた。予想以上のサービスのおかげで、そこまで高い支払いをせずに済んだ。
店内で装備をしても良いということだったので、早速ぼくは着用することにした。
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