1-6 再び冒険者ギルドへ
更新が非常に遅くなり、申し訳ないです。
この春から新生活がスタートし、バタバタとしておりました。
大型連休中に更新しようと思っていたのですが、時間が取れず……。というよりか、そもそも大型連休なんて私にはありませんでした。
何はともあれ久しぶりの更新です。お楽しみいただけたらな、と思います。
これからは執筆する時間を確保できそうなので、隔週ぐらいの頻度で更新できたらいいなあと思っています。
今後も何卒宜しくお願いします!
ぼくは、階段を上り2階に上がった。
どうやら2階の部屋数は全部で8室あるようだ。ぼくの部屋は202号室――階段を上がってすぐのところだ。
鍵を開け、ぼくは部屋の中に入る。
内装は、ベッド・椅子・机と至ってシンプルな作りだ。
まずは部屋の様子を見て、問題がないことを確認した。
念のために、部屋に困ったことがないことをユリアさんに伝えておこうと思い、ぼくは1階へと向かう。
カウンターにユリアさんがいたので、過ごしやすい部屋であると伝えた。
するとユリアさんが「明日は何時ごろに起こしてほしい?」と聞いてきた。
そこでふと、先ほどのギルドでのやりとりを思い出す。
確か早朝にギルドに行けば正確なステータスが分かるんだったかな。
せっかくなのでステータスを測ってみようと思い、朝早くに起こしてほしい旨をユリアさんに伝えたところ、快諾してくれた。
自室に戻ったぼくはベッドに横になり、今日1日のことを振り返る。
ぼくの人生は、今日をきっかけに変転した。本来であれば今ごろ日本でだらだらと過ごしているのだろうけれど、突拍子もないことに今は異世界にいる。
――この先、ぼくは一体どうなるのだろうか……。
それは誰にも分からないことだ。けど、単調であった日本での生活を抜け出し、未知の体験が待ち受けているであろう異世界での今後の生活に胸が躍っているのは確かだ。
そんなことを考えているうちに、睡魔に襲われたぼくはいつの間にか夢の世界へと旅立った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「朝だよ、レンくん。さっさと起きちゃいな」
頭を揺すられ、ぼくは目を覚ました。
「あれ、ここはいったい……? そうだ、異世界へ来たんだった。……あっ、おはようございます、ユリアさん」
「おはよう、レンくん。なんだ、寝ぼけているのかい? 顔でも洗って、風呂にでも入ってきたらどうだい?」
「えっ、お風呂があるんですか!?」
「レンくん、本当に大丈夫かい? 風呂ぐらいあるに決まってるじゃないか」
日本にあった異世界モノの創作物では、最初からお風呂があることは珍しい。とすると、この世界の暮らしの水準は割合に高いのかもしれない。てっきり川で行水しなければならないと思っていたので、ややテンションが上がる。
ユリアさんに風呂場の所在を聞き、ぼくは湯殿へと向かう。
浴場に着くと、早速服を脱ぎ、ぼくは沐浴を始めた。
運が良いことに、お風呂はぼくの独り占めだ。
朝日が昇る前にユリアさんが起こしてくれたので、時間が早いというのも影響しているだろう。
なんにせよ、広々とお風呂に入れるのはとても気持ちが良い。
「魔法があるからなんだろうけど、なかなかに快適なお風呂だな。湯加減も良いし」
脱衣所も狭くなく、また洗い場・湯船ともに程良い大きさだ。
あまりにも快適でずっと風呂場で過ごせそうだったけど、早く冒険者ギルドへ行きたいので、適当なところでお風呂から上がった。
軽めの朝食を摂ってから、ぼくはギルドへと向かった。
まだ完全には日が昇っていない時間だからか、街には人がまばらにいる程度だ。
人がごった返している状態だとさすがに昨日の今日でギルドに迷わず辿り着くことは困難であっただろうけれど、これなら何とかなりそうだ。幸いなことに、宿からギルドへの道は大して複雑ではない。
しばらく道を行くと、冒険者ギルドが見えてきた。
戸を押し開け、ギルドに入る。
ギルド内の様子は昨日とは打って変わって人が少ない。というか、ほとんどいない。
受付カウンターに向かおうとしたところで、
「あっ、レンさん! おはようございます!」
ミーシャーさんが気さくに話しかけてくれた。
「おはようございます。えっと、詳細なステータスを測りたいんですけど……」
「さっそく来てくださったんですね! かしこまりました。……今は人も少ないので大丈夫そうですね。念のために別室にご案内します。ついてきてください!」
ミーシャーさんに同行し、ぼくは2階へと上がる。
それから少し進んだところにある部屋にぼくたちは入った。机を挟んで、ミーシャーさんは対面に座る。
綺麗な女性と部屋で2人きり。そのシチュエーションに内心ドキドキしつつも、ミーシャーさんの厚意で部屋を用意してもらったんだからと逸る気持ちをぼくは落ち着ける。
「では、詳細ステータスの測定を行ないますね」
そう言って、ミーシャーさんは魔法を詠唱した。
どんな結果が出てくるのだろうか。
測定結果に対する期待と不安が入り乱れて緊張し、気づいたらぼくは手に汗をかいている。
暫し待っていると、
「レンさん、結果が出ました」
ミーシャーさんが測定結果をぼくに見せる。
「こ、これは……」
ぼくは言葉に詰まる。
この結果はわざわざミーシャーさんに説明をしてもらうまでもない。異世界のステータスについて詳しくないぼくですら、この測定値が意味するところは分かる。
即ち、
「これって、攻撃魔法以外の適正が皆無で、魔力量以外のステータスは全て平均以下ってことですよね?」
「……そういうことになりますね…………」
気まずい沈黙がぼくらの間に流れる。
間が持てないことにぼくは耐えきれなくなり、
「と、とりあえずぼくにもできそうな仕事があるか、クエストボードを見てきます」
「そ、そうですね、クエストによっては簡単で報酬の多いものもありますから! この時間ですと、条件の良いクエストが手付かずで残っているかもしれません! い、一緒に見に行きましょう!」
どうやらミーシャーさんも動揺しているようだ。
どこかよそよそしい会話をしつつ、ぼくたちは部屋から出て1階へと向かう。
するとエントランスにぼくらが共通で知っている人物がいた。
「あっ! エレーナさん、おはようございます!」
ミーシャーさんに声をかけられたエレーナさんがこちらに気が付く。
「ええ、おはよう」
「……一応ぼくもいるんだけどな。エレーナさん、おはよう」
「あら、あんたもいたのね。随分と早いじゃない。……ところでミーシャー、今日はどのクエストがおすすめかしら?」
ぼくにはぞんざいな態度で応じつつ、エレーナさんは仕事を得ようとする。
「そうだ、いいことを考えたわ! エレーナさん、悪いんだけど、今日はレンさんにダンジョンを案内してくれない?」
妙案が浮かんだとばかりのミーシャーさんに対して、エレーナさんは億劫そうな表情を露骨に顔に表わす。
「昨日に引き続き、今日もこいつの面倒を見なきゃいけないなんて、いくらミーシャーの頼みでもさすがに嫌よ。それに、だいたい何で私なのよ? 別に私じゃなくたって、他に人はいるじゃない」
「それはそうなんだけど……エレーナさんは話しかけやすいからついつい頼んじゃうのよね。それにエレーナさんもこっちに来たばかりなんだし、レンさんがどういうところで困るのか分かるんじゃないかと思って。エレーナさんが引き受けてくれたら、私は嬉しいな。……もちろん、報酬は弾むわよ」
ミーシャーさんが含み笑いをする。
「くっ……分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば」
エレーナさんは唇を噛んで、破れかぶれに言った。
もしかしたら、ルーキーと持て囃されているエレーナさんだけど、懐事情は芳しくないのかもしれない。
かくしてぼくとエレーナさんは、2人でダンジョンに向かうこととなった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!