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攻撃魔法の使い手  作者: 餅は餅屋
第1章 パーティー結成篇
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1-16 ダンジョンからの帰還

 浄化の魔法をかけてもらい、ぼくらの汚れは取れた。それからすぐに先ほどの5人組とは別れたのだけれど、どうしてかエレーナさんの機嫌がすこぶる悪い。

「えっと、エレーナさん?」

「……なに?」

 恐るおそるぼくが尋ねると、エレーナさんはこちらを睨めつけながら返事をした。

「もしかして、エレーナさんの気に障るようなことをぼくがしちゃったのかなって、思ったんだけど」

 するとエレーナさんは大仰にため息を吐き、

「ほんっとにあんたは何にもわかってないわね。いい? 余所のパーティーに浄化の魔法をかけてもらうなんて、恥辱の極みなのよ。まるで私たちが魔力の配分すら分からないひよっこみたいじゃない」

「そうは思わないけど……」

 実際にぼくは今回が初めてのダンジョン探索なので、未熟なのは否定できないし。

「だからあんたは何にもわかってないのよ! それにさっきのやつらは名前すら言わなかったのよ! たまたま浄化の魔法を使ってくれたから良かったものの、もしも他の魔法、例えば麻痺の魔法なんて使われていたら、私もあんたもどうなっていたか分からないのよ! 今頃、魔物のエサになっていたかも知れないわ」

 エレーナさんが物凄い剣幕でまくし立てた。

 それこそ考えすぎなのではとぼくは思ったけれど、これ以上エレーナさんの機嫌を悪くさせるのは良くない。ここは謝っておくのが得策だろう。

「ご、ごめん。ぼくの考えが甘かったよ」

「……別にいいわよ」

 それから黙々と歩いて、ぼくらはダンジョンの出口へと向かった。



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「お2人とも、御無事だったんですね! 良かったです!」

 エレーナさんとぼくがダンジョンから帰還した旨を最初に応対してくれた受付嬢に伝えた。

 受付嬢に聞いたところによると、先ほどの崩落が起こってからダンジョンに潜っていた冒険者たちはほとんどが帰還したそうだ。けれどエレーナさんとぼくは戻ってきてなくて、ぼくにいたっては初めてのダンジョン探索ということもあり、受付嬢は心配してくれていたみたいだ。

「それで暇そうな冒険者たちにダンジョンの調査を頼んだってわけ?」

「はい、冒険者の皆さんには崩落の被害状況と原因の調査をお願いしました」

「なるほどね」

 一応筋は通ってるわね、とエレーナさんは呟いた。

「だいたいの状況は理解したわ。私たちは少し疲れたから休ませてもらうわね」

「はい、それは構わないのですけれど、先ほどの崩落について何かお気づきの点がございましたら教えてくださると助かります」

 そこでエレーナさんは1度考えるような素振りを見せてから、

「いえ、特にないわね。それじゃあ私たちはこれで」

「そうですか。もしも後で気が付いたことなどがありましたら、お知らせください」

 受付嬢は丁寧に頭を下げてぼくらを見送ってくれた。




 ギルド内にある二人掛けのテーブルにぼくらは腰を下ろす。

「よく我慢できたわね」

「そりゃ、さっきエレーナさんに言われたからね」

 苦笑まじりにぼくは言った。

 ぼくらが受付嬢のところに行く直前に、「受付嬢とは私が全部話すからあんたは黙ってなさい」とエレーナさんがくぎを刺したので、先ほどの受付嬢との会話のとき、ぼくは口を閉ざしていたのだ。

「でも、どうして本当のことを話さなかったの? ギルドにはきちんと報告しておいた方がいいんじゃないかな?」

 近くに人はいないけれど、念のために声を潜めてぼくは聞いた。

 エレーナさんも声量を抑えて言う。

「馬鹿ね。いずれ本当のことを言うときがくるかも知れないけど、今はまだ早いわ。それに、何だかにおうのよね」

「におう……?」

 一体どういうことなのだろうか。

「ええ、どうにもきな臭いのよね。こう、なんていうか作為的というか誰かの意図を感じるというか、言葉にするのは難しいんだけど」

「つまりエレーナさんは、さっきまでの一連のことすべてを何者かが企んでいたとでも言うわけ!?」

「声が大きいわよ」

「ご、ごめん。気を付けるよ」

 つい熱くなってしまった。

 声を抑えて、ぼくが再度聞く。

「で、やっぱりエレーナさんは、その、何かを疑ってる……?」

「ええ、そうよ。だっておかしいと思わない? いくらそんなに探索が進んでいないとはいえ、私たちはそこまで深く潜ったわけじゃないわ。上層に位置するあの場所にキュクロープスがいたら、さすがに誰かが気づくはずよ。それに、キュクロープスを倒した後に発動したあれは間違いなく魔法陣だったわ。少なくとも、あの場所に誰かが魔法陣を仕組んだのは、まず相違ないでしょうね」

 そこでエレーナさんは一際声を潜めて、

「……ダンジョンの管理は冒険者ギルドが行なっているわ。ここから考えられることは主に2つよ」

 ようやくそこでぼくは合点する。

「ま、まさか冒険者ギルドが絡んでいる――?」

「その可能性があるから、さっきは何も知らないふりをしたというわけよ。そしてもうひとつ考えられるのは、何者かがダンジョンに潜入して工作をしたというところかしら」

「冒険者が魔法陣を設置した可能性もあるんじゃない?」

「その可能性もなくはないけど、冒険者がそんなことをしても得るものがないわ。だから冒険者ではないはずよ。それにまだすべてを探索しきっていないダンジョンに細工をしたら、それこそ仕掛けた側が怪我をする可能性だってあるしね。そんなことをわざわざする冒険者はいないと思うわ」

「でも、エレーナさんが言う2つの可能性、どちらにしてもぼくには利点が分からないんだけど。冒険者ギルドがやったことだとしたら、それって自ら害を被るようなものだし、何者かがやったとしても得るものはなさそうだけど。だって冒険者の数が減ったら、それだけ魔物の被害が増えるってことだよね?」

「……あんたそれ、本気で言ってるの? いえ、あんたに常識を期待する私が馬鹿だったわ。まあ、あんたの言う通り、冒険者ギルドがやった場合のメリットは私にもちょっと分からないというか、明確にこれだとは言えないわ。でも後者、すなわち第三者がやった場合についての利点は説明できるわよ。そもそも冒険者ギルドを疎ましく思っている勢力はいくつかあるから、そのうちのどれかがやった可能性があるでしょ? それに冒険者の数が減ることで、仕事が増える人たちだっているの。ああいうやつらは、手段を選ばずにことを起こすことがままあるわ」

 特に何も考えず老人に言われるがまま冒険者ギルドに入ったわけだけれど、少なくとも冒険者ギルドの立ち位置ぐらいの情報は調べておくべきだったかな、とぼくは今さらながらに思う。もしも冒険者ギルドが際疾きわどい立場だったり、物騒なことをしているとしたら、ぼくも無関係ではいられない。



「それで、これからどうしようか?」

 ぼくは聞いた。

「そうね、ひとまずフィリヴァンに戻りましょうか」

 エレーナさんの提案にぼくは賛同し、2人でフィリヴァンへと向かうことにした。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

 次話から新ヒロインの登場です!!

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