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攻撃魔法の使い手  作者: 餅は餅屋
第1章 パーティー結成篇
13/18

1-13 初めてのダンジョン探索 【下、その1】

 やや短いですけれど、切りが良いので投稿させていただきました。

 エレーナさんの肩越しから内部の様子を見たぼくは息を呑んだ。そこには、大量の魔物がいたからだ。

 先ほどのリベールラの他に、蝙蝠こうもり型の魔物や狼のような魔物、猪みたいな魔物などが無数にいる。

 エレーナさんの言う通り、状況はまさしく『最悪』だ。

「……やるしかないわね」

 エレーナさんが抜刀する。

「でもエレーナさん、大丈夫なの?」

 ここに至るまでの連戦で、エレーナさんは大分消耗している。にもかかわらず、眼前の魔物と事を構えて、果たして彼女の体は保つのだろうか。

「まともに戦ったらやられると思うわ。隙を突いて、一点突破するわよ」

 そこでふと、エレーナさんの見ている方向に通路があることにぼくは気がついた。

 さすがエレーナさんだな、とぼくは思う。こんな状況でも――いやこんな状況だからこそ周囲に気を配ることができる彼女とおろおろしている自分とでは、比べることすらおこがましい。冒険者としての格の違いをまざまざと痛感した。



 エレーナさんの近くにいた狼のような魔物が咆哮し、エレーナさんへと跳びかかる。

「ヴォールク! 来たわねッ! あんたはもう少し下がってて! 敵の数を減らしたら突破するわよ!」

 言いながらエレーナさんは刀を構え、迫ってくるヴォールクに備える。

 ひとまずエレーナさんの邪魔にならないようにと通路の奥へぼくは退く。それからエレーナさんの様子を窺う。



 大口を開け牙を剥き出しにしたヴォールクが、エレーナさんの細首めがけて跳んだ。

 ヴォールクの動きを凝視し、エレーナさんはやおら刀を振り上げ――転じて、苛烈に振り下ろす。

 刃先はヴォールクの首を見事に捉え、そのまま両断した。

 赤い血が、勢いよく噴き出す。

「ひッ……」

 引き攣った声をぼくが上げる。先ほどのキュクロープスの無惨な姿が想起されたからだ。

 両手で口を塞ぎ、込み上げてきた嘔吐感とぼくは戦う。迫り上がろうとするものを必死に抑え込む。

 息をつき、エレーナさんの方をぼくは見る。



 エレーナさんは、苦戦を強いられていた。

 敵の攻撃をいなし、そのことによって生まれた隙を突く。それが彼女の基本的な戦闘スタイルのようだ。

 けれどぼくの位置取りが悪くて、エレーナさんの戦闘の障害になってしまっている。エレーナさんは通路を背にして戦っている。つまりエレーナさんの後方にはぼくが控えているというわけだ。そのためエレーナさんは、魔物の攻撃を避けるという手段が使えない。

 魔物の数が多くなければ、もしくはエレーナさんの魔力が万全であれば事態は変わっていたのかもしれないけれど、そう上手く事は運ばない。



 息つく暇すら与えないとばかりに、魔物達はエレーナさんへと襲いかかっている。

「ちょっとマズいわ。多勢に無勢、このままだと……っ!」

 再びヴォールクが跳びかかる。

 エレーナさんは、迫り来るヴォールクの牙を片方の刀で防ごうとしたけれど、ヴォールクの突撃が激しく、とてもじゃないけれど少女に受け止められるものではなかった。

「っ……しまったッ! もっと奥に逃げてッ!」

 エレーナさんは突き飛ばされ、地面に倒れる。ヴォールクがエレーナさんの背後――即ち、ぼくのいる方へと進もうとしている。

 ヴォールクがジリジリと、しかし確実にぼくとの距離をつめてくる。

 けれど恐怖で身が竦んでぼくは動けない。

「やばい やばい やばい」

 ヴォールクが徐々にぼくの方へと近づいてくる。

 エレーナさんは、立ち上がりながら正面から接近してきたリベールラを斬った。

「何やってるのよッ! 早く動きなさいッ!」

 ぼくの目の前まで迫ったヴォールクが牙をむいた。

「ひっ……」

 恐怖のあまりぼくは尻餅をついてしまう。

「ほんっっっとに、あんたはどうしようもないわね。《ケルパー・フォルテ》」

 エレーナさんの体が、お馴染みの白い光に一瞬だけ包まれた。

 今にもぼくに跳びかからんとしていたヴォールクの胴体を、後ろからエレーナさんが真っ二つに斬った。

「た、助かったよ。ありがとう」

 呆然としながらぼくは安堵の声を漏らす。

「別にいいわよ。……それより早く魔物を片づけないとまずいわ。もうあまり魔力が残ってないの」



 エレーナさんとぼくのいる通路の入り口から、猪みたいな魔物が猛進してきた。

「下がってて。カバーンがきたわ」

 発達した牙に貫かれると、鎧を着けていても貫通しそうだ。ましてろくな装備をしていないエレーナさんが喰らうと悲惨な結末となるのは火を見るよりも明らかだ。

 ――だのに。

 不敵にもエレーナさんは、カバーンが攻めてくるのを悠然と待つ。

 エレーナさんとカバーンが接触する寸前、エレーナさんが新たに魔法を唱える。

「《マイア・エペ・レピダ》」

 エレーナさんの2刀が、刹那の間だけ白い光に覆われた。

 両者が接するときが訪れた。

 カバーンの牙がエレーナさんの腹部を貫かんとして迫る。

 対するエレーナさんは、2刀を左右に大きく広げ、地面と水平に振るう。

 エレーナさんは、右手に持った本差で牙を、左手の脇差で面を断ち切る。

 ――カバーンは、即死した。

 されどエレーナさんは焦った様子で、

「今から道を切り開くわッ! 付いてきてッ!」

 ぼやぼやしているわけにはいかない。

「わ、わかったッ!」

 立ち上がり、エレーナさんの後をぼくは追い始める。



 ぼくらが目指すのは向かいにある通路だ。その道中には多くの魔物が跋扈ばっこしている。

 ぼくとエレーナさんの生存を懸けた闘いが幕を開けた。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!



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