最強(狂)のけんじゃ
チュン、チュンチュン
アイエー、アイエー、アイエー
今日も朝から鳥と井手中の鳴き声が聞こえる。
窓が割れてガラス片が飛び散っていたが
昨日ここで何があったのかは
詳しく思い出すことができなかった。
ただ、首筋に噛まれたような痕があり
何かに確かに噛まれたのは覚えていた。
「人間をやめかけた気がするんだがなぁ」
いくら考えてもどうにもならなかったので
とりあえず井手中を回収しに行くことにした。
井手中は夜中に徘徊する癖があり、どこにいる
のか分からないこともあったが寝言が少し
おかしいので大抵すぐに見つかる。
どうやら今日は俺の家の屋根の上で
寝ているようだ。
「おーい、おきろー、井手中ー」
類は友を呼ぶとはまさにこのことだった。
屋根に登るといつも通り井手中が寝ていたが
隣に見たことのある女の子も寝ていた。
その瞬間昨日の出来事を全て思い出した。
(昨日俺はこの子に何かを吸われて
そのまま気を失っていたんだ。)
警察に届ける前に何かされてないか
確かめたかった俺は井手中を放置したまま
女の子を家に連れ込んだ。椅子に座らせて
数分すると目を覚ましたので話を聞いた。
「俺は御手洗悠吾、お前の名前は何だ」
「ユナ」
以外とあっさり答えたので少し拍子抜けしたが
聞きたいことは山ほどあったので質問を
続けることにした。
「お前は幸福会のメンバーで間違いないな」
「うん、、、」
「昨日は何で俺の家に侵入してきたんだ」
「追われてたから」
「警察に?」
「ううん、幸福会の人達から」
「なんで!?」
「私にも分からない」
嘘をついてるようには見えなかった
やっぱりかわいいって罪だ
「昨日俺になにをした」
「襲われそうになったから、正当防衛」
「そういう意味じゃなくてだな」
(正論だから言い返せねぇ)
「血と一緒に魔力を少し分けてもらった」
「そういうことか」
(たぶんその時魔力量が底をついたのか)
人間は魔力が完全に空になってしまうと
目眩のようなものがおこり、少しの間
体の自由がきかなくかる。
昨日の出来事をすべて理解した俺はいよいよ
警察に電話しようとしたが
「お願い、警察だけはやめて
あなたが言ったことなんでもするから」
その言葉を俺は聞き逃さなかった。
「何でもって言ったな、その言葉忘れるなよ」
ケータイを閉じた俺はとりあえずユナに
シャワーを浴びてくるよう命令した。
別に変な意味ではなく、ただ昨日と同じ
服装でぼろぼろのままだったからだ。
やましい気持ちはそこには少ししかなかった。
「気持ちよかった、ありがとう」
そう言いながら浴室から出てきたユナは
本当にきれいでかわいかった。巨乳ではないが
体のサイズにあった美乳で、目を奪われる。
「ユーゴ、目がエロい」
ありゃ、ばれてた。
「数日間ならお前を匿ってやるから、
その間に次の隠れ家を見つけろよ」
「私は名前で呼んだのに
ユーゴは名前で読んでくれない」
「呼ぶ必要がないだろ」
「じゃあ、なんで名前聞いたの」
「何となくだ」
(気恥ずかしくて呼べるわけねえだろぉぉ!)
「ふーん」
「とにかくだ、お前は家から一歩も出るなよ
何度も言うが長い間は匿えないんだからな」
「わかった、、、」
ユナは寂しそうな顔をしたがここで情に
流されると大変なのはわかっていたので
何も言わなかった。
「じゃあ、学校行ってくる」
「行ってらっしゃい」
倦怠期に入った夫婦のような見送りだった。
学校に着くと溝川が近づいてきて
「女の臭いがする、どういうことだ」
お前の嗅覚はとうとう犬を越えたか。
西田や迎も集まってきて最高裁判が始まった。
「御手洗被告、あなたは女の子と
接触するような何かがあったのですか」
「今日の朝曲がり角でぶつかっただけです」
「「「全会一致で死刑!」」」
どうやら選択肢を間違えてしまったらしい。
だが本当のことを言えば裁判すら省略されて
即刻極刑が下されていただろう。
こんないつも通りの日常だった。
学校から帰ると家が綺麗になっていて
食卓には美味しそうな晩飯がならんでいた。
「これおまえが全部やったのか」
「うん」
「すごいな」
俺はごくごく自然にユナの頭をなでていた。
ユナの顔が段々と赤くなっていくのを見て
こっちまで少し恥ずかしくなってしまった。
なでるのをやめると
「もっとほめてほしい」
かすれそうな声と上目使いで頼まれて
しまっては断れるわけもなく
ずっとずっと満足するまで、なでてあげた。
「ありがとう」
こんなに素敵な笑顔もつくれるのかと一瞬
心を奪われてしまう。
かわいいし、家事はできるし、普通の女の子
だったらお嫁さんにしたかった。
でも、目の前にいるのは幸福会のメンバーで
犯罪者だった。
それから一週間、日に日に強くなる
女の子の臭いをどうにかごまかしながら
平穏に生きてきた。
ある日、家に帰るといつものように食卓の上に
晩飯が置いてあったがユナはもういなかった。
犯罪者ではあったけれど
とてもかわいくて、すてきな子だった。
机の上の置き手紙に手をのばす。
『ユーゴへ
少しの間だったけど助けてくれて
本当にありがとう。私は新しい居場所を
見つけたので家を出ます。家事をほめて
もらったとき、とても嬉しかったです。』
そう書かれていた。とても寂しかったが
あいつは犯罪者だからと自分の心にそう
言い聞かせて手紙を捨てようとした。
しかし、裏側に書かれていた文字を見て体が
勝手に動いていた。
『助けて』
今にも消えそうな文字と汚い下手くそな地図が
そこには書かれていた。だがそれは俺の心を
動かすには十分すぎた。例え罠だったとしても俺はユナに会いたかった。
俺は急いで西田の家に向かっていた。
「西田、頼む力を貸してくれ!」
「いきなりどーした?」
「あの魔法を俺にかけてくれ頼む!」
「本気で言ってるのか」
「超本気だ!!理由は後で話すから!!」
「ただでとはいかないぞ」
「こんど、エ○リBOX買うから!
初回限定版のタペストリーもやるから!」
「うおぉぉぉエ○リぃぃぃ!!」
西田はそう叫びながら魔方陣を出し
空間に歪みを作った。
西田は二次元に行きたいと思うあまり時空を
ねじ曲げる魔法が使えるようになった変人だ。
俺はそれを利用して地図に示された場所に
瞬間移動した。
時空の歪みから出るとそこは
どこかの地下牢獄のような場所で、
ユナは手を鎖で縛られて
壁側につりあげられていた。
「ユナ!大丈夫か!」
鎖はなかなか複雑にされており簡単には
外せなかった。途中でユナが目を覚ました。
「ユーゴなんで来たの」
「お前が助けてって書いたんだろが!」
「私、そんなの書いてない!
これは罠だから逃げてユーゴ!」
「逃がすわけ無いだろ」
どこからか低く暗い声が響いてきた
「お前はユナの存在を知ってしまった、
幸福会が貴様を冥土へと連れていこう」
暗闇から出てきたスキンヘッドの男の両手にはバレーボール大の火の玉が浮いていた。
「死ねい!」
火の玉は俺とユナに向かって
まっすぐ飛んできた。
「よけろ!ユナ!」
ボォォォォ ドオン!
頭のすれすれを通っていった火の玉は
壁に着弾すると爆発した。
明らかに人が殺せるレベルの威力だった。
「なんであいつらはそんな魔法がだせるんだ」
「私のせいなの」
「どういうことだ!」
「私にしか使えない魔法があって、体に莫大な
負担を伴う代わりに脳にかかったセーブを
外すことができるの」
「なら、なんで幸福会の味方に」
「それは、、、」
「ユナの魔法の事を知った我々は
徹底的に彼女を追い回して、
心が弱ったところを洗脳させてもらった。
だが時々逃げ出してしまってな今回も
いつも通り連れ戻しに来ただけだ。」
「ユーゴには迷惑かけちゃったけど
本当は帰りたくないの、とても怖いの。 」
ユナはトラウマでも思い出してしまったのか
俺の背中に顔を埋めて泣き始めた。
「どこまで最低なんだよ、テメーら!!」
「だから何だと言うのだ小僧
貴様に何かできることでもあるのか」
「俺にだってユナを守る事ができる」
「戯れ言を言うな」
俺はただの変態でそんじょそこらにいる
一般人だがユナの優しいところや
かわいいところを誰よりも知っている。
ユナを犯罪者だと信じて疑わなかった
自分がとても憎い。
「犯罪者があんなに
かわいい笑顔つくれるわけないだろ!」
「ユーゴ、、、」
「ユナ!その特殊魔法を俺にかけてくれ!」
「だめだよ!ユーゴの体がもたないし
私でさえ記憶が曖昧になってしまうのに!」
「俺の言うことを何でも聞くっていったろ!」
「それでもっ!ユーゴが心配だから!」
「お前を信じる俺を信じろ!」
「グレン○ガンのまねしてもだめだから!」
「お前の笑顔を俺は守るから!
お前を悲しませないと約束するから!」
今のセリフきまったなとか思っていたが、
そんな思いはすぐに消えた。
ユナが泣きながらもかけてくれた魔法が
俺の体を包み込んだとき、とてつもない頭痛と
倦怠感におそわれた。
立っているのが精一杯で自分が何をしようと
していたのかすら忘れそうになる。
「辛そうだな小僧、楽に殺してやるから喜べ」
「俺はユナと約束したんだぁぁぁ!」
俺が叫んだ瞬間、
股間に虹色の魔方陣が現れた。
(あれぇぇぇぇ!?)
何か思ってたのと違った。
男は俺を見て笑い死にしそうだった。
「俺を笑い死にさせかけるとは
なかなかやるな小僧」
男はずっと笑っていて攻撃しようかどうか
迷ったが次に男が放った一言で俺はキレた。
「そんなお粗末なものぶらさげやがって
お前がカスければ息子もカスだな」
「俺を馬鹿にするのはどうでもいいけど
俺の息子を馬鹿にするなぁぁぁぁ!!」
股間の魔方陣が眩い光を放ち大きくなった。
「エクスカリバァァァ!!!!」
俺の腰から光輝く剣が生えてきたと思ったら
ヘニャヘニャだった。
なんかもういろんな意味で死にたかった。
「なるべく楽に殺してくれよ、おっさん」
せめて童貞は捨ててから死にたかったなぁと
思っていたら、ユナが俺に向けて
何かを投げてきた。
キャッチした俺の手の中にあったのは
赤マ○シドリンクと書かれた飲み物だった。
「なんでお前が持ってんの!
これ製造禁止になってるはずなんだけど!」
「ユーゴのはまだ治るから安心して」
「いや、不能じゃないから!」
くだらないやりとりをしながらも俺は
一か八かそれを飲んでみた。
するとヘニャヘニャだったエクスカリバーは
ギンギンに輝きながらどんどん大きくなった。
「ばかな、これほどまでの魔力
赤マ○シドリンクだけでは補えないはずだ
いったい何ヵ月溜めたというのだ!」
(溜めたと言えばあれしか思いつかんが
まさかそんなことは無いだろ)
「うっせーよおっさん。
とりあえず童貞で死ぬのはいやだから
おまえが逝けぇぇ!!」
俺はエクスカリバーを降り下ろした瞬間
先端から大量の水が噴出された。
(エクスカリバーの意味ねぇぇぇ!!)
そう思っている内に激しい水の奔流は
男を飲み込み壁を天井を突き破った。
徐々に水の勢いが弱くなり最終的に止まった。
エクスカリバーはまたヘニャヘニャになり
戦いの疲労とユナの魔法の副作用で俺は
もう立つことすらままならず気を失った。
目が覚めたのは真夜中でベッドの上だった。
ユナが家まで運んでくれたのだろうか。
ベッドから起き上がると風呂場から
シャワーを浴びる音が聞こえた。
(これはたぶんユナが入っているな
偶然を装って入ったら大丈夫なはず。
ラッキー(スケベ)は
自分の力で掴みとるんだ、よし行こう)
頭の中で三秒で結論を出すと俺は
眠たそうなふりをして風呂場へと入った。
中は湯気でいっぱいで
はっきりと見えなかったが、だんだんと輪郭が
見えてきて俺の目に映ったのは
「アイエー」
裸の井手中だった。
バタン
俺はまた気を失い
後ろではユナがクスクスと笑顔で笑っていた。