柊 誠
西暦2163年。
2115年からずっと続いている第三次世界大戦。
世界各地であらゆる資材が不足し始め、各国の資材の奪い合いが始まった。
初めは東南アジアでの資材の不足で、インド軍が東アジアへ攻めたのがきっかけにより、その戦争は次第に全世界に拡大、今や全世界が敵となった。
その中日本は、他国とかけ離れた技術を駆使し、兵器、銃器を生産。
子供達を教育し、多くの人材を戦争に注ぎ込んでいる。
そんな日本に住む、柊 誠という青年はかつて、伝説と呼ばれた柊 晃の息子である…が。
筆記・実技においてどちらも最低評価のD、戦闘経験も無い、落ちこぼれ新兵であった…。
「おはよっ!」
「ふぁっ!!?」
後ろから急に声を掛けられ、情けない悲鳴を上げた。
「そんなに驚くことないだろ、どうだ?今回の試験は?」
誠の唯一の親友である大石 健太。
彼も筆記は特別優秀とは言えないが、実技においてはAAを叩き出すほど優秀である。
「あぁ、いつも通りだよ」
誠は深いため息をつきながら答えた。
「はは、また再試だな。今週も大忙しかな?」
大きく笑い飛ばすが、周りからの目線が注目しているのに気づいて、誠は指摘するが、本人は「ほえ?」と首を傾げるだけであった。
……………………………………………
「今日の実技は射撃訓練を行う。銃器の扱いについてはもう分かるよな!それでは、20m先の的にいつもの班で並んで1人ずつ命中させろ!いいな!」
「「「はい!!」」」
誠は慣れない動作で銃を持つ。
「こら!柊!撃つ時以外に銃口を人に向けるなと言っただろうが!」
「はっはいぃ!」
佐々木教官の怒号と周りの笑いが入り交じった。
そして誠は射撃体制に入った。その手に持った訓練用のライフルを匍匐体制のまま構えると、的を照星の中心に捉える。
ゆっくりと引き金に手をかけ、力を入れていく。
そして教官の合図と共に、最も強く引いた時――1発の弾丸が発射された。
弾丸は目に見えない速度で的に向かって飛んでいくように見えたが、弾丸は的を大きく外れ、その後ろの草むらに着弾した。
さらに教官の合図で4発、的を狙うが、どれも的を大きく外れ、茂みに吸い込まれていった…。
……………………………………………
「…はぁ、俺、向いてないよな…」
誠はまたため息をついて、机に突っ伏した。
「どんまいどんまい!気にすんなって、いつか出来る!」
「…はぁ…」
誠が途方にくれていたとき、佐々木教官の声が教室のドアの向こうから聞こえた。
「柊、話がある、ちょっと来い」
「えっ、あ、はい…」
誠は流されるように教官についていった。
車に乗れと言われて、誠が「行き先は何処なんですか?」と聞いても何も答えてくれなかった。
そして、1時間ほど、日が傾き始めた頃。
「着いたぞ」
佐々木教官に連れられた先は、、、
『大日本軍部研究基地』
兵器の研究が行われる場所だと言うことは、高校の時に習った。
誠は佐々木教官の後をついていく。
すれ違う人に1人ずつ敬礼をしながら、着いた先は分厚い鉄板で出来たドアの前。
ゆっくりと開いた鋼鉄のドアの向こうには偉い人が着るようなスーツを来た白髪混じりの男が2、3人立っていた。
沈黙が続き、やっと男の1人が口を開いた。
「お前がMr.柊の息子か?」
「は、はい!柊 誠と言います!」
誠は敬礼してぎこちなく答えた。
その時、佐々木教官が今まで重く閉じていた口を開いた。
「…総務、彼は新兵です。彼にはまだ早いと思われますが…」
総務と呼ばれた男は眉をピクッと動かすと言った。
「…構わん。この実験を成功させるには、柊 誠、君にしかいない」
「…実験…?」
「そうだ、ガラスの向こうを見たまえ」
俺は何枚も重ねられた防弾ガラスの向こうを見た。
そこには広い鉄のホールが広がり、その床の真ん中に少女がいた。
少女は手に持った拳銃を構え、次々と出てくるダミーを撃ち抜く。
動きがまるで人間ではない。
少女がこちらに気づいた。
少女は拳銃をホルスターに戻すと――
目の前のガラスに火花が散った。
誠は飛び退いて、もう一度少女を見た。
銃は腰の位置に構えられてある。
西部劇などでよく見る早撃ちである。
ガラスが無ければ、確実に殺されていただろう。
弾丸がガラスに及ぼした亀裂を眺めながら、冷や汗が零れた。
「彼女の名は桜木 美希。人工銃器兵器育成実験。その被験者だ。君には彼女らの監察官を勤めて欲しい」
ガラスの向こう側でにやりと笑みを浮かべる彼女。
誠は息を飲んだ。