エイプリルでフールな日だからね
「おねーちゃーん、起きてー」
明日香が呼ぶ声が聞こえる。なぜか声が幼く聞こえるような気がするけど、きっと気のせいだろう。
起き抜けにそのかわいい胸を揉んでやればいつもの如くロリとは思えないような凶悪なバックドロップを仕掛けてくれるに違いない。
そう思って、目を瞑りながらも私は明日香の身体を探してその胸を揉みしだこうとしたが────
「ん?」
ぺったんだった。いつもならば、多少の膨らみくらいはあるのだが、今日に限ってぺったん、というか垂直というか、とにかく胸、という感触がまったくなかった。
「おーきーてーよー!」
目を開けてみると、そこに見えた景色は。
「………明日香?」
「そうだよー?」
見た目五歳くらいまで幼くなった明日香の姿があった。
「明日香…?」
ぺたぺたと体を触ってみても、魔法を使ったような感覚はないし、それに幻覚魔法というわけでもない。私が明日香を触って間違えるわけがないからきっとそうだ。
でも、なぜだろう?と考えていると、扉が開いて。
「おはよーあーちゃん」
「おは…よー…」
さらに幼女二人が増えた。しかも、まったく見覚えがない。一人は綺麗なブロンドで、もう一人は銀の髪を持つ幼女だったが────二人とも、どこかしら普通とは違う。
ブロンドの幼女はなぜかずっと目を閉じていて、銀髪の幼女の背中には羽が生えていた。
「もっと元気よくだよ?えーちゃん」
「やー、しぃと一緒なら元気じゃなくてもいいもん」
あの幼女二人の絡みには私と似た波動を感じた。特に、銀髪の幼女のほうからは私と同じものを感じた。
「ねえ、明日香?あっちの二人は誰?」
「んー?しぃちゃんとえーちゃん。私のお友達だよー忘れちゃったの…?」
明日香が悲しそうな顔をしているけど、思いだせない。というより、あったことはない筈だ。
そんな娘がどうしてここにいるのか…?とか、考えていても仕方ないので、
「えっと…えーちゃん、しぃちゃん」
「私とあすか以外がしぃって呼ばないでー!」
銀髪幼女が噛み付くように、というか実際噛み付いてきた。うまい事避けてベッドにダイブさせる。
「えっと…どうやって呼べばいいのかな…?」
真面目に困っていると、とてとてと歩み寄ってきたブロンドの幼女が、
「しえるだよーしぃって呼んでいいからねー♪」
シエルという名前がわかって、少なくともこれ以上噛み付かれそうになるのは避けられた。だが、この状況ばかりはどうしても訳がわからない。
「おねーちゃん」
明日香がぴょこんと背中に飛びついてくる。いつもならばそのまま離れないようにホールドすることも辞さないが、何故か今はそんなことをしている暇じゃないと思えた。
「…どうして、こんなことになったんだろ?って思ってる?」
「え…!?」
いきなりいつもの口調に戻って、動揺している私に、明日香は抱きついたまま耳元で囁く。
「それはね……」
「今日が!エイプリルフールだからだよっ!!」
「……は?」
あまりにも斜め上の答えにぽかんとなってしまった。確かに、今日はエイプリルフールだが……
「え、なんでこんな事に…?」
「「「ノリ(よ)(です)」」」
三人同時に答えられた。しかも全員にノリと言われてどうしようもなくなる。
「っていうか…やっぱり、誰よあなたたち」
「エリー・フレイナイト。しぃの恋人よ」
「改めて、シエル・アークルーンです~」
二人もいつの間にか大きくなっていて、といっても十二、三歳なのであまり大きな違いは見れなかったのだけど。
「どうやってきたの…?ここって、普通の人間には入れないような気がするのだけど…あ、普通ではないわね」
「それはね……たぶん、神の意思よ」
随分と曖昧な答えを返された。神の意思って何だ。そんなのじゃ納得できない。
「そういうものだし、そういう企画だから…ね?お姉ちゃん」
そういって、抱きつかれたまま頬にキスされた。
「むぅ…じゃあ、そういう事にしておいてあげる」
そういって、キスし返そうとすると。
「それはダ~メ♪」
そういって先ほどのお返しなのかバックドロップをお見舞いされた。