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無限ワールド  作者: 水原まき
番外編 ②
93/115

トレニアに溺れる、蝶11

トレニアに溺れる、蝶11







 二人が叫んだ瞬間、空気の重みが変わり、しん、と静まり返った。

「……………………」

「……………………」

 カイキと雪乃は、静かにお互い顔を見合わせる。

「まぁ、何というか……意外に早い自爆だったね」

 苦笑しながら、雪乃が言う。

「ええ……」

 それに、疲れたような表情を浮かべたカイキが答えた。

「あたしとしては、もう少し粘って欲しかったんだけど……」

「またそのようなことを……。無事判明し、よかったじゃないですか」

「まあ、そうなんだけどさぁ……」

 雪乃は、つまらなさそうに唇を尖らせる。

「えっ、ええっ?」

「な、何?どういう意味よ……」

 二人で納得し、二人で会話を続ける雪乃とカイキに、メイドの二人は動揺したように声を上げる。

 どうやら自分たちの発言が、どれだけ決定的な証拠になってしまったことに、気付いていない。

「あのさ。あたしたちはキッチンからネックレスが出てきた、とは言ったけど『棚』に隠してあったとは、一言も言ってないよ?」

 喋る雪乃に、

「!」

「ぁっ!」

 二人の表情が、凍り付いた。

「ふふ。こんなことくらいでボロを出すなんて、まだまだ爪が甘いわね、お二人さん」

 表情をなくす二人に、雪乃は深い笑みを刻ませる。

 彼女たちにとっての失言は、雪乃にとって無実を証明する決定的な言葉に他ならなかった。

 





 *****       *****





「……………………」

「……………………」

 部屋には、静寂が満ちていた。

 雪乃の言葉を受けて、つい感情が優先され、メイドがボロを出してから、五分は経過しているだろうか。

 今、部屋の中には雪乃とカイキ、レティシア、そして渦中のメイド二人と責任者であるミレニアしかいない。

 他のメイドたちは、関係ないだろう、ということで仕事に戻らせていた。

 そして残された二人は、ただひたすらに俯き沈黙を守っている。

「貴女たち。黙っていては何もわからないのだから、何か言いなさい」

 痺れを切らしたミレニアが、口を開く。

「……………………」

「……………………」

 けれどミレニアのワンクッションすらも、彼女たちの音を引き出すことはできず、真っ青な顔色を隠すように床を見続けている。

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 沈黙が、続く。

 いつまで、この状態を続ける気なのだろうか。

 この場を再び正常に戻す事ができるのはカイキだけだと思うのだが、彼も黙ったまま口を開く気配をまったく見せないでいる。


 早い話し、カイキは怒っていた。

 あからさまな怒りや責め立てるような視線は向けてはいないが、静かな怒りを燃やし、それをじんわり外へと放出している。

 メイドたちはもちろんのこと、レティシアにもそれは伝わっているようで、空気が緊張に溢れている。

 このままでは、一向に話しが進まない。

 雪乃はそう判断し、やれやれ、と心の中で呟くと、重い沈黙を破るため、唇を動かす。

「喋りたくない気持ちはわかるけど、『沈黙は肯定』にしかならないことくらい、わかってるでしょ?」

 見据える雪乃に、ぴくり、とメイドの身体が震える。

 もはや、自分は関係ない、無実だ、とは言えない状況にあり、そんなことは彼女たち自身もちゃんと理解している。

 理解はしているが、恐怖心から身が竦み、動けないでいる。

 ならば、雪乃が行うことは話しやすいように恐怖心を拭うことだろう。


「盗った理由が何かあるなら、ちゃんと話した方がいいんじゃない?カイキだって、頭ごなしに怒るような奴じゃないんだし理由によっては、温情とかもあるかもよ?」

 素直に話したからといって許されるかはまた別の話しだが、沈黙のままではマイナスにしかならない。

 それにカイキは基本、フェミニストだ。

 女性に対し、乱暴な言動や行動は滅多にとらない。


「……………………」

「……………………」


 だが、やはり二人は無反応。

(だめか……)

 雪乃は、嘆息する。

 ここまで助け舟を出しているにも関わらず、それを受け取らないのであれば、仕方がない。

 こちらとて、いつまでも手を差し伸べていられるほど、お人好しではない。

 もう、違う方法に出るしかない。

 雪乃はドアの方へと視線を飛ばし、

「遠矢くん、入って来て」

 彼の名を呼んだ。


 ガチャリ。


 え?と目を剥くカイキの気配を感じながら、雪乃は開かれるドアの音を聞き、その向こうから姿を現す遠矢を瞳に映す。

「呼ぶのおせーよ。何分、待たせる気だよ」

 こちらが口を開くより早く、ムスっとした表情で開口一番不満を漏らした。

 おそらく時間は十分ほどだと思うのだが、一人、廊下で立たされていたことが気に入らないようだ。

「ごめんごめん」

「何故ここに……」

 カイキが、突然現れた遠矢に対し、驚いた表情を作る。

 それもそうだろう。

 遠矢は、ここ数日一度も城へ訪れていない。

 当然のように現れた遠矢に驚くのも、無理はない。

「ゆきに、これをスラムから取ってこいって言われたんだよ」

 遠矢は不機嫌そうに言いながら、テーブルの上に袋を置いた。

「スラム?何故、そんなところに……?」

 訝しげるカイキの隣で、その意味を理解したレティシアが、ハッとする。

「ということは、例のお店へ……?まさかその中身というのは……」

「ご名答!爺さんが、見つけてくれたみたいよ。城から盗まれて闇市に流れた装飾品をね」

 雪乃がにやり、と笑う。

 どうやら店主は、望む物を手に入れてくれたようだ。

 昨日の今日で目的を達成するなど、スラムを影で牛耳っている老人の名は伊達ではない、ということか。

 キッチンからネックレスが出現したことにより事態が急展開し、スラムに行けなくなり変わりに遠矢を向かわせたのだが、その選択はどうやら正解だったようだ。


「そ、そんな……」

「まさか!」

 二人のメイドが、驚いて顔を上げ数分ぶりに声を発した。

「まさかかどうかは、見てみればわかるんじゃない?」

 雪乃は袋を明けて、中身をテーブルの上に出す。

 コトン、と小さな音を立て袋から出てきたのは、細かな細工が施され赤い宝石により彩られた髪留めと、大きな宝石が煌くピアスとネックレスだった。

「これは……」

「盗難された物に、間違いありません」

 カイキが息を呑み、ミレニアは神妙な面持ちで静かに言った。

 メイド二人に、厳しい視線が注がれる。

「………………っ」

「ぁっ……」

 再び手元へと戻ってきた盗難品を見せつけられて、メイドは蒼白な顔で唇を震わせた。

「あ~。事情はよくわからんが、これを売りに来た奴らの特徴を店の主が覚えてたみたいで、簡単だけど教えてくれたぜ」

 漂う重苦しい空気から、厄介なことが起きていると察知した遠矢が、言った。

「本当か!」

 思わず、カイキが立ち上がる。

「お、おう」

 その勢いに、たじろぐ遠矢。

「わぁ。遠矢くん、やる~」

 盗難品だけではなく、犯人の情報まで掴んでくるとは。

「で、どういった特徴だったんだっ」

「えっと。書いたメモを貰ってあっから、ちょっと待て」

 急かすカイキに遠矢は言い、ポケットから紙切れを取り出す。

 それを渡そうと腕を伸ばした瞬間、

「くっ。させないわっ」 

 ギロリ、と眼光を鋭くしたメイドが遠矢にいきなり襲いかかった。

 メモを奪おうと、遠矢に体当たりする。

 が。


「危ねっ」

 瞬時に反応した遠矢は、ひらり、と身を引いて飛びかかって来たメイドのタックルを防ぐと、彼女の腕を掴む。

 掴んで、逃げられないように動きを封じる。


「痛い!何するのよっ」

 メイドは悲鳴を上げながら、じたばたともがく。

 しかし抵抗も虚しく、自分の腕を掴まえている遠矢の腕はびくともしない。

「いや、何って。そもそも襲ってきたのそっちだろ……」

 何なんだお前は、と言いたげな呆れた表情で遠矢は言う。

「痛い痛い!離してっ!」

 顔を歪めながら、悲鳴を上げる。

「に、ニーナちゃんっ」

 金髪の大人しそうなメイドが、暴れるメイドの名を心配そうに呼ぶ。 

「カイキ様、助けて下さい!」

 ニーナと呼ばれたメイドが、鎮痛な面持ちでカイキに助けを求める。



 …………彼女は、自分の置かれた状況を理解していないのだろうか…………?



「ニーナ。貴女……」

 ミレニアが、小さく呟く。

 さすがのミレニアも、彼女の発言に失望を隠しきれないようだ。

「何故、君は彼に飛びかかったんだ?」

 助けを求めるメイドの声を無視して、カイキが静かなる声で言った。

 さきほどまで蠢いていた怒りはすでになくいつもの冷静さを取り戻していたけれど、優しさの宿らない双眸がそこにはあった。

「あ、ち、違います。私はメモを受け取ろうとしただけですっ」

 どう聞いても、苦し紛れの言い訳にしかならない言葉を、彼女は堂々とのたまった。

「メモを処分しようとしたようにしか見えなかったが?」

 カイキの指摘に、

「違います!本当に違うんですっ」

 悲鳴に近い声を上げ、首を横に振る。

 どうあっても、認める気はないようだ。

「あのさ~。ここであんたがメモを処分したとしても、あたしたちが店主に直接話しを聞きに行けばすぐバレるんだし、今の行動って意味ないと思うよ?無駄な労力、ご苦労さん」

 雪乃は半ば呆れるように、バカにするように言った。

「くっ……」

 そんな雪乃を睨みつけ、ニーナは悔しそうに奥歯を噛み締める。

「ニーナちゃん……もう無理だよぉ……」

 金髪のメイドが力なく床へとヘタリ込み、肩を落とした。

「……………………」

 これが合図となり、二人の抵抗は止んだ。








ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

犯人、無事に捕まりました。長かった……笑

次回で、このお話しは終わりとなります!


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