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無限ワールド  作者: 水原まき
番外編 ②
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トレニアに溺れる、蝶02

トレニアに溺れる、蝶02







 口では何とでも言える根拠のない言葉に、返ってきたのは純粋なる笑顔だった。

 てっきり批難のひとつやふたつ飛んでくるとばかり思っていた雪乃は、予想外の反応を示す少女に、へぇ、と心の中で呟いて、少しだけ興味が沸いた。

 そもそも、何故、この少女はこうも簡単にカイキの私室へ入ってこれたのだろう。

 当然のことながら、扉の前には騎士が控え許可のない者の立ち入りを禁じている。

 となれば、この少女は入室を許可されているほどカイキと近い関係にある、ということに他ならない。


 雪乃は、改めて少女を見た。

 高貴な身分を持っていることは分かるが、それ以外は特に目立った物もない普通の女の子に見える。

 魔力も、いたって普通。

 けして弱くはないようだが、際立った能力があるわけでもないようだ。

 肉体も多少は鍛えているようだが、筋肉の付き具合いから、剣を少し嗜んでいる――――その程度だろう。


「突然、変な質問をしてしまい申し訳ない」

 すくっと立っている身を少しだけ傾け、レティシアは謝罪する。

 その所作は、やはり長年培った品に満ちていた。

 ベッドの上でだらりと寝転がっていた自分とは大違いだな、と雪乃は苦笑する。

「別にいいよ。レティシアちゃんは、あたしに用事があるんでしょ?急ぐ用もないし、話しがあるなら、聞くよ」

 おもむろにベッドから立ち上がり、雪乃はソファへと移動する。

 なんとなく、長引きそうな気配が蠢いている。

 となればベッドで聞くよりも、ちゃんとソファに座って聞いたほうがいいだろう。

 職人が仕上げた革製の白いソファはとても座り心地がよく、身体を優しく包み込む。

 雪乃が様々な世界で所有する自宅のソファのどれよりも、高級な気がする。

 ソファの真ん中にはテーブルが用意され、その上には雪乃が持参した和菓子や洋菓子、スナック菓子が菓子受けに盛られ飲み物も置いてある。

 そこだけ見れば、豪華な室内には似つかわしくないとても庶民的な、子どもが喜ぶ夢のような図が出来上がっている。


「貴女も座ったら?」

 雪乃はみたらし団子の封を切りながら、レティシアを誘う。

「えっ。あ、はい……では……」

 彼女は一瞬だけ戸惑う様子を見せたものの、すぐに足を動かして向かいのソファへと腰けける。

 そして、テーブルの上に置いてあるお菓子や飲み物を見渡して、不思議そうに首をかしげた。

「んむ。食べる?美味しいから、好きなのどうぞ」

 みたらし団子を食べながら、雪乃はすすめる。

 今からお菓子パーティーでも開催するのかと、思ってしまうほど広げられているお菓子たち。

 決して高級菓子ではないけれど、どれも美味しいと評価できる物ばかりだ。


「い、いえ大丈夫だ。見たことのない食べ物ばかりだったので、ちょっと目に付いただけなので……」

 レティシアは小さく首を横に振ったのち、言った。

 得体の知れない人物が持ってきた得体の知れない物は口にできない、とそういうことなのだろう。

 身分のある者は色々と考えないといけないので、大変である。


「そう?せっかくこの国にはないお菓子ばかりなのにね~」

 紙パックのコーヒーにストローをさしながら、もったいない、と言った雪乃の何気ない言葉に、

「え?ユキノさんはこの国の人では、ないのですか?」

 驚いた様子で、レティシアが問うた。

「うん?違うよ。ここよりず~っとず~っと遠い所からわざわざ、来てるの」

 わざわざ、と部分を強調し雪乃は答えた。

「そうか。この国の人ではないのか……」

 ふわり、とレティシアの中に笑顔が浮かんだ。

 理由はよくわからないが、雪乃がこの国の人間ではないことが、どうやら彼女の心に喜びを与えたようである。

 しかし、すぐに緩んだ表情を引き締めた。


「あの、ユキノさんはカイキ様と仲がいいと聞きましたが、ご友人ですか?」

「友人……?」

 なのだろうか?

 改めて問いかけてみると、どう言葉にしていいのかわからない思いが生まれる。

 ただ、友情を育み合うような感情をお互いが持っていないのは、確かだ。

 形を作らなければならないとすれば、師弟関係、とでも言ったところか。


「まぁ、お互い相手の立場とか気にしない性格だし害もないから、何となく一緒にいるような感じかなぁ……」

 さすがに『師弟関係』とは言えず、雪乃は曖昧な表現をした。

「立場……。カイキ様が王という『立場』にユキノさんは興味がない、と?」

「ないわね」

 きっぱりと言った。

 雪乃を疎ましく思っている魔族の中には、カイキの『王』としての身分を利用するために近付いた、と噂する者も多いが、はっきり言ってそんなものに興味はない。

「ヘコヘコしないあたしが、新鮮なんじゃない?」

「なるほど……。カイキ様が私室へ招くまでお心を許すなんて意外だったのだが、そういう事だったのか……。こういう言い方はあまり好きではありませんが、ユキノさんは人間ですよね?人が王の私室へ入るなど前例がない故に、どうやらわたしは色々と考え込んでしまっていたらしい」

 レティシアは、苦笑する。

 ――――そういうことか。

「つまり、君は王の部屋に好き勝手に出入りする怪しい人間の女がどんな奴なのか、さぐりに来たってわけね」

 雪乃のストレートな言葉に、

「! そ、そんなつもりでは。わたしはただ、カイキ様と親しくなったという女性がいると噂で聞いたので、是非、一度お会いしたいと思っていただ。それが人間だから気になった、というわけではけしてなくっ……あの、その……」

 ハッとしたレティシアは慌てた様子で首を横に振り急いで否定の返答をするものの、反射的に発したにすぎない言葉はすぐに力を失い、ポロポロとこぼれ落ちる。

 だがその言葉に、悪意の色はない。

 むしろ、カイキに対する純粋なる想いに、溢れていた。


「ねぇ。カイキと貴女との関係を聞いても、いい?」

 問う雪乃に、

「そ、それはその……」

 彼女は瞳を泳がせ顔を伏せると、ワンポピースの裾をギュッと握った。

 そんな反応に、雪乃は首を傾げる。

 何か、言いにくい事情でもあるのだろうか?

 はたまた人間相手に何故いちいち伝えなければならないのか、という思いが彼女の中で蠢いているのか。

「………………」

「………………」

 沈黙が、二人を包む。

 雪乃は、吐きたくなるため息を噛み殺すため、コーヒーを一口含む。

 まさか沈黙されるとは思っていなかったのだが、言いたくないと思われてしまったのなら仕方がない。

 違う話題でも投げてみようか。

 雪乃が新たな話しを振ろうとした瞬間、レティシアが伏せていた顔を上げ、そしてとんでもない言葉を発した。




「こ、婚約者だ」


 と。


 ………………………。

 …………………………。









ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

レティシアの正体が分かったところで、03に続きます。

番外編なんですが、はっきり言って長くなる予定です!

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