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無限ワールド  作者: 水原まき
第9章 そんな穏やかな日々…
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そんな穏やかな日々…4

そんな穏やかな日々…4







 今、雪乃たちがいる場所は、世界随一の技術を誇ると謳われる帝国が所有する、軍艦のゲストルームだ。

 小さいが、隣の部屋にはお風呂も設備され、簡易ベッドを並べれば泊まることも出来る。

 一見、何てことない普通の一室。

 しかし、一歩、ドアの外に出てみればそこは軍艦の廊下に繋がり、軍服を着た若いクルーたちが行き交っている。

 今、司令室に行けば、艦長が厳しくも的確な指示を部下に飛ばし敵の殲滅に全力であたっているに違いなく、ゆったりとしている雪乃たちとは裏腹に、ドア一枚隔てた向こう側にはピリリとした緊迫感が漂っている。

「あんたの世界じゃ、まだここまで科学が発展してないからねぇ……」

 遠矢の世界で『宇宙』とは、まだまだ味解の、神秘なる空間だ。

 こちらの世界のように宇宙にコロニーを設置し、庶民が気軽に宇宙旅行を楽しみ、地球以外の星に生活拠点を移しているなど、まだまだ夢物語の世界だ。

「悪かったな。どうせ俺は遅れた世界の出身者だよ。最近、ようやく『リニア』の話題で盛り上がるような、そんな遅れた世界だよっ」

「誰もそんなこと言ってないでしょう……」

 何故か、唇を尖らせ拗ねる遠矢。

 別の世界と比べても、仕方がないというのに……。


(そう言えば、『コア』を修復させてまだ一度も帰ってなかったなぁ……)


 雪乃はふと思い出す。

 カイキの世界ですべての『カケラ』を集め終えた雪乃は、そのまま『コア』を復元させた。

 その瞬間、遠矢の世界は再生され、砕けた時は何事もなかったかのように、再び動きはじめた。

 消滅していたという事実など認識されることなく、命を吹き返した世界は、以前と何ら変わりなくそこにある。

 だが、雪乃たちは元に戻った遠矢の世界の様子を確認することなく、別の世界へ移動していた。

 

「さて。そろそろ、行きますか」

 雪乃はがらすの向こう側で繰り広げられている戦闘に、背を向ける。

「いいのか?」

 イッサーは、ちらりと宇宙を一瞥する。

 目の前では、命のやりとりが繰り広げられている。

 終了する兆しは見えているものの、戦闘の結末を見届けず帰っていいのか、イッサーは問うている。

「平気よ。ここには優秀な指揮官と有能なパイロットが揃っているもん。あたしがいなくても、大丈夫でしょ」

 雪乃がそう言うと、イッサーは小さく頷く。

「よし。なら、おれの世界へ戻ろうぜ」

 遠矢が、声を上げた。

「おれ、冷蔵庫にプリン入れたままなんだよ」

 賞味期限がそろそろヤバイ、とテーブルの上に常備されている焼き菓子を握り締めながら、遠矢は言った。

「あ~。それ、みもりのだよ!」

 ごく自然な動きで遠矢の手の内に収まった焼き菓子を見て、水守が抗議の声を上げる。


「あ?何でこれがお前の物になってんだよ」

 遠矢へと駆け寄り、その手から焼き菓子を奪おうとする水守に、遠矢は嫌そうに顔をしかめ、そっと腕を高く上げる。

「みもりが、食べようとしてたんだもんっ」

 両手を天に伸ばし、うさぎのようにぴょんぴょん飛び跳ねながら、水守は負けじと遠矢の握るお菓子を狙う。

「お前、さっきバカみたいに食ってただろ。これはおれんだ」

「や~ぁ。みもりのっ」

 バタバタと騒ぐ水守に、鬱陶しそうに遠矢が言うが、そんなことで気持ちが静まるわけがない。

「遠矢く~ん。お菓子くらい水守ちゃんにあげなさいよ。お兄さんでしょ?」

 譲る気を見せず、火花を散らす遠矢の大人げない行動と言動に呆れ、雪乃は口を挟んだ。


「アホか。俺より生きてんだから、こいつの方が年上だろっ」

 冷え冷えとした視線を送る雪乃に、遠矢は言い返す。

 姿や内面は幼児そのものだが、こう見えて水守は遠矢より存在している時間は長く、年齢を重視するならば姉にあたる。

 だが。

「何を言ってんの。どう見ても水守はあんたの妹でしょ。だから優しくしなさい」

「お前は水守を甘やかしすぎだ。こいつがどれだけ周りに迷惑かけてると思ってんだ。母親なら、もっと厳しく教育しろ。このままじゃろくな奴にならないぞ!」

 びしっと指差しながら遠矢に言われ、水守はムッと頬を膨らます。

「半裸の露出狂が、生意気言ってんじゃないわよ」

「誰が露出狂だっ」

「服も着ず、ウロウロしてる時点で露出狂でしょ!それとも、何。自分の引き締まった身体をご自慢ですか?え?」

 言いながら、雪乃は遠矢の上半身を、ツツツ、と触る。

 下から上へと撫で上げる雪乃の指先に、

「ぎゃあああ!犯されるぅぅぅっっ!」

 真っ青な顔で遠矢は飛び引く。

 けれど、お菓子はきっちり死守している。

「残念!あたしの好みはイっちゃんなんだよなっ」

 雪乃がおどけた様に言うと、

「知ってるよ、そんなこと!」

 ムッとして遠矢が返す。

「……とまぁ、バカなことはそろそろ終わりにして……」

 雪乃は気を取り直すかのように言い、パチン、と指を鳴らす。

 それを合図に、『黒異の門』が忽然と姿を現す。


「うわ、あぶね!」

 雪乃の望みによりドドン、と目の前に現れた異世界と異世界を繋ぐ漆黒の門に、遠矢は驚きの声を上げた。

 他者を圧倒するかのように、佇む巨大な門。

 そう、天井の高くない室内での『黒異の門』の出現は、ギリギリだった。

 門の上部と天井の間にはほとんど隙間はなく、現れた場所を誤っていれば、照明に激突していただろう。

 美しい女神が躍る荘厳な門がゆっくりとその扉を開かせ、さらに圧迫感を増す。

「ほら、さっさと行く!」

 雪乃はズカズカと遠矢に近寄りその腕を掴むと、踵を返し『黒異の門』へと歩き出す。

「うおっ。いきなり引っ張るな、危ないだろっ。って待て待て俺の服!」

 上着を脱衣所に置いたままだと思いだし、遠矢が叫ぶ。

「うっさい。服なら、帰ってから着ればいいでしょ」

 文句を言う遠矢を無視し、雪乃は『黒異の門』の前まで来ると、ぽっかり開いている光の中へ、彼をポイっと放り込んだ。

「うわっ!」

 荷物のように投げられた遠矢は、光の中に呑まれ、見えなくなった。


「みもりの、おかし……」

 遠矢とともに消えていったお菓子に、水守はしゅん、と気持ちを落とす。

 よほど、取られたことがショックだったのだろう。

「水守ちゃん。帰ったらあたしが美味しいプリン、作ってあげるから。ね?」

 なだめるように雪乃が言うと、

「ほんと?」

 そっと、蒼穹の瞳が様子を窺うように見上げてくる。

「ほんとほんと」

 雪乃は頷く。

「みもりに、いちばん大きなプリン、つくってくれる?」

「おう。特別に一番大きいの、作ってあげるっ」

「ほんと~。やった~~!」

 沈んでいた水守の表情が、パッと華やいだ。

 こぼれ落ちそうなほど大きな瞳をキラキラ輝かせ、水守は満面の笑みではしゃぐ。

「じゃあ、早く帰ってプリンつくらないと!」

 水守は、がしりっ、と雪乃の手を掴む。


「わかったわかった。早く行こうね」

 どうやら、すっかり元気を取り戻したようだ。

 あまりの変わりように苦笑して、小さな手を握り返した雪乃だが、ふと、大事なことを伝え忘れていたことを思い出し、表情を引き締めた。

「……言い忘れてたんだけど、さ。今回のことで、当然と言えば当然なんだけど、雪美ちゃん完全に女神様を信用しなくなっちゃったのよね。で、『コア』もあたしが管理することになったのよ。また女神様がバカな気を起こさないとも限らないから、面倒くさいけど注意を払っててくれる? 」

「御意」

「うん。わかった!」

 告げられた雪乃の言葉に、イッサーは淡白に承諾し水守は元気に手を上げる。

「よしよし。従順な子は大好きだ」

 雪乃は、二人の返答に満足そうに頷く。

 これが遠矢なら、面倒くさい、関わり合いたくない、と文句を言い出すに違いない。

「遠矢くんも、ここまで素直だったらもっと可愛いのにねぇ……」

 などとボヤキながら、雪乃は別の時空へと繋がる門へ足を踏み入れる。

 光に溢れた回廊を進み、再び色を取り戻した先に広がる光景は、遠矢の世界だ。







                     完






ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

これをもって、長編は完結とさせて頂きます。長かったような、短かったような、そんな感じですが、ちゃんと最後まで書けてよかったです。

これからは番外編などでポツポツ書いていく予定ですので、そちらも読んで頂けたらな、と思います。

本当に、ありがとうございました。

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